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大橋国務大臣 お答えを申し上げます。第一点といたしまして、犯罪の
発生いたしたる後において、費用を使
つて搜査に力を入れるよりも、いま少しく犯罪の予防という点に重点を置くつもりはないかという御質問であ
つたと存ずるのであります。この点はま
つたく同感に存ずる次第でありまして、神戸
事件その他のもろもろの
事件の
搜査におきましても、これらの犯罪の内容をできるだけつまびらかにいたしまして、将来の予防上参考となるべき事項がありましたならば、十分これを将来において活用いたしたい、かような考えを持
つて搜査を進めておるような次第であります。もとよりかような犯罪の
搜査において得られる知識ばかりでなく、社会
一般のいろいろな実情に十分留意をいたしまして、今後におきましても、あらゆる角度からかような犯罪を予防するようにいたしたい、かように存ずることを申し上げさせていただきます。
第二点は、
人権擁護も必要であるが、
人権擁護が極端に主張される結果、かえ
つてそのことが
人権の侵害を惹起するおそれはないかという点でございます。この点は新刑事訴訟法が制定されました当時においても、
日本の現在の実情から、
搜査その他の能力から見まして、
人権擁護ということも非常に大切でありまするが、しかしこれがために、実際上犯罪の
搜査を不可能ならしむる、
従つてかえ
つて人権の侵害を多くするという機会がありはしないかという点も、ずいぶん問題にな
つたことと存ずるのであります。その後検察当局といたしましては、できるだけこの新刑訴の運用に習熟して、
人権擁護と犯罪の必罰ということを調和させるために努力を続けて
参つたのでありまして、最近におきましてようやく新刑訴の運用もやや翌熟いたしまして、犯罪の
搜査にあた
つても
相当能率を回復いたしつつあるように見受けられるのであります。しかしながらなお現在の
日本の社会の実情から考えまして、現在の刑事訴訟法がはたして
人権擁護と犯罪の防遇という上から言
つて適切であるかどうかという点につきましては、なお考究すべき点が多々あると存じますので、ただいま
法務府といたしましても、この問題を取上げまして研究を続けておるような次第であります。もしこの研究の結果、必要があるということになりましたならば、将来国会におきまして新刑事訴訟法改正の問題をお取上げ願いたい、かように存じております。
第三には、非常
事態における国民の権利義務でありますが、これは従来の諸国の実例から見ましても、非常
事態におきましては、平素において認められる国民の基本的権利というものが、そのまま認め得るやいなやという点になりますと、これはいろいろ研究を要すべき点があろうと存ずるのでありまして、諸国におきまするような非常
事態宣言によりまして、ある種の基本的権利を一時的に制限するというような
措置も、場合によ
つては必要ではないかと存ぜられるのであります。この点はしかしなお当局といたしまして、
一般的にさように考えておる程度でありまして、具体的にこの問題を取上げて研究を進めるという段階に至
つておりません。しかしながらただいま承りましたごとく、この問題は、非常
事態というものが決して
日本にと
つて夢のような遠い問題ではないという情勢がだんだん近づきつつあるように存ぜられますので、今後におきまして特に力を入れて研究を続けて行きたい、かように存ずる次第であります。