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鈴木義男君 ただいま
議題となりまし
たる大橋法務
総裁の
不信任決議案の提案理由を
説明いたします。これは野党各派の共同提案になるものであります。
案文を朗読いたします。
国務大臣法務総裁大橋武夫君
不信任決議案
衆議院は、
国務大臣法務総裁大橋武夫君を信任せず。
右決議する。
〔拍手〕
私
どもは、
国務大臣として、ことに法務
総裁担任の
国務大臣としての大橋武夫君を信任することができなくな
つたことを、深く遺憾とするものであります。その理由は、きわめて簡單明瞭であります。それは、大橋君が神聖なる
国会の
委員会の査問に対して、偽証をなしたと見るべき嫌疑濃厚だということに起因いたすのであります。(拍手)偽証は、何人がこれを犯しましても、真実の発見を妨げ、憎むべき罪でありますが、正義を守り、
法律の公正なる執行をその職責とする法務
総裁がこれを犯したというにおいては、その罪許しがたきものがあります。(拍手)これを看過するがごとくんば、何をも
つて国家の綱紀を維持することができましようか。
大橋君の身辺については、その就任の当初から、足利板金工業株式
会社、これは足利の單なるブリキ屋さんと、大橋君の秘書と称する者とのつく
つておる
会社でありまするが、この受注にかかる、いわゆる二重煙突事件にからんで疑雲が低迷してお
つたのであります。品物の注文が、すでに大橋君の戰災復興院在職中にかかりまして、この注文につきましても、大橋君は
関係しないと言われますが、大いに疑うべきものがあります。退官してこの
会社の
顧問になり、問題の代金の支拂いをあつせんし、相当の報酬も得ておるというのでありますから、
関係は十分であります。会計検査院の指摘によ
つて本件は脚光を浴び、
参議院の決算
委員会の審査に付せられて約半歳、全貌はほぼ明らかとな
つたのであります。
しかして、去る二十六日、
参議院の本
会議において前之園
委員長は中間報告を行い、大橋君が証人として行
つた証言は偽証の疑いが濃厚であ
つて、はなはだ遺憾であると述べたのであります。これは実に重大なる報告であります。あるいは、それはまだ中間報告であ
つて、最終の報告でないというかもしれない。あるいは、まだ告発もされておらず、検察当局が取調べに着手してもおらないではないかと言うかもしれない。あるいは、小
委員会の
証言は正式の
証言でないなどと、三百的言辞を弄する者があるかもしれない。もちろん、わが検察庁は常に公正であり、超党派的であり、新
憲法の国民平等の原則に基いて、現職の
大臣であろうが、元
大臣であろうが、いやしくも犯罪の嫌疑ある以上は嚴正公平に検察権を発動させることは、すでに前例の示すところでありまするから、早晩そのことあることは、私
どもの信じて疑わないところでありますけれ
ども、ここで私
どもが問題としておるのは、かかる
法律上の
責任ではないのであります。これは今後別個に追究されなければならない。私
どもは、この中間報告に現われ
たる大橋君の道義的
責任を糾彈いたしておるのであります。(拍手)政治道徳の問題であります。
いやしくも正義の源泉
たる法務
総裁が、国権の最高機関において偽証をなした嫌疑濃厚なるものありと宣言せられました以上は、一日もその職にとどまるべきではないと信ずるのであります。(拍手)検察の最高指揮権をとる者が、がかる嫌疑をかけられまし
たる以上は、もはや検察の威信を保つことができないと信ずるのであります。(拍手)良識がありまする以上は、潔くその地位をしりぞいて、検察権の威信の保持に努むべきであります。そのことをしないのは未練というべきであり、恥を知らないというべきであります。(拍手)
私
どもが特に大橋君の今回の偽証の疑いを強く糾彈いたしまするのは、それが單なる第三者のためにした偽証でない、みずからの実質的罪悪をその背後に蔵しておると信ぜられるからであります。私
どもも、
参議院決算
委員会の今日までの
調査の結果は一
通り拜見いたしておるのであります。諸種の証拠物件も見ておるりであります。これによれば、政治道徳の問題としては、すでに証明十分であります。四千万円以上の仕事を引受けた足利板金は、ブリキ屋の親方田中平吉を社長とし、大橋君の秘書と称する高橋正吉の二人の
個人会社でありまして、ろくろく仕事をしないばかりでなく、交付された資材を横に流してお
つたことで有名であ
つたのであります。田中は足利のブリキ屋であり、高橋君は、大橋君と銀座に共通の
事務所を設けて、特調との交渉、金の使い方等に従事いたしてお
つたといわれるのであります。
事の起りは、足利板金が、ありもしない品物をあることにして請求書を出して、三万二千九十二フイート分、二千二百三十七万六千九百六十七円という、莫大な、とるべからざる金を特別調達庁から受け取
つたということに始まるようであります。ないものに対して代金をとることは、
世間では詐欺というのであります。もちろん、大橋君がこれを知
つて助けたとは思いたくありませんが、この代金の支拂いを促進させたことには非常な功労があられたわけであります。普通この特調の納入代金の支拂いは、二箇月も三箇月も遅れるので有名であります。それが昭和二十三年十二月十四日に請求書を出したが、放
つておかれて、大橋君のあつせんによ
つて、御用納めの日である十二月二十八日一日で、起案から決裁、支拂いまで、ばたばたと片づいて、金を受け取
つておるのであります。まさに顔の効用である。しかも驚くことには、物品納入検査調書も、初め十二月四日という日付にな
つてお
つたのでありまするが、いつの間にか三箇月さかのぼらせて、九月三十日につくられたことに改竄されておるようであります。
次に、品物がないことが暴露されまして、過拂金の返納を命ぜられたわけでありますが、金は大部分使
つてしま
つて、なくな
つてお
つた。二十四年四月から翌年二月までの間に、わずかに六百三十六万余円を返しただけでありまして、あとは社長田中平吉、專務高橋正吉の
個人資産を提供することになり、特調には誓約書を入れ、田中、高橋間には、大橋君立会いのもとに詳細契約書を作成して、私財提供の
関係を明らかにしたのであります。その提供した私財のうちに、高橋の自動車一台もあ
つたのであります。その売却方の委託を受けて、大橋君は、これを自分と特殊の
関係にある山下茂なるものをして売却させた代金百三十三万円であります。これは、ただちに
国家に納むべき金であります。それを、どういうわけか銀行に預金して、なかなか納めないで、それを融通してお
つた。本件が問題とな
つたとき、わずかに四千余円しか残
つておらなか
つたのであります。しれは決して
国家に対して忠実なるゆえんでないと思うのであります。大橋君の
証言によれば、大橋君は特調から頼まれて、この過佛い金の取立てに協力してお
つたというのでありまするが、もしさような
関係にありまするならば、これを国庫に納めないで流用を許したことは、一種の背任ではないかと存ずるのであります。(拍手)かりに田中、高橋いずれかのものであるとしましても、大橋君にも山下某にも処分権はないはずでありますから、一種の横領になるのではないかをおそれるのであります。
その他、月々三万円の
顧問料のほかに、二十万円の謝礼や、二十万円の陣中見舞というようなものが大橋君の手に入
つたようでありまするが、これらについて、所得の申告とか、政治資金
規正法上の手続とかい
つたものがなされた形跡はないのであります。また高橋正吉から、東武鉄道株式売却代金中五千万円を大橋君に預けたと言う者があるのに、大橋君はそんなことは知らないというのは奇怪千万であります。さらに足利板金は、
国家から材料のクーポンをもらい、これをやみに流してお
つたことは有名であるのでありまして、重大な
経済違反もひそむようであります。とにかく、この一運の行為というものは、一貫性を欠き、明朗性を欠いておることは疑いない事実でありまして、これ大橋君の
証言がしどろもどろとなり、他の証人の
証言とも食い違い、深い疑いを抱かせるに至
つたゆえんと信ずるのであります。(拍手)
もちろん大橋君としては、いろいろ弁解の
言葉もあることでありましよう。私
どもは、それを承るにやぶさかなものではないのでありまするが、
参議院決算
委員長の中間報告は、まるで架空の讒誣中傷とは思われないのであります。この際事の真相を明らかにしまするためにも、もしまた、ぬれぎぬであると言われるならば、これをほすためにも、権力の地位を去
つて、一布衣にな
つて、公正なる
調査に応ずる構えをされますることが、検察の最高の指揮権をとる法務
総裁たる者の、まさにとるべき道徳的責務であると存ずるのであります。(拍手)
現職のまま調べたいなら、か
つてに調べたらよかろうと言われるかもしれませんが、結局本件は、検察の手を煩わさなければ今日以上真相を明らかにすることむずかしいと思うのでありまして、検察の最高指揮官という現職のまま取調べろということは、木によ
つて魚を求めるに近いものであろうと思う。私
どもは
日本の検察の公正を信じまするが、それでも人情忍びがたいものを認めざるを得ないのであります。また、問題がここまで発展いたしました以上、今後決算
委員会の告発の有無にかかわらず、検察庁は大橋君を取調べるほどの必要がないとの結論に達するようなことがあるといたしましても、現職にとどま
つたまま、それが言われまするならば、国民は虚心坦懐にはこれを受取らないでありましよう。法務
総裁であるから、権力を濫用して捜査を抑止したと解するか、検察権が権勢に阿諛して、その発動を遠慮したと誤解するでありましよう。いずれにいたしましても、検察の威信を失墜することは同一であります。これが人心に及ぼす影響は容易ならざるものであります。
法務
総裁という地位についた者の第一に努むべきことは、検察の威信の保持でなければならないと思うのであります。一身の保身のためにその地位を濫用するというがごとき疑念は、万難を排しましてもこれを拂拭しなければならないと信ずるのであります。か
つて芦田
内閣が、栗栖大蔵
大臣が勧銀
総裁在職中の涜職嫌疑に道義的
責任をと
つて総辞職を断行したときに、吉田
自由党総裁はこれを罵倒して、自分はクリーン・ハンド、すなわち白い手の閣僚のみをも
つて組閣してみせると豪語されたのであります。今いかなる御感想を持
つておるか承りたいのであります。また吉田総理は、第二代目の法務
総裁を兼任されたのでありまして、私との間に事務の引継ぎを了せられたのでありますが、そのとき吉田
総裁は、検事総長以下検察官一同を招集されまして、私の面前において、綱紀の粛正ということは何よりも大切なことである、
諸君は勇敢に、遠慮なくや
つてもらいたい、現職の
総理大臣にでも、被疑事実があると認めたならば、少しも遠慮することなく、この私を検挙せられたい、それが検察の使命であると訓示されたのであります。私は、今や吉田首相の訓示を忠実に実行すべきときが参
つたのではないかということを、法務
総裁に御注意を喚起いたしたいのであります。(拍手)
私
どもは、今日の段階において、大橋君の刑事上の有罪、無罪を断ぜんとするものではありません。それは、さらに
調査を進めなければ断ずるわけには行かないでありましよう、ただ私
どもは、少くとも、もはや大橋君は
国務大臣の地位を去るべきときであるということを申しておるのであります。(拍手)君子のあやまちは日月の蝕のことしであります。
疑惑がこの程度に達しました以上は、市井の一私人の場合と異なり、
天下公衆の面前においてその黒白を明らかにすることが、政治道徳の要請であります。(拍手)有罪ときまらない限りはその職を去らないなどということを申すのは、匹夫野人の言であります。(拍手)
私の法務
総裁在職中に、
国務大臣西尾末廣君が、
大臣就任以前の
選挙の際に土建業者から陣中見舞をもら
つたことが明らかになり、それが政治資金
規正法違反ではないかとして、特別
委員会において、
自由党の
諸君から痛烈に彈劾されたのであります。私は、実際の事実を詳しく知
つておりましたがゆえに、違反となる性質のものでないと信じたのでありますが、
疑惑が広く浸透し、これを押えることは、権力によ
つて検察権の行使を阻止したとの疑いを国民に抱かしめることを憂い、西尾君もこれに
同意せられ、総理及び閣僚もやむを得ないものとせられましたので、無理を信じましても、事ここに至りました以上は、不起訴というがごとき処理に出ず、
国務大臣を辞し、起訴を受けて、法廷において公正なる審判を受け、ガラス箱の中でその結論を得るに努めたことは、
諸君も御
承知の
通りであります。(拍手)これが政治道徳の要請であると信じたからであります。大橋君の場合は、西尾君の場合に比して、比較にならぬほど事案は悪質であり、嫌疑は濃厚であります。全国民は、これがいかに処せられるかを凝視しておるのであります。
行政部における正義の源泉であり、
内閣における
法律の最高
顧問であり、
法律の公正なる執行者であるところの法務
総裁が、みずから法を犯したという疑いは、綱紀維持の上からも、国民風教の上からも、これ以上重大なことはないと信ずる。(拍手)法務
総裁という地位の威信と信用とを保持することは、
国家の最高機関
たる国会が、全力を盡しても努力すべき問題であります。これは断じて党派の問題ではありません。いたずらに臭いものにふたをしたり、数をも
つて、しやにむに押し切
つて、ごまかすというようなことのあるべき問題ではないのであります。
自由党の
諸君も、虚心坦懐に、法の権威護持のために、この
決議案にだけは
賛成されるのが正しい態度であり、
自由党の信用を国民の前に救うゆえんと信ずるのであります。(拍手)泣いて馬謖を切る悲痛な心情をも
つて、われわれの提案に同調されることを期待するものであります。
これをも
つて提案理由の
説明といたします。(拍手)