○江川
証人 私が脱党してから間もなく、芦別の頼城という所にあります村上徳二郎氏の経営しておる村上工務所に坑内夫として勤めました。そうしてそこにおるときに、私は体はあまり丈夫でないということから事務をと
つておりました。そうしたらそこへ
ちようど私が小樽で活動しておるときに始終顔を合せておりました神威内の党員の川村柳二というのがおるのでありますが、彼が私のいないときに、うちの方に採用してくれということで来まして、採用することにしたのであります。それで私よそから帰
つて来ましたら川村がおる。そうして彼といろいろ話しておりましたのですが、その後彼が君はひつくり返
つたのだ、君は裏切り者だ、君は今後そういうことをしたらねらわれる、気をつけた方がいいということを忠告とも感じられるし、また脅迫とも感じられるような言辞を吐いております。それから同じに村上組に坑内夫として働きに来ました、一昨年ソヴィエトから引揚げて来ました河渡健二という男があります。私が寮の方に行きましていろいろ話をしましたら、現在の共産党はそういうようななまやさしいものじやない。権力は
法律を無視し、すべてを無視してわれわれに対してこんな大きな弾圧を加えておる。これはもう暴力だ。今の共産党は、一歩後退二歩前進の、二歩前進しかか
つたのだ。それだからもう彼らが血をも
つて向
つてくれば、われわれは血をも
つて進んで行かなければならない。暴力で来るものに対しては暴力だ。そこに出刃庖丁かなんか皮をむく庖丁のようなものがあ
つたわけですが、そうしたら、君もそういうような動き方をしていると、こういうふうにやられるのだと笑いながら話をしたが、私はそれを私に対する脅迫の暗示として受けていたわけであります。それから小樽の向うに茅沼というところがありますが、茅沼地区
委員会の
委員長をしておる大高貫八というのがおります。それは私が小樽におるころにしよつちゆう顔を合せてお
つた男なのですが、
新聞に出て一日か二日目に芦別に来ております。芦別の村上組に兄貴がお
つてそれが十二月死んだから、そのために来ているというのであります。その日
汽車の中で彼と会いまして私が寮に帰りましたら、寮の者はみんな非常におそれておる。江川さん、たいへんなことになるのではないか。あなただけたいへんなことになるならいいけれ
ども、おれらまで巻添えを食
つたらたまらぬということで心配しておるのです。そうしたらその晩に、夜十時過ぎだと思いますが、二人か三人して
——寮の付近にはあまり家がないのでありますが、それなのに、人ががやがや話をしながら家のまわりをまわ
つている。みんな、来たんじやないか、来たんじやないかと言
つておりましたけれ
ども、私は、大丈夫だ、そんなばかなことは共産党でもしないと思
つてお
つたのです。そうしたら今度は部屋をのぞいて歩いた。女中の部屋をのぞいて、のぞくときに手をかけたのです。そしたらがたがたと鳴
つたので女中が起きてみたら、人がのぞいていたので、女中がキヤーツと大きな声を上げて騒ぎ出したのです。それで私も騒ぎ出したらどうすることもできない。またこれをうやむやにしておいたら、次に何か起きたときに困るということで、すぐ
警察に
連絡をとりました。そのときに頼城の隣の旭という所の派出所から
巡査が二人来て、その窓のそばにある足跡、そういうものを確認して行きました。それから皆が非常に心配しまして、もし君が今ここにいたらあぶないんじやないか、こういうこともあるからとい
つて、私に姿をどこかへ隠すことを勧めるのであります。私としては、共産党が私にそういう危害を加えるということは、
記事に対する
裏づけのようになるんじやないか、そういう
考えなしばかりいる共産党じやない、大丈夫だと言いましたが、おれらも夜眠られないというので、私のなしたことがもしほかの従業員の
仕事とか、そういうことに関するようなことがあればこれは重大だ。それじや私は姿を隠しましようとい
つて、現在の油谷炭鉱の佐々木虎十郎のところに
行つて働いておるのであります。そうして先月の八日に、私が油谷炭鉱から用事がありまして頼城へ来まして、頼城で一晩村上さんの寮でとまりまして、次の日芦別へ参りました。そうしたらその日は雨が降
つて道が悪く、バスがとま
つてお
つたので、油谷炭鉱まで二里くらい歩かなければならない。晝歩いたら私が油谷炭鉱にいることがわかると思いまして、夜薄暗くなりましてから芦別を立ちまして、途中、歩いて
行つて、油谷がもう近いという所に踏切りがある。その踏切りのそばまで来ましたら、うしろから「恐れ入りますが……」と言われましたので、私は「何でしようか」と答えました。そうしたら「ここから上芦別へ行く道はどちらですか」と言うので、私は「線路をまつすぐに行きますと、トンネルがあります。そのトンネルを越したらすぐ上芦別です」と言
つたら、「ありがとうございます」と言
つたが、すぐ離れない。それで「お気をつけて行きなさい」と私が振り返
つたら、「ざまを見ろ」と言
つて、すばつと何かで額にさわ
つたような感じがした。私が額に手をやりましたら、どろつと血が出ている。これはたいへんだと、すぐ油谷へかけつけて行きまして、手当をいたしました。そのきずが現在残
つていると思うのです。