○
棚橋小虎君
公団等の
経理に関する小
委員会は数十回の会議を重ねまして、十数人の
証人を呼び、なおいろいろの証拠を検收いたしまして、一応の結論に到達した次第であります。その結論はつづめて申せば極めて簡單でありますが、第一番は、
法務総裁大橋武夫氏に対する
偽証の件であります。それから
一つは、この
事件の発端とな
つておりまするところの
特調並びに
足利板金工業株式会社、それからしてその中間に立
つて検収を委託されておりました
太平商事会社、この三つの人々の間に
検収調書というものを作りまして、これによ
つてこの金を
過払いを受けたのでありますが、この
検収調書の作成について、そこに詐欺の事実が存在しておるということであります。
この
大橋武夫氏に対する
偽証の件は二つあるのでありまして、その
一つは、
特別調達庁に対して過払金の
弁償金として支払うために、
足利工業株式会社の
所有の
自動車を提供いたしまして、その
自動車を換価して、
調達庁に入金することにな
つたのであります。ところがこれに対して
大橋武夫氏は、この
委員会における
証一員において、子れは
高橋正吉という者の
所有の
自動宙であ
つて、
高橋正吉からこれを成るべぐ高価に売却してくれるように依頼夕受けたものであるという
証言をいたしておるのでありまして、これはその
所有者並びに依頼じたところの人が明らかに事実に反しておるわけであります。これが
大橋氏に対する
偽証の第一点であります。それからその次には、かようにして売却いたしましたところの
自動車の金を直ちに
特別調達庁に入金すべきであるにもかかわらず、それを入金せずに、
高橋正吉という者の名前で
銀行預金にして預け入れをして置きまして、
大橋氏の監督の下に山下という者がこれを出入れいたしておりました。この山下という者は
大橋氏の
特別親交のある
自動車屋でありまして。それがその金を
営業費命に流用いたしておりまして、約百三十万円ほどの金を一昨年の夏頃までに殆んど全部費消いたしまして、残
つておるものは僅かに四千円余りしか残
つておらないのでありますが、この
売却代金を直ちに
特別調達庁のほうへ入金しなんで、それを
営業資金に当てていろいろ流用してお
つたということは、これは
大橋氏の
証言によりますというと、
足利工業の社長である
田中平吉並びに
特別調達庁の
川田次長並びに
三浦監事の承認を経てや
つたことであると、こういうふうに申しておるのであります。けれども、これは明らかに事実に相違しておりまして、さような承認を與えたことはないということを、
川田次長も、
三浦監事も、それから
板金工業の
田中広ひとしく申しておるところでありまして、この点において明らかに
偽証の事実があるものと考えるわけであります。こういう事実がありますので、
委員会におきましては、
大橋武夫氏を
僞証によ
つて告発すべきであるという
意見が述べられたわけであります。
それから第二の点は、
先ほども申しましたように、この
検収調書を作成する上において、
特別調達庁の役人と、それから
足利工業の
専務高橋という者と、それからその間に立
つて検収の
事務を嘱託されておりました太平工業の藤原という社員でありますが、この三人において
検収調書を勝手に作りまして、そうしてこれによ
つて過払いの件をきめたということにな
つておるのでありまして、この三人のうち果して誰が
首藤者であり、誰がそれに通謀してや
つたのであるかということは、当
委員会の取綱べによりましては、明瞭なことはわか
つておりません。けれども、この三人の間において誰かがその
検収調書をいい加減に作成して、それによ
つて命を
受取つたということは事実であるのでありまして、この先の事実が存在するということは、これは間違いのない点であると思うのであります。そこで問題は
大橋武夫氏に対する
僞証の件の
告発と、それからして
一つはこの
特別調達庁に対して、
只今の先の点に対して適当な処置をとるようにという勧告をすべきであるということが本
委員会で提案されたのでありました。この案に対しまして、各
委員の
意見として述べられましたことは、
緑風会の
かたがたは、その
偽証の点については、まだもつと
証人を調べて、そうしてもう少し精細な確証を掴まなければ、今日この段階では
僞証とするということは少し尚早であるだろう、こういう御
意見でありました。自由党の
委員のかたは、
僞証の
告発に対しては反対であるという御
意見がありました。それから社会党の
かたがたは、この
証人をなお一層これ以上調べたところで、いろいろ打合せをしたりして、到底的確な証拠を掴み得ることはできないであろう、なお我々は
検察庁の役人ではないのでありましてそこに
僞証の事実或いは
犯罪の事実が存在するという
容疑が濃厚にあるならば、詳しいことは
検察庁当局の取調べに
譲つて、かかる
犯罪の
容疑があるという点で
告発をして差支えないものであろうから、その段階において
告発をすべきである。こういう御
意見がありました。大体それらが主な御
意見でありますが、結局
委員会におきましては、
採決をいたしまして、この二つの問題について本
委員会に御
報告をして、本
委員会の御
決定に待つという
採決に
至つたのであります。
なおこの
犯罪の
容疑につきましては、
只今概略申上げましたが、詳細なことはもう少し詳しくここに調べたのがあるのでございますからして、これを御
報告申上げたいと思うのであります。第一は、
事件の概要でありますが、その点から申上げます。
戰災復興院は
昭和二十一年九月二十日
付LD35による二重煙突二十五万フィートの
調達要求に応ずるため、
昭和二十一年十二月九日
付復特設契六三Dを以て
足利板金工業組合に対し、これを発註した。而して
昭和二十二年九月一日、
特別調達庁の発足によ
つて同契約も同庁に移管されることと
なつた。他面
足利工業組合は
田中平吉及び
高橋正吉の
組合組織による
共同事業であ
つたのが、その後
足利板金工業所と名称を改め、次いで
株式会社組織に改め、
足利工業株式会社とな
つて、引続き同契約を承続して、
右煙突の
生産納入に当
つて来たのである。併し企業の実体は終始田中及び
高橋両名の
個人経営にひとしく、
経理面においても会社と個人との区別は殆んどなされていなか
つたのである。然るに
昭和二十三年七月九日
付LD80によ
つて、前記LD35の二重煙突調達契約が解約せられるに
至つたのである。併し業者の資材手当及び加工が相当進捗しているものについては、打切り困難であるため、第八軍担当官の口頭による指示を受けて生産を続行することと
なつたが、正式の公文書未着のため、これが代金の支払いは一応有効なLD57を根拠として行うことと
なつた。かくて
昭和二十三年十二月初句頃、
足利工業の申出に基き、最後の納入分たる二重煙突五万フイートを納入代行業者太平商工株式会社職員藤原英三が
検収をなし、同会社常務取締役にして、
特別調達庁庁検收員たる山口総男名義で、納期たる同年九月三十日付の
検収調書を作成した。
足利工業は同
調書に基き、同年十二月十四日付で、これが代金四千百七万六千八百五十円の支払請求書を
特別調達庁に提出したので、同庁では同月二十八日、右金額を
足利工業宛支払
つた。ところが翌
昭和二十四年一月二十九日、
特別調達庁促進局生産促進部技官石井英夫が同庁中村副総裁の命によ
つて、上記現品の実地調査を行
なつた結果、右検收
調書記載の
検収数量五万フィートに対し、その実数は一万七千九百八フィートのみで、三万二千九十二フイートの不足あることが判明した。
従つて足利工業へ支払
つた前記代金四千百七万六千八百五十月中、金二千二百三十七万六千九百六十七円十六銭が
過払いな
つている結果とな
つたのである。そこで
特別調達庁はこれが回収の措置を講ずることとなり、紆余曲折を経た結果、
昭和二十四年四月十六日より翌二十五年二月九日までの間、十一回に金六百三十六万二千七百八十二円二十四銭を回收し、
昭和二十五年十月二十日付、起訴前の即決和解によ
つて、
昭和二十八年十二月までに残額一千六百一万四千百八十四円の返納を受けることとなり、当時の
足利工業の社長たる
田中平吉及び専務取締役たりし
高橋正吉も連帯保証をしたのである。その間
昭和二十四年二月下旬、同庁は田中及び
高橋と折衝し、両名の個人名義資産をも提供させることとして、その計画を記載した誓約書を両名から徴した。そのうち
高橋名義の分として1、東武鉄道株式会社株券三万五千株、2、自家用
自動車一台(価格百万円)、3、住宅芝浦足利寮一棟(価格百万円)、4、尾張町ビル七階
事務室賃借権が挙げられている。この価格合日計が当時金五百万円と推定せられており、結果から客観的に見ても大体そのくらいであ
つた。株券は金百六十万円、
自動車は金百三十三万円で売却されたのである。ところがそのうち実際に
特別調達庁へ支払われたのは金三十万円に過ぎない。約十分の一である。株券と
自動車だけについて見ても、結局当初の誓約と計画に反して、約金二百七十万円というものが現在に至るも
特別調達庁に支払われていない。それは如何なる理由に基くものであろうか。これが本調査の目的たる疑問点の
一つである。ところで現法務総裁であり、当時は戦災復興院次長を辞し、弁護士をしていた
証人大橋武夫が、本件一重煙突代金の
過払いから回收折衝に至る間に種々なる関係を有していたのである。
大橋氏は
昭和二十二年秋、戦災復興院次長をやめて弁護士となり、
昭和二十三年四月頃より約一年間
足利工業の顧問をしていた。その間、
昭和二十三年十一、二月頃、
足利工業の
高橋正吉の依頼によ
つて、本件で問題と
なつた二重煙突代金の支払促進かたにつき、
特別調達庁へ交渉に行
つたことがある。その後該代金中に前記のごとき過払金のあることが判明した後、
大橋氏は
特別調達庁監事三浦義男に依頼され、これが回收に関し、
特別調達庁と田中及び
高橋との間に立ち種々盡力して来たのである。而も前記
自動車に関しては、
大橋氏が山下茂に命じて売却し、その
売却代金を
高橋正吉名義で株式会社三和銀行日比谷支店に預金し、その出入れに関しては
大橋氏が権限を持ち現在に至
つておるのである。
高橋正吉の
証言によれば前記東武鉄道の株券
売却代金の内金土十万円も
大橋氏に預けてあるという。してみると、前記のごとく株券及び
自動車の
売却代金の内金六十万円が、
特別調達庁へ支払われただけで、残額約金二百四十万円について未だに
特別調達庁へ支払われていない事情に関しては、
大橋氏に至大な関係あるものといわねばならない。そこで、
大橋氏を
証人として喚問し、その理由について
証言を求めたのである。この
証言中に真実に反することを知りながら虚偽の事実を述べているものと認められるものがある。以下、この点を中心として詳細に
説明しよう。
第二
偽証容疑ある
大橋証言の
内容
一、
証人大橋武天は、
昭和二十五年十二月六日
開会された参議院
決算委員会、
公団等の
経理に関する小
委員会における
特別会計、
政府関係機関及び終戦処
理費の
経理に関する調査の件(
昭和三十三年度
会計検査院
決算検査報告批難事項第三百二十九号
足利工業株式会社に対する二重煙突代金支払い、並びにそれに関連する事項の件)の関する
証人として宣誓の上
証言をした。
二、その
証言中前記
高橋名義の自家用
自動車(一九四〇年型モーリス)に関し、次のごとく
証言しているのである。即ち右の
証言を要約すれば、
1、本件
自動車は
高橋正吉の個人財産で、
高橋正吉個人から売却方を依頼せられたものである。
2、
証人大橋はこの依頼に基き、山下茂なる者を紹介して、山下がこれを売却した。
3、
売却代金は金百万円ぐらいである。
4、
売却代金は将来
特別調達庁へ支払うべきものであるが、それまでは
高橋個人の財産である。
5、
売却代金に関しては、
高橋正吉名義で
銀行預金とし、
証人大橋の監督の下に山下茂が管理しているのであ
つて、入金は山下が自由にできるが、出金は
証人大橋の指示を要する。
6、かかる管理の目的は、一面
高橋が勝手にこの金を処分することを制限すると共に、他面即時に特調へ支払うことなく一定期間金を有効に利用して利益を上げることにある。更に詳しくいえば、
高橋が田中より先に自己の個人財産によ
つて過払金返還の責に任ずることを澁
つたので、即時に
特別調達庁へ支払うことを櫓予する代り、将来確実に
特別調達庁へ支払い得る手段として
高橋の財産ではあるが、現実にこれを管理することを制限し、他面その間にその金を利用して
高橋の生活を考えてやると共に、
特別調達庁へもより多く支払い得るよう利殖することにある。
7、以上の如き事柄については、
高橋の他、
田中平吉、
特別調達庁の監事たる三浦義男、同庁
経理部次長たる川田三郎に相談し、その同意を得ている。
8、この管理は現在まで継航している、との八点にあること明らかである。
三、併しながらその他の
証人の
証言及び証拠物件とを照し合わせて考えて見ると、右の
証言中、1、の
高橋個人から本件
自動車の売却方を依頼せられたとの点及び7、の右
売却代金の管理
方法に関し、出中平吉、三浦義男、川田三郎の三名の同意を得ているという点は、真実ではないと認められる。而も
大橋証人が、記憶違いでかかる
証言をしなものとは到底認められない。これらの理由について、順次
説明しよう。
第三
僞証容疑の理由
一、本件
自動車の
所有者及び売却依頼者は誰か。
1、本件
自動車は形式上
高橋正吉の個人
所有者我にな
つているが、実質上の
所有権者は
足利工業株式会社である。田中
証言では「本件
自動車は会社財産で会社のものとして買い、会社帳簿にも記載ざれでいる(第九
国会小
委員会会議録一号二十二頁)。
従つて昭和二十四年二月二十三日附け覚書によ
つて高橋が会社へ提供したのだ」(同二十三頁)という。当時
足利工業東京
事務所総務課長であ
つた証人高橋正雄は、それは「間違いもなく会社の
所有物件であり、財産表にもたびたびの
決算表にも記載してあるので処理もそのようにしている(第十
国会会議録三号三頁)」述べている。
高橋正吉も、それば「会社の金で買
つたものであるから会社のものと考えていた、」と述べながら「この
事件が起きてから私のものということに話合いをした(第九
国会会議録二号一五頁)」と弁解しているが、本件が起きて後作成した
昭和二十四年二月二十三日附の覚書によれば「
高橋正吉は会社に対し、モリス自家用
自動車一台の
所有権を現実に無償にて提供し、
田中平吉の会社のためにする処分に一件する」に明記されており、他に
高橋証言のごとく本件後に
高橋個人
所有に話合
つたという証拠はないので、
高橋の右弁明は到底信用できない。殊に本件の過払金返還問題が生じ、
高橋正吉が
特別調達庁から支払いを受けた金品中、相当巨額のものを費消していることが判明し、田中社長との間に本件処理に関して種々な争いがあ
つたのであるから、明らかに会社
所有財産であるものを
高橋の個人財産にするという話合いに田中社長初め会社関係者が応ずるというがごときは、到底常識上考えられない。
従つて自動車の実質上の
所有権は終始会社にあ
つたと断定せざるを得ないであろう。ところが形式上は
高橋個人名義にな
つているので、右の関係を明らかにすると共に、
高橋に任せておいては勝手に処分してしま
つて特別調達庁への支払いに充てないと困るという見地から、前記覚書に本件
自動車を会社に提供して、
田中平吉が会社のために処分するという條項を入れたものと推論しなければ、この覚書を作成した理由がないわけである。
田中平吉も同じ
趣旨のことを述べているわけである。而も
証人大橋はこの覚書に立会人として
署名し、その
内容も知
つているので、本件
自動車が会社
所有であることを知らない筈はない。更にこれは本件
自動車の売却依頼者は誰かということも関連してくるから、続いてその点に触れよう。
2、本件
自動車の売却方を
大橋に依頼したのは誰であろうか。それは
足利工業株式会社の代表取締役社長としての
田中平吉であると認めるべきである。
証人大橋が本件
自動車の売却を依頼せられ、これを
受取つたときに差出した預り証には次のごとく記載されている。即ち「モーリス
自動車一台見積価格百万円処分方小生において引受け御依頼申上候、衆議院議員
大橋武夫——
昭和二十四年六月一日、田中様」とある。この文言は明らかに売却方を依頼した相手方が田中であることを示している。依頼は
高橋であり、
自動車授受の相手方のみが田中であると解釈する余地はない。
証人田中は「前記覚書に基き
高橋から
自動車のナンバーの引渡を受け、これを
大橋の使いの者に渡したのだから、私から
大橋に
自動車を渡したのである(第九
国会会議録一号二十三頁)」といい、
証人高橋政雄も「
大橋が自分が有利に売
つてやろうというので、
田中平吉が
大橋に車輌証を渡したもので、田中が
大橋に売却方を依頼したものである(第十
国会会議録三号三、四頁)」といい、
証人羽鳥元章も「田中社長が
大橋に預けたものである(同七頁)」と
証言しているのである。前段摘記の覚書文面からしても、田中社長に本件
自動車の処分権があり、
高橋にないのであるし、その
所有者は前段
説明のごとく実質上会社であり、而も右覚書によ
つて会社の代表権は田中に一任され
高橋が代表することは禁ぜられているのである。その
意味からも本件
自動車の売却依頼者は会社代表者としての田中社長であるといわねばならない。勿論
高橋及び山下
証言にあるがごとく、当時現実に
自動車を
使用していたのは
高橋正吉であろうから、車体の現実の引渡しは
高橋正吉からなされたのかも知れない。然し右のごとく田中に管理権が移
つていたのでその処分に必要な車輌証は田中に渡されていた。それで田中から
大橋にその車輌証が引渡された。さればこそ
大橋は田中宛の預り証を出したのであ
つて、
高橋には預り征を出していないのである。若し
高橋から依頼を受けたものならば、
高橋宛の預り証がないはずがないであろう。「車体の引渡しを受け、依頼を受けた人に預り証を出さないで、車輌証だけを引渡してくれた人に預り証を出すわけはないからである。」更に三浦
証人は「会社が
自動車を持
つていたのでこれを売
つて出せということに
なつたが、その
自動車は
高橋名義であ
つた(第十
国会会議録一号一四頁)。私としては田中、
高橋は一体であると考えていた(同一六頁)」といい、
自動車の実質上の
所有者は会社であるから会社がこれを処分するのであ
つて、その実行者が田中であろうと
高橋であろうと同じように考えていたという
趣旨のことを述べ、川田三郎の
証言も任意供述と相待
つて、同
趣旨のことを述べている。それは本件
自動車が
高橋の個人
所有であるとか
高橋個人が処分権を持
つているということを否定しているものと解さねばならない。僅かに
高橋正吉と山下茂が
大橋証言と吻合する供述をしているが、前別段経過に照して、これらの
証言には合理性なく、到底信用できない。殊に後に述べるごとく
自動車売却代金の管理や利殖がこれらの
証人によ
つて不法になされているのである。そこで彼等としてはこの行為を正当ずけるため、本件
自動車自体が
高橋個人
所有であり、
高橋個人が
大橋に売却方を依頼したのであるという架空の事実を作り上げたものと想像される。かかる前提に立たねば彼等の行為を正当化する理窟がないからである。
二、
自動車売却代金の管理
方法に関し、
大橋武夫は
田中平吉、三浦義男及び川田三郎に相談した結果、これを即時に
特別調達庁へ支払わないで、或る程度の期間
大橋の監督下に
高橋名義で管理するということの同意を得たのであろうか。
1、かような話合いが出て来る筋道として
大橋証言は次のごとく
説明しているのである。田中及び
高橋の個人名義にな
つている財産をも特調への支払いに提供するとい
つても、返済計画によ
つて現実に提供するのは
高橋名義のものばかりだ。
高橋は自分のものだけ出しても後にな
つてから田中が
高橋と同じように出すか出さぬかわからない。出さねば自分が先に出しただけ損だ。そうい
つた考えから
高橋が個人名義の財産を提供するという返済履行を澁
つた。それも
高橋としては無理もない話だ。だからとい
つてその計画中にある本件
自動車をそのまま
高橋に任せておくことは計画に反するので一応提供させて売却した上、その
売却代金をすぐには特調へ支払わないで
高橋に管理させておこう。併しこれも全く
高橋の勝手に任せておくと
高橋がその金を使
つてしま
つて特調へ入らなくなるといけない。そこでそんな結果の起きないように、
高橋名義の預金にしてその出入については
大橋が監督する。併しかかる提案は、本件
自動車が純粋に
高橋の個人財産であることを前提としての話である。形式上
高橋個人名義であ
つても、実質上会社財産であるならば、田中が先に出さぬから損だとか得だとかいう問題が生じて来る余地がない。形式上の名義が、田中であろうと
高橋であろうと、実質上会社財産である以上、当然支払いに充てるべきで、その名義のいずれを先にするかによ
つて損益があるべきはずがないからである。形式上の名義が
高橋のものだから、実質上もそうだと主張してこれを隠匿しようとか、ごまかそうというのならば別である。然るに既に詳述せるごとく、本件
自動車は実質上正しく会社の
所有なのである。そしてそれを返済計画に組入れて誓約書として特調に差出しておるのである。田中との間では、
高橋は本件
自動車が会社のものであるということを認める
趣旨において、無償で会社へ提供し、田中の処分に一任してあるのである。その上で田中が
大橋に対し有利に売却方を依頼しているのである。田中は更に「
高橋は特調から
受取つた煙突代金の内金二千七百万円くらいを東京で勝手に使
つている。
高橋に個人財産があるとすれば、それはすべて会社の
所有であるべきこれらの金でできたものだ(第九
国会会議録一号二十一頁)」と述べている。
高橋もこの額は認めているが、自分が個人的に使
つたのは金三百万円くらいだ(同二号十二頁)併し田中も会社の金を私に使
つたり、隠匿したりしていると述べている。過払金返済のため個人名義の財産を提供する段階にな
つて、かように両名間に争いが生じていたわけで、そのために前記のごとき覚書が作られたのである。このようないきさつの下で田中が本件
自動車を改めて
高橋個人の
所有に認めてやるとか、
高橋の個人
所有を前提としなければ理解できないような
大橋の提案に同意するわけがない。田中の
証言も
大橋のかかる提案に同意したことは認めていない。
証言全体の
趣旨及び任意供述においては明らかに否定している。
高橋政雄及び羽島元章の両
証人も單に
大橋が有利に売却してやるというので依頼したとい
つており、田中と
高橋との間にかような争いがあ
つて高橋が
自動車を提供しないために、
大橋がかかる提案をしたというような事実は全く窺うことができない。
三浦義男及び川田三郎の
証言も前記のごとく本件
自動車は会社のもので形式上
高橋名義とな
つていたに過ぎず、而も田中と
高橋とは同じく会社の代表者で一体のりものだと考えていたという
趣旨である。東武鉄道の株券についてもそうである。計画書によれば
高橋の個人名義であるが、それが実質的には会社のものであるから会社代表者田中からそれを預
つた。そして田中宛に預り証を出した。然るに
高橋が取りに来たので、同じ会社の代表者だからと思
つて渡したという。本件
自動車に関しても三浦や川田がこれを現実に預らなか
つたというだけのことで、そうした考え方は全く同じようである。
大橋証言に言うが如き、
高橋の個人財産であることを前提とする
高橋の言う不満を耳にしたという点は、三浦及び川田
証言中には全く感知できないのである。
大橋が真実、
高橋からのかかる不満を理由として
自動車の処分
方法や、その金の管理
方法を両名に相談し、同意を得たのならば、両名が
自動車は会社のものだとか、田中と
高橋とは一体だとか言う筈がないのである。
(2)のみならず本件
自動車の
売却代金は確実に特調へ納めるのであるが、それでは田中が自分の財産を出すかどうか分らないから、名義だけは
高橋にして、その出入は
大橋が監督するという。それは田中に個人財産を早く出させて、両者の負担部分の均衡をとるためということになろうが、一旦金に変えてしま
つて、かかる目的で
大橋の監督下にある以上、大して田中に対する掣肘たる意義はないものと言えよう。けだし
高橋名義の財産はすでに
大橋の監督下でいつでも特調へ支払い得る状況におかれているのだから、田中としては自分の財産の提供を、そのため急がねばならないということにはならない。
そこで
大橋はその金を有効に利用して、
高橋の生活も考えてやらねばならないし、その利益によ
つて一刻も早く全額の返済ができるようにせねばならない。それで
大橋の監督下に山下に管理をさせて利殖の途を講ずることにし、関係者の同意を得たということをも附加しているのである。だが、
特別調達庁の三浦義男と川田三郎はかかる考えを持
つたことも、
大橋からのかかる提案があ
つたことも共に否定している、川田
証言及び任意供述は
自動車の売却を
大橋に頼んだということは
あとにな
つて聞いたことであ
つて、それじや
大橋に頼んで直ぐ払込んでもらいたいということで、初めて
大橋とそのことで折衝するに至
つた(第十
国会会議録一号九頁)。ところが、
大橋は実はあの
自動車を売
つた金で別の
自動車を買
つたので諒承して欲しいというので、自分としても、すでに売
つてしま
つたものはしかたがないと思い、それではその
自動車を早く売
つて金を払い込んで欲しいと請求したのであるという。三浦
証言も同じく「
高橋名義の
自動車が
大橋のところへ行
つているということを聞いて、当時
大橋と
高橋とは師弟みたいな関係であ
つたので、
大橋に、それでは早く
高橋に売らせてそれを特調に入れてくれと頼んだのである」(同上十四頁)と述べている。
田中平吉は前敍のごとき事情から、かかることに同意する筈のないことは明らかであり、任意供述の際にも強く否定している。
(3)以上のごとく、本件
自動車の
売却代金を即時に
特別調達庁へ支払わないで、
大橋の監督下に管理するということに関しては、田中社長を始め、
特別調達庁の三浦も川田も相談も受けていなければ、同意もしていないのである。する筈もないのである。つこの点に関し、
大橋に記憶違いや誤解のあるわけがない。虚僞を承知の上でかかる
証言をしているものと推認せざるを得ない。
三、然らば、
証人大橋武夫はなぜかかる
僞証をする必要があ
つたのであろうか。
(1)それはほかでもない。
高橋名義の
自動車売却代金を
大橋監督の下に山下に利殖させているうちに、それが焦付いてしま
つて今、即時に
特別調達庁へ返済するだけ残
つていない。
大橋証言は現在もありますと述べているが、三和銀行日比谷支店の預金台帳によれば、現在僅かに約四千円余りしか残高のないことは明らかである。その利殖は明らかに失敗に
終つているわけである。この失敗の責任を軽減せんがためには当初よりこの
自動車売却代金の運用に関し利害関係者全員の同意を得ていたというに如くはない。関係者と相談し、その同意を得て運用していたのであ
つて独断でや
つたのではない。金の運用にはときとして損を生ずるのは当然である。それ故かような結果は同意した関係者も当然予想すべきものであ
つて直接の監督者たる自分一人の責任ではないこう持
つて行きたいのであろう。併し
大橋は当初から事情を知
つている関係から、田中と
高橋が仲の悪いことも前記覚書のあることも承知している。田中がこの金をさような形で運用することに同意しないことも推察できる。それ故、
自動車の売却を田中個人、又は会社代表者たる田中から依頼されたことにしては、依頼者たる田中がその
売却代金の運用方に同意したことを否定するに違いない。それで依頼者は当時
大橋と非常に親しか
つた高橋だということにした。そして他面、会社の
自動車であ
つてみれば覚書の関係から
高橋に依頼されるというのもおかしいし、その
売却代金を自由に運用する同意を得たいということも成立ちがたい。かくて自動重は
高橋個人の
所有である。かように帰納されて
大橋証言ができ上
つたものであろうと推測されるのである。
従つて、ことの真相は前述のごとく
大橋が会社代表者たる田中から会社
所有自動車をできる限り高く売却し、その金はすぐ
特別調達庁へ支払
つてくれという依頼を受けたのであろう。ところが親しい仲であり、顧問料名義やら選挙の陣中見舞名義やらで金五、六十万円の金をもら
つている
高橋正吉から、あの
自動車は自分の個人名義のものだ、田中だ
つて会社の利益で個人名義の財産を
作つていながらこれを出さないのに自分だけ出すのはばかばかしい。売
つた金は
大橋に預けるから自分が
事業をやるときとか、生活費に困
つたときは何とかして貰いたいと頼まれたのではなかろうか。その結果
大橋はこの
売却代金を自己の監督の下に山下に管理させていたがうまく行かなか
つた。これが真相ではないかと考えられる。そのため
大橋証言、
高橋正吉証言及び山下
証言の三者間に相当大きな食違いがある。それは單に記憶違いとか、誤解とかから生れたものとは考えられないものであめる。
高橋は
大橋に
自動車売却代金の利殖を委託したという
趣旨のことを述べている反面、さような約束はないので返してくれと請求しても返してくれないので困
つたと
証言している。三浦、川田及び羽島
証言もこのことを裏書している。してみると
高橋が
大橋に対し大の言うような
意味で金のことを頼んでいたものでないことがここでも窺われる。そして更に
高橋証言は東武鉄道の株券
売却代金中金五十万円をも
大橋の言いつけだというので山下に渡したが、
大橋も知
つているはずだと言い、山下はそれは自分が個人的に
高橋から借用したものだと言う。これも山下の言い分は筋が立たない。
高橋が
足利工業をやめ、收入の途もなく特調の債務に責められている際、
大橋を通じて顔知りに
なつたに過ぎず、佳所もよく知らない山下に金五十万円という大金を借用証も何もなしに貸すわけがない。そして又、山下が自分個人の金を一々
大橋の指示を受けなければ出すことのできない
高橋名義の本件預金に繰入れるわけがない。これはやはり株券の
売却代金が何か
大橋と
高橋との関係に基く金と見るほかないであろう。それにしては、
大橋がかかる金を全く知らない、本件預金中には
自動車売却金だけしか入
つていないと言
つているのも納得できない。更に
高橋及び山下
証言によれば、
自動車売却代金たる
高橋名義の預金中から金六十三万円が
高橋に返されている。それは特調へ支払われたものではなく、無條件に返されている。そのことは
大橋も知つりているはずだと言う、
大橋証言及び有光
証言によ
つてもこの出金を
大橋が知らないはずがない。ところが
大橋が
自動車売却代金をこのような形で管理したのは
高橋に現実に渡すと
特別調達庁へ支払わない危険性があるからだと述べていることと正面から矛盾しているわけである。
その次は本件の
僞証告発の必要性と申しますと、如何にも
大橋の
偽証のことが、事柄そのことは極めて小さいこりとであ
つてこれを取立てて
僞証の
告発をするということは、如何にも大げさなやり方ではないかというような考えがあるかも知れないと思うのでありますが、それに対して最後に一言
意見でありますが附加えるのであります。
第四、本件
偽証告発の必要性
一、
証人大橋武夫の前記
証言は以上のごとき理由により明白なる
僞証であると認められる。然らばこの
僞証は
告発すべき程度の重要なものであろうか。この点に関して以下検討したい。
二、本件の真相は前述のごとく
大橋が
足利工業株式会社代表者たる
田中平吉より会社
所有自動車一九四〇年型モーリス一台(時価百三十三万円)の売却及びその
売却代金を
特別調達庁への過払金返還に充てられたい旨の依頼を受けたのである。然して
大橋はこれを
昭和二十四年六、七月頃山下茂をして金百三十三万円で売却し、その代金を受領して保管中
高橋正吉及び山下茂と相談の上、
高橋及び山下の利益を図
つて高橋名義の預金として三和銀行日比谷支店に預入れ、山下をしてその運用の衝に当らしめたのである。
従つてその行為は刑法第二百五十二條第一項の横領罪に該当するものと言わねばならない。然るに
証人大橋はこの罪責を隠蔽せんとの意図の下に本件
僞証をしたのではないかとの疑いが濃厚であり、その責任たるや重大なるものと言わねばならない。三、次に本件
自動車売却代金が前記
足利工業の
特別調達庁に対する過払金返還に充てられなか
つたということは、政治的、道義的に
大橋証人の責に帰すべきもの極めて大である。
即ち元来この過払金の発生自体が客観的には明らかに詐欺的行為によ
つて行われ、主観的にもそこに多くの不正の伏在を疑わしめるものがある。而もこの過払は国民の血と汗の結晶たる税金によ
つて購われている国家資金によ
つてなされたものでありその実質的被害者は実に全国民なのである。
従つてその回收たるや一般企業間のと取引に基く一債権の回收と異なり、政治的、道義的にも非常に重大な問題なのである。
2、この大切な過払金返還に当てらるべき本件
自動車売却代金百三十三万円を
証人大橋は前記のごとき不穏当な
方法によ
つて国家べ返納し得ない状況に至らしめたのである。而も山下茂なる一ブローカーにこの大金の運用を委ね、
自動車売買に
使用させたことは甚だ無責任なるものと言わねばならない。
3 而もすでに第一の概要において述べたごとく、
証人大橋は本件過払金の発つ生当初よりその回收計画の立案、履行に至るまで何らかの
意味において関連を持
つていたのである。それ故、本件金員の確実なる支払が如何に重要なもうのであるかは十分承知していたはずであり、かように本
事件の全般に干與していた点からも、この種事態の発生を未然に防止すべき特別な注意が払われねばならなか
つたはずである。
4、田中
証言によれば、過払発覚当時に急速に回收
方法を講ずれば十分回收ができたはずである。ところが
証人大橋が当事者の依頼とはいえ、両者のなかに立
つて本件のごとく支払いの延引をもたらすがごとき
方法をと
つたので、
証人大橋の経歴、信用等の関係から当事者もこれに従うごとき結果となり、逐に前記のごとき状況に立至らしめたのである、従
つて本件結果に対しては
証人大橋の経歴、信用、政治的地位も至大な影響を及ぼしているものと推認せざるを得ない。
四、
証人大橋武夫は現に国務大臣として殊に法務総裁の地位にある。衆議院議員をも兼ねているのである。国法を遵守し、
国会の権威を尊重するの要たるや最も大なるものありとしなければならない。然るに前記のごとく
国会において
証人として喚問され、宣誓の上
証言するに際し真実を述べないことは国法を無視し、
国会の権威を傷つけること極めて大であ
つて、これを一般人のそれと比すべくもないものと言わざるを得ない。若しそれ憲法上のかかる須要の地位にある者にして
僞証をなすもこれを黙過せんか、将来国民は国法の尊嚴を疑い、遵法の精神地を払らうに至るであろう。
五、のみならず、
証人大橋の前記
証言中に右の他次のごとき
偽証その他の
犯罪の存在を疑わしめるものあることを指摘しておかねばならない。
第一に先に触れたごとく
高橋正吉より東武鉄道の株券
売却代金中より金五十万両を預かりながら、これを全く関知せずと述べているのではないかという
僞証の疑いである。このことは
証人高橋正吉の
証言によ
つて窺い得られる外、
大橋、
高橋及び山下の
証言中に記憶違い等によ
つては納得できない矛盾のあることによ
つても消極的に裏書できるのである。
第二に
証人大橋が
足利工業株式会社の顧問料として同会社代表者たる
高橋及び田中より金三十数万円を受領しながら全然所得税の申告をしていないことは明らかである。それが如何なる名目の金にせよ、その間に所得税法出遅反の
犯罪が伏在しているものと考えられる。のみならず
大橋証言はこれを車代なりと述べ、或いはその金額、回数等において述べているところについては
僞証の疑いがあるものと考えられる。
第三に
証人大橋が
昭和二十三年十二月の衆議院議員総選挙の立候補に際し、
高橋正吉より金二十万円の贈與を受けていることは明らかである。而して
大橋はこれを自己の生活費に費消したと弁明しているが、疑いなきを得ない。その使途如何によ
つては政治資金規正法違反及び
僞証の
容疑あるものと言わねばならない。
大変長い間失礼いたしましたが、これが
全貌でございます。