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参考人(岡村武君) 私は
鉄鋼連盟の專務理事の岡村武でございますが、当参議院におかれましてはつとに
鉄鋼業の重要性について御留意を頂きまして格別の御理解と御同情を頂きまして
鉄鋼業の維持発展のためにお力添えを頂きましたことは誠に感謝に堪えん次第であります。のみならず今日は極めて政務御多端のときにもかかわらず、
業界の代表三名お招き頂きまして、私どもの考えの一端をお耳に達する機会を與えて頂きまたことをかさねがさね御芳志に対しまして
業界を代表いたしまして厚く御礼申上げる次第であります。
鉄鋼業につきましてはまあ恒久的な問題も、又当面の問題もいろいろございまするが、それらを一々取上げまして私どもの考えを申述べる機会もございませんので、差当りの、刻下の急務と存ぜられまする
鉄鋼の
原料問題につきまして、すでに
永野社長、西山重役から申上げたのでございますが、重ねて私どもの存じ上げるところを御参考までにお耳にいたしたいと存ずるのでございます。
鉄鋼業は普通鋼ばかりではございませんで、そのほかに特殊鋼もございます。鍛鋼も鑄鋼もございます。或いは又普通鋼、特殊鋼から出発をいたしますいわゆる二次製品、例えば釘、針金、鋼索、五ガロン罐、鶴嘴、ハンマー、或いは高圧容器、針布線、いろいろそういうふうな縁に繋がる二次製品、三次製品の
業界を抱えておるのでございます。又、この
鉄鋼業に
原料を
供給いたしまする
立場の耐火材の
関係業でございますとか、或いは又燃料
関係もございまするし、いわば
鉄鋼の
銑鉄を本流の一番源といたしますれば、その下流に厖大な関連
産業が連なり、互いに連繋をいたしておるのでございます。この本流に注ぎ入りまして本流を培い、沿岸を潤す種がつまり
鉄鋼の諸
原料でございます。若しこの水の手が切れますると、本流は干上り、上流はもとよりのこと、下流もすつかり枯渇いたしますことは見やすき道理でございまして、その結果とまでは申上げられませんけれども、将来において非常な不安を感ずることにつきまして、申上げたいと存ずるものであります。先ほど
通産大臣並びに
鉄鋼局長から誠に行届いた御
説明を頂きまして
業者一同も十分了承いたしたのでございますが、何せ世界の政局の動きは日本全体がと
つてかかりましても自由にならない絶対のものでございまするので、その大きな流れに押流されまするならばこれは如何ように
政府でお考えを願いましても、如何ともしがたい事態が招来されるものでございます。私どもはその点につきまして懸念をいたしておるような次第でございます。特に鉄鍋の重要
原料といたしましては、
石炭、
鉄鉱石、
スクラツプ、液体燃料、こういうものがございます。
石炭は御
承知の
通り国内に四千万トン
程度の
生産がございますが、
鉄鋼業で使いますいわゆる製鉄用のコークスにする粘
結炭は非常にその
生産が乏しく、又品質も良好でないのでございまして、戰前、戰中を通じましてその大量を開らんその他の中国のソースに仰いでおりましたのでございます。その
鉄鉱石も遺憾ながら
国内のものは甚だ貧弱でございまして、これはどう逆立ちをいたしましても
国内で百万トンを掘出すことが精一ぱいでございます。その他は先ほど御
説明のございましたような硫酸澤でございますとか、或いは圧延の際に生ずるスケールでございますとか、いわばこれは食べ物の腹をこわしやすい代用食でございます。そういうものを全部掻き集めまてせいぜい一年の
国内の自給量は百五、六十万トンと存ずるのでありますが、この数量は絶対所要量の三分の一を賄うに過ぎないのでございます。三分の二はこれを
外国から買入れざるを得ないのでございますが、その主な
供給源といたしましては、従来は海南島等もあ
つたのでありますが、
只今のところではこれに殆んど期待が持てないために、フイリピン、マレー、遠くはインド、エジプトからも入れておるような次第でございます。又
スクラツプの点はこれ又非常な不安があるのでございまして、その大
部分は勿論
国内でできまする
スクラツプを
使用いたしますのが筋合いで、又従来それでよか
つたわけでございます。戰争前は非常に
アメリカから安い
スクラツプが殆んど船賃に僅か加えた
程度のもので手に入りましたために、やすきにつくような傾きから、
相当大量の、二、三百万トンの
スクラツプを毎年
アメリカから買入れてお
つたのでございますが、戰争中は
昭和十五年のエンバーゴ以来一切入
つて参りません。爾来日本の中で
スクラツプを全部賄
つて来たのでございますが、昨今の異常な
生産の上昇に伴いまして、これに伴う
スクラツプの
供給の
確保ということは、将来に亘
つて非常な不安を感ぜざるを得ないのでございます。液体燃料に至りましては、
国内の
生産はたかだか一割でございますから、その殆んど全部を
アメリカから
輸入いたしまして、
重油でございますが、これを平炉、加熱炉その他に
使用いたしておるような始末でございます。又その他の
原材料といたしましても、日本で完全にどうやらこうやら賄えると申すのは
鉄鉱石ぐらいのものでございます。そのほかマンガン鉱にいたしましてもこれは到底
国内では自給できない又特殊鋼に欠くべからざるニツケル、コバルト、タングステン、モリブデンパラジウム、こういうものも
国内で全然できないか、或いはほんの僅かしかできないものばかりでございます。これらも
輸入をいたしませんければ、
鉄鋼業といたしましては、首尾一貫した
生産が不可能なのでございます。
従つてかような
原材料の非常な貧弱さから日本
鉄鋼業の脆弱性がしばしば伝為される。二、三年前、つまり
鉄鋼補給金が二千億にも上
つておりました時分には、その故を以て日本
鉄鋼業を抹殺とまでは参りませんけれども、これ以上の
国家的な庇護の下に維持培養する必要はないのじやないかということさえ
産業界の一部から持ち上りましたことは、極めて遺憾と存ずるのであります。申すまでもなく
鉄鋼は、電力、
石炭と共に近代的な
産業国家を支える三つの支柱の
一つでございまして、そのどの
一つが欠けましても、近代
産業国家というものは成立いたさないのでございます。故に、羊毛、綿花のごときは、殆んど
国内の
生産はございませんけれども、全部
輸入でや
つて参
つておる。
鉄鋼業は、甚だ貧弱ではございまするが、若干の
原料の
国内生産もございまするので、
只今申した
国家的な重要性の絶対的な性質から申しましても、何としてもこれを維持発展させなければならないし、又それが私どもの義務であろうと存ずるのでございます。この点に非常に私どもは常日頃から留意をいたしておるのでございまするが、昨今の
情勢からいたしまして、
鉄鉱石、
石炭、そのいずれもが主な
供給源泉を遮断され、或いはそれに近い状態に追込められましたために、代るべきソースを求めざるを得ない。その主な相手が米本国に相成
つておるのでございます。司令部の非常な好意によりまして、終戰直後においても
相当の
輸入をいたしましたが、昨今又その御手配を願いまして、日本に
相当量の
供給ができる状態ではございまするが、遺憾ながら
価格が海上運賃の非常な高騰によりまして非常に高いものに
なつておるのみならず、将来の海上
輸送力の
見通しから申しまして、果して私どもの所期いたしまする鉄、
石炭だけで約七百万トンの
輸入が完全に
確保できるかどうかという点になりますると、海上
輸送力の逼迫の点からいたしまして、危惧の念なきを得ないのでございます。日本の総海上
輸送力、要
輸送力がどのくらいかは存じませんけれども、まあたかだか千七、八百万トンかと存じまするが、そのうち約半ば近いものを
鉄鋼関係だけで占めるのでございます。併しそのほかに三百万トンの食糧もございましようし、百五十万トンの塩も入れなければならない。又
相当の液体燃料の
輸入も必要とする。油脂
原料も入れなければならん。又燐
鉱石も勿論欠くことができないということになりますると、限られた
輸送力では、どうも
鉄鉱石並びに
石炭の所要量の海上
輸送がその点に完全に遂行されるということにつきまして、非常に心配いたさざるを得ないのでございます。かような点から、若し逆に申しまするならば、この
原料確保が内外を通じて完全に期待できまするならば、先ほど御
説明のございました
普通鋼鋼材四百万トンの
生産は、易々たるものと申すわけには参りませんけれども、ほぼ期待し得るものではないかと考えられるのでございます。その他約二十万トンの特殊鋼その他の鑄物に至りまするまで、この
原材料の
確保によりまして、大体その
生産を所期し得るものと、かように確信をいたすのでございます。
従つてこの
生産確保ができるかできないかということは、まあいわば一にかか
つて海上
輸送が円滑に行くかどうかという点に問題は帰着をいたすのでございます。その故にこそ私どもは、海上
輸送力の増強、これを具体的には
国内商船隊の再建、建造の問題もございましようし、或いは
外国船のチヤーダーの問題もあろうかと思いまするが、差当
つての問題といたしましては、いずれの途を選ぶにいたせ、この厖大なる要海上
輸送力を如何にして充足するかということについて、GHQ並びに
政府の万般の御配意を仰ぎたい、かように存ずるのでございます。このことによ
つて四百万トンの
普通鋼鋼材の
生産が完遂をされまするならば、大体
国内の所要量は賄うことができると存ぜられますし、又この厖大なる要
輸入量を賄うに足るだけの
輸入力を造出する
輸出も可能かと存ぜられるのであります。
従つて又このことは、延いては昨今かまびすしく論ぜられておりまする
鉄鋼に関する再統制の要否に関する問題をも雲散霧消せしむるものと、かように考えるのでございます。ほか旨いろいろ問題がございましようが、差当
つて私どもの心配いたしまするのは、二十六年度
生産を可能ならしむる
原材料の
確保如何ということでございます。このことが
業界自体の力では如何ともいたしがたい
輸送力、
船腹の問題にかか
つておりまするので、この際重々御
承知のこととは存じまするが、この点につきまして何分の御配意と御理解を頂戴いたしたく、重ねてお願いを申上げたいと存ずる次第でございます。
爾余の問題につきましては、お尋ねによりまして、この三人から如何ようにもお答え申上げたいと存じます。