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政府委員(
西村熊雄君) 先輩の曾祢
議員がお手許に持
つていらつしやるのは、私の同僚芳賀君が書かれた虎の巻だと存じます。私の持
つておる智慧も実はその本に書いてある範囲をあまり出ないのです。その本を
御覧になりますればおわかり下さいますように、今提起されました三つの問題であ
つたと思いますが、信託統治
地域というものは一体どこの
主権に属するのかという問題、それに関連して信託統治
地域の住民の地位はどうか、国籍はどうであろうかという問題でございますが、こういう問題につきましてはこれはひとしく信託統治制度の前身と申されまする委任統治制度の下におきましても存在した問題でございます。
第一点の、
領土の所在の問題でありまするが、委任統治制度の場合には、その根源になりましたヴエルサイユ平和
条約が、明白に
ドイツは主たる同盟国のためにその海外
領土の
主権を放棄すると、こういうふうな
規定をしておりました
関係上、委任統治
地域の
主権はいずこにありやという問題について学問的に
結論を下す手がかりがありました。それでもなおかつ三十年に近い間、委任統治
地域の
主権は主たる同盟国にあるという説もございましたし、際連盟にあるという説を唱えた人もありますし、又受任国にあるという説を唱えた人もありますし、又委任統治
地域の人民にあるという説を唱えた人もあります。そういうふうに各個の、数種の
考え方が対立いたしまして、最後まで
国際連盟といたしましては分けの解釈を下しませんでした。こういう現状でございます。信託統治制度につきましてはより以上の問題は困難になると思います。と申しますのな、信託統治制度に置かれる
地域に三種ございます。
一つは従前の委任統治
地域、第二は旧
敵国から分離される
領土、第三は領有国がみずから進んで提供する
地域、この三つであります。ところが今日まで十一ございますが、そのうち十は委任統治
地域が信託統治
地域に
なつたものであり、最後の第十一番目がイタリアのソマリー植民地、あれが十カ年信託統治
地域になることにな
つて、極く最近確定いたすはずであります。そういうふうな
関係がございます。そうしてイタリアの平和
条約を見ましても、イタリアは
ただアフリカにおける植民地に対する
主権を放棄するというだけで、誰のために放棄するという
規定にな
つておりません。こういうふうな
関係でございますから、信託統治制度の下における
主権はいずこにありやという問題は、委任統治の制度の下よりも更に困難な問題でございます。今日までその点について、実は信託制度の発足してから、僅か五年半にしかならないせいでございましようが、何もその有権的な乃至有力な
国際法学者の説な
ども出ておらんというのが実際でございます。いわんや
国際連合において公的の解釈をその点に下そうというような気配はまだ全然ございません。恐らく将来長きに亘
つてその点は解釈が与えられないで行く問題であるのではなかろうか、こう思います。
第二の、住民の地位の問題でございますが、住民の地位の問題につきましては、いわゆる住民の国籍の問題でございます。これは委任統治制度の下におきまして、或る国が、今具体的に申上げるのは差控えますが、或る国、
日本ではございません、或る国が委任統治
地域の住民を立法
措置によりまして一括
自国の国籍を与えようとしたことがございます。それでいわゆる
国際連盟におきまして公式の問題にな
つて、一九二三年でございましたか年度は忘れましたが、連盟理事会の決議ができまして、それによ
つて委任統治
地域の住民に対してはどこの国籍も持たないものである施政権国が一括
自国の籍を与えることはできない、委任統治
地域の住民として特殊の地位を持たせねばならない、
ただ個人の自由意思によ
つて帰化するという
方法によ
つて施政権国の国籍を取得することができる、こういうふうな決議ができましていわゆる国籍の問題が公的に解決されたわけでございます。
国際連合におきましてはまだ五年半、そういうふうな問題が起
つておりませんので、これ又国籍は一体どうなるものであるかというような点については何ら公的のいわゆる解釈というのですか、よりどころにすべきものがないというのが現状でございます。
ただ我々の知
つておるところでは、南太平洋の旧南洋群島ですが、あの信託統治に関する
協定の中には、
アメリカのほうであの島々の住民は南洋群島の市民、シチズンズの地位を与えるために特定の立法をしなければならん、そうしてこれらの市民に対しては、外国においては
アメリカのほうで外交的、又は領事的保護を与えなければならんという
規定があるだけでございます。これ又住民の地位の問題も今有権的にこうであると申上げるだけの固ま
つた問題ではないというのが実情で、こぎといます。第三の質問は、どういう国が施政権者になれるだろうかということでございますが、これは実例によりますと、今十一ございますが、施政権者にな
つている国は皆
国際連合加盟国でございます。
ただ今回新たにイタリアが、
自分の旧
領土でありましたソマリーランドの信託統治の施政者に指名されまして、信託統治条項がやがて発効する段階にな
つております。これによりまして、旧領有国であ
つて而も又非
加盟国である国も信託統治の施政者になれるという
先例ができたということが申されるかと思います。