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説明員(木村武君) お手許へこの資料を早くお廻しして、御覧頂いてから申上げたほうが非常におわかりいいかと思
つたのでありますが、本日お廻しいたしまして、誠にどうも手順がよくございませんで、お詫びを申上げて置きます。
この四册の実態調査報告は、これは実は私どものほうの調査庁の個有の権限に基いてや
つたのではないのでありまして、農林省のほうから最近の
農業協同組合の問題が非常に
心配な
状況にあるので、調律はいろいろ現地に手足を持
つておられますので、いろいろな自分のほうの政策立案の資料として必要な材料をと
つてくれないかと、こういう
お話がございまして、そういう観点からと
つたのでございます。で、この四つを並べて御覧下さいますとわかりますように、第一は、福井県の福井市の郊外の比較的恵まれた単作地帶の例でございます。それから第二は、筑波山の麓の茨城県の非常な勤勉な村ではありますが、農業技術水準が非常に低い、殆んど灘田で二毛作ができない、こういうような地帶であります。第三は、態本のすぐそばでございまして、非常に農業環境立処はいいのでありますが、これはどうも他力本願的に無気力な事業経営を続けているところ、第四は、愛知県の元の
農業協同組合でございまして、非常なるたくさんの貯金を抱えて、いわゆる貯金組合型に偏している。こういうふうな見方であるのであります。これを御覧下さいますと、第三の熊本県の豊田村
農業協同組合というのは、この調査当時におきましては、どうもレベル以下ではないかというふうに
考えられた組合でございますが、ほかはいずれも大体レベル以上の組合ということにな
つてお
つたのでございます。これは農林省のほうから特別の手配がございまして、権と相談して権の指定した組合を、つまり県のほうでは見られて恥かしくないという
考え方で選んだ組合でございます。
従つて今日問題になさ
つていらつしやいます
農業協同組合の再建というような観点から言うと、或いは余りこういうものを
考えるわけに行かない、こういうふうな点がおありになるのではないか、こういうふうに
考える次第であります。実はさようなわけで、それぞれの組合ごとに政策立案の基礎材料を得たいという、こういうふうな農林省のお
考えを受けて出しましたので、例えばその一を御覧下さいます。と、七十頁以下に、この組合の
一つの処方箋と申しますか、この福井県の福井市郊外の組合は、実は形式的には破産状態に陷
つている組合なんでありますが、その組合が破産に陥
つているにもかかわらず、殆んど村では問題にな
つておらん。こういうふうな
状況にな
つている。これは言換えれば、組合というものが、余り組合員の
経済と結付いていない、こういうふうなことになるのではないか、こういうふうに
考えるのでありますが、然らばその組合に対してどんな処方箋を與えれば、その組合が立直るということになるだろうかというのを、七十頁以下に一応書いて見たのであります。併しこの組合は、4の三頁をあけて頂くとわかるように、こういうふうな略図を書きますと、こんな地域にあ
つて、そうして殆んど大部分が濕田であります。それで昨年なども、「いもち」の害を非常に受けたところでありますが、そういう農業の
土地改良の問題という大きな問題を持
つている。而も、自分だけでは何ともならないという組合でございます。そこでこの組合自身の力で立上れというようなことを言
つて見ても、大体無理なような
状況にあるのであります。大ざつぱに申上げますと、その上に而も福井の辰災後の影響を受けて、無論震災のために焼ぶとりじやなくて、地震ぶとりみたいな恰好にな
つているのでありますが、それが非常な借入金をして、そうしてその他入金のまだいわゆる償還の時期の来ない時代でありますので、どうやらこうやらや
つておりますが、償還が始ま
つて見ますと、これはどういうようなことになるかというような
状況に当時陷
つているのであります。そういう状態において、どんなようなことをやればいいかというのが、ここに書いてございますような、いろいろな問題でございます。これを
一つ一つ申上げている暇はなさそうでありますから、御覧を頂けば、こういうふうな組合がどんなところに欠階を持ち、かなわんまでも、どんな
方向にやり上げて行けるかというようなことが出て参ります。特にこの問題として、諸先輩がたを前に置いて生意気なことを申上げて恐縮でありますが、
一つのトピックになりますのは、七十三頁に書いてございますが、中金の資金というのが、どんなふうな流れ
かたをしておるか、これは特に震災の
関係がありましたので、まあ中金の御弁解によりますと、あのとき非常に急いでや
つたので、こんなようなことも必ずしも全国的な問題ではないという
お話でございますが、七十三頁のDに書いてございますような問題が、中金の末端の問題として、かような問題があるということであります。それから特にこの七十六頁のところを御覧下さいますと、七十六頁から七十七頁につきまして、県当局或いは中央当局の行政施策面として、こういう問題、この組合から伺われる徴表の中で、どういう対策を講じて行くことが適当であろうかという問題があろうと思うのであります。一番大きな問題は七十七頁の(1)に書いてございますように、農業土木の問題ではないかと思うのであります。ここは自分のところだけではどうにもならない。而もこの工事が上のほうからや
つて来なければならない、一番川下に属しておるというような
事情から、自然全体としての、而も長期的な農業土木の
計画というものが
はつりきしてお
つて、これが基礎にな
つて、そうして初めて確固たる基礎の上に復興
計画が組立てられて行くという
関係にあるように思うわけであります。それから農事改良指導事業の問題も、殆んどここには手が及んでいないのでありまして、指導連の指導というようなことも非常に弱い。これは見せかけだけは如何にも立派に震災後復興しておりますので、負担金とかいうものは一人前以上かけられ、見せかけだけは立派なんでありますが、その反対給付というものは殆んど受けられないというのであります。それからこれはもともと、
戦前は福井の機業地帯に属しておるわけでありますが、その後殆んど復興しない。つまり単作の稲作と機業というものが結び合
つて、この村としての営みができてお
つたというのが従来の例なんでありますが、その機業のほうは殆んどできておらない。それでそういうふうな村の全体としての農村の自治向上と言いますか、そういうふうな点まで問題を單に農業という問題だけで
考えて行
つたのでは、この村というものの復興はむずかしい。こういうふうな点などがここで特に
考えられる問題であります。
あとは大体従来から言い古されております単作地帶にある共通的な問題であります。七十八頁のところに書き上げております問題は、単作地帯の共通の問題或いは全国的に共通の問題というようなことになろうかと思うのであります。それが(その一)であります。
それから(その二)は、これは茨城県の筑波山の麓の組合でございます。この所見の要約のところを
ちよつと読まして頂きますと、志筑村農協は、
昭和八年話にならぬひ弱な奇形的巣立をした形ばかりの志筑村信、購、販、利組合の農業会時代を経た実質的後身。これが不良環境面、特に感情的政策に基因する激烈な積年の村内不協和の特殊雰囲気の中を切りぬけて、よく今日の小じんまりした規模なりに、一本立のこの村の場合としては精一ぱいの線に近い逞ましい堅実な典型的総合事業協同組合にまで成長しているのが見られる。專ら文字
通り十年一日産組創始以来不撓不屈の努力を続けて来た現常務役員の努力が立派に実を結んだもの。この意味で「農協の問題は先ず中心人物という法則」の一検出例をここに見る。二といたしまして、組合事業と村民
経済の接着ぶりは、信用事業受信業務の七〇%
程度達成を初めとし、生産消費資材両面に亘る購買事業の積極的汎行が頂点とな
つておる一方、利用事業面は精米、麦は勿論製粉、麺にまで手を拡げて来ており、販売事業面では、一〇〇%主食
供出販売面は勿論のこと、粟、繭、煙草、蔬菜等、むしろこの村民
経済の重点がおかれている特用作物の共同出荷面にも最近漸く手を伸ばそうとする若さの
段階にあり、四種事業のいずれもに
亘つて積極面徴表に満ちている。
三としてただこの村の農業技術水準は未だに耕地整理ができていないほどで、いわゆるアジア的停滞の域にとどま
つているとさえ見られる
程度の低さであるにかかわらず、生産指導事業面が賦課全徴収の手前の申訳的月並的消極なものに堕しているのは、まさに玉に疵と言うところ。並行してこの面の積極的打開がない限り、折角の他のすべての事業面の努力の効果の限界は非常に低からざるを得ないこととなり、如何にもみじめな感じ(村民貯蓄高の七〇%を吸收しながら組合貯金高の一戸当り僅かに一万八千二百円)である。(この点について、単にこの組合の生産指導事業面の強化という底のものだけで展望が開けて来るわけのものでないのは言うまでもない。この意味で組合の力の限度を超えた大きな施策がそこに加わらない限り、何ともならない限界にすぐ突き当るわけであるが、ここに我々は
日本農村の共通的存命の具体事例を見るということにろう。)こういう
状況であります。次に四としまして、小じんまりとした規模なりに堅実で、而も積極的な事業面を反映しての経理面は、その上にこの組合独自の事業部門別原価計算主義経理運営の好影響をも受け、貸付金、売掛、棚卸しその他の各面共差当り順調堅実に過ぎるほどの
数字の動きを見せており、何らの懸念すべきものをはらんでいない。当面の農村危機を叫ばれる時期に当り、この堅実さは賞賛に値する。これ又組合常務役員のまじめな努力ぶりに專ら負うところ、ただ極めて最近の経理
数字徴表面に小額なものながら貸付金線の
上昇傾向と定期貯金線の頭打ち傾向が見られる。この組合の場合も、又ついに最近の農村不況の影響を免れ得ぬものがあることを物語るものであろう。
志筑村農協は、その次に書いてありますように、筑波山の石岡町のそばで、筑波山のすぐ麓にある組合であります。この組合につきまして、
ちよつと面白い分析をいたして見たのでありますが、それはこの三十四頁、三十五頁のところに図表を書いてございますが、組合に貯金を預けておるものと、それから組合から資金を借り出しておるものということが、むしろこの少し持
つておると言いますか、それは当り前とも言えるかも知れませんが、組合の貯金方面では余り協力しないで、資金の貸出面だけで組合に厄介をかけておるということ、而もそれを階層的に見ると、どんなことになるかというようなことは、これは詳しく御
説明しておる暇がありませんが、
相当細かく組合員一人々々についてそういう分析をして見たのが、この図でございます。結局それじやこの組合については、どんなふうなことがあれだろうか、これは八十三頁以下に書出しておるわけであります。大体もう組合について組合員自身の努力というようなことは、ほぼ限界に来ておるのじやないかというふうに
考えるのでありますが、ただ生産指導事業面は、先ほど中土げましたようなことで、もつとやる余地があるであろうというふうに今
考えるのであります。主としてその面にこの村の問題があります。そこで八十六頁に書いてございますように、やはりこの組合の場合も、さつきの福井の郊外の組合で見ましたように、六條村で見ましたように、濕田地帶の乾田化
計画というものをもつと
計画的に持
つて行くということが、やはりこの組合の場合も基礎的な問題である。そういうことがやはり大いに必要であろう。この組合で申しますと、殆んど冬麦を作
つておりませんが、冬麦は筑波の風が影響して、この地域ではなかなか作れないということを言
つておるのでありますが、さようなことが言える
程度で、まだ
日本の冬麦の農業技術はこんな
程度のくらいかというふうに
考えますと、いささか心細いのではないかと思うのであります。次は、熊本県の豊田村の農協であります。この所見要約を、これが一番わかりやすいと思いますから、朗読いたします。
豊田村農協は熊本市
経済圏に包攝されつ、田畑それぞれ四百町歩そこそこ、山林五百町歩足らず、それに年産一千万円
程度の雑多な特産物という底の折角の一応均衡を得た農業環境立地に置かれながら、最近の組合の当事者の消極退嬰と村民環境の協同精神の欠如によるものを主因とし、典型的な他力本願的お座なりの事業経営に停滞し、いささかも自力による積極的伸展の望みの窺われない総合農協である。
戰時
経済以来の農村
経済統制機構の與えられた官製狙い手としての地位に安住し、專ら主食類の共同販売事業と肥料中心の共同購買事業とを表看板に内部受信の極端な貧弱さにもかかわらず、一見不思議な信連借入金で綱渡り式にそのカバーをして来ている基盤脆弱な信用事業で、これを危
なつかしくも支えているだけのもの。結局見せかけの総合農協と評することができようか。
これはいささか手厳し過ぎると思います。私ども見ました限では、これが一番ひどいのであります。
二、組合
経済事業と村民
経済とのつながりは、すべての面で淡い。信用業務——村民貯蓄の四〇%
程度の受信にとどまり、而も小口当用資金的なものの取扱いのみ。販買業務——主食類ラミーの一〇〇%共販取扱いのほか、雑多の特産物販売取扱い面にはノータッチ。購買業務——肥料、農薬類のほか、生産資材も生活物資も微々たる取扱量。利用事業——貧弱な精米、麦、製粉、麺設備について、村民利用率は一〇%
程度のわびしさ。僅かに農倉事業だけが、主食
供出制の余慶を受け、どうやら一人前
程度の收益を上げ得るだけの利用度に達しているというところ。
これは調査当時がこうでありまして、その後室はいいことに、丁度理事者が交代いたしておりまして、
あとの理事者がその後精を出しておられるということは、実はその後わか
つておるのであります。
三、生産指導事業面、又御他聞に洩れぬ賦課金徴収の手前の申訳的月並のもののみ。否、それどころか、徴收額に見合うだけの事業費支出をさえ行わず、二十四、二十丑両年度とも、
相当額の支出抑制を行い、これを僅かな黒字を出すための組合損益計算操作に使
つている事実さえ看取される。この村の農業技術水準は、折角の村央を流れ才浜戸川の治水、利水は勿論、農道、井堰、用水路の改修さえ思うに任せず、灌漑用水は專ら村内三十カ所に点在する溜池に依存する底の低さに低迷しているというのに。遺憾は二重にも三重にも深い。
四、主反歩以下の耕作
農家四五%、主食不
供出農家二五%
程度という比較的貧窮
農家の多いこの村で、このような
程度の活動ぶりしか、この農協が示していないのは、或いは当然ではないかという見方も生れよう。それにしても二に述べて明らかな信用事業面についてのうち、富農層の組合非協力ぶりが端的にこれを物語る
通り、協力の能力は十分なのに意識的に協力を怠
つている村民の存在は目障りで何としてもこれを組合宗に改宗させる要があろう。貧乏人と一緒では損ばかりしてつまらぬという底の気持がプリヴェイルしていては、共存同栄、互助機関としての農協は永久に育成されまい。
五、事業面の消極性お座なりぶりを反映しての経理面は、資産、負債構成面の不堅実、不安定を結果し、資金運用面の行詰り症状を漸次悪化させ、
従つて損益計算面では三にも触れた
通り、指導事業のための賦課徴收金をセーゼングする権道を敬えてして、僅かの見せかけだけの黒字決算を行い事態を不明朗に糊塗している始末。このままの経理態様では、早晩経営危機に見舞われること必至と言えよう。これはその後の理事者が非常に努力しておられるようであります。我々の慮れが杞憂に
つたという見込みが大体付いて参りまして、非常に喜ばしいと存じます。
六、これを要するに、耳田村農協は事業面経理面共に全面的に標準以下のレベルにあると思われる。そのよ
つて然るゆえんは、従来おしきせの官製農村
経済統制機構の上に安易に坐
つたまま、他力本願的運営を事として来、折角の均衡を得た農業環境立地を生かし得なか
つたがためと断ずることができよう。これだけの農業環境立地に置かれた農協がせめて標準線にまで漕ぎ付けるについて、今以て他力本願的
態度を棄てないということになるならば、又何をか言わんやである。幸いにして、この五月組合長の更迭があ
つた。この組合に関する積極的展望の開けて来るのは、先ずこの機を外さず、何をおいても、せめて総合農協としての体をなす標準レベルに達するまで、自主的建直しに向
つての澎湃たる機運と姿勢とができ上
つてからのことということになろう。
こういう、まあ
相当これは手厳しくや
つたんでありますが、これはさつき申上げたように、その四頁にございますように、熊本のすぐそばであります。この組合は
相当今日いろいろ
お話にな
つておりますような問題に関連する組合かとも思います。が、その七十六、七十七頁にどんなふうな然らば問題があるかというと、理事の問題、職員の執務態勢の問題、出資金の増加、出資金の増加はすべての組合を通じての問題でありますが、それから事業部門別損益経理仕組の確立をやらなければならん事業運営改善面では信用事業が、信連との間がこれは実は農手であるということがわかれば、成る
程度それがわか
つたのでありますが、
最初わからなか
つたものですから、信連から金を借りて、又信連に預けておるというような妙な恰好に見えておりまして、
従つて信連と両建貯金とでも言いますか、そんなふうなことで、妙な因縁があるのではないかというふうに、初め想像したのでありますが、これは農手の利用であ
つたのであります。そこで最後に八十一頁のところに、どういう問題をお
考え頂けば、この組合にそれではどんなことが適当であろうかということが八十一頁に書いてありますが、この場合も同様に又農協との問題というのが一番目に出て参
つたのでありますが、そのほかの問題は大体あれでありますが、併し今までの組合についてもそのことが言えたのでありますが、この組合の場合に
はつきりして参りましたのは、今の信連と今の問題がいささか不明朗であるというようなことからいたしまして、この系統農協の中央機関というものが、更に自治指導の面を大いに強化して参るという問題があるのではないか。
最後に、愛知県美津町の農協でありますが、これは非常に特徴のある組合でありますが、本文一頁の所見要約のところを、これを読んで頂くとよくわかりますが、
一、愛知県御津町農協は、東海道線に沿
つた中京地区
経済圏内の一農漁村として、田、畑、山林それぞれ三百町歩前後を擁し、魚介藻類を饒産する渥美湾に臨み、どんな多角経営でも、三毛作さえ可能な温和な気象條件に惠まれた、いわば最良に近い産業、交通、気象立地の上に立
つている。この余りにも恵まれた環境は、この農協をして、一面労せずして流入する多額の組合員貯金の吸收を可能ならしめ、典型的ないわゆる貯金組合型に仕立てる素地を提供している。(二十五年七月末組合員一戸当り平均貯金額は五万円)反面この土地柄から胚胎している町民習性の事なかれ式保守的傾向を如実に反映し、折角の集ま
つた多額な貯金の総合農協的活用面が見送られ、単にこれを殆んど全部的に信連中心の預金(定期預金)運用に廻し、その間の利鞘稼ぎを以て組合運営の鍵とすれば事足りるやの錯覚的運営の弊に陷らしめている。
二、組合
経済事業と町民
経済生活とのつながり面を見よう。組合業務と組合員
経済とは、それぞれ思い思いに離れ離れの
方向を辿
つているきらいがあると断じたら妄断に過ぎるということになろうか。
イ、信用事業面——文字
通り組合事業の大宗というわけであるが、
一、に掲げたように、組合理事者の運営
方針が貯、預金間利鞘稼ぎ中心に堕しているため、折角受信面では殊のほか旺盛な貯蓄心に裏付けされた町民貯金高の七四%に達する巨額なものを吸收しながら、組合員授信額は、微々言うに足りず、(組合員貸出額対貯金額
比率三・五%)他事業への融通資金額、又この組合としては驚くべき低さ(他事業融通資金対貯金額八・二%)で結局、組合員の直接、間接の再生産のためへの協同組合的資金還流の見地は殆んど無視されてしま
つている形。
ロ、購買事業面———生産資材
関係。肥料取扱い面のみ一〇〇%。飼料、農機具その他の生産資材取扱い面は部分的なもののみ。組合員一戸当り年間平均購買高僅かに九千円
程度。生活物資
関係、組合員一戸当り年間平均購買高僅かに三千円
程度。
ハ、販売事業面——
供出主食類のみ一〇〇%取扱。他の特産品蔬菜、繭、乾海苔、牛乳の同町内に同質的共坂団体を結成しているものについては、巧妙に連繋をとり、代金精算貯金振替の形で、実質的共販事務取扱いを行な
つているのが目立つ。その他の
自由販売「いも」類、藁工品、鶏卵の出荷取扱いは未だ少量部分的なもののみ。
二、農村工業(利用加工)事業——組合みずから農村工業と銘うつほどで、組合員自体の利用面はほとんどネグリジプル。專ら
政府委託加工收入面に期待。(オ)農倉事業、——キュアリング倉庫まで加えて三棟の倉庫を備えているが、いずれも專ら
政府指定倉庫としての利用面のみに期待をつないでいるだけ。
三、生産指導事業面。この組合の実力からして、専任指導員二名のお抱えは、さこそと肯かれるものの、従来の実施事業の月並的お座なり振りには失望を禁じ得ないものがある。組合員の畜力、機械力の導入面など
相当水準に達しながら、一面この組合地区では未だに水田用水は天水に依存し、海田残存率二八%、耕地整理事業さえ未着手という驚くべきアジア的農業技術停滞の事実が残存している。信用事業授信面の組合員再生産のためえの積極的
考慮と相待
つて、名実共に備わ
つたこの面の事業の積極的振起こそが、たとえ若干のスペキユレーシヨンの危険を伴
つた多難な道であろうとも、この組合のわけ進むべき協同組合的大道であろう。
四、事業面で預貯金間利鞘かせぎを組合運営の鍵として事なかれ主義、堅実一点張りの運営ぶり、プリヴエイルの当然の反映として、経理面では、資産、角、征、構成面に現われた各財務
比率も、総合損益計算面
結論数字も、言うところなく実に見事なもの。ただ、この見事過ぎる
数字の羅列の裏に、いわゆる貯金組合型に偏し過ぎての受、授信交錯操作面の危険徴表のかくされているのを感ずるのは、ひとりわれわれのみであろうか。又総合農協としての経理面数が、果してこんな事なかれ主義的きれいごとだけで済まされてよいのかどうか、大いに疑問の存するところということになろう。
五、折鶴集ま
つた貯金をば、組合内で有利、着実な再生産事業をさがし、これに資金還流を図ろうとしても、もともと
日本の農業は資本主義的採算に乗り得ないのであるから、この農協のような事例にぶつかるのは、むしろ当り前で、これをどうしようもないではないかとの見方もあろう。この論点を徹底すれば、
日本における協同組合金融系統組織の否定論にまで発展すると思うのであるが、それはさておき、われわれは少くともこの農協の場合、どのような議論の成立つ
程度にまで、問題がまだまだ詰められていない
段階にあるのを感ずる。又組合の理事者自体が、意識的にもせよ、法意識にもせよ、このような見地から事を処理しているのでないことも言うまでもない。要は、何と言
つても信用事業を基底として組立てらるべき総合農協としてのあり方について、この農協は易きにつき過ぎている、いやでも応でももつともつと苦労の途を求めるのでなければ、到底本ものとは言えないというのが、我々の所見
結論である。
これはいささかペダンテイツクに
なつたかも知れませんが、少し高度な要望をして見たわけであります。それがこの組合でございまして、この組合に対して然らばどんなような処方箋が必要であろうかということでございますが、これは八十四頁以下に書いております。やはり結局は信用事業の本質追及、なかんずく授信業務面についてもつと合理化してやる必要があるのではなかろうか、こういうことであります。この点は実は愛知県では
相当なセンセーシヨンを起しまして、愛知県の
経済部が中心になりまして、この報告書を中心にして
只今いろいろ
関係者が集まられて
研究会をしておられると、こういうふうな
状況にまでこれを持
つて行
つておるわけであります。それから一番最後に、九十四頁に皆様にお
考え頂くような問題がこの組合の徴表から出ておる、こういうふうなことでありまして、協同組合金融のあり方、限界の問題或いは農業長期資金の問題なり、又やはりこの組合の場合にも農業土木の問題が出て来ておる。そのほかは全国的に共通の問題、こういうふうなことでございます。要するに県が指定した割合に標準の高い農協を選んで私ども調査いたしておりますので、或いはそんなに御参考にならんかも知れませんが、参考までに申上げました次第であります。