○
衆議院議員(
鍛冶良作君)
民事調停法案について
逐條説明をいたします。
第一條、この法律の目的、民事上の紛争の究極的な
解決手段としては、
民事訴訟制度の利用が何びとにも保障されておりますが、
社会情勢の変化等によりまして、法規をそのまま適用することが
社会條理に反する場合に、多くの日時と費用とを犠牲にして法律のみによる黒白を法廷に争うよりも、当時者の互讓により、具体的に妥当な解決が得られますならば、それは一層望ましいことであります。本法は、かような見地から、公正な
裁判所をして
当事者間の紛争を
斡旋調停をさせ、正しい内容を盛つた円満な解決に導くについての手続を定めたものでありまして、本條は、以上のような
調停制度の本旨を明らかにいたしたものであります。
第二條、
調停事件本條は調停の対象が民事上の紛争のすべてに及ぶこと、調停を行う権限が
裁判所に属すること及び紛争当時者に調停の申立権があることを定め、主体及び対象の面から
調停事件の概念を明らかにいたしたものであります。調停は
借地借家調停法により、先ず
借地借家関係の紛争について認められ、その後
小作調停法以下
各種調停法の制定により次第にその対象が拡げられ、
戰時民事特別法の制定に上り遂に
民事関係の
紛争全般に拡充されて今日に及んでおるのでありますが、本法はこれらの
各種調停規を統合した
一般法として、第一章通則中の本條において調停の
対象一般を規定し、従来の借地、借家、小作、商事及び鉱害各調停に相当する紛争の調停につきましては、特則として第二章各節に規定いたしております。従来の
金銭債務臨時調停及び
民事特別調停はいずれも
臨時立法において定められたものでありますが、前者は制定当時の特殊な
経済事情に基くものでありまして、現在としましては特に別異の取扱をいたす必要がないものとして、後者は元来が補充的な
一般民事調停の性格を有し、本法の
通則規定中に発展的に解消されるべきものとしまして、いずれも特則の規定を設けておりません。なお
家事調停につきましては、その対象の特異性に応じまして、一般の
裁判所と系列を異にします
家庭裁判所の管轄とされ、
家事審判とも寧接な関連があり、むしろ
家事審判法において統一的に規定することが取扱上も便宜でありますので、本法におきましては統合の対象から除外いたすこととしました。附則第十一條によります一部改正の外、
家事調停に関します
現行規定は、そのまま存置されます。即ち本條が本法の
民事調停に関する
一般法たる性格を明らかにしておりますのに対しまして、
家事審判法の
家事調停に関する規定は
特別法の意味を持つこととなります。
第三條、管轄、本條は
調停事件の
土地管轄の原則を定めたものでありまして、現在の
民事特別調停事件の管轄を定めました戰時民時
特別法第十四條と全く同趣旨の規定であります。即ち
簡易裁判所の性格、当時者の利害等を考慮いたしまして、
調停事件は特別の定がある場合を除いて、相手方の住所又はこれに準ずる場所の所在地の
簡易裁判所の管轄といたしなお
合意管轄をも認めることといたしました。
土地管轄に関する特別の定といたしましては、
宅地建物、農事、鉱害、各調停について本法第二章中に、又
家事調停について
家事審判規則中にそれぞれ規定されております。
第四條、移送等、本條は
当事者の便益を考慮いたし、管轄違の事件及び管轄に属する事件の移送を認めます外、
土地管轄につきましては広く
裁判所に裁量による移送又は自庁処理の権限を認めて著しくこれを緩和いたしたものでありまして、すでに
家事調停につきましては、
家事審判規則第四條に同趣旨の規定があり、その運用の実績に徴しましてこれを一般の調停にも採用いたすこととしました。なお従来は
各種調停がそれぞれ別個の根拠法に基いていたため、異種の
調停事件相互の移送は認められず、
当事者の不便を免れなかつたのでありますが、
調停法統合の結果、本條によりこれらの異種の
調停事件の間にも移送の道が開かれることとなつたわけであります。
第五條は
調停機関。本條は
裁判所において
調停事件を取扱う機関を定めたものでございます。調停は法律の適用に当り
社会條理等をも加味した具体的妥当な処理を必要といたしますので、原則として
裁判官のほかに良識のある民間人をも加えた
調停委員会で行うものとし、例外として事案によ
つて裁判官だけでも行い得るものとしたわけであります。なお調停の長所の一つは民間人の關與する
調停委員会の運営にありまして、当時者もその良識による解決に期待するところが大きいのでありますから、その申立があるときは必ず
調停委員会を開かなければならないこととしたわけでございます。
第六條、
調停委員の組織。本條は
調停委員会の構成を定めたものでありまして、現行の
各種調停法のいずれにも同趣旨の規定があるわけでございます。第七條は
調停主任・
調停委員、本條は
調停主任の指定、
調停委員候補者の選任及び
調停委員の指定についてで定めたものであります。現行の
各種調停法にほぼ同趣旨の規定があります。ただ従来
調停主任となる
裁判官の指定は毎年あらかじめすることを要するものとしている点は、
裁判官の
一般事件に関する
事務分配の措置との権衡上
調停事件のみについて特にこれを法律に規定する
実質的理由に乏しいので、その点の定めを除くことに改めました。
第八條、調停の補助、本條は
調停委員会が紛争の円満な解決を図るについて、調停の補助者として適当な第三者の協力を求められることを定めたものでありまして、現行の
各種調停法、
小作調停法では「勧解」の名称を用いております、に同趣旨の規定があるわけであります。
第九條は旅費、日当、宿泊料、本條は
調停委員及び調停の補助者に対する旅費等の支給について定めたものであります。従来の
各種調停法においても、その額の定めは
経済事情の変動に応じ容易に改定し得るよう勅令又は政令に委ねられていましたが、本法は
家事審判法に倣いまして、これを
最高裁判所規則に委任することといたしたわけでございます。
第十條は手数料。本條は調停の
申立手数料の納付とその額の基準について定めたものでありまして、その具体的な額の定めは前條と同趣旨によ
つて最高裁判所規則に委任することといたしました。ただ国の收納金は法律で定めるものとする財政法の精神に従い、
手数料徴收基準の最高限のみは本法に定めておるのであります。なお価格算定不能の場合の基準額は、同様の場合における訴訟物の基準額に従つたものでございます。これはついでに申上げておきますが、原案は
價格千円について二十円を超えないということになつておりましたのを十円に下げました。三万一千円というのはこれは
簡易裁判所と
地方裁判所の区別のところで標準をとつたわけであります。
第十一條、
利害関係人の参加、本條は
利害関係人が任意的に
調停手続に参加することを認めますると共に、紛争の解決上必要な場合には
調停委員会がその参加を強制し得るものとしたのであります。
任意参加については従来小作、鑛害、家事各調停についてのみ同趣旨の規定がありましたが、その他の調停においても実務上同様に取扱われておりました。手続の経済と
利害関係人の利便とから当然のことでございます。
強制参加については従来の
各種調停法に
利害関係人の参加を求め得る旨の規定がありますが、その効力については文理上疑問の余地もありますので、本條は
家事審判法第十二條に倣いまして、その強制的な効力を有することを明らかにしたのであります。
利害関係人の参加を得て初めて紛争を完全に解決し得る事例が少くないのでありまして、その参加を強制することによりまして、一層事件の妥当な処理を期待し得るわけであります。
第十二條、調停前の措置、本條は
調停委員会が調停を成立させるためその手続を進めて行くことについて特に必要がある場合には、
手続終了に至るまでの仮の措置として、事件の関係人に対し必要な事項を命ずることができる旨を定めたものでありまして、例えば
調停手続中に
当事者の一方が調停の目的物を処分する等の行為によ
つて調停の成立を事前に妨害する虞れがあるような場合に、調停の
成否確定に至るまでその行為を禁止することによ
つて紛争解決のための基盤を保全することができるわけであります。同趣旨の規定は現行の
各種調停法にもありまするが、本来この措置は執行力を伴わないものでありますが、第三十五條の罰則の裏付により強化された点をも考慮しまして、
調停委員会は
当事者の申立を待つて特に必要な場合に限りこの権限を行い得るものとしまして、なお
命令事項を例示してその運用の適正を期することといたしたのであります。
第十三條、調停をしない場合、本條は紛争の内容が調停に適せず、又は調停の申立が権利の濫用と認められる場合に
調停委員会が調停を拒否し得ることを定めたものでありまして、従来の
各種調停法にも同様の規定があります。調停に適しない場合とは、権利の行使が法律上義務付けられて性質上互讓の余地がないものとか、請求が理非明白で道義的にも互讓による妥協を不可とするような場合を言うのでありまして、申立権の濫用の場合というのは、訴訟の遅延や執行の回避のみを目的として調停の申立をするような場合を言うのであります。なお従来の
調停法には同様な場合に
裁判所が申立を却下し得る規定がありましたが、本法は
家事調停の法規に
倣つて調停委員会の権限に関する本條の規定を第十五條により調停を行う
裁判官にも準用することとし、実質上これと重複する趣旨の
申立却下の規定は設けないこととしたのであります。
第十四
條調停の
不成立、本條は
調停不成立による
事件終了の場合を定めたものであります。
紛争解決について
当事者の合意が得られない場合には従来もいわゆる調停不調として事件を終了させる取扱でありましたが、現行の
調停法規の明文上はこのような取扱に関する規定を欠き、
事件終了の時期等について解釈上の疑義を生ずる余地もありましたので、本條を設けてこの点を明かにしたのであります。なお当時者間に合意が成立してもその内容が違法又は不当であつて、
調停委員会としてこれを承認し得ないような場合にも同様に
調停不成立の措置を取り得るものとしていますが、これは
調停委員会が單なる機会主義的な紛争の
仲介機関ではなく、飽くまで具体的妥当な解決を目指すものであることを示すものであります。
第十五條、
裁判官の調停への準用、本條は
裁判官だけで調停を行う場合に、
調停委員会の手続に関する規定(調停の補助、補助者に対する旅費等の支給、
利害関係人の参加、調停前の措置、調停の拒否及び調停の
不成立に関する規定)を準用する旨を定めたものであります。なお附加え申上げまするのは、こういう場合はほんのもう法律的に誰が見てもすぐこうすればいいじやないかというようなときだけということになつております。
第十六條、調停の成立、効力、本條は調停が成立する場合と成立した調停の効力について定めたものであります。従来の
各種調停法では
調停委員会の調停において合意が成立した場合と
裁判官だけの調停において合意が成立した場合とでその取扱を異にし、後者の場合は直ちに裁判上の和解と同一の効力を認めたが、前者の場合は更に
裁判所の
認可決定を待つて初めて右の効力を與えられるものとしていたのであります。これは民間人を構成員とする
調停委員会によつて成立した調停については
強制執行力を付與するに先立つて、
法律的見地からその内容を審査するためであつたが、
調停委員会の構成員には
裁判官が加わつているので
法律的審査の点に遺憾はなく、実際上の取扱として
裁判所が不
認可決定をした事例は殆んど皆無でありましたところから、すでに
家事審判法においては
家事調停についてこの
認可決定の制度を廃止しているのであります。本法においても同様の趣旨からこの制度を廃止することとしたのであります。そのほかの点については従前と大体変つたところはございません。
第十七條、調停に代る決定、本條は
調停委員会の調停が成立の見込みがない場合に、
裁判所が調停に代る決定をなし得ることを定めたものであります。一方の
当事者の頑固な恣意により、又は僅かな意見の相違によ
つて調停が
不成立に終つたならば、それまでの手続は徒労に帰し、
調停制度の実効を收め得ないことになりますので、このような場合に
裁判所が
調停條項が代るものとして、事件の解決のために必要な決定をなし得る措置を開いたのであります。この制度は、当初
金銭債務臨時調停について採用され、やがて
戰時民事特別法によ
つて鉱害調停を除く
各種調停に拡大され、
家事審判法でもこれを採用しておりまするが、本條はこの
家事審判法第二十四條に傚つて規定したものであります。なお
当事者双方の申立の趣旨に反しない限度でと言つておりまするのは、紛争について
当事者のいずれかの主張する
解決方向の範囲内でという意味であります。この決定の本質は裁判の判決でありまするが、同時に財産上の給付を命じ得ることは当然でございます。
調停委員会を開かないで
裁判官だけで調停を行う場合には本條の決定はできないことといたしております。
第十八條は異議の申立。本條は前條の決定の効力及びこれに対する
不服申立の方法を定めたものでございます。従前の
各種調停法においては、調停に代る裁判に対しては
即時抗告を認め、確定した裁判に
債務名義の効力を與えておりますが、調停の対象となる紛争は大体訴訟の対象ともなり得るものでありますから、簡易な非訟手続に基く裁判によ
つて訴権を終局的に奪うことは不当であります。又かような
強制的解決は調停の本旨にも反するので、本法では
家事審判法に
傚つて調停に代る決定は相手方の
異議申立により失効することとし、異議がない場合にのみ裁判上の和解と同一の効力を認めることとしたのであります。結局
当事者が不服である限りこの決定は所期の効果を生じないこととなるわけでありますが、
家事調停における運用の実績に徴すればこの制度はなお相当の実効を收めているので、一般の調停にもこれを採用することしししたわけでございます。
第十九條、
調停不成立等の場合の訴えの提起、本條は調停の申立をしたものが出訴期間を徒過し又は出訴に伴う
時効中断等の利益を失うことを防止しまして、
調停制度の利用者の保護を図つたものでありまして、
家事審判法第二十六條第二項と同趣旨の規定であります。即ち調停の
不成立及び調停に代る決定の失効の場合に、調停を求めた請求について二週間内に訴えを提起した場合には、
訴訟係属の効果を
調停申立の時に遡らせることとし、附則第十二條による
民事訴訟用印紙法の一部改正と相待ちまして、調停の申立人の訴権の実行を容易ならしめ、延いては調停を軽視する不誠意な相手方の調停に対する協力を促すことともなり、
調停制度の
実効的運営に資するものと思われるのであります。
当事者が調停の申立を取下げた場合には本條の適用はございません。これは従来随分長く主張せられて来ておつたところ、このたび実現したつもりでございます。
第二十條は
受訴裁判所の調停、本條は
当事者の申立がなくとも
受訴裁判所にその係属する事件について
調停手続開始の権限を與えた規定であります。かような権限は現行の
各種調停法においても認められております。ただ本條においては新たにその第一項但書で
受訴裁判所が裁量で事件を調停に付し得る時期を制限いたしまして、又第二項で
調停手続により紛争が解決した場合における
訴訟事件の当然終了を認めることといたしたのでございます。前者は先般の
訴訟促進のための
民事訴訟法の改正をも考慮し、訴訟がすでに
準備段階を終つて、いわゆる
継続審理をなし得る段階に至つた後事件を調停に付するには、
当事者双方の同意を要するものとして、
裁判所の恣意によりこれまでの準備を徒労に帰せしめ、訴訟の遅延を招く結果を防止しようとするものであります。後者は紛争の解決により実質上訴訟の対象が失われるので、取下げの形式を待たずに事件を終了させることとし、手続の経済を図つたものでございます。これは随分ややこしい規定なのですが、
訴訟進行の意味からこういうことが入れられたわけでございます。よしあしは相当議論があると思います。
第二十
一條即時抗告、本條は
家事審判法第十四條と同趣旨の規定であります。次條において準用する非
訴事件手続法第十二條によりますれば、裁判に対し
普通抗告が一般に認められることとなりまするが、本来簡易迅速な処理を建前とする
調停手続上の裁判に対しては、特に認める場合に限り、而も
即時抗告のみを許すことが適当であるとし、如何なる抗告を許すかについては、本法に基きまして
最高裁判所の定める具体的な手続と関連して、これを
最高裁判所規則に委任することといたしたのであります。なお
調停委員会が行う処分、例えば第十二條の措置は裁判ではないということで本條の適用がないと心得ております。
第二十二條非
訟事件手続法の準用、本條は
調停事件の性質が本来非訟事件であるところから特別の定めがない事項については補充的に非
訟事件手続法第一編の規定によらしめることといたしましたものであつて、従前の
各種調停においても解釈上同様に取扱われておりましたが、本法は
家事審判法に傚つてこの点を規定上明らかにしたものであります。
従つて調停手続における調書の作成、事実の採知、証拠調べ、裁判の方式等はすべて非
訟事件手続法の規定によつて賄われることとなるわけであります。なお
本條但書は準用の有無に関する解釈上の疑義を除く趣旨にほかなりません。
第二十三條、この法律に定めのない事項、本條は近時の立法例に傚いまして、憲法第七十七條が
最高裁判所に手続に関する
規則制定権を與えた趣旨を尊重し、本法に定めるもの以外の必要な事項はすべてこれを
最高裁判所の規則に委任することを定めたものであります。従来の
各種調停法に定められておる事項のうち、本法に別段の定のないものについては
最高裁判所規則においておおむね現行法と同趣旨の規定が設けられることと思います。
第二十四條、
宅地建物調停、本法は
宅地建物の
利用関係の紛争に関する
調停事件について
土地管轄の特例を定めたものであります。このような事件はその性質上紛争の目的物の所在地の
裁判所に処理させるのが適当であるとの理由によるものであることは言うまでもありません。ただ現在では
借地借家関係の紛争のみについて
借地借家調停法に本條と同趣旨の管轄が定められておりますが、
使用貸借関係、相
隣関係等一般に
宅地建物の
利用関係の紛争についても同様のことが言えるので、本條では
借地借家調停の名称を廃し、広く
宅地建物調停としてこれを規定したわけでございます。
第二十五條、
農事調停事件、現在の
小作調停の対象の範囲は
小作調停法による
小作関係の紛争のほか、
農地調整法により、農地その他
農家使用の
薪炭林等の
利用関係の紛争にも及んでおりまするが、本法ではこれを農地又は
農業用資産の
利用関係の紛争として一括し、
小作調停の名称もその実体に即して
農事調停と改めたのであります。
農業経営に附随する土地、建物とは、例えば農業者の居住する家屋及びその
敷地等農業経営を維持するについて直接必要な農地以外の不動産を言うものであります。農地等の
利用関係の調整については耕作者の保護、農地の
利用増進等国の
農業政策とも密接な関連があります。その他紛争の性質上現行の
小作調停法中にも一般の調停と異る
特則的規定が少くないので、本法においても以下数條に必要な
特則規定を設けることといたしました。なお本法に定めるもの以外の従来の
小作調停に関する
特則的規定は、おおむね
最高裁判所規則に定められることとなりますが、
農地委員会の勧解前置については、これまでの運用の実績や
農地委員会に代つて新たに設けられる
農業委員会の実体に照らし、その廃止が予定されておるわけでございます。
第二十六條、管轄、本條は
宅地建物調停に関する第二十四條と同趣旨によりまして、
農事調停事件の
土地管轄の特例を定めたものでありまして、ただ農地等の
利用関係の紛争は一般に複雑深刻なものが多いので、従来の
小作調停と同様に原則として
地方裁判所の管轄としたわけでございます。
第二十七條、
小作官等の
意見陳述、本條は
農事調停について
農業政策的見地をも考慮いたしまして、それとの調整を図るために、国又は都道府県の
関係行政庁の職員でありまする
小作官又は
小作主事に
調停委員会に対する
意見陳述の権限を與えたものでありまして、
現行小作調停法にも同趣旨の規定がございます。
第二十八條は、
小作官等の
意見聽取、本條は
調停委員会に対し調停の事前における
小作官又は
小作主事からの
意見聽取を義務付けた規定で、その
立法趣旨は前條と同様でございます。
第二十九條、
裁判官の調停への準用、本條は
裁判官だけで行う
農事調停についても、
小作官又は
小作主事の関與に関する前二條の規定を準用する旨規定したものであります。
第三十條、移送等への準用、本條は
農事調停につき、
裁判所が管轄に関する
裁量的措置として事件を移送又は自庁処理する場合及び調停に代る決定をする場合にも第二十八條を準用いたしまして、事前の
小作官又は
小作主事の
意見聽取を要するものとした規定でありまして、
立法趣旨も同條と同様であります。なお現在の
小作調停には管轄に関する
裁判所の
裁量的権限は認められていないので、その場合についての本條のような規定はないわけでございます。
第三十一條、
商事調停事件、
調停委員会の定める
調停事項、本條は
商事紛争について、
調停委員会を実質上の
仲裁的権限を與える趣旨の規定であります。本来
商事紛争はその性質上長期に
亘つて費用を要する
訴訟的解決よりも、
専門業者の
合理的打算の上に立つ迅速な
自主的解決に親しむものでありまして、現行の
商事調停法も
商事調停委員会に
当事者の合意に基いて
仲裁判断の権限を與え、欧米における
商事仲裁制度と同様にその活用を期待したのであります。併しその
仲裁判断の手続や効力が煩わしい
民事訴訟法の規定によりますためか、国民の利用するところとなつておりません。その規定は
有名無実の観を免れなかつたのであります。本條は従来広く国民に親しまれて来た
調停手続上の簡易な措置として
実質的仲裁の機能を営ましめ、その利用を促進しようとするものであります。特に
当事者の書面による合意を必要としたのはその
愼重確実を期したものであり、合意の成立の時期は
調停申立の前後を問わない趣旨でございます。 第三十二條、
鉱害調停事件、管轄、本條は
鉱害調停についての
土地管轄の特則を定めたものでありまして、その理由は
農地調停につき第二十六條で述べたところとほぼ同様でありますが、
鉱害紛争は通常その規模が大きいので、合意による
簡易裁判所の管轄は認めないのであります。なお
現行鉱業法では
損害発生地以外の
地方裁判所に
合意管轄を認めておりますが、必要の場合には第四條の
裁量的移送によれば足りるものとして、これを規定しなかつたわけでございます。
第三十三條、
農事調停等に関する規定の準用、本條は
鉱害調停について、
農事調停の
小作官等の関與に関する規定及び
商事調停の
調停委員会の
仲裁的権限に関する規定を準用することとしたものであります。
鉱害賠償の紛争の解決に関しては單なる私的な
損害填補の関係だけではなく、
鉱山企業の維持、育成等に関する
経済政策的見地との調整を考慮する必要がありますので、各地方における
所管行政庁の長である
通商産業局長に
意見陳述の機会を與えると共に、
企業経営に関連する
社会的規模の紛争として、その性質上やはり
仲裁的解決に親しむものとして
調停委員会の
特別権限を認めたものであります。
第三十四條、不出頭に対する制裁、本條は期日に呼出を受けて出頭しない者に対する過料の制裁の規定であります。調停は
調停委員会と
当事者とが期日に会合し、説得の機会を得て初めてその機能を発揮し得るものでありますが、不誠意な
当事者は、呼出に応じないことによつて
調停制度を全く無視し得る結果となるのであります。然るに現行の
各種調停法では僅かに五十円以下の過料を課し得るにとどまり、物価の変動に伴つて制裁規定として殆んど
有名無実に帰していたので、その額を三千円以下に引上げました。なお本條では
家事審判法に傚つて当事情者以外の事件の関係人に対しても制裁を課し得るものとすると共に、
裁判所の呼出に応じない場合についてもこの制裁を課し得るものとすると共に、
裁判所の呼出に応じない場合についてもこの制裁を認めることといたしたのであります。この点の改正は事実調査等のため
当事者以外の者の出頭を必要とする場合があり、又
裁判所の呼出について制裁を不要とする特別の理由が認められないのからでございます。第三十五條、措置違反に対する制裁、本條は第十二條の措置に違反した場合の制裁規定であります。右の措置が調停の運用上必要であることについては前に述べた通りでありますが、現行法では
農地調整法第十一條の規定による措置について違反に対する過料の制裁が認められている以外には一般に何らの強制力をも伴わず、この措置を無視する者に対しては全く実効性を欠いていたのであります。このことは徒らに不誠意な
当事者を利する結果となり、かような措置を認めた意義を不徹底に終らせるばかりでなく、
裁判所の威信という点にも好ましくない影響を及ぼすので、一般の調停についても同様の制裁を認めることとし、この措置を間接的に強制し得る手段を講じたわけであります。第三十六條は過料の裁判、本條は前二條の過料の裁判及びその執行について非
訟事件手続法の過料の一般規定に対する特例を定めたものであります。即ち前二條の過料の制裁は、
裁判所が事件処理の職責を遂行するに当つてみずから手続の円滑な進行を図るための手段ししして認められるものでありまして、その性質上検察官の関與を認めることは適当でなく、その執行についてもこれを
裁判官の権限に委ねることが一層その目的にかなうと考えたからでございます。
第三十七條、評議の秘密を漏らす罪、本條は
調停委員会の評議の秘密を保つことによつて、
調停主任及び
調停委員が外部に対する顧慮なしに安んじてその所信を述べることを担保する趣旨の規定であります。現在
金銭債務臨時調停法及び
小作調停法にだけ同趣旨の規定がありますが、評議の秘密を保持する必要は上記の調停のみに限らないので、これを一般規定化すると共に、物価の変動に応じて罰金の額を引上げたのでございます。
第三十八條、人の秘密を漏らす罪、本條は
調停手続を密行とし、
当事者その他の関係人が安んじて実情を述べることを担保する趣旨の規定でありまして、従来の
各種調停法にはこのような罰則規定はなかつたのでありまするが、
家事審判法には同一趣旨の規定が設けられておりまして、刑法上の弁護士、医師等の秘密漏泄罪や国家公務員法の定める公務員の秘密漏泄罪等との権衡上からも、
調停委員についてかような刑事責任を認めるのを適当としたものでございます。
附則第一條は施行期日、これは本年の十月一日となつておりますが、我が国最初の
調停制度である
借地借家調停法が施行制定されてから三十周年に当るいい日を施行日にしたいいう意向であります。
第二條は、
借地借家調停法の廃止、これはもう当然廃止になりました。
それから第三條から第十條までは、本法の制定に伴いまして、関係法律中調停に関する規定の削除その他條文の整理でございます。
第十一條は、本法で定めた事項のうち
家事調停についても採用することが適当であるものについて、
家事審判法中に本法と同趣旨の規定を追加する等の改正を行なつたものであります。
第十二條は、
調停申立人の訴権の行使を容易にし、その保護を厚くする趣旨から本法及び
家事審判に定める
調停不成立の場合の訴えの訴状にはすでに支出した調停
申立手数料額との差額だけの印紙を貼用すれば足りるものとし、
民事訴訟用印紙法の一部を改正したものであります。
第十三條は、本法施行の経過的措置に関する規定でございまして、本條では本法施行前に係属した
調停事件についてはすべて本法附則による廃止又は改正前の
調停法規に従うこととして、手続の簡明を期したわけでございます。
第十四條は、
調停委員となるべき者の選任についてでございますが、本條第一項は、本條施行の際改めて本法による
調停委員候補者を選任する煩いを避けるため、第二頁は、前條の従前の例によるべき事件について従前の
各種調停法による
調停委員候補者を選任する煩いを避けるための規定であります。第三項は、
調停主任の指定に関る同一趣旨の規定でございます。
第十五條は、本條は従前の法律による罰則の適用に関する経過的措置をきめたのであります。本法施行前の行為についてはすべて従前の例によるものといたしまするほか、本法施行後の行為について従前の罰則を適用する場合については、本法の罰則規定との権衡を図る趣旨から、従前の規定中罰金及び過料の額を本法を同じ程度に引上げ、なお過料の裁判及びその執行については特に本法の規定を適用することとしたものでございます。
以上を以て説明を終ります。