○五藤
公述人 私は
東京商工会議所理事後藤斉三であります。本日は午前、午後にわたりまして、たくさんの方々から新しい
計量法案に関しまして、賛否両論が多々おありに
なつたことと存じますので、私は商工
業者の総合団体であります商工会議所を代表いたしまして、大局的の
意見を申し述べさしていただきたいと存じます。
メートル法を基底といたします新
計量法の精神に関しましては、すでに学術的、理論的にはもう論値上盡されたことのように
考えておるのであります。
メートル法はすべて十進法によ
つておりますので、その取扱い方の簡素さと、それによ
つて来りますところの高い精度を保つことができる、こういう
二つの点からも、理論的には私ども全面的に賛成でありまするが、戦後当局におかれましてこの
計量の制度に対しまする政策がはなはだ私はなまぬるか
つたではないかと存ずるのでありますが、その結果せつかく戦前、戦時中を通じまして、よき
メートル法が非常に普及をいたしておりましたのに、戦後非常にこれが逆行した、こういうことを痛感するのであります。先日来数回にわたりまして、商工会議所におきまして、この問題の懇談会を開いたのでありますが、本日多くの方がお述べになりましたでありましようように、やはり私どもの会合でも賛否両論がごうごうとあるのであります。実際社会
生活に密接な
関係を持
つて商工業に従事をしておられる方々は、とかく即時施行を反対せられる傾向が多いのであります。また
機械工業的、あるいは学術的な
方面に
関係あります方々、あるいは言論、思想的な
方面の方々には賛成の御議論が多いように思うのであります。
戦後の実情ははなはだ混乱をいたしておるように思うのであります。たとえば百貨店協会などの
意見を、実は昨日も聞いたのでありますが、百貨店におきましては
メートル法に古くから賛成をして、
メートル法の普及に盡力をいたしてお
つたようでありまするが、戦後にたりまして、どうもこれが混乱をいたして参りまして、尺貫法によ
つての取引が非常に多くな
つて来た、たとえば布地の生地の取引におきましては、製造元からは
メートルで送
つて来る、お客様はどうもそれをヤールでお買いにならなければ
承知をしない、こういう状態でありますので、店では非常に取扱い上困る。それでせつかく戦前、戦時中を通じてとりそろえました新しい
メートル法による
計量器も、現在では多くの百貨店では裏の方にごみにまみれて放置してあるような状態でありまして、戦後、さらに尺貫法を併用した新しい
計量器を、新しく仕入れてそれを使わなければならぬというようにな
つておる。そういう
方面からいえば、便利の点からいえば、
統一せられる方が非常に望ましいが、顧客本位からいうと、急激にこれを使わなければならぬということになると、お容様に非常に不便をかけるので、たいへん困るのではないかというような反対論もありましたようなわけであります。さらに最近の、例の日米
経済協力等が論議せられております今日、昨年の朝鮮事変の発生以来
日本に
経済的に大きな恵みを垂れました特需の面から、
日本に発注せられます
機械、器具類は、大体
メートル・システムではないのでありまして、いずれもインチ制をと
つたものが発注せられておるようでありますが、
機械のネジなど、自動車工業に関するものは、もとよりでありまするし、か
つて日本の軍国はなやかなりし時代に、いろいろ模倣をしたくて、向うのものを取寄せましたものでも、アメリカから参りましたものは、飛行機でも、その他の
機械でも、何でもネジはインチ制である。ただドイツのものがフランスの亜流をくんだ
メートル制でありまして、理論的には
メートル制が非常に合理的であり、糖密度を保持することができるというので、
日本の軍部は
メートル制に
統一をしたいというので、非常に
努力をしたのであります。ところで終戦まぎわにな
つて参りまして、軍の生産が非常に足らなくなりまして、中小工業、いわゆる町工場を利用することになりますと、町工場には
メートル制の
機械がない、古くからインチ制の
機械ばかりを持
つておるということで、どうしても軍需生産が進まぬということで、せつかく制式をかえたものでもインチ制にして軍の制式をあともどりをさせたというようなこともあ
つたのであります。戦後におきましては、この制度が比較的放置せられておりました間際に乗じまして、と申しますか、非常に逆行いたしまして、
先ほど申しましたように、
ヤード、ポンド法と尺貫法とが使われておる実情であります。ことに特需、新特需におきましては、インチ制のものをどんどん発注をせられて、日米
経済が将来その
方向に大きく伸びて行かなければならないと
考えられます今日、非常に、理想的にはいいと思われますが、
メートル法を急速に施行を強行せられますことは、一考を要するところではなかろうかと思うのであります。こういう社会
情勢にかんがみまして、なるべく摩擦を避けて、漸進的に
メートル法に転換せられますような施策が
法案の中に盛込まれることが必要ではないかと存ずるのであります。この
法案を拝見いたしてみますと、土地、建物に関しましては、
昭和三十三年末日限りの併用期間をなお保留せられてあるようでありますが、たとえば
機械のネジ山等のような特殊のものに関しまして、それらを測定いたしまする計測器等に関しましては、この保留期間を土地、建物に準じまして、なお保留をする必要があるのではないかと思います。救済規定といたしまして、学術用のもの、あるいは
輸出産業に関するものは、この規定から除外する、あるいはそれらのものの基準になります基準計器に対しては、三十三年以後においても
検定をするというふうにな
つておりまするけれども、日米
経済協力が進みまする結果、国内において多数の
機械が使われて、その
機械を使うためにいろいろの計測をいたしまする必要があることから
考えますと、できた
品物の除外例だけではいかぬのではないかと
考えるのでありまして、これらの点についてひとつ思いをいたされまして、十分なる御
審議をなされませんと、せつかくの日米
経済協力も、ただ
日本の
産業の衰退というような結果に終るのではないかと懸念をいたすものであります。その他の大局の面におきましては、私はこの
法案に賛成を申し上げるものでありまするが、これの適用のやり方に関しまして、
先ほど佐藤さんでありまするか、お触れになりましたように、現在の
度量衡の
検定のやり方は、これにかかりまするものは、ロー・クラスのものもハイ・クラスのものも一律に
検定を受けなければならぬことにな
つておるのでありまするが、学校教育等に使いまする、ごく低精度のもの、すなわち取引、証明に使いませんことがわか
つておりまする
品物は、私はよろしく
検定から除外すべきではなかろうかと思います。今日度器の中に、デパート等へ参りますと、セルロイド製品に目を盛りまして、そこに数字を書いてありませんものが除外せられておるものがたくさん出ておりますことは、御
承知の
通りでありまするが、これらも決して非常にいかさまなものが横行しているということはないと思うのであります。大体ミリの目盛でありましたり、あるいは貫の日盛をつけたものでありますが、これに数字を入れてないということで除外をせられておる、こういうことから
考えまするならば、それらに準ずる教育用の
計量器は、教育用に使用をして取引、証明には使用することができないということを明示せしめて、これを
検定から除外するということが望ましいのではないかと思います。今日の検事制度におきましては、非常にたくさんのものを
検定なされますので、ややともすると、精度そのものはよろしいのでありますが、実際ははなはだしいインチキの行われておることをよく耳にするのであります。すなわち低精度のものになりますと、多量を持ち込みますと、めんどうがられまして、
検定せられる人が、持ち込んだ人々に、お前が
検定印をついておけというようなことで済まされる、あるいはそれらを長く預か
つておいていただくうちに、一束紛失したというようないろいろな弊がありまするように開き及ぶのでありますが、これはみそもくそも一緒にして
検定するということから起る弊ではなかろうかと思うのであります。よろしく低精度のものは、この用途を明示して除外をするということが望ましいと思うのであります。その反面におきまして、また非常な高精度のものも一律の
検定を受けることに今度の
計量法案がな
つているように思います。すなわち新
計量法案に盛られました度器の中に、経緯儀とか六分議、八分儀というようなものがあります。これは光学的な高情度の測定器であるのでありますが、おそらくこうい
つたものの精度を測定するような設備は、今日の
度量衡検定所にはないと、私は確信をいたします。これらのものは単に角度の目盛が正確であるばかりでなく、それを構成している
機構全体の精度が非常にものをいうのでありまして、たとえば軸の振度がどうであるとか、あるいは光学的なレンズの精度がいいとか悪いとかいうことによりまして、その器械全体の器差が生じて来るのでありまして、これらはむしろ現在の
度量衡検定のそとに置かれまして、アメリカにおけるビューロー・スタンダードのような他の非常に高情度の
検定をする機関をつくられまして、これらによ
つて高度の
検定をせられますか、あるいはドイツ等で行われておりますように、その製造工場の
検査設備を厳重に
検査せられまして、特殊の高精度のものに対しては、その工場の自主的
検査に信頼をしてまかすというような、
二つの方法が必要ではないかと思います。すなわち現在のような
度量衡検定制度におきましては、社会の汎用の
計量器に対しまして、一定精度の正確さを保持さすということが望ましいのではないかと思われるのであります。それ以下のものは除外し、それ以上のものは特別の精度保持をはかられるような高度の
検定をする、こういうことが望ましいと思うのであります。この
法案を拝見いたしますと、多くの制裁規定等も盛られておるようでありますが、
先ほど尺貫法の保存の御
意見を承りましたときにも感じましたことでありまするが、
国民生活に長年月にわた
つてしみ込んでおりまする尺貫法を、早急に強権をも
つてこれをかえようといたしましても、なかなかうまく行かぬと思うのであります、たとえば暦の例を申し上げまするならば、明治四年に太政官布告をも
つて、今後太陽暦を使うということを示されまして以来、今日まで七十有余年を経過したと思われますか、いまだにいなかに参りますと、農耕のための種まきや収穫にはやはり陰暦を使う方が便利だとして、これが使用せられておることは御
承知の
通りであります。でありまするが、お前は陰暦で種をまいたからいけない、陰暦で刈入れをしたから、これは反則であるから処罰するというようなことを
考えますると、これは社会の混乱を来すことでありまするので、尺貫法の存続の面におきましても、相当の長い目でこれを啓蒙教育の上から、だんだん簡素であり新しい高性能である
メートル法にかえて行くということを、
政府みずから
努力せらるべきで、はないかと
考えます。