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田中参考人 せつかくの
犯人を逮捕いたしながら、遂に
留置場の中において
犯人が
自殺をいたしましたことにつきましては、私といたしましてもまことに申訳なく考えておるのであります。今回の
事件におきまして、
山口が、これは擬装かどうか存じませんが、死にたいと
言つてお
つたことは再三再四でないのでありまして、彼は何か他の者から、君がや
つたんじやない歩というようなことを冗談に言われますと、彼は、
自分はここまで協力しておるにかかわらず、そんなに皆さんが私を疑われるということは、まことに残念である、
自分は死んでしまいたいのだということを常に
言つてお
つたのであります。かような
関係からいたしまして、十日の午後九時四十分ごろ、
逮捕令状を
執行いたしまして、ただちに
本人の取調べにも当
つたのでありまするが、非常に
本人が疲れておるから、明日一切を
お話し申し上げたい、今日は疲れておるから、ぜひ今晩は寝かしてくれ、かようなことを言いますので、係官といたしましても、
本人は大分疲れておりまするし、若干酒も飲んでお
つたようでありますので、正確なる陳述、正確なる
自供を得るためには、なるべくそうした状態にないことを希望いたしましたので、そういう場合におきましては、
警察といたしましても、当然
容疑者の要求をいれまして、明日にこれを延ばすようにいたしたのであります。その際に、
普通容疑者を
留置場に入れる場合におきましては、
警察官等職務執行法の
規定に基きまして、
容疑者の
身体捜検をいたすのであります。これは主として、
兇器等を持ち合せまして、房内で
自殺をしたり、あるいはまたその他の
行為をなすおそれがありまするので、
兇器の
所持あるいは
劇毒薬物等の
所持を十分に点検するために、
身体並びに服装の
検索をいたすのであります。
山口につきましても、これは
平素山口がそうした死にたいというようなことを、ほんとうかうそか知りませんが、そういうことを
言つてお
つた関係もありまするので、
捜査当局並びに
築地警察署といたしましては、細心の
注意を払いまして、まず
衣服を全部とりまして、この
衣服の縫い目あるいはそのほかの
劇毒物等が隠匿されるおそれのあるようなところは一切これを
検索いたしたのであります。それでなお一応
本人の
承諾を得まして、さるまたのひものところまで全部これを手で繰りまして、何か
薬品等が入
つておりはせぬかということで、さるまたまでとりまして
検索をいたしたのであります。それからなおさらに他にからだの各所に毒物が隠匿されておるのではないかということで、
懐中電燈をもちまして、鼻腔、わきの下、その他
薬物等の隠されやすいような場所を詳細に点検いたしまして、そして大体異状を認めませんので、一応またもとの
衣服を着せまして、房に入れたのであります。
翌日の午前四時過ぎごろでありまするが、
山口は絶えず
看守係の
巡査に時間を聞いてお
つたそうであります。
築地警察署といたしましても、特に重要なる
犯罪の
容疑者でありまするがゆえに、普通ならば
看守三人で
監視をいたすのでありますが、当日は特に
制服の
巡査二名を増員いたしまして、一人の
制服の
巡査を第四房の前に常時坐らせまして、一挙一動を見守らしてお
つたのであります。午前四時ちよつと過ぎごろ、また時間を、何時でありますかという
質問がありましたので、
看守巡査から、今四時過ぎだということを言いましたところが、間もなく
容疑者山口は
毛布をがばつと
自分の顔におお
つたのであります。そこで
看守巡査はそれというので、すぐ錠をあけまして、
山口の
毛布をはぎとりまして、
山口をゆり起しましたところが、両方の口よら少量の血が流れておりまして、舌をかみ切
つたような形跡がありましたので、ただちに同僚を招集いたしまして、
手ぬぐい等を口の中に詰めまして、さらにかみ切ることを防止いたしたのであります。
巡査としましては、そんな、死ぬ必要はないのだと言
つたときに、
山口もうなずいてお
つたそうでありまするが、ただちに
警察医を呼びまして、その
手当をしておるうちに、これは舌ではない、毒薬を飲んでおるに違いないというので、その
手当をいたしてお
つたのでありまするが、漸次脈も弱りまして、五時過ぎについに息が絶えたのであります。
そこでその
劇毒為の
検索につきましては、普通の
容疑者以上の精密、細心、周到な
注意をもちまして、一応
検索をいたしたのであります。もちろんこうしたことにつきましては、
警察といたしましては異例に属することでありまして、
本人の
承諾の上でかかる徹底的な
検索方法をと
つたのであります。そしてなお
監視につきましても、特別に警部を宿直といたしまして、その下に増員いたしまして、二名の
警察官を一時間交代で監房の前で
監視をさせたのでありまして、まず
警察といたしましては、普通の常識的に考えられる以上の特別細心なる
監視方法は講じてお
つたものと考えられるのであります。しかるに今回
山口が
自殺いたしたのでありまして、しからばその劇薬はどこに
所持してお
つたか、どういうものであ
つたかということでありまするが、
死体解剖の結果、胃の中から〇・一四から一五グラム
程度の
青酸カリの容量が
検出されたのでありまして、もちろん
致死量をオーバーいたしたのであります。しかしながら、私
どもは
しろうとでよくわかりませんけれ
ども、〇・一四
程度の
青酸カリと申しますると、大体
米粒大くらいではないかと考えられるのでありまして、この
米粒大かあるいは
米粒二粒くらいの
薬品を、しからばどういう
方法で持
つてお
つたかというのでありまするが、これもすでに
本人が死んでおりまするから、われわれとしてはただ
想像で
お話をするほかなかろうと考えておるのでありまするが、あるいは
本人がこの口の上の方にこれを含めてお
つたのではないか。当日
逮捕令状が出ましてから、
黙秘権を行使して全然沈黙を
守つてお
つたという点、それから入るときに二言三言話したほかは口をきかなか
つたという点、そういう点で、
上あごのどこか奥の方に小さなセロフアンに包んだものを含んでお
つたのではないか、これも
一つの
想像であります。いま
一つは、はなはだこういうことを申し上げてどうかと思いますが、小さいものでありますから、あるいは
肛門の中にでも、そつと押し込んでお
つたのではないかということも、
あとから考えられるのであります。
捜査中に、かれはいすにすわ
つてお
つたときに、少しからだをもじもじしてお
つたということも、
あとから申す者もあるのでありまして、そうい
つたところから、これは一応
想像でありますが、
肛門の中にでも差込んでお
つたのではないか。これも
一つの
想像でありますから、断定的にそうだということは言えないのであります。こうした場合におきまして、
普通身体検査をするにおいて、
身体並びに被服の
捜検をするのでありますが、かりに
警察官が素裸にしまして、
肛門の中まで検査するということは、
警察官として
行き過ぎでありまして、また大きな口をあけさせて、中までつつ込んやるということも、これも私は
身体捜検の
方法としては
行き過ぎであるのではないかと考えるのであります。しかしそうした中にかかわりませず、
築地警察署としては、相当
警察官の職権として行き得る
程度まで、こまかく徹底的な
検索をいたした上で、しかもかような結果にな
つたのでありまして、この点につきましては、私
どもも、まだ十分に、今後もこれを
参考にして研究いたさねばならぬと考えておるのでありますが、やはりこうした重要なる
犯罪容疑者の
身体捜検につきましては、何か
法律をも
つて規定をいたしまして、
警察官等が十分に自信を持
つて身体捜検をするような
法制が必要ではないかということも一応考えられるのでありまして、ただいま
猪俣委員から、しからば
責任の問題はどうなるかということでありますが、とにかく
容疑者を殺した事実は、これはもう
はつきりした事実でありますので、さらにもつ
とつき詰めまして、
本件を取上げまして、詳細に
調査いたしました上で、その
責任の所在を
はつきりとして、適当な措置をとりたい、かように考えておる次第であります。