○牧野
委員 先に日本
弁護士連合会から、罹災
都市借地借家臨時
処理法第十條の期間を二箇年延長されたいという要望がありました。これを機会にして、二月十六日、
罹災都市借地借家臨時処理法改正の小
委員会が設けられ、正式には二回、事実上四回の小
委員会を開いて審議しました。ここに小
委員会における審議の
経過並びに結果について、少し詳しく御報告申し上げたいと存じます。
同法第十條には「罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された当時から、引き続き、その建物の敷地又はその換地に借地権を有する者は、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、
昭和二十一年七月一日から五箇年以内に、その土地について権利を取得した第三者に、対抗することができる。」とあります。
弁護士連合会からの同法第十條の期間延長を要望する理由は左の通りであります。
右條項にある
昭和二十一年七月一日から五箇年以内といえば、本年六月末日までのことであり、その日以後は、いわゆる戰災借地権者といえども在来の一般対抗要件を具備しなければ、その後その土地について権利を取得した第三者に対抗できなくなるわけである。しかるに戦災後及び終戰後の混乱にまぎれ、地主が在米の借地権を無規して新規に第三者へ貸し、第三者がその地上に新築して居住しているので旧借地権者が復帰することができず、これらの者から右第三者へ建物收去、土地明渡しの訴訟を起し、現に係争中のものも相当多数あるはずである。立法当時の
考えでは、おそらく五箇年間には建築
事情も安定するであろうし、また前記のような紛争も片づいて、平常通りの
法律秩序が回復するものとの見通しから、一応五箇年と定めたのであろうが、その後のインフレーシヨンにより建築
事情はますます困難となり、また建物收去、土地明渡しの訴訟は、予想のごとく簡單には片づかない。そのうち存続特例期間がまさに切れようとして来たのである。もしこのままで放置すれば、本年七月一日以降において地主がその土地の所有名義を変更すれば、せつかく在来地に復帰しようと努力して来た旧借地権者は、單なる金銭賠償を受けるのみで(それも地主の無資力等のため
現実に賠償を受け得るかいなか、はなはだ疑わしい)もはや元の場所への復帰の道を絶たれてしまい、せつかく
法律が旧借地権者保護のために設けた前記條項が十分な効果を上げ得ないことになる。なお同法第
二條に基き設定された借地権の対抗力に関しては、
法律に明文なきため判例の解釈も二様にわかれ、イ、設定されたときに対抗要件を具備したものと解する。ロ、前記第十條の類推解釈により対抗し得ると解するものとあり、必ずしも一定していないところ、右第
二條第二項、第三項をめぐ
つて深刻な争いが続けられ、土地引渡しの本訴はおろか右臨時
処理法に基く借地権設定、條件確定の申立
事件すら未済係属中のものが多数ある現在、万一右、ロの解釈に落ちつくものとせば、それらのものはことごとくむだになるおそれあり、いずれにせよ前記第十條の五年の期間は、さきに同法第
二條の借地申出期間の一年を、二年に
改正伸長した権衡上より、少くとも二年間伸長する必要あるものと信ずる。よ
つて当局におかれては、右
法律改正案を第十通常
国会に提案し、万善の措置を講ぜられるよう早急に手配願いたく上申いたします。
これに対して
法務府は賃借人が永久に取得したものであるから、当事者間においては、権利の実体
関係は定ま
つている。二、
裁判所に係属している訴訟や調停に
関係ある賃借人のみのために立法することは、黙
つているが、さらに多くの国民を保護しないこととなり、その間権衡を失する。三、この対抗力は立法当時からおおむね五年間と限定して、借地借家問題に対策を講じて来た。結局期間延長の必要ないのみならず、訴訟係属中の賃借
事件のためにも
経過的
規定の必要はないと主張したのであります。建設省も、一、
都市の建築復興の見地から、建築敷地に登記のない借地権で対抗されては、第三者は土地買入れにいつまでも不安を感ずる。ニ、建築
事情の促進の見地から立法しないことを望むとの主張がありました。
最高裁判所は、一、
裁判所に訴訟や調停が係属中の
事件については、第十條の対抗力に基いて保護すべきである。二、しかし
経過規定として立法技術がむずかしいから、そのために訴訟
事件の終了時期が明確に見通しつけられないようでは、延長を望んでいないという
事情がわかりました
ここにおいて
法務委員会小
委員会は、
愼重に考慮した結果、次のような
方針を定めました。
第一に、
国会において、ぜひとも立法しなければならぬとの一般的條件は備わ
つていない。具体的にいえば、
裁判所の訴訟遅延のため賃借人が自己の責に帰すべからざる事由によ
つて、不測の不利益を受けるから、これを立法によ
つて解決しなければならぬというような
事情はない。
第二に
裁判所に係属している賃貸借
事件については、訴訟たると調停たるとを問わず、その
事件が終了し、その土地の上に建設を終り、登記を終るまで、同法第十條の対抗力を保持させねばならぬ。
第三に期間を一年なり二年なり延長する新立法は、同法第十條の解釈問題と離れて、貸借政策、
都市政策という政策の見地から取扱わるべきであるから、各党はその政策からこれを決定すべきである。
以上が小
委員会で立てた
方針であります。
翻
つてこの際この問題の特殊性について申し上げて御理解を得たいと思う。
まず
法律の專門家でも同法第十條については誤解を生じやすいのであります。たとえば一読しただけで賃借人の対抗力の根拠法は、今年六月末日でなくなるとか、あるいは訴訟係属中の
事件でも今年七月一日には根拠法が失効するので訴訟では敗訴するとか、はなはだしきは罹災
都市臨時
処理法は今年六月末日で廃止されるとかというぐあいに
考える人がありますが、そうではないのであります。その理由は次々に申し上げることにしますが、どうしてこんなに誤解を生じやすいかと申しますと、一は同法が臨時法と永久法との混合した中途半端な
法律であること、すなわち同法は戰災の臨時
処理だけでなく、後に地震風水害等の自然災害を入れたので永久法と
なつたことであります。その二は條文が五年間以内に取得した者に対抗力があると定めているが、漠然と五年間以内はと誤読するときは、先のような誤解を生ずるのであります。第十條の期間は登記のない借地人の対抗力を
規定しているにとどまり、この対抗力がなくな
つても民法借地借家法の対抗力の
規定はありますから、根拠法はなくなることはないのであります。いわば例外法がなくな
つて原則法にもどるだけであります。いわんや罹災
都市借地借家臨時
処理法が廃止になるというわけではありません。
そこで元にもど
つて法務委員会小
委員会の
方針につきまして申し上げますと、第二の
事項すなわち
裁判所に係属している借地借家
事件については、同法第十條の対抗力を確保せしめねばならぬことについて、これには
経過規定を立法せねばならぬか、立法しなくてよいかにつき
意見がわかれたのであります。しかし結局同法十條は五年以内に権利を得た者は永久に対抗力がある、玉年間だけ対抗力があるという意味ではない、
従つて民事事件において、
裁判所は口頭弁論終結後の現行法を適用して判決すべきであるから、その時の現行法は第十條の対抗力を保持している、一度得た第十條の対抗力は今年七月一日にな
つてもこれを失うことはない、このように見解の一致を見たのであります。と同時に七月一日以後土地の所有権が讓渡された場合に、賃借人は訴訟外にある新取得者に対抗できないので、訴訟には勝
つても経済的には損をする、すなわち賃借人は結局土地を訴訟外の新取得者に引渡すのやむなきに至り、損害賠償金を旧賃借人に請求するだけということになり、そしてこの救済問題は政策問題であるということに
意見の一致を見たわけであります。これより先に
経過的立法を必要とする
意見もあ
つたので、これに備えて
衆議院法制局に立案を命じましたところ、次のような條文案の
提出がありました。
第十條の第二項として次の一項を
加える。
前項の借地権に関して
昭和二十六年六月三十日までに訴訟または調停
事件が係属し、その訴訟の終局判決の確定または調停の成立により当該借地権の存在が認められた者は、前項の
規定にかかわらず、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これをも
つて、同年七月一日からその終局判決の確定または調停の成立の日以後六箇月を経た日までの間に、その土地について権利を取得した第三者に、対抗することができる。 これを小
委員に配付して参考に供したのであります。かくて三月十七日号最終の小
委員会を開きました。自由党から
経過的立法を設ける必要はない、また期間を延長することも
都市復興の見地から必要ないとの
意見が開陳されました。社会党から借地人保護のため一年間くらい延期すべきであるとの主張があり、共産党から前述の
経過的立法の條文を支持する発言がありました。結局多数をも
つて経過的立法をしない、すなわち罹災
都市借地借家臨時
処理法は、この際
改正しないことに定ま
つた次第であります。右御報告申し上げます。