○
平田政府委員 漁業権の
課税問題につきましては、
事情が大分錯綜いたしており
ますので、
主税局といたしましても、
水産庁の御
説明をよく承りまして、研究して参
つたわけでござい
ます。なるべく早く結論に到達するつもりで研究をいたしておるのであり
ますが、なお若干の点で未決定の
事項等がございまして、まだ本案の最終的の
意見を申し上げることができないのでござい
ますが、前提といたしまして、
お話の
一般の原則
通り行くと、はたしてどうなるかという点をまず御
説明申し上げて、それからさらにどのような特例を講ずる必要があるかというような問題を
考えた方が、話がわかりいいと思い
ますので、
一般的な点を先に御
説明申し上げたいと思い
ます。
一般的な問題といたしましては、
個人が
漁業権を持
つている場合、それから会社が持
つている場合、それから
漁業会、
組合等のいわゆる
漁業者の団体が所有している場合、この三つの場合におきまして、それぞれ若干
違つた課税関係になるということでござい
ます。まず
個人の場合でござい
ますと、第一にこれは
ほんとうの
損失補償だけにすぎないので、
漁業権の
一種の譲渡ではないという見方もあると思うのであり
ます。その辺は純粋法律的な見地から行き
ますと、いろいろ
議題があると思い
ますが、まず
一般の常識でさらりと行き
ますと、これはやはり
一種の
強制讓渡と申し
ますか、それに類似のような
関係がよほど強いのじやないかということも
考えられ
ますので、一応
強制讓渡としてどういうふうになるかということを
考えますと、結局
所得税の問題と再
評価税の問題と二つにわかれ
ます。いずれも
財産税の
課税時期におきまして、つまり
昭和二十三年の三月一日現在で
漁業権というものが
財産税法によりまして
評価されており
ます。これはその当時、
財産税を納めた人も、納めない人の場合におきましても、
一種の
財産税の
評価額があるとみておるのであり
ます。たとえば立木とか家屋にしても同様な
考えでおるのですが、同様に権利につきましても、その当時におきまして
一種の
財産税評価額がある。この
財産税評価額に対して一定の
倍率を乗じ
ます。これが
漁業権の場合は十倍の高さになり
ます。そこで少し
説明を補足いたし
ますと、
財産税評価額と今度の讓渡した場合の
讓渡価格、この差額が問題になるわけでござい
ますが、例について申し上げ
ますと、
財産税の
評価額としてかりに一万円に
評価されていたものが、それが今度は十五万円に
評価されて
補償を受けた場合、再
評価税の問題と
所得税の問題とがある。そのうち再
評価法によりまして、
財産税の
評価当時から
一般の
物価水準の値上りによりまして、
所得が名目的にふくらんだ分は、再
評価税だけで済
ますという形でできておる。その
倍率を再
評価法によ
つて十倍と定めるわけであり
ます。
従つて一万円と
評価されたものが
補償にあた
つて十万円と
評価された場合をかりに
考えますと、この場合におきましては、再
評価税がかかりまして、十万円と一万円の差額の九万円に対しまして六%の税率でかか
つて来る。その場合にはそれでおしまいでございまして、
所得税はかかりません。これは單純にインフレによる名目的な価格の増加にすぎないと見て、その部分に対しましては、本来の讓渡
所得税は
課税しないで、名目的な再
評価税だけを
課税しよう。こういう
考え方からそのようにいたしており
ます。これは、ひとり無体財産権だけではございません。家屋等不動産の場合もすべて同様でござい
ます。さらにそれを十五万円で
評価されたということになると、十万円を越える部分の五万円、これが実は讓渡
所得税の
課税の対象になる。土地、家屋あるいは営業権、賃借権等、
倍率はものによ
つて若干違
つても、すべて同様な方法で
課税することにな
つており
ます。そこで問題は、この場合におきましては、結局前の
財産税評価額がはたして幾らであ
つたか、今度の
補償を受ける額が、それに対してどの
程度の高さであるかということによりまして、負担が大分違
つて来る。十倍までの高さであり
ますれば、これもその
財産税評価額と
補償を受ける額との差額の六%を納めればいい。
補償額の六%ではございません。
財産税の当時において
評価されました額は、すでに
財産税として
課税済みと見て、その差額を
課税対象にするということでござい
ます。
従つてこういう際におきまして、特別な
強制讓渡で行われました
関係上、それに対してどういう特例を設けるか。それから最初に申し上げましたように、
補償は
一種の讓渡と見るべきか、見るべきでないか、これは法律問題として若干問題があると思い
ます。今度の讓渡
所得税は、相続によ
つて財産権が移転した場合も讓渡
所得とみなして
課税しておるのでござい
ますが、そういうような原則になるのが通例でござい
ます。
それから会社の場合でござい
ますと少し問題が違いまして、再
評価の問題と会社の税金の
課税の問題と二つござい
ます。再
評価の問題を一応拔きにして計算し
ますと、会社の場合において
漁業権を幾らに
評価していたかというのが一つの問題でござい
ます。たとえば会社が十万円で
漁業権を買収して帳簿価格に十万円を計上している。それに対しまして百万円の
補償をもら
つたということになり
ますと、これは解釈の余地なくその差額の九十万円は当然会社の益金なんであり
ます。この場合、もらう対価というものが金銭であれば何らの問題はないのですが、有価証券の場合におきましては、その有価証券を取得したときの時価で
評価して、その時価と帳簿価格との差額が当然会社の益金を構成するということになりまして、特例を設けませんと、この際に三五%の法人税並びに事業税がかか
つて参り
ます。それと再
評価の問題がござい
ますが、会社の場合においても、やはり再
評価ができることにな
つておりまして、帳簿価格の十万円の
漁業権は昨年の再
評価によ
つてやはり十倍まで——これは会社の任意に再
評価できるのであり
ますが、再
評価をやり
ますれば、やはり再
評価をやりました限度までは六%納めればいい。その再
評価をやりました額を越えて
補償を受けた額、その部分だけが法人税の益金に算入されて来るということになるのでござい
ます。再
評価と合せまして、さらに今回再び
評価をやることを認めており
ますので、もしも前回なされなか
つた場合は、さらに今回同様な恩典にあずかることになり
ます。もちろん帳簿価格がゼロの場合におきましては、再
評価やりようがございませんし、わずかな額しか計上してなか
つた場合は、十倍いたし
ますと差額がほとんどまるまる利益にな
つて来るので、これは
原因の何たるとを問わず、すべて益金になり
ますので、法律上の解釈の余地はございません。
補償高を特別に扱うというような立法措置をしなければ、当然そうな
つて参り
ます。もちろん会社の場合におきましても、あとで免許料を払う場合におきましては、この免許料は会社の
所得の計算上損金に算入し
ます。そして経費に見
ますが、一応
補償を受けて
漁業権証券をもら
つたときの証券の時価と帳簿価格の差額が事業年度の益金にな
つて、あとで免許料を払い
ます際に、その支払う金額が会社の損金に落ちて来るという
関係に原則としてな
つて来る。それから
漁業者の団体の場合も、原則としては大体会社の場合と同様でござい
ます。ただ問題は、会社の場合と違いまして、いろいろ聞いてみ
ますと、帳簿価格のほとんどゼロの場合がおそらく大部分のようでござい
まするので、再
評価をすることにいたしましても、ほとんど再
評価の実益にあずからない。従いまして、そのままほ
つておき
ますと、
現行税法ではもら
つた全額が
補償を受けました事業年度の益金にな
つて来る。ただそれはあくまでもさつき申しましたように、
漁業権証券のその際の時価で
評価する。時価をどうきめるかという問題があると思い
ますが、その時価で
評価しました額は会社の益金にな
つて来る。ただその場合におきましても、あとで、免許料を支払い
ますれば、その支払い分につきましては、その支払
つた年度において、その組合の
所得の計算上これは損金、経費に算入いたし
ますが、
課税の時期と経費で引かれる時期が違
つて来るということになろうかと思うのであり
ます。これが大体何ら特別な考慮を加えない場合の
一般原則であり
ます。従いまして、帳簿価格がどうな
つているか、
財産税の
評価がどうな
つているかによ
つて、いろいろ個別的には負担
関係が違
つて来ると思い
ますから、人によりましては
相当な負担を受ける場合も出て来るかと
考えられるのでござい
ます。
そこで、今回の処置は、
一般的に行政的に
相当きびしい措置であり
ますことは、先般懇談会で承りましたところによりましても明瞭でござい
まするし、また
水産庁からも特にそういう面についての強い要望を受けており
ますので、これに対しましてどういう特例を設けるかという問題を実は研究いたしておるのでござい
ます。それでいろいろ調べてみ
ますと、
個人の場合におきまして、
財産税の
評価額に対して今度の
補償の金額が大体十倍くらいの差額のかないということでござい
ますれば、この問題の
解決は割合に簡單でありまして、差額の六%を納めればいい。この六%はさつき申しましたインフレ利得に全面的に
課税するという趣旨のものであり
ます。再
評価に
課税するかどうかは非常に問題でありまして、再
評価税は
課税すべからずという議論もあるのでござい
ますが、この税金は、インフレによりましてとにかく損をしなか
つた、非常に実質的に得をしなか
つたかもしれないが、預金者なり債権者なりと違いまして、あるいは給料等遅れて上
つたものと違いまして、とにかくそういう
一種のインフレに伴
つて価値の増加する資産を所有することによ
つて損をしなか
つたいうことに対する一つの税金でござい
ますから、これは私
どもどうもいたしかたなかろうと思い
ますが、問題はそれを非日常に飛び越えて高くな
つたものがどうなるかという問題でありまして、その点について、目下
財産税の
評価額と今度の
補償の高さがどうなるか、その辺のところをよく取調べておりまして、十倍の
倍率でいいかどうか、あるいは今回や
つたこの措置に関連しましては、何か少し違
つた倍率を適用するかしないか、その辺の問題をなお具体的に少し研究いたしており
ます。
それからもう一つの問題は組合の問題であり
ますが、これが実際上は一番多いと聞いておりまして、問題はなかなか簡單ではないようでござい
ます。ただこの問題は、いろいろ案を研究してみたのでござい
ますが、かんじんな
漁業権証券の発行の條件と、あとの免許料の基準がまだきま
つていないので、なお若干よく研究しておられるようでござい
ますが、それと一緒にきめないと、なかなか問題の
解決がつかない。一つの方法としましては、一応
漁業権証券をもらいました際には、いわゆる圧縮
評価と称しており
ますが、その
漁業権を前に会社なり団体なりがつけておりました額の限度まで
評価を低く
補償することを認めまして、その後その金利なり償還を受けた都度益金に算入する一方、免許料は支払
つた都度損金に算入するという方法も、一つの方法として、いいか悪いかまだ結論に至
つていないのであり
ますが実は今研究しており
ます。しかしその方法がはたしていいかどうか。最初
考えられたように、二十五箇年か幾らかならして毎年定期に償還して行くという場合ですと、これも一つの方法ですが、途中で換価処分をしたらどうか。あるいはもう少し発行條件をかえまして、一定のときには金額を償還し得るようにするかしないか。この辺も目下
水産庁で研究しておられるようでありまして、いずれの方法によ
つたらいいかは問題だろうと思い
ます。ただ長期にわた
つて見
ますと、免許料は経費として差引き
ます。一方
漁業権証券が益金になり
ますが、その辺の時期があまり違
つたために、益金に入
つた際一ぺんに
課税されて、あと損金になる際には赤字にされてしまうとい
つたようなことのないようにし
ますならば、あまり無理なことがなく、結果において妥当なところに来るのではないか。再
評価の問題等もございまして、今回やるにいたしましても、どういう再
評価として参るか。再
評価をして参り
ますと、再
評価の限度までは六%が
課税される。
従つてその辺のところは
相当問題が錯綜しており
ますので、
漁業権証券の発行條件、あとの免許料の基準などと、問題を一緒に
考えてきめたいという趣旨で、
水産庁側の御
意見等も承りまして、妥当なところはどこかという結論が見出し得るのではないかというように
考えているのが現在の段階でござい
ます。