○金子
公述人 今般
政府は
租税負担の
軽減並びに合理化、
税制の
簡素化をはかるとともに、
資本蓄積を助成しようといたしまして、
所得税、
法人税等につきまして
税制の
改正と行い、この新年度から実施をするように考えられておるようであります。さらに重ねて資産の再評価を行い得るように
措置がなされるように聞いておるのでございます。私は産業界の
立場から、これに対して少しく私見を述べてみたいと思います。
今回の
税制の
改正は、
税制な根本的な
改正にはほとんど触れておりません。そして
減税的な面を見ますと、七百億円
程度の
軽減がするということが言われておるのであります。これはもちろん実際に七百億円の
減税はなされるでありましようが、ただこれがはたして国民の生活を楽にする結果が出るか、出ないかということは別問題でありまして、本年は物価騰貴も非常に予想されますので、おそらく物価騰貴によ
つてこの
減税の恩恵は相殺されるのではなかろうかということが考えられるので、これは税の
計算においてもひとつ
考慮に入れなければならぬのではないかと思います。一方国の税收入の絶対額は、昨年とあまりかわりがない。というのは、これは七百億を
減税はいたしましたものの、物価騰貴によりまして国民の
所得が増大し、これに対して自然増收が期待されますので、結果としては
租税收入としてもありまり前年度にかわりがないというものになるのではなかろうかと思うのであります。
それは別といたしまして、まずこれを
所得税の面から今回の
改正について考えてみますと、
基礎控除あるいは
扶養控除というものが
引上げられましたり、
最高税率五五%の適用が五十万円から百万円に
引上げられたり、さらに
生命保險料を二千円まで
控除を認めるとか、
預貯金の
利子等の
源泉選択課
税制度を設けるとかこれはいろいろの点から申しまして税の
軽減並びに合理化あるいは
制度の
簡素化をねらつたものであろうと思います。これについてはまず
改正前のものに比べれば、一段とこの目的が達成せられているように思うのであります。しかしその問題としては確かによりよく改善されたと思いますけれども、それではその結果、中産階級と考えられる
程度の税
負担が、はたして現在の実情とにらみ合せてどの
程度になるかと言いますと、まず二十万円超から三十万円くらいで四〇%くらい、しかもそれに
地方税を入れますと四七・二%、三十万円から五十万円の
所得者は四五%になりますが、さらに
地方税を入れますと五三・二%となります。これを見ますと、大体中産階級と考えられる
程度の
所得は、半分は税のために持
つて行かれるというのでありまして、これで資本の蓄積等のことを期待することは、はなはだ困難ではないかと思います。
従つてこのような改善は、さらに一段と推進されなければならないと思うのでありますが、それは今後の財政上の必要というものとにらみ合せて、できる限りさらに努力をしてもらわなければならないと考えております。それに
勤労所得の問題につきましては、先ほどもお話があ
つたのでありますがこれはいろいろの問題はあろうと思いますが、現在の勤労
控除一五%、
最高が三万円という
程度は、私はまだ低いと思います。これはできる限りにおいて
引上げる必要があるように考えております。結局国民生活の安定並びに勤労意欲の高揚と民力の涵養による自主的の
資本蓄積に資するためには、このような問題は、一応取上げられた限界以上に、さらに考究されてしかるべきものと考えております。
ただ今回の
改正には入
つておりませんが、私としてぜひお願いしたいのは、退職金に対する
所得税であります。この退職金と申しますのは、これはおのおのの
立場からいろいろ考えられております。あるいは功績に対する褒賞金と考えられるもの、あるいは賃金のあと拂いと考えられる場合もあります。それから退職後の生活資金であるというふうにも見られるのでございます。これらの論議はいろいろありましようけれども、結局はそれを受領いたしますところの退職者の
立場からいたしますれば、これは退職後の生活費に充てられるとか、あるいは子女の教育に充てられる等、まつたく切実な資金としてこれが運用される場合が多い実情でございます。
一方わが国においては社会保障
制度にまだ多くの責任を期待することができない実情でありますので、
企業といたしましては、これらの社会的な
負担を一
部分課せられているというふうにも考えられるのであります。
従つてこの退職手当のごときものを、普通の給與と同様に
課税するということは、私はいけないのではないかと思います。実情を申し上げますれば、これらの退職手当に対しましても、現行法では給與
所得の上に上積みといたしまして、高率の
課税が行われております。そして退職時期を異にすることによりまして、手取りの退職手当に著しく相違が出ずるのでございます。
それから三番目には、
課税の
計算方法が五箇年の変動
所得として扱われて
計算がいたされておりますので、複雑でありますために、退職者は手取り退職
金額を的確に予知することが困難であります。かくいたしまして、これらの問題につきましては、ともかく退職者の
立場に立
つて考えますれば、普通の給與
所得と同様に扱われることは、はなはだ私は遺憾な点が多いと存じますので、こういうようなものにつきましては、特別の
措置が講ぜられてしかるべきだと思います。もちろん他との均衡もありまして、これに対して免税
措置というところまで取上げられないならば、せめてその半額を
免除して、そしてその残りの半額に対しては、低率な
課税をするとかいうような、何らかの形においてこの問題が他の一般給與
所得と異
なつた特別
措置によ
つて課税されることをぜひ実現していただきたいのであります。
それから
法人税のことについて触れてみますと、これはかねてから経済界から要望せられておりました普通
法人の
積立金の
課税二%が廃止されまして、この問題は、理由は
シヤウプ勧告において
利子賦
課税のごとく言われておりますが、実質的にはやはりこれは資本
課税の感じが強か
つたのであります。そのことがこの際廃止されたことは、
資本蓄積の面から見ましても最も適切であろうと思います。さらに新規設備に対して三箇年間減価償却の五〇%
増しの処置が講ぜられたことも、
資本蓄積の面から見て同様に適切な処置と考えられるわけであります。ただこれらの今回の
改正以外に、先ほどの
所得税において退職手当金に対して特別な税の
軽減を望みましたように、この
法人税の場合におきましても、退職金の
積立金に対する
課税はぜひやめていただきたいと思います。各
企業ともこの退職金につきましては、労使間においていろいろ退職手当規則等もありまして、お互いに契約事項にな
つておる面もありますので、本来ならば当然その支拂う時期は、本人の退職したときでありましようが、会社としてのこれに対する支排い義務の発生というものは、毎期々々相当額生じていることは間違いないのであります。しかるにこれらの
積立金をいたしますればこれに
課税されますので、
従つてこれらの
積立金を躊躇する向きもありまして、多くの場合一般の経費としてこれが支弁せられているようでありますが、これは
企業の経営の健全化という点から見ても、また現在急務とされております
資本蓄積というような面から見ましても、ぜひともこれが免税
措置が講ぜられて行くべきであろうと思います。そうしておけば、一方従業員の面から見ましても、これに退職手当の支拂いの期限が確保されるような感じが強うございまして、この不安が一掃されるということ、またこれは勤労意欲の高揚の面においても間接的な
効果があるものと考えられるのであります。現に米国においても、この従業員の年金
積立金については非
課税であるということを聞かされておりますが、これらの点も
考慮に入れますれば、この免税
措置は別に大した不合理ではないと私は信じております。
なお
企業といたしまして、設備の修繕維持ということは相当大きな問題だと思いますが、先般貸倒れ準備金に対しまして免税の限度がきめられて、これに対して特別
措置が考えられたのでありますが、この修繕費の引当金
制度というものをぜひ確立さしていただきたいと思うのであります。それは修繕費が單に通常の補修の範囲において毎期平均して出るような
企業はまずよろしいのでありますが、修繕の場合には多額な修繕費を一時に支出しなければならない、しかもそれは資本的な支出と考えられないというような問題もありますので、これらの面につきましての準備の面から見ましても、また一面
資本蓄積の面から見ましても、この問題についてはある一定限度を画しまして、貸倒れ準備金同様の
措置が講ぜられて修繕費引当金
制度を認めていただきたいというふうに考えるのであります。現に
法人税法施行規則第十五條で
船舶に対する修繕の引当金が認められておりますので、これらの問題を拡大して
考慮していただけばよろしいんではないかと考えるのであります。
それから次に資産再評価の特別
措置に対しまして、一言
意見を申し上げてみたいと思います。昨年資産の再評価が行われまして、当時八月までに
企業はそれを実施するかしないかを決意いたしまして、これを今回限りで打切るという法的
措置にこたえなければならなか
つたのであります。私は昨年の衆議院の
公聽会で同じような
意見を求められましたときに、これは非常に無理であると申したのでございます。というのは、
企業がまだ收益について安定した感覚が非常に少いのでありまして、赤字
企業もいつ黒字になるかよくわからない。また黒字
企業もいつ赤字に転換するかわからないというような問題も非常にありましてこれは
最高限度額を八月までにきめることはよろしいが、その実施は少くとも三箇年くらいの間にこれを実施せしめるように彈力性を持たせなければ、なかなか踏切りはつかないであろうということも申してみたのでありますが、しかし法はそれにかまわず、八月で締め切
つてしまつた。ところが、その結果といたしましては非常に低調でありまして、さらにその結果を見ますと、
法人のうち六七%しかその再評価を実施した会社がないというようなことも言われているのであります。しかし、その後、朝鮮動乱の影響が
企業の收益を好転せしめましたので、ますますこの問題についてもう一ぺん再評価をやらしてくれという要望が出て参りましたので、その要望にこたえまして今回第二次再評価が取上げられたと思うのでありますが、これは初めから再評価そのものについては強制をしてよいくらいの合理的な
措置である。
企業の收益力がこれに伴いますならば、これは本来の筋からい
つては当然どの
企業に何回機会を與えましてもさしつかえないのだと思いまして、今回の
措置については、その面においては何ら
意見はないのでありますが、ただ今回の
措置が、おそらくや條件としてはまつたく前回と同様のことにおいてこれを行わんとするようであります。すなわち昨年バスに乘り遅れた
企業だけを、もう一台同じバスを出してこれに乘らせようという
程度の処置のように考えますが、
シヤウプ勧告においても、物価が一割五分以上騰貴した場合において、この再評価を再度やらすことの可能性も申しておるようでございますが、昨年に比べまして物価はすでに三割以上騰貴しているのでありますので、この際收益力の高い
企業からは、やはりこの限度額をその比例において
引上げて、再々評価と申しますか、第二次再評価を許すべきであろうという議論が出ていることは、傾聽すべきであろうと思います。なお、昨年度その再評価をやりました結果が、非常に低調であつたということの原因をこの際究明いたしまして、この第二次再評価を許さなければ、結局はまたそれからの原因にはばまれまして、結果としては同じようなはなはだ低調な結果を招くのではないかというような感じがするのであります。そこで、その原因と考えられるものを少し拾
つて見ますと、再評価税六%の問題でありますが、これはぜひともこの際半分くらいに
軽減したらばよろしいのではないかと思う。というのは、昨年この六%の税をとりまして、昨年度にその半額を納付せしめておりますので、その未納付分三%の範囲においてはその
減税措置も考えられる余地があると思うのでございますが、とにかく昨年のこの再詳価税をとるかとらぬかについてはずいぶん議論があります。しかしながらこの再詳価を認めて
法人税が激減するということは、財政上の面から見ておもしろくないのでありますので、これが
一つの補完税とも考えられる面も多分に含んで、この再詳価税六%をとつた。しかしながら今年は先ほども触れましたように、
国民所得の非常な増大を予期され、
従つて自然増收もありますので、これらの面はこの方面において相当カバーされると考えますから、この際この再評価税を三%
程度に
軽減していただくことが、再評価をなおよりよくさせる上において、大きな力が出て来るのではないかと考えます。そうして昨年は再評価をして原価償却を
増して、適正なる原価が増大すると考えておりましたのに、これに対して公定価格の改訂は行わないということをはつきり言われましたが、これははなはだしき矛盾でありますので、今回はこの再評価をいたしました場合におきましては、現在公定価格は全面的に廃止されんとする傾向にあるときでありますので、なおさらのことこの公定価格は、当然これによ
つて改正せられてしかるべきものと考えるのであります。それから公共事業というような類似の
企業にありましては、この再評価の時期並びに再評価税の延納ということについては、特に留意していただかなければ、これらのことは実施はできないと思うのであります。すなわち電気、ガス、鉄道等の公益
企業につきましては、その増加償却額が、料金、運賃等に織り込む
措置が講ぜられまして、これが可能になるまでこれをぜひとも延ばしていただくか、あるいはこの再評価税の延納を認めて合理的解決をしなければ――これは公益
企業というものこそ再評価をさせたいのでありますが、これらのことを可能ならしめる点については、どうしてもこのような
措置が伴わなければならないと考えます。
それから固定資産税の問題がこの再評価をにぶらしておりますが、この固定資産税のうち、特に償却資産、
機械等の償却可能の資産につきましての
税金などが、やはり相当高い、しかもこの再評価の限度額から七〇%
程度引いたところで、
課税基準を設けております。現行法では七%以上再評価をやることは、固定資産税の
負担もそれだけ多くなるということによりまして、相当この面を躊躇せしめておるようではありますので、償却資産に対する固定資産税の廃止もしくは
軽減という点は、非常に困難な問題ではありますが、十分
考慮されてもよろしいのではないかと思います。
それから償却不足額の繰越しを認めていただきたいと思います。従来は耐用命数が延長する形においてその償却不足額を認めておるのでありますが、今回この超過
所得税もなくなりましたし、損金の繰返しも五箇年認められるようになりましたので、今期なし得なかつた償却率は、随時收益力が、これをなし得るようになりましたならば、この償却率の実施ができるようにこの繰越しを認めていただきたいということが、各方面で希望されております。こういたしますならば、この再評価をいたしまして、もしも
企業が所期のごとき收益が存続できなかつたり、あるいは期待したような收益が実現しなくても、この操作は、この面において十分彈力性を持つことになりますので、相当大胆にこの再評価をとり上げて、従来のごとき資本食いつぶしを是正し、架空利益に対する
課税を廃止するという
予算的な
一つの
措置が
国家の
企業に実施できまして、大きくは
日本の
再建に寄與するものと考えております。
それから
積立金の資本金繰入れの問題は、直接
税法とは関係ないようでありますけれども、この問題につきましては、やはり
日本の
企業の大
部分が病人でありましてこれらの実施を
企業の自主にまかせましても、おそらくこれをなし得るところの
企業は、増大したところの資本に対して配当金その他を顧慮して参りますと、なかなかないのではないかと思います。
従つて高收益の
企業にと
つては、相当合理的な
積立金の最後的処置の実施でありますけれども、全体としてはこれに対してやや関心が薄いのでありますが、しかし自主にまかすという以上は、でき得る
企業にさせるのであ
つて、できない
企業はしなければよいじやないかという議論も反面あるのでありますが、しかしやはり間接的影響を受けることを
考慮されて、收益力のにぶい
企業においては、非常に消極的のようであります。ただこれらの点で、
一つわれわれが重大に考えておりますのは、かりにこれらの
措置を許しまして、この大
企業にして、しかも收益力のある
企業がこれを資本に繰入れ、これに対して無償株を交付した場合において、その
企業自体におきましては、非常に合理的な処置でありましても、これが市場に競合することになりました場合には、はたして現在の株式市場において、これらの無償株、これは交付するときだけでありまして、一たび株主の手に無償株が渡
つて、再びこれが市場に売り出されるときには、有償株にかわるのでありますから、この有償株を吸收するだけの能力が株式市場にあるかどうかということが、非常に問題であります。もしもなかつた場合には、この有償と
なつた無償株の氾濫によ
つて実質的の増資が阻害されたり、また株主に有利であるとして無償株を交付したものが、かえ
つて株価の思わない下落によりまして、案外損を與えるということがあるかどうか、これはわれわれとしても、想像がなかなか
簡單にはつかないのでありますが、この点は一応愼重に
考慮してみなければならない問題だと思
つておるのでございます。
時間も参りましたので、あと二、三、
簡單に申し上げますと、次は固定資産の耐用命数の改訂の問題につきましては、
大蔵省におきましても、
協議会を開き、また財界におきましても、
日本租税研究協会並びに経団連等におきまして、真剣にこれを目下検討中でございますが、これはややもすれば物理的耐用命数にひつぱ
つて行かれがちでございますが、この際経済的の耐用命数というものを十二分にこれに組み合せまして、いわば合理的な耐用命数をつくり上げて、この
改正によ
つて少くとも従来のような不合理なを一掃できるということを、われわれとして大きく期待しておる次第であります。これはまだ成案もできておらぬようでありますので、この際御遠慮いたしたいと思います。
それから最後に株式譲渡差益税の問題でございます。これは一般の
企業といたしましても、増資ということによりまして、自己資本の拡充をはかり、また社債等によりまして、これまた同様の
措置を講じたいということが、現在の念願でありますが、しかしこれが円滑に行きますためには、この株式譲渡差益税の問題が、大きくからまつでいるのではないかと思います。株式の譲渡差益というのは、もうか
つて所得があるものに
課税をするのは当然だと思いますので、この点を云々する意思はございません。ただ株はもうかつたときに
課税するならば、必ず損したきに、それだけ税の
負担を
軽減すべきだと思いす。ところがこれは短期においては多少その点は諦められているようでありますが、税の面から見ますれば、必ず株というものは売買の土に損する人もあれば、また反面得する人もあるというようなぐあいで、結局これを完全に行えば税收入というものは期待できないのではないか、また個人的にい
つても株などというものは、必ず利益があるときまつたものであれば、だれも彼も株式の売買をいたすでありましようけれども、これは損をする人もあれば大きく得をする人もある。これは同じことであります。こういうふうにな
つて来る税であります。しかも今問題にな
つているのは、これらの理論は別といたしまして、実際面においてなかなかあの厖大な取引を完全に
把握いたしまして、これに
課税を適切にするということが困難であるという実情から考えますならば、これは
課税をしないということは不適正でありますので、
課税をするならば、最もこれをすつきりした
税制に持
つて行つた方がよいのではないか。それにはこの株式譲渡の移転税というような形式でも
つて源泉徴收するような形においてこれを処置された方が一番よいのではないかと考えるのでありまして、その点はひとつ当局においても今後研究せられるでありましようし、また株式市場においても相当間顕現しておるようでありますから、いずれ何か成案ができるものと考えておるのであります。以上はなははだ
簡單でありましたけれども、所見の一端を述べた次第であります。これをも
つて終ります。