○吉川末次郎君
厚生大臣に
予算に関連してお聞きいたしたいのでありまするが、
厚生省は医薬行政をお取扱いにな
つておるわけでありまして、直接間接に
予算の全面に亘
つて関連性があると思われるのでありますが、今
厚生大臣が当面していらつしやいまする
厚生行政の主要なる課題といたしましては、
一つは社会保障制度の問題と、
一つは新聞紙面を賑わしておりますところの医薬分業の問題であるかと
考えるのであります。それで社会保障制度のことにつきましても多少
意見もあり、又大臣にお尋ねしたいこともありますが、平素御親交を得ておりまする黒川さんに、過日もこの問題についていろいろ私の
意見を申上げたことがありまして、本日は専らその
一つでありまする医薬分業の問題につきまして再度御質問申上げたいと思うのであります。
この医薬分業の問題は御
承知のごとく非常に古い日本の医薬制度上の懸案でありまして、又
国会におけるところの多年の政治、
法律の問題で、立法府の問題にな
つて来ておるのでありまして、それは明治の初年に我が日本の国が旧来の草根、木皮の漢方の医薬を捨てまして、西洋の医薬を採用いたしまするや、西洋には
医療を掌るものとして
医者というものと、薬剤師というものが二つある。日本では、
医者のことを薬師とも申しまして、当然に薬剤師と
医者というものが分れていなか
つたのでありますが、西洋ではどこの国でもそれが分れておるというので、西洋医学の輸入と共に、日本に従来なか
つた医薬を分業いたしまして、医師のほかに薬剤師という
一つの医薬技術の担当技術者を作らなければならないことになりまして、太政官の布告であるかと思いますが、議会によるところの
法律以前の
法律でありますが、薬品営業、並びに薬品取扱規則というものの中に、やはり西洋の文明諸国が採用いたしておりますところの医薬分業制度を原則的に規定いたしたのであります。併しながら薬剤師というものが日本にはなか
つたのでありまするから、
学校を建てまするや、帝国大学の中に、医学部の中に医師の養成機関でありますところの医学科を設け、薬剤師の養成機関でありますところの楽学科を作る。又地方に官立医学専門
学校を作りまするや、金沢、長崎、或いは千葉その他の地方におきまして医学専門
学校を建設いたしますや、帝国大学におけると同じように医師の養成機関といたしましては、医学科を作る、薬剤師の養成機関としては薬学科を設けて、一時も早く
法律が規定いたしておりますところの西洋の文明諸国と同様に、医薬分葉制度を、その制度の上に実現するということを原則として参
つたのであります。でありますから、先ほど申上げました薬品営業、並びに薬品取扱規則におきましても、例外的に、臨時的に、一時薬剤師がないのであるから、漢方医の制度において用いてお
つたところの
医者が薬を患者に與えているということを例外的に許して来たのであります。併し薬品に関するところの
法律は、その後若干たびたび変更されて、今日の薬事法にな
つておるのでありますが、その精神はずつと今日も伝承されておる。今日の薬事法におきましても同様に、調剤、及び薬品を交付するということは、これは薬剤師の当然の職業であ
つて、
職務であ
つて、医師が投薬するということは例外的なものということは、明白に
法律に規定されておるのであります。明治初年においてこそそういう制度を輸入いたしまして、薬剤師もなか
つたことでありますから、例外的に臨時的にそういうことを規定して医師に兼業を許してお
つたのでありますが、今日におきましては薬剤師の養成機関というものは非常に殖えまして、薬剤師の数も殖えまして、全国を通じて薬科大学、従来の薬学專門
学校でありますが、それがいずれも大学になりまして、相当なる数の薬科大学が今日作られ、又東京の
国立大学、京都の大学等にもそれぞれ従来のごとく薬学科がありまして、その数は今はつきり覚えておりませんけれ
ども、十分文明諸国と同じように
法律が所期いたしておりますところの医薬分業は、実施することができる時期に到達して来ておると思うのであります。
厚生大臣も御
承知のごとく、先にマツカーサー元帥の招聘によりまして、日本の医薬制度、殊に薬事行政を観察せしめるために、マツカーサー元帥が招聘いたしまして、米国の薬科大学の教授カリフオールニア大学の薬学科の部長、その他米国薬剤師協会の代表者を招聘しまして、日本の薬事制度を
検討せしめた、そうしてそれらの視察団が帰国に際して、マツカーサー元帥に勧告いたしました勧
告書の中には、一時も早く日本は野蠻国にのみ行われておるところの、医薬制度というものをば、文明国と同様に医薬分業制度にしなければならん。それは一年とか二年とか、或いは十年というような長い日を待つべきものではなく、即刻行うべきものであるという勧
告書をマツカーサー元帥に提出いたしまして帰国したのであります。それでマツカーサー元帥は、GHQの公衆衛生の担当者でありますところの、お
医者さんであるサムス准将を通じまして、
厚生省に勧
告書を送付して、その勧
告書に基いて適当な処置を早急にとるべきことを、
厚生省に言
つて来ておるということは、もとより御
承知のことであると思うのですが、それに応じて
厚生省のほうでどういう手をお打ちにな
つたのか、私ははつきりと詳しいことは知りませんが、私が大体伝え聞いておりますところによりますと、早速
厚生省のほうでは医師会の代表と、薬剤師会の代表と、
歯科医師会の代表をお呼びにな
つて、この勧
告書に基いて即刻医薬分業を実現することについて、いろいろ御相談にな
つたのでありますけれ
ども、意が整わないで不調に終る結果に
なつた。なおその際サムス准将は、これら三団体の代表者に対して同様に医薬分業の実現を慫慂しておられたということを、大体文書等において私は拝見いたしておるのであります。そのサムス准将のその際の
言葉の中にも、アメリカからや
つて来た者が一番不思議に思うことに二つある。
一つは
医者が薬を売
つておるということであり、
一つは
歯科医が器具を売
つておるということであるというようなことを言
つておるのでありまして、そうして先に申しましたアメリカの薬科大学の薬学科の部長、その他によるところの勧
告書の実現を非常に慫慂せられておると思われるのであります。それで以て今日までそうした事理明白なる……文明諸国の、いずれもがこれを行な
つて知りまするところの医薬分業制度が、日本においてそれが問題にな
つてから七十年の間、この議会におきましてもたびたびそれらに関する
法律案が出たのでありますけれ
ども、出る度ごとに多数を獲得することができないで、少数で否決されておるような結果を来たして参りましたということは、いろいろ
原因があるだろうと思うのでありまするが、その
原因として
考えられますることの
一つは、自然科学の
内容というものをば議員その他
一般の人が十分によく
理解していない。即ち医学というものの
内容としていることがどういうことであるか、薬学の
内容としていることがどういうことであるか、大学において薬学科と医学科があるが、この薬学科は医学科と違
つてどういうことを履修
研究をしているのであるかというようなことがはつきりわか
つておらんということが、
一つの大きな
原因にな
つて来たと思われるのでありまして、黒川
厚生大臣は、その部下には薬務局をお持ちになり、又薬務局長には薬学博士の慶松一郎君等も就任いたしておられるのでありますから、十分そういうような素人が
考えておりまするような自然科学的無智から解放されて、十分医学と薬学の差を知
つて、西欧の文明諸国が薬剤師に必ず薬の取扱をさせ、調剤さしている、医薬分業を行な
つているという理由は、自然科学的な面からも私は御了解にな
つておると思うのですが、それが
一つであ
つたと思う。それからもう
一つは、患者の負担が多くな
つて高くなるのじやないかということが
一般に言われて来たのでありますが、ところがこれがいろいろ
調査されておる結果を見まするというと、患者の負担は決して高くならない。現在でも薬剤師会は、大体において医師会の薬価の半額の薬価でその調剤をしておるのでありますから、薬価の合理的な標準に基くならば、決して患者の負担は重くならないということが言われておるのであります。これは医薬行政は結局イギリスの
労働党がや
つておりまするように、医薬の国営に進むべきものだと思いまするが、絶えず成る
程度の政府の統制が要るものだと思いますが、その統制を通じて薬価が高くな
つて、患者の負担が決して現在以上に多くならないという処置は、
厚生省当局の行政によ
つて、十分これは統制して行くことができると思うのであ
つて、これも私は心配する必要はないと思うのであります。
又第三に今日までできなか
つた理由の
一つは、
医者のほうが薬剤師に比べるというと数も多いし、非常に社会的な勢力を持
つておる。そのために議員が医師の社会的勢力に牽制せられて極めて理不盡なところの医師の利己的な我慾、欧米諸国ではすべてそれが対等のものとして社会的にも
待遇され、分業が行われて、それから大
病院においてもすべて
医者が薬の調剤をしたり薬を渡したりしているということはない。陸海軍においても、もうなくなりましたが、過去の陸海軍においても軍医というものと並んで薬剤官というものがあ
つて、何も軍医が調剤して兵隊に薬を渡していたのではないのでありますから、これは極めて事理明白なところなのであります。ところが今の自然科学的な無智と、薬価が高くな
つて患者の負担が多くなるだろうということの
一つの理由、これは專らその医師の
立場、医師のほうから社会的に宣伝して来たことでありますが、それもそうでない。そうして第三の理由は、即ち残されているところは医師の社会的勢力がそういう自然科学的な無智を基本といたしまして、そうして自己の優越せる社会力によ
つて、そうした誤
つた観念を国民の間に非常に拡がらして来た。そうしてその
影響を議員が受けて来たということが今日までたびたび帝国議会等に提案された医薬分業案が否決されて来たところの私は理由であろうと思うのでありますが、今かようにしてGHQからのいろいろな慫慂もあ
つて、当然に多年の問題を今解決しなければならん時期に
厚生省当局は迫られておると思うのでありますが、
厚生大臣は先ず第一にこの医薬分業制度の実現ということについてどのようにお
考えにな
つているか。医薬分業制度はGHQのマツカーサー元帥に提出されたところのアメリカ薬剤師協会の勧
告書、或いはサムス准将の言
つておられる
通り又日本の薬事法が原則的に規定しているように正しいものである。一時も早く日本の社会に実現しなければならないものであるとお
考えにな
つておられるかどうかということを先ず第一に承わりたい。