○
国務大臣(
橋本龍伍君) 私
委員長から
お話のありました
趣旨に関しまして
お答えを申上げまする前に御
挨拶を申上げます。当
委員会も私の
所管事項と
関係がございまするために、成るべく早く御
挨拶を申上げる機会を持ちたいと
思つてお
つたわけでありまするが、私今回
厚生大臣の重任を拝しまして、
不敏浅才の身でございまするが、今日の時局において私のある限りの
誠意を尽して職責を全ういたしたいと
思つておるものでございます。何分にも微力でもございまするし、このむずかしい
事態のもとにおきまして
皆様方の絶大な御支援御鞭撻を心よりお願いを申上げます。
さて本日お呼出しの
趣旨についてでございますが、昨日もお呼びがございましたが、私ども連日徹夜をやりまして少しふらふらいたしましたものですから、昨日休みまして誠に失礼を申上げました。本日幸いに午前三時
解決いたしました全体の
経過について御
報告申上げたいと思います。
今回の
留守家族の
大会の件に関しましてもは、もともとの
議題が
講和條約の問題でありまして、御
承知のように
在外日本人の保護でありまするとか、
捕虜の
送還引揚とい
つたような問題は
外務大臣の
所管事項でありまして、私もよく知りませんし、又
事務当局もそういう点については條約
交渉の内容等存じておるものもないものでありますので、
大会の際に
援護関係の
大臣として私は
挨拶に参りましたけれども、その後の
経緯に関しましては
大会の主題の方面が主として
外交関係でありまして、そういう観点で用があれば出るという態勢でお
つたわけであります。主として
外務省の
草葉政務次官が当
つておられたのであります。そのうちいろいろな
経緯があ
つたようでありまして遂に
断食というようなことになりましたのは、誠に
留守家族の
皆様方のお
気持も非常に尤もな点があり、悩みのあるのは尤もでありまするが、これはもう誠に不幸なことであるので何とかいたしたいと思いまして、問題が私の
所管するところでありませんので、
正面からお目にかか
つても如何なものであろうかと思いまして、先週の土曜日非公式に全協の
代表の
かたがたとお目にかか
つてどうも私も
心配をいたしておる。併し
議題が
議題なんだからあなたが出て来ても用はないのだと言われても、私のほうもこれから先の出端も悪くなるし、あなた方のほうも困るかも知らん。私に何か用があるのならばできるだけのことをしよう。
援護処置についてはできるだけのことを考えたい。私は
問題自体についてはどうい
つて解決をするということもできにくいけれども、條約をどうするこうするということは……。併しあなた方がどうしても
断食をやらざるを得ん
立場に立たされておるならば、この暑い時期でもあるし、何か病人が出たりするといけないから、できるだけの
援護をして差上げましようということで、どうせやる決心をされるのならば土の上で、野天のもとでというのもいかんと思いましたから、東京都のほう、その他に手配をいたしまして、
テントでありまするとか、毛布であるとかというものは、大体私のほうで指図をして用立てるように話しをしました。なお
日本赤十字に連絡いたしまして、医者と
看護婦を始終附けるようにということを言い置いたのであります。その後私は全協の幹部の
かたがたに、何か私に用があるならば出ましよう。併し今日の
段階においちやどうもあなたのほうも
厚生大臣じやしようがないという
段階にあるようだ、
状況が……、ということを一応言うて土曜日に別れてお
つたのです。その後月曜日頃になりましてから、出てくれないか。で私がとにかく
引揚そのものではないけれども、
引揚の
援護についていろいろな密接な関連を持
つておる、
仕事をしておる
厚生大臣であるし、そこで
政府の意を体してまとめに出てくれるならばまとまるからという
意見を述べられるかたもおりましたし、はた又放
つて置くわけにいかない。今日
外務大臣自身が動きにくい
状態においては、私
自身が出るより仕方がないだろうというので、閣議又は
与党の
総務会等でも
お話合をしまして、そこで私初めて
正面に出た次第でございます。何分今回の
大会の問題については、私がここで御
報告申上げる必要もなく、
皆さんももう御
承知だと思いますが、なかなかむずかしい問題で、私も掘り下げてなかなかむずかしい問題であるということを
感じました。そこで條約の
交渉につきましては私も薄す薄す若干のことを存じておりまして、
吉田総理大臣は私が過去数年間の接触の間においても海外に
日本の
捕虜がなお、殊に
軍人軍属でもないような
かたがたまでが抑留されておるということは、常日頃非常な惱みとし、そうして
心配しながら
努力して参
つておるのであります。でソヴイエトロシヤというああいう強大な権力の下にまあ横車を押しておる。
解決の
方法が非常にむずかしいということで、殊に
心配してお
つたのであります。そで昨年の秋以来の條約
交渉の間においても
抑留者の
送還の問題というものは初めから非常に大きなポイントとして
議題に
上つてお
つたもののようであります。そこでいろいろな話し合いのあ
つた末に、どうも
講和條約の
草案の第
一條項に表からは取上げておりませんけれども、何らか別途の方策が講ぜられておるようであります。今日の今回の
抑留者家族のあの問題につきましても、
政府の側では今日の
敗戦下の
政府として、
自分のいろいろなその
交渉経緯とか、その他をそうあらわに発表しにくい
状態にある。それに対して
留守家族の
かたがたは是非こうこうこういう
はつきりした形でやれという問題で、十分な意思の疎通を欠いたようなことが間にあ
つたのではないかということを、私は側面から
感じてお
つたのであります。
でそういう点も
はつきりさして行きたいと考えまして、火曜日に
吉田総理大臣に私は面談をいたしましたが、私の考えた
通りで大体問題は、(「もう少し高い声で」と呼ぶ者あり)問題は
講和條約の
交渉の
過程においてむしろ重大な大きな項目として前々から論ぜられてお
つたもののようであります。
総理に話したときに、私に対しましても、もう君の知
つておる
通り、
抑留者の
送還の問題についてはまあ実に
苦心を払
つて来て、実にいたましい問題であるだけにこの問題に触れるだけで、その日
一目胸がつぶれて気がふさがるくらいでや
つて来た。で條約
交渉の
過程でもいろいろ
苦心をや
つて来たんだし、今もや
つておるのだということを言われました。そこで
総理の
気持を私が要旨を書取りまして、これを伝えてくれということで、
総理の
メッセージを頂きました。
なお又
留守家族の
団体のほうからは、
講和條約の
草案に対する異議と申しますか、
要望と申しまするか、そういう
質問書のようなものが出ておりましたが、この
質問書に対する
回答としては、
日本政府としてなし得る最大限の範囲での
回答を
外務省の
事務当局、それから
吉田総理も
十分検討の上
練つて、そうして然るべき
連絡方法をと
つた上で、これは
草葉政務次官、
吉田総理兼外相の命令を受けたという形式にして出したのであります。そこで火曜日の日の夜帰
つて参りまして、午後の十一時から午前二時くらいまでお目にかかりました。そうして
総理の意のあるところを伝え、それから且つ條約
交渉の
過程においてずつと問題にして続けて参
つている、そうしてこれに対しては何らかの適当な措置がとられつつあるということを
お話申上げたのであります。
草葉政務次官は
回答書の朗読をされて、それに
説明もされました。そうしたところが、しばらく
引下つて相談をするということでありまして、水曜日の午前になりまして向うは出て来られて、一応はこういう
お話でありました。どうも必ずしもこの
回答だけでは
自分らの
気持は
はつきり、ぴ
つたり来ないけれども、併しいろいろな
事情もあるのだろうから、こつ
ちの要望はこつ
ちの要望で言う、それを
はつきり聞いて善処してもらいたいということで、私もよろしいそうしましようということでおまとめ願う方向に
なつたものと思
つた。ところがその日の午後にな
つて、一向問題が
解決いたしませんでした。
主眼点はやはり
ポツダム宣言の第九項
米英ソ支四カ国は
日本の
捕虜を速かに
送還するのだと書いてあるのは、これは
アメリカなり
イギリスなりがそれぞれの国の中にある
捕虜を還えしさえすればいいという意味でないのだ、これは全体に
法律的連帯責任を負
つておるのであ
つて、
アメリカ及び
イギリスは今日なお
ソ連及び
中国に
捕虜が残
つている、これを早く還えさなければならないということについて法的な
連帯責任があるという
法律的見解を
日本政府は表明をして、それを明らかにするような
條項を條約の
草案の中に入れて欲しい、入れられないならば、そういう
趣旨の何か條約
関係の文書を作成してほしいということでありました。
それから第二点は、
草案の十六條の文句は、これは何も
ソ連乃至
中国と将来條約を結ぶ際において、
捕虜の
送還に関する
特別規定を設けるのを妨げる
趣旨でないという
説明であるけれども、まあひよつとしたら
心配がある。
捕虜の
送還に関する
規定を入れて差支えないという追
つて書をつけてくれ、こういう
お話でありましたのです。殊に第一点の問題は大変デリケートでありまして、それがなにしろ
日本だけではできるものではありません。いろいろデリケートな問題がありますので、これが
自分の満足の行くようにされないと
断食をやめないというふうなことは、これはなかなか大変なことであると
思つて苦心をいたしました。あらわにいろいろな
経緯の
説明等できないのは残念でありますが、種々
苦心して
抑留者家族の
団体の
かたがたに御
理解を願う
努力を続けましたところが、幸いにして我々の
誠意が通じまして、本日午前三時に
断食をやめるということにな
つたのは誠に御同慶の至りであります。
最後の結論をかいつまんで申上げればこういうことであります。
捕虜の
送還の問題に関しましては、従来もあたう限りの
最善の
方法でここに痛ましい問題の解消を図るために
努力を続けて参りましたし、今日もなお
努力を続けておるのですが、その
誠意を
抑留者家族の
皆さんに
理解をして頂いて、そうして今後なお
抑留者家族の
かたがたが最も希望される線にできるだけ近い線になるように更に
努力を続けるという話をいたしまして、これを
お互いに了解し合うことにいたしたのであります。
私は
最後に今暁あの
断食隊の
皆さんのおられるところでこういう話を申上げたのであります。今日、九月上旬に
講和会議を控えまして、何となく少くともあの條約
草案ならばもうすぐまとま
つて、批准もすぐできそうな空気にな
つておりまするし、そしてあの條約
草案よりもつといいものができそうなものではないかというふうな
感じすら
日本国内にはないと限らないようでありまするが、実際の
世界の
情勢を見ましたときに、今日なお
招請状を発せられた国の中で参加しないのではないかと思われている国もあり、又参加はするけれども、あの
講和條約
草案には反対であるという意向を
はつきりと表明しておる有力な国々がある。こうい
つたような
状態におきましては、
日本政府が非常に
日本の
立場を力強くいろいろな面で工作はして参りましたけれども、
諸般の従来の
経緯なり、又先に対する準備なんというものについてあらわに発表のできない
立場にあるということが誠に残念であるが、これを御
理解願わなければならないということと、それから今日なおあの
講和條約の
草案すらなかなか以て
連合各国の間には論議があ
つて、
日本のなかなか注文というものがどういうふうな影響を持つかということについても余程考えなければならん
立場にある。そういう
苦心の間におきながら、我々が
日本の
国民の将来というものを護り、そうして当面の問題であるところの
抑留者の
方々に
最善の方途を講ずるためには、まあ
政府も
誠意を以て
努力をすると同時に、やはり
政府と
国民との間に、
お互いに力強い
理解が必要なんだということを、この問題の
解決の
過程にしみじみと痛感をしたということを私は私の心からの
言葉として
お話を申上げた次第であります。私から申すのも口は
ばつたい話でありまするが、私の申上げたことを十分に
理解して頂けたと私は
確信をいたしております。その後
大分断食をせられた
方々の中に、身体の弱
つておられる
方々もありますので、別途直ちに
日本赤十字に粥その他の
用意をいたさせて置きましたのをその場で差上げました。その
用意の乗物で
日本赤十字社のほうに引取
つておるのであります。今朝方
見舞をいたして置きましたが、
格別心配なこともないようでありました。無事にお引取りを願うことができそうなのを私非常に喜んでおります。今日までの
経過はさような
状況にあります。これだけを御
報告申上げて置きます。