○
三宅正一君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、
衆議院解散に関する
決議案を
説明いたしたいと思います。
(
拍手)
まず主文を
朗読いたします。
衆議院解散に関する
決議
政府は、速やかに衆
議院の解散の助言を為すべし。
右
決議する。
理 由
吉田内閣成立してここに満二箇年を経たが、政府の失政相次ぎ、今や人心の離反そり極に達するに
至つた。ことに
民族の興亡を決する
講和会議を目睫の間に控えた今日、
国民の輿論に聞かずして独断これを受認することは非民主的
態度もはなはだしいというべきである。
よ
つて政府は、すみやかに
衆議院解散の助言をなし、も
つて総選挙を行い、人心を新たにするとともにただちに
国民外交の実を示すべきであると確信する。
〔
拍手〕
われわれが衆
議院の解散を主張する第一の
理由は、
講和條約の
締結の時が近づきつつあるということであります。しかして、その
内容がきわめて具体的に、かつ詳細に全
世界において論議されつつあるのであります。これに対するわが国論の帰趨は、全
世界が注視しておるところであります。しかるに、
自由党並びに現政府の見解は、決して
国民の真の輿論を代表しているとは思われないのであります。(
拍手)二年前の総選挙において
講和問題が若干議に上
つたことは、これを認めるのでありますが、しかし、それはきわめて抽象的であ
つて、暗中模索の域を出なか
つたのであります。当時主として論議の対象となりましたのは経済
政策でありまして、
国民の大多数は、
講和問題についてまで
自由党に全権を付與したものとは、とうてい信ずることができないのであります。(
拍手)
全
世界において論議され、刻々に外電が伝えておる
講和條約の
内容は、容易ならざる重大な
内容を含むものでありまして、国家百年の運命に関するものばかりであります。外電の伝うるところによれば、米ソの対立において、わが国は、はつきり一方の味方となることにきめられようとしておる。さらに
アメリカの軍需工業の一分工場とされようとしているのである。(
拍手)はなはだしきに
至つては、数日前のロンドン電報は、
日本に陸、海、空の三軍につき無制限に
軍備を許し、国際連合に加入する代償として人的資源の供出を命ずるかにさえ思われるのであります。(
拍手)これは、もはや国内治安や防禦的自衛の問題ではないのであります。国家の性格を根本的に変革し、
決定づける大問題であるといわなければならぬのであります。(
拍手)吉田首相は、この重大危局に当面しながら、なお
講和は現内閣で担当し、その批准も現在の
国会に求めると申しでおるのでありますが、暴もまたきわまれりといわなければならないのであります。(
拍手)万一にも、外電が伝えるごとき
内容の
講和が、総選挙による
国民輿論の審判を経ることなく、
吉田内閣の独断によ
つて決定されるがごときこととなれば、
国民の平和擁護、戰争不介入の悲願を表徴して成立した非武装、平和の
日本憲法は一方的にその改正を強化される結果となり、その
責任は実に重大なりといわなければならないのであります。(
拍手)また私は、吉田首相の主観的な善意を疑うものではございませんけれども、地に方策があるにかかわらず、一方的に、かかる性格の
講和を
国民にしいることによ
つて、万々一にも
日本の国土が戰場となり、国土と
国民が戦火によ
つて蹂躪されるがごとき事態を招来せる場合、いかにしてその
責任を負わんとするかを問わんとするものであります。(
拍手)深刻なる
国際情勢のもとで、いかにして
日本の安全を保障し、
民族の
独立と自立を達成し、進んで
世界の平和に寄與するかは、その方途の困難なこと、またその前途の予測しがたいことは申すまでもないところであります。
講和問題は、他の国策と異なり、できてしま
つてから
国民に承認を求めればよいというものではないのであります。できてしま
つてから、これを担当する政権をきめても、意義をなさないのであります。大切なることは、事前にわれわれの要望をその
内容の中に取入れさせることであります。相手方も、わが国論の動向に至大の関心を拂いながら、その
内容を
決定しようとしておるのでありますから、わが国論の帰趨を、総選挙を通じて
世界に示すのは、まさに今がその時であると信ずるのであります。(「その
通り」
拍手)これこそ、われわれが今ただちに総選挙の強行を求めるゆえんであります。困難にして前途の予測しがたい情勢であればあるほど、
講和前の解散によ
つて、
国民をして各党の
講和政策を十分に吟味し、判断させて、
国民みずからが
責任をも
つて講和に臨む態勢をつくることこそ政治の第一義であると信ずるものであります。(
拍手)第二にわれわれが
国会の解散を要求いたしまする
理由は、吉田
自由党内閣の、衆
議院における二百八十五の絶対多数は、正確に
国民の輿論を反映せざる架空の多数でありまして、民心がすでに
吉田内閣を離れている具体的事実に立脚して、
国民の輿論に背反する不自然なる
自由党の多数と、不自然なる
社会党の少数とを修正せんとする点であります。(
拍手)すなわち、二年前の総選挙において二百六十七名を確保した議席は、その後
民主党の犬養派二十二名をかきと
つて合併したことによ
つて二百八十五名とな
つたのでありますが、これは不自然にして不当、しかも不合理にふやした擬制の増加でありまして、われわれは、不信任案を
提出して臨んだ野党たる
民主党を——吉田、犬養両党主間のなれ合いで選挙民を欺き、
民主党はもちろん、
自由党自身にも不快きわまる混迷と混乱とを與えて議席数を変動させるがごときやり方は、政治道徳上許すべからざるものと考えているのであります。(
拍手)やみ取引の張本でありました犬養君が、吉田ワン・マンの威力をも
つてしても
自由党の受入れるところとならず、政界の孤児として
アメリカくんだりまで放浪せざるを得なか
つた一事に徴しましても、この議席の変動がいかに不合理であるかということを証拠立てているものであると存ずるのであります。(
拍手)選挙によらざる政界分野の変化が政界の腐敗と混迷の根源である意味において、これを糾彈するとともに、この一事のみによ
つても当然に
国会を解放すべきものと信ずるのであります。
さらに昨年六月の参
議院選挙を例にと
つてみましても、地方区の得票の合計数は、
自由党は千四十一万票であり、
社会党は七百三十一万票であ
つたのでありまして、これを二年前の衆
議院選挙総得票数に比較しますると、
自由党は三百万票減
つておるのであります。
社会党は三百二十万票ふえておるのでありまして、これを衆
議院の議席数に換算いたしますると、
自由党は百五十の議席、
社会党は百十六の議席に変化するのであります。(
拍手)参
議院の選挙は、その性質上、中立
議員が多いのでありますが、もし衆
議院の選挙が、あの際行われまして、中立
議員が少いといたしますならば、あの選挙の結果は、
自由党はほぼ二百名、
社会党は百五十名の当選者を出す結果とな
つたと考えられまして、現在の
自由党の二百八十五名、
社会党の四十五名は不自然な数であり、
国民の輿論と議席数の背及せること実にはなはだしきものありといわなければならないと存ずるのであります。(
拍手)その後各地の補欠選挙におきまして、たとえば千葉の県知事、参
議院議員の選挙、広島の知事選挙等における野党連合ないしはわが党の驚異的な勝利は、明らかに、すでに民心が
吉田内閣を離れたことを立証するものでありますとともに、
国会の議席がなるべく
国民の輿論を忠実に反映する状態が
議会民主主義の理想である点にかんがみましても、
吉田内閣は当然
国会を解散して、
国会分野の再調整をなすべきであると信ずるのであります(
拍手)第三に、われわれが解散を主張いたしまする
理由は、
アメリカの対日援助打切りに備えました
日本経済自立方策に関しまして、
自由党の弱肉強食的な資本主義的再建方策をとるか、
社会党の完全雇用、
国民生活水準の引上げ、社会保障制度確立に裏づけられたる社会福祉国家的な
計画経済で行くかを、
国民の審判にゆだねるときであると信じておるからであります。(
拍手)
アメリカの対日援助打切り後の
日本経済自立方策に関しましては、一旦方向づけられた方式により、相当年次の努力を継続して初めて自立
段階に到達するのでありまして、現に
計画のきらいな、行き当りば
つたりな
自由党内閣すら、経済自立三箇年
計画を樹立せざるを得なか
つたのであります。わが
社会党は、経済再建四箇年
計画、農業再建四箇年
計画を樹立いたしまして、世の批判に問うておることは、御承知の
通りであります。ひとしく継続的な自立年次
計画ではありますが、その方式には月とすつぽんのごとき大きな性格の差異がありまして、今こそ各党の経済再建の積極的方策を
国民の審判にゆだねて、その総意の上に再建方策を強力に推進する意味においても
国会を解散すべきであると信ずるのであります。(
拍手)
過去二箇年にわたる
吉田内閣の経済施策が、ドツジ・ラインに便乗して、低米価、低賃金、勤労者重税に貫かれました金融資本強化の反動的安定
政策であ
つて、勤労者の犠牲の上に、ようやくインフレを收束し得たのでありますが、今また打出さんとする
日本自立の方策が、大資本の強化と、
農民、
労働者、中小企業者の窮乏の上に打立てられんとする旧式な資本主義的方策であり、また日米経済協力のやり方も、
国民生活水準の引上げの上に特需インフレを招来する、危険なる買弁資本的な再建方策であることは、あらためて指摘するまでもないのであります。(
拍手)
かくて、政府の三箇年
計画の完成年次においても、なお四十五万の完全失業者を数えるという、あきれ果てた自立
計画なのであります。
かくのごとく多数の失業者と、極度に貧困な国内購買力の上に独占資本を強化する経済
政策が、外に現われては侵略主義となり、内には熾烈なる階級対立の激化となり、
大衆の不満の激発と、これが彈圧は、
自由党みずから国内に三十八度線をつくる結果となるのでありまして、危險きわまりない行き方といわなければならないのであります。(
拍手)
資源貧弱にして、人口のみいたずらに多い
日本が経済自立を完成するためには、弱肉強食の自由主義方策によらず、完全雇用と
生活水準の引上げ、社会保障制度の確立に貫かれた社会的な資本動員、富の再配分、資源の開発等が
計画的に行われるべきであります。かつ日米経済協力のやり方も、軍需の下請工場として
国民生活水準の引下げ、民需圧迫を来さざる、自主的にして平和的な方式による協力たるべきでありまして、多角貿易による
平和産業の発展に自立の基礎を求むべきであると考えるのであります。(
拍手)今こそ、
日本自立の経済再建施策に関し、
国民輿論の審判の前に各党の
政策を提示すべき最もよき機会であるという立場に立
つて、われわれは強く解散の必要を唱道いたしまするとともに、か
つてイギリスにおいて、社会主義か資本主義かを論議の中心にして
国民の輿論に問いました、あの十数年前における資本主義的方策による
日本の再建か、社会主義的方策による
日本の再建かを、今こそ解散によ
つて国民の審判にゆだねるときであると考えるのであります。(
拍手)
さらにこれに加えまして、
吉田内閣二年の施政は、
民主政治の
原則を蹂躪し、
議会を無視し、法規を逸脱し、フアツシヨ的性格を濃厚にして、
国民を失望せしめつつあるのであります。
占領政策遂行上、
ポツダム政令による措置は、もちろんときに予想せられることでありますが、食確法の改正のごとき、警察予備隊の設置のごとき、電力再編成のごとき、いずれも
議会の会期中において
法律によらず、政令によ
つて措置されたことは、
吉田内閣の
議会軽視を物語るものであ
つて、
議会の威信はこれがために大いに失墜せざるを得なか
つたことは申すまでもないところであります。(
拍手)
吉田内閣及び
自由党は、絶対多数を頼むのあまり、
議会の運営において横暴をきわめ、その審議においても、しばしば少数
意見を蹂躪する
態度をとり、これがため無用の混乱を招いた事例は、きわめて多いのであります。ことに、その運営に適正を欠く例証といたしまして、超党派的に公平なるべき考査
委員会を一方的に利用し、
反対党を糾彈する機関化したばかりでなく、自党内における数々の疑獄に類する
事件に関しては、多数の力によ
つて、十分の審議を盡すことなく、うやむやに葬り去らんとして、むしろこれを隠蔽する傾きすらあ
つたことは、
諸君よく御承知のところであります。(
拍手)
さらに
吉田内閣の独善的傾向は、数数の人事問題の失敗の上に現われておるのであります。齋藤国警長官問題について遂に横車を通し得なか
つた政府は、飯山水産庁長官を懲戒免官として、人事院において敗訴する等、黒星を重ね、蜷川中小企業庁長官は、明朗ならざる
理由によ
つて退官を余儀なくされ、最近の木内次長検事問題についても多くの非難を買
つたことは、いまだ耳新しいところであります。(
拍手)ことに電力再編成における公益
事業委員会の人事、そうして再編された電力会社の人事、あるいは開発銀行の人事が、いわゆる吉田首相側近の私事として、きわめて不公平に行われつつあることが天下の怒りを買
つていることは、
自由党内部においても御承知のところであると考えるのであります。(
拍手)また最近における日共
非合法化問題を中心とする閣僚と党との不統一問題、大橋法務総裁の偽証問題等、いずれも
吉田内閣及び
自由党に対する
国民の不信を招くに十分下あ
つて、政府は、これらに対する世評に顧みて、この際あえて
国民の批判を問うほどに謙虚であることを希望するものであります。(
拍手)
以上は政府の政治運用の面に関する問題でありますが、
国民にと
つて一層痛切な問題は、政府の
政策によ
つてもたらされた
国民経済
生活の圧迫についてであります。政府が従来とり来
つた低賃金、低米価、
大衆課税の諸
政策が、ドツジ・デフレ
政策の遂行過程において、いかに
大衆の
生活に苦痛をもたらしたかは、すでに申し述べたところであります。ここでは、最近における特需景気の出現と、
世界的軍拡気構えの影響とによ
つて、政府の誤れる
政策がいかに
大衆に新たな苦悩を與えておるかを指摘したいのであります。
たとえば、昨年六月の朝鮮事変勃発直前に比し、安本発表による本年三月初旬の東京市場物価は、六割という大幅の騰貴を示しているのであります。初め比較的騰貴率の少なか
つたといわれる食糧すら四割三分の値上りを示しているのであります。これに対し、昨年の十二月、地域給削減と調整号俸の半減とにより辛うじて七千九百八十一円のベース・アツプを認められたにすぎず、依然として低賃金を押しつけられている
労働者を初めといたしまして、鋏状価格差に悩む
農民、相かわらず金融難をかこつ中小企業者が、いかに深刻な影響をこうむ
つているかは、想像にかたくないところであります。(
拍手)さらに政府及び
自由党は、二年前の選挙当時公約した統制撤廃にこだわりまして、情勢の一変せる経済事情のもとにおいても、党の面子のために適切なる
政策の転換を怠り、そのために大多数
国民を苦難に陷れて顧みないのであります。同一の期間において、自由経済の本家である米国においてすら、非常事態宣言とともに、いち早く強力な統制に乗り出し、一九%の値上りを見せているのにすぎないのであり、労働党内閣下のイギリスにおいては、わずかに一四%の値上りを示しているだけでありまするときに、
吉田内閣の失敗によ
つて、六割の値上りが
大衆の経済
生活を圧迫しつつあるのであります。(
拍手)すなわち
吉田内閣は、たださえ経済的に貧困で、社会的保障のないわが
国民に対して、自由経済の美名のもとに物価の自由な騰貴を許し、一方少数の資本家に過大な利潤を與えているのであ
つて、
国民を党利党略の犠牲に供していると
言つても、あえて過言ではないと信ずるのであります。(
拍手)
政府の統制問題に対する偏執的
態度は食糧
政策の上にも現われ、世論の
反対にもかかわらず、麦の統制撤廃を強行せんとしているが、
農民は消費者
大衆とともに多大の危惧をも
つて政府の食糧
政策を見守
つているのであります。現に本日参
議院において、百二十六票対六十四票の大差をも
つて食糧管理法の一部改正案が否決せられましたことは、
国民有識者がいかに党利党略にこだわる
自由党内閣の食糧の統制撤廃
政策に
反対しているかを示すものであると考えるのであります。(
拍手)
諸君、
かくのごとき一重大なる法案が
国会において否決されまする場合は、
議会を解散するか、総辞職をすべきが、政治道徳上当然でありまして、(
拍手)少くとも廣川農林大臣がその
責任を負うて辞職いたしますることは当然の話であると考えるのであります。(
発言する者あり)
このように、
自由党の統制撤廃は、長く次乏経済に苦しんで来た一部業者や
国民に多くの幻影を與えたかもしれないが、今や政府の無鉄砲な自由経済
政策のために多大な苦痛を與えられつつある事実を、多数
国民は、ここ二年余にわたり身をも
つて経験したのであります。しかもなお政府は、その時代錯誤的反動
政策をあくまで推進し、依然
国民の
支持を受けていると妄信しているかの疑いなきを得ないのであり、むしろ
国会の解散に上
つて国民の審判を求むべきであると信ずるものであります。
最後に私は、本
決議案の
法律的立場について申し上げたいと存ずるのであります。われわれが政府に本
決議案で要求しているのは、單に解散助言の手続でありまして、解散を必要とする情勢の判断については、もとより衆
議院みずからが
決定すべき問題なるがゆえに、その討議をこの議場において求めているのであります。先ほどのやじは少し場違いであるとわれわれは指摘せざるを得ないのであります。(
拍手)
説をなすものは、新
憲法は不信任案成立の場合のほか、政府の独自の判断による解散、または
国会の議決による解散等は規定しておらないと言いますが、それは、はなはだしき独断であ
つて、
憲法第六十九條は、解散の一つの場合を規定したにすぎないのでありまして、そのほかに、
国会みずから解散を
決議し、あるいは世論の動向、政局の情勢にかんがみ、政府の判断によ
つて解散を断行するの自由あることは、当然の話であります。その際、解散の手続として政府が天皇に助言するのであ
つて、象徴たる天皇に解散権のいなことは明白であり、政府の助言がすなわち解散権の行使であるのであります。英仏その他の多くの立憲国におきましても、不信任案の成立を待たずして、または多数の與党を有する政府みずから解散を実行する慣行が広く行われていることは、周知の
通りであります。これによ
つて政治の運営が円滑なるを期し得るのであります。われわれは、もちろん適当なる時期において現政府に対し不信任案を
提出する用意を持
つているものでありますが、本
決議案は、それとは別に、
講和を前にして
国会を解散することが真に
民主主義の常道であるゆえんを説いて
自由党の
諸君にも、正義の上に立
つて賛成されることをお願いいたしまして、私の
提案理由の
説明を終る次第であります。(
拍手)