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大矢半次郎君 私は税制問題についてお伺いいたしたいのであります。昨年シヤウプ勧告に基きまして、税制の画期的
改正をいたしたのでありますが、その当時におきましても、このシヤウプ勧告の税制
改正案は、世界において最本進歩的なものであるが、果して我が国の実情に適合しておるかどうかということについては、随分各方面に
意見があ
つたのであります。
政府におきましてもこれらの点を斟酌されまして、多少の修正を加えられて、なるべく実情に副うように進められた跡があるのでありますが、併し施行一年にして今から振返
つて見ると、どうしてもやはり根本的に再検討する必要があるのではなかろうかということを私は感じておるのでありまして、この点につきまして大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。問題はいろいろあるのでありますが、最も顯著なものは、法人に対する課税の考え方であります。御
承知の
通り従来日本におきましては、いわゆる大陸方面の思想を取入れまして、法人の独立的の存在を認めて行く、法人において課税し、又株式配当等についても、個人においてこれを総合する建前をと
つていたのでありますが、シヤウプ勧告においてはこれを放擲いたしまして、いわゆる英米の考えを取入れて、二重課税は排除するという建前をと
つておるのであります。併しながら英米におきましても決してこの二重課税は根本的に排除されておりません。英国におきましては、ロイド・ジヨージの内閣におきまして、いわゆるサー・タツクスなるものを設け、それ以来配当課税はノーマル・タツクスにおいては課税しておらんのでありますが、サー・タツクスにおいては課税しておると
承知しております。又アメリカにおきましてももと大体英国の租税制度に倣
つてお
つたのでありますが、その後漸次二重課税の制度をとりまして、今においては完全に二重課税が行われておる
状態でありまして、施行の実際から見ますと、世界を通じて二重課税がむしろ本則にな
つておると見なければならんのであります。併しながらシヤウプ博士の考え方は一種独特でありまして、いわゆる
讓渡所得がこの法人、個人を通ずる課税の中心にな
つておるのでありまして、この
譲渡所得を完全に把握しなければ、直接税の理論付けができない、立派な体系はできないのだ。この
讓渡所得の課税をいい加減にしでおるならば、所得税の累進課税もむしろ放棄して然るべきではないかという
趣旨のことは勧告の各方面に散見しておるのでありまする例えばシヤウプ勧告の序文においては、こう言
つておるのであります。「ここにわれわれが勧告しているのは、租税制度であ
つて、相互に関連のない多くの別箇の措置ではない。一切の重要な勧告事項および細かい勧告事項の多くは、相互に関連をも
つている。もし重要な勧告事項の一部が排除されるとすれば、他の部分は、その結果価値を減じ、場合によ
つては有害のものともなろう。
従つて、われわれは、勧告の一部のみを取入れることに伴う結果については責任を負わない。例えば、われわれは、所得税において法人税との二重課税を避け一同時に常習の脱税を防止するような租税制度を立案した。このような制度のうちでも重要な部分とされているのは、
讓渡所得を全額課税し、
讓渡損失を全額控除することである。もし現在実施されているように
讓渡所得と損失が金額ではなく、何%しか算入されないものとすれば、われわれの勧告による法人税および所得税は大幅な
改正を要するであろう。」こう言
つております。
更に本文に入りまして変動所得の中においては、「個人所得税及び法人税に対するわれわれの勧告は、
讓渡所得の全額課税、
讓渡損失の全額免除ということに基いている。もし
讓渡所得及び損失の全額制が取り入れられないとしたら、われわれは法人税の軽減をはるかに縮少し、法人からうけるあらゆる種類の分配所得に対する所得税の取扱をはるかに峻嚴なものとするように勧告するであろう。この場合には、なお、その他いくつかの制限を行うように勧告することになろうが、
讓渡所得に対する上の改革を行う場合に比して、その制限を行
つてみたところで、はるかに不公平な税制とな
つてしまうのである。
讓渡所得の全額課税、
讓渡損失の全額控除こそはわれわれの勧告の中で最も強調されているところなのである。」こうな
つております。
更に法人税の項におきましては、「この法人税の構成全体は、
讓渡所得が完全に個人に対して課税されるという前提に基礎を置いている点を再強調する必要がある。このことができず、
従つて早かれ遅かれ全所得が、配当されると配当されないとを問わず、個人所得税が課税されない場合には、この
計画全体は、無効となるであろう。もちろん
讓渡所得を個人の課税所得に完全に含ましめることができなければ、多くの点において非理論的でなく、気まぐれでもなく、差別待遇的でもない法人税の
改正案を立案することは殆んど不可能であると思う。」
かくのごとくいたしまして、法人税及び所得税を通じて、
譲渡所得の完全把握一〇〇%課税がこの直接税の最重点にな
つておるのであります。併しながらこの
讓渡所得の完全把握、一〇〇%の課税は到底至難であるということは、私ども長く税の実務に従事したもりは、当初から信じて疑わないところでありまして、施行一年、今日から振返
つて見て、まさにこのことは如実に現わされておるのであります。無記名公債、社債の登録制度は勿論、株式売買の報告のごときも幾ら強調いたしましても、実行できないのが、昨年のシヤウプ博士の第二次の渡来によ
つて明らかにせられておるのであります。従いましてこのシヤウプ税制の直接税に関する基本的な考え方は、日本の実情には差当りどういても適合しないというわけになり、それがどういう結果を生んでおるかと申しますれば、他の所得に比べて、法人税及び株式配当を通ずる所得課税において法人企業が著しく軽減されておるということにな
つております。従いまして、昨年の税制
改正以後、商工業者等のうち大規模、中規模のものが続々として法人にな
つておるのは御
承知の
通りであります。かくのごとくにして、シヤウプ博士が最も力を入れて、租税負担の均衡に重点を置いたものが
現実に即しないことになり、却
つてこれが課税の不公平を招き、中小の商工業者或いは農業者、漁業者というような、零細な個人企業形態のものの負担が著しく過重にな
つておるという結果を招来しておるのでありまして、私は租税制度並びに、これが運営の上からい
つて、これは根本的に再検討する必要があると思うのであります。而も
讓渡所得の課税はアメリカにおいてもシヤウプ博士のような制度はと
つておりません。これはもう主税局長において十分御
承知のはずでありまして、私の申上げるまでもないと思いますがアメリカにおいてもや
つていないような非常に実行の困難なるものを、直接税の中心に置いて、而して今日これが運用が頗る不完全であるというような
状態にある以上は、これはどうしても今後の税制
改正の基本的の大きな問題として再検討する必要があると考えるのでありますが、この点についての
大蔵大臣の御所見を伺いたい。