○受田
委員 官房長官が来ておられますから、私より旧
日本領土の
日本人
資産についての
質問をいたしたいと思います。台湾、南樺太、千島、
朝鮮等の旧
日本領土におきまして
日本人が所有しておりました
私有財産の取扱いにつきましては、去る五月十日の衆議院本
会議におきまして、民主党の千葉三郎議員より
質問いたしました。他の
地域の
在外資産と性質が異なり、元所有者に返還すべきが至当であるが、総理はいかなる見解を有し、いかなる
要望をしたかという
内容の
質問をしたことに対しまして、吉田総理が、ポツダム宣言その他において定ま
つておるのである、
在外資産は
賠償の担保として所在
連合国において没収することに
なつておるとして、没収せられる旨を述べておられるのであります。またこれと同じ問題に関連しまして、十三日のラジオの
国会討論会において岡崎
官房長官が、たとい旧領土であ
つても、
日本主権から離れるならば
在外資産とみなされる、イタリアの
海外領土のイタリア
在外資産もそうした取扱いを受けておるのであると言
つておられるのであります。これらの
答弁は、いずれも的をはずれておるものでありまして、問題を正しく伝えておりませず、
政府みずからが
請求権を放棄いたしまして、
日本の利益を否定する結果に
なつておりまするから、ここにいささかこの点について
質問を申し上げたいと思うのであります。
周知の
通り、第一次
世界大戦におきましてのベルサイユ条約、あるいは今次大戦におきまするイタリア平和条約におきましては、ドイツやイタリアの旧領土はそれぞれ割譲せられまして、ドイツにおきましては、ベルサイユ条約によりポーランドやチェコスロヴアキアの独立を認め、またイタリアではエチオピアあるいはアルバニア等の旧領土を割譲したのでありますが、この際独立した国は、戦争による対独、対伊
請求権がないために、非ドイツ化清算あるいは非イタリア化清算という
方法によりまして、それぞれ処置したのであります。すなわちドイツの場合は、ポーランドやチエコのドイツ人
在外資産は返還を認めており、さらにイタリアの場合は、
講和条約附属書の第九及び第十項におきまして、エチオピアやアルバニア等の旧領土にあるイタリア人の
資産は、そのイタリア人が割譲地の国籍に変更した場合はもちろんのこと、イタリア国籍のままそこへとどま
つておりまするイタリア人に対しても、自
国民のそれと同様に
財産及びその権利、利益等につきまして
尊重しなければならないということに
なつておるのであります。割譲地から退去いたしまするイタリア人は、動産、不動産を売却したり、あるいは動産を持
つて行つたり、あるいは
資産の携行が許されておるのであります。
連合国領土内にありまするイタリアの
在外資産は、対伊
請求権の範囲内で処分することができる旨が第七十四条に
規定してあるのでありますが、旧領土の分については返還がもちろん建前に
なつておりまするので、この点特に注意して
考える必要があるのであります。
翻
つて日本の場合についてみますと、
朝鮮がこれによく似ておると思われるのであります。すなわち理論的に言いますと、
朝鮮は戦争中旧
日本領土の一部分でありました。独立したといたしましても、
日本と戦争したわけではないのでありますから、戦争による早対日
請求権は持
つておりません。ただ在鮮
日本人の
財産を非
日本化する
措置がとられるだけであります。また台湾についても、本国の中華民国に返還するという形で割譲されるとしますならば、割譲
地域にありまするところの
日本人
財産は、
尊重されなければならないはずであります。しかるに現実の姿はどうかといいますると、
連合国領土はもとより、割譲
地域でありまする旧
日本領土には
日本人は居住を許されておりません。父祖以来粒々辛苦の結晶でありまする有形無形の一切の
財産は没収せられて、わずかに身のまわり品のリック一つと千円の携行金を許されただけで、
引揚げの名のもとに
日本に送り返されたのであります。このような
状態で、割譲
地域の
日本人の
私有財産に対する侵害行為は、第一次欧洲大戦におけるドイツや、今度の大戦におきまするイタリアの場合を見ても、まつたくその前例がないのであります。従来から
政府当局の言動を見ておりますと、
在外財産に対しまして放棄したかの感があるのであります。正当な権利を主張するに退嬰的であるのであります。まことにこれは遺憾といわなければなりません。か
つての第一次大戦におきましてのドイツ
政府、今次の大戦におきまするイタリア
政府当局は、
連合国の
在外資産処理
方針については、
私有財産権を擁護するという
立場から、いずれも正々堂々の主張を行
つて来たのであります。
日本政府にこの気魂があるかどうか、私はその点をお尋ねしたいのであります。いまや
講和の時機がいよいよ差迫
つておりまするが、
在外財産問題につきましては、
引揚者はもちろんのこと、全
国民の最大関心事と
なつておるのであります。私はこの際に、旧
日本領土の
日本資産問題につきまして、第一に
政府はいかなる見解を持
つておられるか。第二に、
連合国に対しましてベルサイユ条約あるいはイタリア条約の場合と同様の取扱いを要請されるという意思を持
つておられるかいなか。この二点につきまして、明快な御
答弁をいただきたいと思うのであります。