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1951-05-15 第10回国会 参議院 法務委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年五月十五日(火曜日)    午後二時十八分開会   —————————————   本日の会議に付した事件連合委員会開会の件 ○戸籍法の一部を改正する法律案(衆  議院提出) ○裁判所侮辱制裁法案衆議院送付)   —————————————
  2. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) 只今より委員会を開きます。  先ず連合委員会に関してお諮りいたします。住民登録法案につきまして昨日地方行政委員会から連合委員会開会要請がありました。つきましては住民登録法案につきまして地方行政委員会連合委員会を開くことにいたしたいと思いますが。御異議はございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) 御異議ないと認めましてさよう取計らいます。   —————————————
  4. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) これより法案の審査に入ります。先ず戸籍法の一部を改正する法律案について衆議院提案者の御説明を伺います。
  5. 田嶋好文

    衆議院議員田嶋好文君) 只今議題となりました戸籍法の一部を改正する法律案に関する提案理由説明を申上げます。  現行戸籍法は立法当時から後年改正する必要ありと認められる事項が二つあつたと聞いております。第一は、戸籍法という名前を民籍法修正することであります。第二は、人名につける常用平易な文字範囲を民主的な方法で定めることであります。  第一の事項は「戸」を「民」に直すという字の修正に過ぎませんが、これには紙と筆と労力が必要であります。全国市町村戸籍簿の表紙を書き直すだけでも多大の費用と資材を必要とすると聞いております。戸籍事務費全額国庫負担の請願が多い折柄だけに法務委員会の一員といたしまして、今暫らくこの修正を他日に延期するほかはないと思うのであります。  第二の常用平易な文字の問題は、今や改正に着手すべき時期に達したと思うのであります。子供の名につける常用平易な文字範囲国語審議会の定めた当用漢字範囲と同じと断定したことは軽率であると思います。両者の範囲を同一と誤認し、当用漢字国民に強制することによつて国民は多大の迷惑を受けるのであります。例えば無名無籍日本人が出現したり、戸籍事務担当者が五十四字を増加することを協議したり、同名異人が各地に現われたりしているのであります。結局文部大臣もこの弊害を認めて、名につける漢字の緩和を答弁している次第であります。  人の名には常用平易な文字を使わなければならんという方針は何人も賛成するところであります。併しながら戸籍法施行規則第六十条によりまして常用平易な文字範囲を、当用漢字表にある漢字仮名文字(二十一年内閣訓令三二号)、当用漢字音訓表(二十三年内閣訓令二号)、の範囲に限定することは、国民大多数の理性と感情の堪えられないところであります。すべからく人名当用漢字やその音訓表によつて制限せられない旨を法令に明記すべきだと思います。尤も国語審議会は、当用漢字は固有名詞につきつ別に考え、当用漢字音訓表人名に適用することを意図していなかつたのであります。けれども少くとも目下裁判所当用漢字は子の名の届出の場合に適用さるべきものと解釈しているのであります。人名につける漢字はこれを当用漢字に限定してはならない根拠は三つあるのであります。その一つは、血統と土地とは人間社会構成の二大要素でありまして、永遠不滅のものであります。従つて人名地名は永遠的、継続的なところにその性格がありますから、当分の間の統制目的とする文字用語政策可変的効果から最も遠いところにあります。その二は日本人口八千万人、毎年増加人口百万人に対しまして、これにつける名の漢字当用漢字に限ると、当用漢字は千八百五十字、新制中学までの義務漢字は、八百八十一字でありますが、悪、凶、禍、死や電信電話のように人名に適しない字を控除すると、結局一千字となるのであります。そうすると百万人に一千字であるから、同一漢字が同一時期に約一千回命名に使われることになるのであります。これではこれから生れる子の個人別がわからぬではないか。十年も経過すれば、佐藤、斎藤、後藤の姓の多い部落では同姓同名異人が数十人も続出する慮れがあります。  第三に、民法は家を廃止したが、氏を廃止することはできぬのであります。「氏」を現わす「姓」の字は自由漢字であるのに、個人を現わす「名」の字は当分の間の統制漢字というのは矛盾であろうと思います。地名には常用平易でない字が少くありませんが、不動産登記法土地台帳法には地名統制規定はないのであります。地名漢字を制限するとなれば、土地登記簿の書き直しだけでも数億円の予算を必要とするのであります。  現在漢字日本字でありますと同時に、中華字と符合するに過ぎないのであります。漢字なくして日本人日常生活は迅速正確に表現し得ない場合があるのであります。六三三制の義務漢字八百八十一字だけでは、日本文化の精華を了解することはできないのであります。日本人家族生活の中にはよい漢字が親から子に、子から孫にと継承されております。終戦後五年にして当用漢字自由漢字との関係を再検討する必要があります。終戦直後の漢字追放は行き過ぎであります。現在の民生安定の立場から漢字追放解除が企図されなければならんと思います。追放解除範囲は狭く、その方法は民主的でなければならんと思うのであります。  戸籍法改正案内容は左の通りであります。   戸籍法の一部を改正する法律案   戸籍法昭和二十二年法律第二百  二十四号)の一部を次のように改正  する。第五十条に次の一項を加える。   市町村長は、出生の届出において  子の名に前項の範囲外文字を用い  てある場合においては、届出人に対  してその旨を注意することができ  る。但し、届出人がこれに従わなく  ともその届出を受理しなければなら  ない。  簡単に説明いたしますと、戸籍法第五十条第一項の「子の名には常用平易な文字を使わねばならない」ところはそのままであります。  第二項の「常用平易な文字範囲命令で定める」ところ現行法そのままであります。  但し、ここに委任する命令は、近く文部省国語審議会によつて制定せらるべき人名漢字表を暫定する戸籍法施行規則法務府令)となるものと期待しているのであります。  第三項においては、戸籍吏注意権を認めましたが、同時に文字言語政策のごとき文化政策国民人名に強制すべきでないという意味で、戸籍吏届出受理義務を認めたのであります。  右提案理由説明を申上げました。何とぞ御審議の上御可決あらんことをお願い申上げます。   —————————————
  6. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) 本法案に対する質疑は次回に行なうことにしまして、次に裁判所侮辱制裁法案提案理由の御説明を願います。
  7. 田嶋好文

    衆議院議員田嶋好文君) 只今議題となりました裁判所侮辱制裁法案について提案理由を申上げます。  新憲法下におきましては、司法権は国権の最も重要なものの一つであります。国会で制定せられました法律権威を守ることは、民主主義の基本的な要請でありまして、法律の具体的な宣明を使命とする司法が健全に運営されなければ、健全なる民主国家の建設は到底望むことはできないのであります。この司法運用に全きを期するには、その重責を荷う裁判所をして、よく正義の府としての権威を保持し、よつて遺憾なくその任務の遂行に当らしめることができるようにいたさなければなりません。新憲法実施以来、裁判所は、困難な諸障害を克服してよくその使命を果して参つたのでありますが、これはもとより国会始め関係国家機関及び国民一般の心からの協力によつて始めて達成し得た業績であることは申すまでもありません。併しながら我が国最近の社会情勢を見まするに、国民の一部には、司法の重大な使命を十分に理解せず、或いは裁判所における審理を妨害し、或いは裁判所権威を全く無視した行為に出る者をも生ずるという遺憾な状態であります。若し、これをこのまま放置するときは、裁判所威信を失墜し、遂には司法の機能に重大な障害を生ずる慮れなしとしないのであります。このような事態に対し、司法威信を保持し、司法の健全なる運用を図るためには、裁判所における事件審理を妨害する等裁判所威信を害する行為を、裁判所侮辱にあたるものとして、これに対し制裁を科することとすることが、必要且つ適当と存ずるのであります。御承知のように英米両国には、永い伝統を有する裁判所侮辱制裁制度がありまして、司法権運用の上に有力な支柱となつておるのであります。  新憲法施行後、わが国の司法制度は、御承知通り重要な変革を見たのでありますが、ここに英米における制度を範としつ我が国の実情を考慮に入れまして、裁判所侮辱制裁制度を設け一これを新らしい司法制度の一環として加え、その円滑な運用を図るために、ここにこの法案を提出いたした次第であります。  以下、この法案内容につきまして、実体的な部分手続的な部分とに分けて、概略御説明申し上げます。  先ず、実体的な部分について申し上げますと、第一に如何なる行為裁判所侮辱として制裁対象とするかが、最も重要な事柄であります。英米両国では、裁判所侮辱として制裁対象とせられます行為範囲は極めて広範でありますが、この法律案では、これを最小限度に制限して直接侮辱行為に限定することといたしました。即ち、裁判所又は裁判官が、法廷又は法廷外事件について審判その他の手続をするに際して、その面前又はその他直接に知ることができる場所で、これを妨げ、その命じた事項を行わず、そのとつ措置に従わず、その他裁判所威信を害する行状をした点を裁判所侮辱として取上げるのであります。  次には、裁判所侮辱に当る行為をした者に対して科する制裁でありますが、もともと裁判所侮辱行為は、司法権威を保持し、司法の円滑な運用を図るために、特にこれに制裁を科するのでありまして、これを犯罪とみて刑罰を科するわけではありません。広い意味におきましては、一種違法行為でありますが、司法運用の枠内におけるいわば一種秩序罰と称すべきものであります。このような見地から、英米における裁判所侮辱に対する制裁考慮に入れまして、その制裁は、百日以下の監置若しくは五万円以下の過料とし、情状によつてこれを併科できることといたしました。  裁判所侮辱制裁手続におきまして最も特異といたします点は、裁判所又は裁判官が、みずからの発意に基いてその手続を開始し、審判をいたし、審判に検察官の関与を必要としない点であります。このことは、裁判所侮辱制裁制度が、専ら裁判所威信を保持し、司法の健全な運用を保護することを目的としたのでありますから、制裁の権限を発動するか否かを、その裁判所又は裁判官の意思によらしめることが妥当でありまして、いやしくも裁判所侮辱制裁制度を認めます以上、制度本来の建前から当然のことと申さなければなりません。  手続の上における第二の特長は簡易な手続をとつている点であります。この制裁の性質が刑罰ではありません関係から一般刑事事件のような複雑な手続はとつておりません。これはこの法案において制裁を科する行為が、原則としては、裁判官面前における最も明白な、証拠調も必要でないような行為対象とするからであります。必要に応じて証人訊問その他の証拠調もいたしますが、元来刑罰ではないのでありますから、刑事訴訟法とは全然別の簡易な手続といたしたのであります。  併しながら、不服申立その他につきましては色々と慎重に考慮いたしております。通常の不服申立方法としましては、地方裁判所若しくは簡易裁判所又はその裁判官のした制裁を科する裁判に対して、法令違反理由として高等裁判所抗告することができ、高等裁判所又はその裁判官のした裁判に対してはその高等裁判所異議申立をすることができることとなつております。更に抗告又は異議申立について高等裁判所のした裁判に対しては憲法違反等の事由のあるときに、特に最高裁判所抗告することのできる道も開かれております。なお、抗告をするには、申立書原裁判をした裁判所に提出しなければならないことになつておりますが、原裁判をした裁判所は、抗告理由があるものと認めるとき、その他原裁判を更正することを適当と認めるときは、自由にその裁判を取り消し、又は本人の利益に変更することができるのでありまして、この点非常に幅のある取扱となつております。その他制裁を科する裁判をした裁判所は、制裁執行の全部又は一部を免除することも認めまして、その執行の面につきましても幅を持たしておるのであります。  その他この法案におきましては、抗告の提起及び異議申立があつた際の裁判執行停止に関する規定裁判執行に関する規定及び手続費用に関する規定等が設けてありますが、審判手続その他についての細部の規定は、最高裁判所規則の定めるところにゆだねるのが適当と思われますので、その趣旨委任規定を設けてあります。  最後に、前に申し上げました監置制度は、この法案によつて新たに設けられまする全く新らしいものでありますので、附則によりまして、その制裁執行するために監獄内に新たに監置場を設けることとし、監置制裁を受けた者の処遇については監置刑罰でない点を考慮することにいたしました。以上を以ちまして、本法案提案理由の御説明を終ることといたします。何とぞ宜しく御審議のほどお願いいたします。
  8. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) 本法案に対する質疑をあとに廻しまして、昨日の御決定に従いまして、只今より本案に対する参考人意見を伺うことにいたします。なお、参考人かたがたに対しまして御質疑がありましたら、後刻便宜上一括して行いたいと思います。  参考人としてお出でを願いましたかたがたに御挨拶申上げます。本日は御多忙のところ委員会のためにお出で下さいまして誠に有難うございました。  只今承知のように当委員会裁判所侮辱制裁法案が提案されまして審議中でありますが、それにつきまして、在野法曹権威あるかたがたの御意見を承わりたいと思いましてお招きいたしたわけでありますが、十分御意見のあるところを拝聴いたしたいと思います。なお御発言の時間はお一人三十分以内ということにお願いいたしたいと思います。先ず日本弁護士連合会会長奥山八郎君にお願いいたします。
  9. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 私奥山でございます。日本弁護士連合会全国弁護士会に対しまして本法案に対する意見を求めておりますのでありますが、今その意見を要約してここで申上げたいと思います。意見は全部これに反対であります。無条件に本法案に賛成する弁護士会一つもありません。でありまするからして全部が反対意見を持つているということになるのであります。  その反対意見を要約いたしまして申上げますれば、四つに分れるようであります。その第一は、現行裁判所法第七十一条、二条、三条、これを活用いたしますれば本法案の所期の目的は十分にこれを達成することができるということが一つでありまして、この七十一条乃至七十三条の規定運用につきましては、現在全国裁判官が非常な忍耐力を以て審理に当たられているということに対しましては、全国弁護士会ともひとしく敬意を表するのでありますが、それと同時にもつと勇気を以て事に当つてもらいたいという希望を持つているのであります。而して勇気ある措置の成果を見て然る後に本法案はこれを施行すべきか施行すべからざるかを決定すべき時期が到来する、かように申すわけであります。  第二の反対理由は、本法案憲法に違背する虞れが濃いのであります。それは裁判所侮辱犯罪ではない、従つてその行為現行犯ではない。然るにこれに臨むに逮捕に等しき拘束をするということは、憲法第三十三条に違背する慮れありというのであります。而して監置はその実質におきまして拘禁でありまするがゆえに、犯罪でない裁判所侮辱行為に対しまして、さような制裁を科することは憲法第三十四条に反する慮れがあるというのであります。  次に過料も又科料とその本質を同じくしまするが故に、これを制裁として科しますることは、憲法第二十九条に反する廃れがある、かように主張するのであります。この論者は、本法案は従いまして民主主義に逆行するものであると結論いたしております。  第三の反対理由は、裁判所がみずから行為者を拘束し、みずから審判してみずから執行するということは、国民裁判所独善の印象を与えまして、その結果却つて裁判所威信を傷つけることになる、かように主張するのであります。  次に第四の反対理由は、本法案におきましては、裁判所侮辱行為犯罪として取扱わないで、これを全然別個の取扱を以て臨むというのでありまするが、先ほど申上げましたように、その本質犯罪として扱つているのであるからして、かくのごとき行為に対しては制裁を与えるに当りましては、やはり刑事訴訟法原則に従いまして検事起訴を待つてなすべきものであるのにかかわらず、刑事訴訟法のほかの手続によるとするのは、起訴検事の独占にしてある原則に反するものであるという意見であります。  以上四つ全国弁護士会反対する理由でありまして、これを要しまするに、まだ本法案趣旨を十分に納得することができないのでありまして、たとえ外国において日本裁判所侮辱に対して制裁を与える法律がないのはおかしいということを言われましても、そういうことでは納得ができないと、かように言うことができるのであります。以上が全国弁護士会反対理由であります。
  10. 鈴木安孝

  11. 山崎佐

    参考人山崎佐君) 山崎でございます。弁護士全体の反対理由は今奥山会長から申上げたので、ただこれについて重複しないように敷衍したいと思います。  先ず第一に申上げたいのは、この法案を立法し提出しました主な理由は、英米法にこういうものがあるからということがかなりこれは重きをなしているように思うのであります。現に最近頻々と法務府、最高裁判所その他から米国視察留学に行かれましたかたがたの話に、向うへ行くと、日本には裁判所侮辱制裁制度がない、よくそれでやつて行けるものだといつて驚かれるというようなことを説明して、どうもこれを置かなきやならんと、こういうのであります。それを私は聞きますと、成るほど英米法ではそういうものがあるということの紹介にはなるが、何故米国でそういうものを置かなければならなかつたかということの説明は遺憾ながら研究して来ないのであります。丁度米国へ参りますと、百階、二百階の建物があるということで驚いて報告しますが、何故百階、二百階の建物があるかということの理由を視察して究めて来ないのと同じ感がある。私は英米法のほうは専攻しませんがいささか私の知り得るところでは、英国のほうは暫らくおきまして、米国裁判所侮辱というものが起りましたのはこうではないかと考えるのであります。御承知通りに、一六二〇年に英国からオランダに逃げた連中が、初めて新らしい大陸、即ちアメリカにメイフラワー号で移つて行きました。そのときにはこれはよその団体が他へ移る場合にはおのずから統率者というのが、親分がいて、そうして大勢のものを引率して行くのでありますが、これは全く同じ平等の人が、同じ宗教の下に米国大陸に行く。その間に何らの階級の差等も何もないのであります。そこでいよいよ、新大陸へ移る前にメイフラワー号の甲板で、上陸したらばこういうことをやろう、ああいうことをやろう、ああいうことをしてはならんといういろいろな、お互同志約束宅まして、そうしてマサチユーセツツへ上陸した。無論その間に指揮者も何にもない平等なものなのであります。本来が平等なもので建国されたのでありますが、併し誰か指揮者がなければならんというので、お互に推薦し合つて、ジヨン・カービツツかが知事、のちに言えば知事ですが、知事という形になつて指導者になつて主権を持つたのであります。ところが忽ちにして前に、約束に厳重ないろいろな条件を作つて守つたんですけれども、この移民の中にこれに違反する者が出て来る。それでこれをお互に制裁しなければならん。即ち罰しなければならんということで、これを罰することになりました。即ち裁判することになるのですけれども、元来が仲間で同じでありますから、ややもするとこれに反したものがなかなか服しない。丁度同じクラスで誰かが制裁するのと同じでありまして「何、生意気言うな」「お前何を言うんだ」ということで、これに制裁を加えなければならんというような意味合いからして、この仲間の平安を維持するという意味合いからして、これに制裁法というものが考えられた。御承知通り、そのためにかなり有力者を追放する、或いは忽ちにして二名に死刑を宣告するというような……、裁判をするには何かお互同志が静かにこれに服するという制裁法というものが考えられるのは当然であります。かくて発達して来たものが、この米国ではその裁判威信を保つには侮辱に対する制裁ということが考えられたので、これは当然である芝思うのであります。  ところ日本では全くこの裁判の行き方が違うのであります。建国以来違うのでありまして、制度といたしましては、文武天皇のときに制定されました大宝律元正天皇のときに制定されました養老律にすでに不応為の罪、即ち、まさになすべからざるの罪ということが規定されてありまして、どういうことを罰するかということは具体的に書いておらない。いわゆる普通共同生活をするにやつてはならんものということをやると、不応為の罪としてこれを罰するという規定がある。これは武家政治ができるまで行われました。武家政治ができてから杜絶えて、明治維新になりまして又不応為の罪は回復して、御承知通りに新律綱領にやはりそれが載りました。当時、一例を申しますと、堕胎がありました。堕胎はまだ刑罰に載つておりませんので、これを罰するか罰しないかといつう問合せに対しまして、それは不応為の罪、親が子供を下すということはまさになすべからざるの罪といつて、罰しろという太政官の訓令が出ていろいろらいで、そういうように非常に広く不応為の罪として出した。これは改訂律令によつて、こういうような法外に拡げた、何を罪するかわからないことを権力者がやつてはならんということで、人民が罰せられちやいかんという意味合いからして、明治六年の改訂律令ではこれを廃止してしまつた。それで王朝時代におきまして、裁判というものがいわゆる終戦前の、正月五日の事始め、いわゆる政治始めには、裁判の形式でやつて、それについてこれを侮辱するものについては、まさになすべからさるの罪ということで、これは非常に道義をやかましくいたしました。併しその頃には裁判官がたまたまこの即ち刑罰を誤つたというときには、大納言、中納言というようなのが免職を受けている例があるほど、一方においては裁判官責任というものを重くしておつたのであります。ところが先ほど申しました武家政治にあつてはどうかというと、今度の裁判所侮辱制裁は、これは無礼討ちの制度であると私は思うのです。御承知通りに、平安朝の末期から鎌倉を通して初めて武士階級ができて、そうして武士鎌倉時代において政権の中心になりましたときは、これに対して侮辱を与えたということで、制裁するよりも、みずからが武士らしくということで非常に厳重に責任を持ち、それによつて初めて武士が世の中から尊敬を受けるということに仕向けられておつた。それで室町、安土、桃山、江戸までを通して武士階級というものが尊敬されたのであります。即ち一つの力が威信を保ち得たのは、それはみずからがみずからの責任を十分に自覚しておつた。それでありますから花は桜本人武士と言つて通用するようになつた。ところ武士江戸の中期からだんだん堕落しまして、そうして無力になつて、なかなか自分の本来の力を発揮し、自分が十分に世間から尊敬されるような力がなくなつてから、考えられたのは無礼討ちであります。無礼討ち、即ち武士に対して無礼を目する、そうすればその無礼を受けたと思つた士が、みずからの手によつてみずからの判断によつて、そうして他を殺しても差支えない、かく武士威信を保とうとしたのであります。丁度裁判官裁判所を、七十一条から七十七条の規定が厳存しておるのに、これを殆んど実際に行わない。昭和二十三年に鳥取で二件あつたというだけでありまして、我々が先ほど提案理由を拝聴いたしました中に、近来目に余る法廷闘争なんでありまして、これを頬被りして、そして一面においては裁判威信を保持する。威信保持のために、その裁判官が主観的に侮辱を受けたと思えば、無礼討ちをしてもいいという思想であります。ここにおいて私は、単にこの法案反対というよりも、その思想的において、今日の民主主義においては、到底許すべからざる、賛同することのできない思想的の裏付け、即ち無礼討ちの裏付があるということについて私は反対するのであります。もしこの無礼討ちともいうべき裁判所侮辱制裁法が必要であるといつうならば、これに対してもつと厳重な裁判官責任法というものがなければならん。そうすればある力の威信がおの、すから保たれると思うのであります。即ち武士武士としてのいろいろな責任、普通の町民なら許されることでも、武士には二言がない、嘘を言えば切腹しなければならん、町民なら勘弁を願えるというようなことでも、重い責任規定される。従来裁判官において侮辱されても仕方がないような行為が相当あつた。そういうことに対する責任法というものが立派に立案されて、そうしてそれから初めて威信が保たれると思うのでありますが、裁判官責任制度がなくて、そうして、ただこの自分に対する侮辱だけを制裁して、これで威信を保とうということは、むしろ私は威信が保てないじやないかと思うのであります。先ほど例を述べました、武士という一つの力、社会上の力の威信を保つために、無礼討ちを許した当時には、もう最も威信のないとき、それでそのために却つて威信を落した時代であります。で非常にいい例として恐縮ですが申上げたいのは、この丁度寛政十年前後に、江戸町奉行を十八年もやりました根岸肥前守でありますが、白洲で調べておりましたら、ある非常に兇悪な被告が、いきなり肥前守のすきを窺つて、この白洲から上へ跳び上つて、側にあつた燭台で、裁判官根岸肥前守を殴りつけた。肥前守体をかわして、先制してそれを押えた。膝ではさんで背中をきゆつと押えているうちにつかまえた。そうすると、皆が実に武道に達した者だ、さすがは根岸肥前守だ。あの瞬間に体をかわして犯人をつかまえるとは立派だとほめた。それを当時の大老の松平定信、即ち楽翁公ですが、に話したところが、楽翁公が、いやしくも裁判官たるものが被告からさような打込みをかけられるようなすきのあるような裁判官ではいかんということで、痛く譴責された。遂にそれかりら失脚したとかということが甲子夜話に伝つておるんです。だから裁判官威信というものは、こういうことが考えられるときが、もうすでに、丁度無礼討ちを考えて、何とか或る力の威信を保とうと心得たときは、もう威信が保てなかつたというのです。だから私はこの裁判所侮辱制裁法というもので、これで、ここにありまするような威信を保とうと、それから威信を侵す行為制裁して行こうということは、この今までの日本式の考え方から行きますると、これはむしろ本末顛倒ではないかと思うのであります。かたがたつてこの法案には賛同できないと簡単に意見を申し上げて置きます。
  12. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) 名古屋弁護士会長、高井貫之さんの御意見を承わります。
  13. 高井貫之

    参考人(高井貫之君) 私この法案に対しまして、反対趣旨を申上げる者でございます。前の参考人お二人からいろいろの点について反対すべき根拠とか、そうした主張がなされたわけであります。私もその点に重複しないように、さらに敷衍さして頂くことにいたします。先ほどこの法案憲法に違反するのではないかという御説があつたのでありまするが、私もこれをそのまま信じておるものでございます。この理由につきましては、先ほどあつたのでありまするが、さらに今一つ附加えたいと思いまするのは、この法案の中に見受けまするところ制裁内容が、実質上刑罰に値する、その執行方法がやはり他の刑罰と同じように、刑務所において行われるという点からいたしますると、これが単なる秩序罰であるということは承服できないということに先ず一つ申上げて置くのであります。さよういたしますると、この憲法の三十四条、先ほども引用されたのでありまするが、その規定によれば、一つの自由を束縛する場合には、憲法の保障のもとになされなければならない。その規定が蹂躪されるのではないか。さらに憲法の三十四条から睨み合せますると、そういう人の自由を奪う、或いは刑罰に相当するような立場に立つた関係者に対しては、すべからく防禦の機会を与えなければならないということが憲法の保障するところでございます。ところがこの法案の第三条によりますると、中ほど以降に、「この場合において、拘束の時から二十四時間以内に監置に処する裁判がなされないときは、」云々とございまして、この侮辱制裁法違反事件というような事件審理は、即決でもつてなされるということが、この規定から十分窺えるのでございます。侮辱されたと思う判事が、すぐにその関係者をつかまえて、そうしてすぐ裁判をするという結果が明瞭に窺えるのでございます。そういたしますると、結局関係者は何ら防禦の機会を与えられずして百日以内の監置を命ぜられるということになりまするというと、そこに防禦権を行使する機会を絶対に失わしめることがあり得ると、かように考えるのでございます。これは憲法の精神に照しまして、相当研究を要すべきことがこの法案の中に鵜呑みにされておるのではないかということが申上げられると思います。  それから第二の点といたしましては、この保護法域が非常に広汎であるということについて、実際面からしていろいろな弊害が生ずるのではないかということが、本法案反対するところ理由一つになるのでございます。先ほど提案趣旨の御説明を伺つたのでありますが、英米法のそれは非常に広いけれども、日本の実情に照して極めて限定的なものとした。即ち直接侮辱としたという御説明でございましたが、私がこの条文を拝見いたしていろいろ考えるのでありまするが、これはかなり広汎なものを内容とするということになるのでございます。極めて限定的であるというにとについては立ちどころに承服できないのでございます。申上げるまでもなく、条文の建前から申しますというと、妨害という積極的事実と或いは裁判所に対しなさねばならないことをしなかつた、或いは裁判所命令を聞かなかつたという、いわゆる不作為そのものが含まれておるのでありまするが、この不作為というものが非常に広汎な又非常に解釈に苦しむというような個々のケースが錯綜するのではないかと思いますこういう不作為犯というものが取上げられるということにつきましては、この刑法の条文でも非常に議論があるのでありまするが、こういう漠然としたものを予定して、それに前申しましたような簡易な、即決の方法で以て審理し、且つこれに制裁を加えるということは、非常にこの法の濫用をする機会が多くなるということを憂うる一人でございます。我々の法律常識から申しますると、罪刑法定主義と構成要件というものは判例で年々歳々耕し、その結果判例が是認し、学説が是認し、且つ社会の常識というものが是認する場合においてのみ、初めてその制裁執行するところの必要が起る。漠然としたものを前提としてこの被害法益これ、或いはあれ、というようなことに個々の場合にそれを譲るというようなことは、罪刑法定主義の精神から見て誠に重要な点であろうと考えるのでございます。この点につきまして、一応条文の建前からいたしまするというと、直接これを知り得るとありまするが、この辺から出発いたしましても、なかなか簡単なことが言葉の上では説明できないのではなかろうか。むしろこうしたものの運用につきましては、濫用という弊害が誹るのではなかろうかということが、私の心配しておる一つであり、反対理由一つになつておるのでございます。  それから今一つこの提案趣旨の御説明にあつたのでありまするが、非常に今司法威信が傷つけられておるということでありまするが、そういう具体的内容が我々誠に寡聞で知り得ないのでありまするが、この裁判所侮辱制裁法案そのものが、民事、刑事を含めて全部に適用されるということに相成ると思うのでありまするが、さようになつて参りますると、我々はそこに今までの考え方というものを非常にむずかしくしてかからなければならないのではなかろうか。従来裁判官が化石化する或いは直接民衆と親しみにくい裁判制度であつたという過去、或いは新憲法施行以後におけるところ裁判所が、非常に民主化されなければならない、又民主化され、民衆から親しまれ、而して裁判官も又非常に開放的であるかの過程を辿つて来ました矢先、こういう法案が出現いたしまして、そこに裁判官自分の主観を、これは絶対に主観とは申しませんが、自分意見を中心にして、そうしてそれが客観的に正当なるものなりという前提の下に、すぐその場でこれを捉えて、そうして裁判するということは、過去のように裁判官が、或いは裁判制度が非常に親しみにくいものへ戻つて行くような一つの弊害をかもしはしないか。更にこの方法によつて審理される本法案の違反事件はです、糺問主義の昔へ逆行するのではないか。かようなことも考えられるのでございます。自分自分権威を、自己の代表するところ裁判所権威威信を損われたというような考え方をいたしましたといたしましても、その結論をすぐその人が裁判の実際面に反映させるということは、先ほどお言葉にありました健全なる裁判制度の面からいたしまして、どうかと考える余地が十分あると思います。私の考えまする範囲におきましては、裁判制度というものは、攻撃防禦の手段を双方に尽さしめる、そうして不覊独立の立場において、これを審判するアンパイヤーである。そこに裁判制度が現在まで健全なる発達を来した。この裁判制度裁判所侮辱制裁法というような法律のできましたことによつて自分がその事案を検挙して、そうして自分審理をするということになりますというと、過去の歴史に大きな変化を加える内容を持つておるものではないか。以上のような点からいたしまして、私はこの法案の御提出に対しましては賛成し得ない一人であるのでございます。以上で終ります。
  14. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) 只今参考人のかたく、に対して御質疑がありましたならば御質疑を願います。
  15. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 ちよつと奥山さんにお尋ねいたしまするが、この全国在野法曹に対してあなたのほうから意見を徴された方法としては、やはりこの法案弁護士会に全部送られたのですか。
  16. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 送りましてそれに対する意見を徴したのでございます。
  17. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 そうするとそれはいつ頃発送されたのですか。
  18. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) あれはいつ頃でしたかな。三月五日付で発送いたしました。
  19. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 ああそうですか。大体それは今日提案されておる法案そのままですか。
  20. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) ええ、あれはそのままこれと同じものを送りまして意見を徴しました。
  21. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 それから山崎さんにちよつと伺いますが、先ほど裁判所法の七十三条によつて、これまで新裁判所法ができての上のことでありましようが、鳥取に二件の起訴があつたということでありますが、その全国のやはり例を御調査になつたのですか。
  22. 山崎佐

    参考人山崎佐君) ええ、実はそれはですな、先般我々日本弁護士連合会全国から只今奥山会長の申しましたような意見が参りましたので、そこで東京の常務理事会でそれを合せまして態度をきめるという意味合で、法務府のかたや、最高裁のかたも見えておりました。そちらの官庁のかたに来て頂ついて、そうして我々のほうから質問いたしたのでありますが、これは今まで実施した例があるかと言いましたらば、昭和二十三年に鳥取で二件ある。二十三年と記憶しております。そのうち一つは無罪になつた、一つは有罪になつたというので、内容はそのほうからその席で聞いた。当時その席に最高検察庁のかたも見えておりましたけれども、それは任期が違うと見えて御存じありませんでした。それで法務府のほうからの報告で私ども初めて知つたのであります。それの問いを発しました理由は、今まで随分あるけれども、なぜこれを実施しなかつたかということからそれが出ました質問であります。
  23. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 それはよくわかりますが、そうすると特に資料を求めて正確なものとは必らずしもなつていませんね。
  24. 山崎佐

    参考人山崎佐君) 弁護士会のほうとしては、実際どこにあつたかということは調査いたしません。
  25. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) ほかに御質疑のかたはありませんか。
  26. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 ちよつと委員長もう一つ……今の山崎さんのお説の七十二条のほうだけで、それからこの公務執行妨害になるというふうなことの、法廷において生じた公務執行妨害というようなことについてのお調べはありませんか。
  27. 山崎佐

    参考人山崎佐君) それも聞いておりません。
  28. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 なかつたでしようか七十二条のほうの……。
  29. 山崎佐

    参考人山崎佐君) 私どものほうは七十三条のほうもないと思つております。公務執行妨害のほうもないと思つて聞いてたから、その頭でおりましたからつ、そういう答えをその係の官庁のかたから伺いました。こういうわけであります。
  30. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 そうすると奥山さんに伺いますが、どうでしようか、この七十一条乃至七十三条の規定を励行するのであるならば、必らずしもこういう別な修正法規を作らなくても、検察庁のほうと完全な連繋を保つてやるならば、別段差支えないであろうという弁護士会ではお見通しですか。
  31. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 全国弁護士会は殆んどその点については一致した意見を持つておるのであります。
  32. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 何かこれはこの規定を作ることによつて新らしい裁判所の行過ぎとかいうことについて危惧する点は別に御意見はありませんでしようか。
  33. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) それはないのではありませんが……。
  34. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 その点をお伺いしたいのですが。
  35. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 具体的にはなつておりませんのでありまするが、屋上屋を架する……。
  36. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 理論的にはともかくといたしまして……。
  37. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 結局はやはり自由の侵害になるということであります。現行法刑罰法規によらずして自由が実際的に侵害されるということが理由であるのであります。
  38. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 こういうことはどうでしようか、私どもの感じとしては日本裁判官に限りませんけれども、概して法律執行する者が殆んど法律を自家のごとく扱うきらいがあつて、例えば日本裁判官であつても忌避の問題、裁判官自体に対する忌避のような問題が起るというと、殆んど忌避の成立つたというような先例が法律制定以来一件も例がないというふうな極端なことになつておるように聞いておりますが、そのごとくにいわゆるこの規定を作ることによつて裁判官がやはりこの法を濫用するというのですか、それによつて生ずるようなふうのことについての危惧の念はございませんか。
  39. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 先ほど高井名古屋会長のほうから申された中にそれがありました。その危惧はまだ全国にたくさんあります。
  40. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 併しながら各所で以て裁判官法廷の秩序を保つことによつて大分苦しめられて苦しんでおることも事実ですね。
  41. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) それは認めますからして、もつと七十一条乃至三条を活用したらよかろう。
  42. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 それはやはり七十一条、七十三条がありながら検察庁のほうもそれを活用もしないという点もありましようけれども、それだけでは到底全きを期し得ないというようなところから、何か在野のかたがたから御覧になつて今の現状に対して、もう少し効き目のある、而も合法的ないい方法についてお考えになつたことはありませんか。
  43. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) その点につきましては、先頃最高裁判所の長官、並びに弁護士出身の裁判官、それから連合会の会長、副会長等が懇談をいたしました。その際に出た話でありまするが、従来日本弁護士連合会におきましては、法廷委員なるものを置きまして、その委員が随時法廷に臨んで、裁判官威信を傷つけるような行為に対しては協力してこれを防止することに努めたいという制度を設けてありまするのでありまするが、裁判所側の意見といたしましては、それではまだ全きを期し得ないということでありまして、何とか現在の情勢に即応した方法がなければならんのだからということが、本法律案を提出された理由のように聞いてはおります。そこに我々の成るほどと考える点もありますが、そこに行きます前に、やはり裁判所法を先ず活用して、それで実際に成るほどいかんのだということを諸君がよく納得するときになつてこれをこしらえるほうが順序としてはよかろう、かように考えておるのであります。弁護士側といたしましては、さように考えております。
  44. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 その在野のかたのほうでは、やはり各所に起りまする思想犯などの事件審理に当つて、非常な法廷を冒しておることについては、恐らくひとしく眉を顰めておられることだと思いますが……。
  45. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) それはその通りであります。
  46. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 それで、それはどうしてもやはり何とか法廷一つ神聖を維持できるようなふうにせなければならんというお考えは皆様持つていらつしやるだろうと思いますね。
  47. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) それは今七十一条、二条、三条で賄い得られるんじやないかと思います。
  48. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 賄い得て行けるであろう……。
  49. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) はい。
  50. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 これを作ることによつてそういう事件のみならず、やがては裁判官のこの規定を悪用することによつて在野の諸君が何か不利益をこうむりはしないだろうか、或いは訴訟関係者が迷惑をされるんじやないかという観点はどうですか。
  51. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) そこが裁判官意見の分れるところであります。裁判所のほうでは最高裁の懇談会の際の話でありますが、それは濫用はめつたにしないということを言明されますけれども、併しながらそれは東京或いは大阪のような有能な裁判官の集まつておられる所ではその心配はないけれども、併しながら全国裁判官が現在すべて有能なりとは言い得ない今日でありまするからして、ずつと地方に行きますと、これがしばしば濫用されるようになつて、権利が侵害される慮れが十分にあるということを弁護士会のほうでは考えているのであります。
  52. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 全国弁護士会で、弁護士のその人に対するやはり法廷の態度について、弁護士法の違反だとか何とかいうことで、懲戒方法などで問題になつたことはありませんか。
  53. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) その点も裁判所のほうには弁護士会として開陳してありまするが、弁護士法によりまして制裁を加えることはできるからして、懲戒の処分はできるからして、それも本法案を出すのにまだ早いじやないかという理由になつておりますけれども、併しそれも裁判所側の意見といたしましては、裁判所から弁護士会に通知をして、そうして弁護士会に懲戒の処分をしてもらうということは時間が取れるのと、又証明が十分つきかねるということを申しております。
  54. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 裁判所のほうからすれば、弁護士会に対して懲戒を請求するというのですか。
  55. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) そういうことになりまするというと、その行為についての証明が十分にできなくなる関係にある。
  56. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 当意即妙的に行かんからというわけですね。
  57. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) そういうわけであります。
  58. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 今まで弁護士会でそういうことによつて法廷の態度に対する弁護士の何か品位とか何とかいうことで問題になつたことはありませんか。
  59. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 内々非難はいたしまするけれども、未だ現実に各弁護士会の現実の問題となつた例は承知いたしておりません。
  60. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 その点について特に連合会のほうで以て一つの議題となつて、今後弁護士会としてもこれに協力し得る意味において、弁護士同士としてもこの点には協力しようじやないか。そうして若しこれに反対をするものがあれば、こうしようというふうなことについて御研究になつたことはありませんね。
  61. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 申すまでもなく、弁護士国民に率先して裁判所の尊厳を維持して行かなければならん責任を持つておるものと考えておりまするので、そういうことをこれからやろうという計画は持つております。併しまだ具体的になつておりません。
  62. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 結構です。
  63. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ちよつと奥山さんにお伺いしたいのですが、只今鬼丸委員の御質問に対するお答えの中に、日本弁護士連合会裁判所側と懇談なさつたということがありましたのですが、それはいつ頃のことですか。
  64. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 今月の七日です。
  65. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしてそれはどちらからお申込みになつたのですか。
  66. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 最高裁判所のほうからのお話でありました。
  67. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしてその際今問題になつております裁判所侮辱制裁法案というものを、最高裁判所が積極的にこれの成立を希望するとか、主張するとかいう態度をとられたでしようか。
  68. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 非常に熱心に持つておられたように思います。
  69. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その懇談会には最高裁判所長官も御出席になりましたか。
  70. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 長官も御出席になりました。
  71. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうして熱心に主張されましたか。
  72. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) はあ。
  73. 左藤義詮

    ○左藤義詮君 奥山さんにお伺いしますが、法廷委員というお話がありましたが、それはどういうふうの意味で、どういうふうの活動をしておりますか。
  74. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) 多分できましたのは、日本弁護士連合会が創立されました一昨年の多分終り頃からできたと記憶いたしておりまするが、各弁護士会で一定の人に法廷委員というパスを上げまして、随時法廷に出入のできるようにいたしまして活動するように期待しておりますけれども、率直に申しますれば、まだこれといつて申上ぐべき効果を挙げておりません。
  75. 左藤義詮

    ○左藤義詮君 これをもつと活用すれば七十一条乃至三条と相待つてかくのごとき侮辱制裁法を作らなくても行ける、こういうお見通しでございますか。
  76. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) いいえ、それはそういうふうにはお答えできないと思います。法廷委員が弁護士側から設けてあるからといつて、それによつて七十一条、二条、三条の行使がたやすくなると思う、そこまでは申上げられますが、我々は弁護士の立場といたしまして、弁護士にして法廷弁護士らしくない行為をする者があつた場合には、これはやはり取上げて問題にしようというのが根本の趣旨でありまするが、それは反射的に裁判所の助けになるということは言い得るのであります。日本弁護士連合会規則の中に法廷委員会規則というのがありますが、その法廷委員会規則の第二条におきまして、「法廷委員会は、法廷における秩序の維持並に審理の適正な運行に協力することをもつて目的とする。」、かように規定しておりまして、この目的で活動しておるわけであります。
  77. 左藤義詮

    ○左藤義詮君 非常に結構な御趣旨だと思いますのですが、それが二年を経まして一方からこういうような制裁法を出さなければならないような事態になつて来ておるということは、折角の御趣旨が殆んど生きていないということですか。
  78. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) まだ活動が十分に行つていないのであります。
  79. 左藤義詮

    ○左藤義詮君 これをもう少し活動のできるようにしまして……。
  80. 奥山八郎

    参考人奥山八郎君) さてこれを活用しましてどれだけの効果が挙るかということはちよつと申上げられないと思います。
  81. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) ちよつと速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  82. 鈴木安孝

    委員長鈴木安孝君) それでは速記を始めて下さい。参考人のかたにはお出でを願つて誠に有難うございました。本日はこの程度で散会いたしまして、明日は午前十時より運輸委員会との連合委員会、午後一時よりは地方行政委員会との連合委員会開会いたします。それでは散会いたします。    午後三時四十四分散会  出席者は左の通り    委員長     鈴木 安孝君    理事            伊藤  修君            鬼丸 義齊君    委員            左藤 義詮君            齋  武雄君            岡部  常君            羽仁 五郎君   衆議院議員    田嶋 好文君   事務局側    常任委員会専門    員       長谷川 宏君   参考人    日本弁護士連合    会会長     奥山 八郎君    日本弁護士連合    会常務理事   山崎  佐君    名古屋弁護士会    会長      高井 貫之君