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中北参考人 私はただいま御
紹介をいただきました
中北でございまして、
終戰当時私は元
台湾総督府の
文教局の
錬成官を勤めておりまして、
昭和二十一年四月に
引揚げて参つたものでございます。その後
引揚者団体の
役職員といたしまして、
引揚者の
援護をいたしておりました。
高松市役所におきましては、
事務委託といたしまして私
どもを
引揚者援護の嘱託に発令をしていただきまして、私は
公館等借入金の
請求事務が起りました際、
高松におきまして
引揚者各位より、この
公館等借入金の
請求書受理の
事務をお手伝い申し上げたのであります。その際満洲あるいは朝鮮、中国各
地域、南方各
方面にわたる
方々より、つぶさに
借入金を提供せられました前後
事情をお聞きいたしまして、この
公館等借入金につきましては、急速に
政府におかれましては弁償していただかねばならないというつぶさな
実情を知ることができました。その後私は
四国公館等借入金の
債権者の要望によりまして、ただいま
団体の
幹事長を勤めておりまして、今回
公館等借入金に関しまして請願に参りましたところ、はからずもただいま
委員長より、あるいは
委員の
皆様から特別に
参考人として
発言の
お許しをいただきましたことを、
債権者一同にかわりまして、厚く
皆様にお礼を申し上げます。以上をも
つて簡単ながらごあいさつといたします。
お許しを得ましたので、
公館等借入金返済に関しまして、私はわれわれの平素いろいろ考えておりますことをこの席で述べさせていただきたいと存じますが、釈迦に説法といつたような節が多々あり得ると存じまするけれ
ども、
政治等に暗い私
どものことでございますから、特別をも
つてお許しをいただきたいと存する次第でございます。
第一に、私はこの
公館等借入金の問題に関連をいたします
引揚者の偽らざる心境を
皆様にお聞きとりいただきたいと存する次第でございます。
国内の
災害に対しましては、社会的に
義捐金が各
方面から醵出せられまするし、国におかれましては、
追加予算が計上されまして、この救済に努めていただきますことにつきましては、
国民の一人といたしまして感謝にたえない次第でございます。ところがこの
災害のうち、われわれのこうむりました
災害は、
国内におけるところの風水害、火災、あるいは
地震等の
災害に比すべくもない
災害であつたと私
どもは確信する次第でございます。すなわち
財産は根こそぎ沒収あるいは掠奪、接收せられまして、のみならず生命を脅かされつつわれわれは一年ないし二年、こうした困窮のどん底に捨子のごとき取
扱いを受けて、裸一貫で
引揚げて
参つたのでございまするので、われわれの受けた
災害は、
基本的人権が侵害せられようとしている有史以来空前の大
災害であると私
どもは信じておる次第でございます。しかるにこの大
災害につきまして、
政府御
当局に何をしていただいたかということを考えまするとき、遺憾この上もない次第でございます。われわれはもうすでに失うべき何ものもない
状態に立ち至
つておる次第でございます。たとえば枝という枝、葉という葉はすべて切りとられまして、
ちようどごぼう抜きにな
つた松の木が、その根にくつついておりますどろまでもふるい去られて移されたような
状態に
なつたわけでございまして、これがはたして故国のこの郷土において育
つて行くか、生き行くかということを考えまするとき、私
どもは非常に無念の涙にくれ
果つる次第でございます。ここに至りましてわれわれは、われわれの憲法に認められておりますところの
基本的人権を要求しなければならないというような
段階に立ち至つた次第でございます。その根本は、まず
在外私有財産の返還を要請いたしたいということでございますが、これに先だちまして、
公館等借入金につきましては、急速に
政府におかれましては弁償していただきたい、こう考えておる次第でございますが、幸いに
皆様方の特別なる御
配慮によりまして、昨日
在外公館等借入金の
返済の
準備に関する
法律案が通過いたしまして、私
どもはこの上ない喜びを感じておる次第でございます。
引揚者一同にかわりまして、厚く御礼を申し上げる次第でございます。ところがこの
法律案を私
どもがよく検討いたしまするとき、
在外公館等借入金に関しまして、
確認証書の発給されておるもののみについての
法律案であるように思うのでございます。しかるに
公館等借入金の
確認証書は、約二十一万件あるのでありまして、ただいま
確認を受けたものは、十二月末に約一万九千件、この三月末に発給せられつつあるもの——いまなお
末端引揚者の手には渡
つておらないのでございまするが、それが約二万件と聞き及んでおる次第でございまして、合計三万九千件でございます。これを四万件といたしましても、なお多数の
確認証書が、
外務省の
公館等借入金の
審査準備委員会におきましてそのままにされているという
実情であるのでございます。この
確認の
状態は私はきわめて遺憾である、こう考えている次第でございまするが、中でも中
支方面の
儲備券に属しましては、そのほとんど全部がいまだ
確認の
状態に立ち至
つておらないということは、中
支方面の
債権者に対しまして、何がゆえにかかるまま
子扱いをせられたのであろうか。
審査会当局の
方々にこれははつきりとお答えを願いたいと存じておる次第でございます。聞くところによりますと、
審査会当局におかれましては、二十一万件の
確認請求書をイロハの三つに区分いたしまして、イは
確認の対象になるべきもの、ロはいまだその域に達せざるもの、ハは大体不
確認の
性質を帯びているものとして整理せられておるということでございます。しかしてこの中
支方面の
儲備券は、ロの部類に入
つているということでございまするが、このロの中に入
つております
確認請求書の整理を急速に
お願い申し上げたいと存ずるのでございます。私は昨年十二月の中旬に
審査会当局に参りまして、いろいろ
お願いを申し上げたのでございます、その際中
支方面の
引揚げ主体の
調査が十分行き届いておらないから
確認するに至らないということを、ただいまここに見えております
池田事務局長より聽取することができたのでございまするが、その後今回二万件が発給せられながら、中
支方面の
儲備券がなおまま
子扱いの
状態に置かれておるということにつきまして、はなはだ私は遺憾に存する次第でございます。なおこの
儲備券関係でもう一つ述べさせていただきたいと思いますことは、
調整料付の
送金小切手の
確認請求書に関連するものでございまして、私はここに特別に
発言を
お許しいただきましたこの
機会に、
調整料付の
送金小切手なるものがどういう
事情で起つたかということにつきまして、
証拠品を当
委員会の
委員長に提出申し上げたいと存ずるのでございます。それで私ここに持
つておりますところの
上海地区において発行せられておりました
大陸新聞の、二十年八月十七日の
新聞の原本を、ここに提出させていただきたいと存じます。この
新聞の中に、
引揚げには三万円、
送金等持帰り金、
家族送金は六箇月
分一括という見出しのもとに、
在外公館の
上海事務所においてこれを
新聞発表をなさ
つておらるる原拠について私は申し上げたいと存ずるのでございます。すなわちこの
調整料付送金小切手と申しますのは、戰争の
状態が非常に悪化いたしまして、八月十三日に
居留民一同は
内地に
引揚げなければならないが、
引揚げる
とさつそく衣食に困るだろうから、三万円だけは特別に持ち帰れ、
内地の
金融機関に
退去証明書を提示することによ
つて受理する道を聞いてやつたから、元の
町内会に通じて提供せよという御勧奨が、
在外公館上海事務所において
発表せられました。
居留民一同は三万円
送金を始めたのでございます。当時非常に打撃を受けておりましたときでございましたので、衣類その他家財の一部を売り払つたり、あるいは
勤労收入もこれに足しまして、
上海方面、特に中
支方面の
地域の
方々が、苦心さんたんをいたしまして三万円
送金を開始したのでございまするが、
公館の
上海事務所におかれましては、特に
調整料と称しまして、
送金小切手額面の十倍の
調整料を払えという
條件をつけられたのでございます。すなわち三万円に対しまして三十万円という
調整料を取立てたのでございます。しかしなお余剰のある者に対しては、五十倍の
調整料を支払え、しからば金額は制限しないというようなことを勧奨せられまして、三万円
送金なるものが八月の十三日、つまり
終戰よりさかのぼる二日前から実施せられていたのでございます。私がかく申し上げますことは、この
新聞報道を基礎として申し上げるのでございまして、
調整料付送金小切手を提供した
居留民一同は、これ命従うという気持で、三万円
内地へ送りたいばかりに、三十万円という驚くべき
手押料でも
つて提供いたしたのであります。ところがこの
調整料付送金小切手がいまなお
審査会当局において審査せられないという
状態にあるのでございます。この
調整料が
在外公館の費用に使われたということは、おおいも隠しもできない事実があるにかかわらず、
公館当局責者任がこれを明らかに認められないためか、いまだ
確認せらるるに至らないという
状態にな
つている次第でございます。なお申し上げたいことは、これに関連いたしてたくさんございますが、この
証拠品を私は提出させていただきまして、これによ
つて御検討をいただきたいと存ずる次第でございます。
次に私
どもは、二十一万件の
請求をしてあるにかかわらず、
確認の
状況は以上述べましたような次第でございまするが、この
在外公館等借入金の
請求をいたしました
方々は、全国に約百万人の
関係者がおる次第でございます。これらの
方々がもう
確認証書がいただけるかと一日千秋の思いで待機しているにかかわらず、多数の
方々はこの
状況がさつぱりわからないのでございます。日夜不安の念に襲われながら、
債権者各位は暮しておる次第でございまして、この
債権者の中には、もう
余命幾ばくもない八十四、五歳を越えたような老人が、この
在外公館借入金の弁済をお待ちしている次第でございます。その一端といたしまして、私は
四国新聞の最近の記事をここに持
つて参しりましたので、これも
関係者がいかに困窮しつつあるかということの証拠の一部として提出させていただきたいと存じますすなわち「望みを首相につなぐ、
公館等借入金の返還の書面提出」という見出しのもとに、
高松の
引揚者が非常に困
つているという記事がここに出ている次第でございます。八十四才の孤独のおじいさんが、九万二千円という
公館借入金を奉天において提出しておる次第でございまして、もうあすも知れないようなこのおじいさんが、支払いの一日もすみやかならんことを斬りつつ暮しておることを思うとき、
政府におかれては風木の悲しみを体験せざるよう、弁済の時期を早められたい、こういうふうに切に
お願い申し上げる次第でございます。
なおこの
公館等借入金の
債権者が病気になりました際にも、医療を受くることがなかなか困難なのであります。社会福祉主事に、この
公館等借入金の
確認が来さえすれば医療ができるのでございますがと申し上げましても、そんな死んだ金が何になるかと、相手にさえな
つてくれないのであります。この金が来たらお払い申し上げるから立てかえていただきたいと
懇請申し上げても、なかなか現在の
確認証書のみをも
つてしては聞き入れていただけない。そのために自分の生命を失うということになりつつある次第でございます。
それからもう一つ申し上げたいと存じますことは、
上海方面におきまして、
公館が
終戰処理費に非常に悩みまして、居留民から高額の
借入金をせられたのであります。その口数がわれわれの
団体で
調査いたしましたところによりますと、三百六十一件あるのでございます。これが一億單位に提供してくれということによりまして、皆さんが一億という大金はございませんので、何人かの
方々が持
つておる金を集めまして、一人の貸與者の名前で提供申し上げてある次第でございます。これが高額提供者なるがゆえに、頭割をなすべきであるという御
意見があるように聞き及んでおるのでありますが、内容はたくさんの人々が出し合
つて、合算して提供申し上げた金額でございますから、かかる
措置は絶対に避けていただかなければならない、私はこう信ずるのでございます。
以上のような考え方に基きまして、私は当
委員会に請願書を提出してある次第でございます。その請願書には次のような
措置を
お願い申し上げたいというふうに述べてある次第でございます。
まず第一は、審査会の現在の
委員、幹事のほかに、
確認事務の遷延しつつあるところの
地域の
債権者代表を
委員、幹事として新たにこれを加え、審査
事務の進捗をはかり、
確認証書の
発表は今年六月末に完了していただきたいということ。第二には、弁償は公定換算率と物価指数によ
つて算出していただきたい。第三番目、弁償は二十六年度中にすみやかに行
つていただきたい。第四番目、
確認証書を発給したいものに対しては、
確認済み
確認額の九割程度まですみやかに公定換算率で金融の道を開いていただきたい。その次、不
確認の
確認証書は、その不
確認の都度、事由を付して
債権者に返戻していただきたい。なお最後に、やむを得ざる
事情によ
つて確認請求漏れにな
つているものに対しましては、追加受付の
措置を講じていただいて、本年六月までに
確認していただきたいということを請願申し上げてある次第でございます。
以上ふなれのために申したいこともなかなか申し述べることができませんので、私自身非常に残念に思いまするが、以上をもちまして、
参考人としての
お願いといたす次第でございます。