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公述人(永井保君) 本年度の補正子算案を通覧いたしまして、特に中小企業の
立場におきまして積極的な
意味を持
つておると思いますのは、中小企業の
金融に対する信用保険の
特別会計五億円、それからもう
一つは
國民金融公庫の出
資金十億円でございます。
減税のほうの問題でございますが、今回の
補正予算におきましては六十四億円が計上せられておるようでございますが、これは大
部分源泉課税即ち
給與所得者に対する
減税分でございまして、事業者に
関係を持ちまするものは酒税、砂糖税或いは物品税、それらを入れまして十億二千万円
程度でございます。尤もこの物品税その地この酒税等につきましては、
最終的には
消費者の負担
ということにな
つております
関係上、直接に中小業者の税の
軽減ということにはならないのでございます。
政府におかれましては税制
一般の
改正につきましては、来年度より実施する
というふうな御構想のようでございますが、私
どもの
立場からいたしまして、今年の
補正予算に
給與所得者が約五十六億三千万円余りの
減税の恩典に浴するのでございますから、せめて個人の事業者、即ち
会計年度一月から十二月に限
つております個人の業者においても、同様に今回の
減税分に加えて頂きたい。このような気持を持
つておるものでございます。中小企業者が待望いたしております
減税につきましては、今回はその前を素
通りして参
つたのでございますが、大体におきまして、この
日本におきまして終戰後特に
税金が
國民の負担に非常に大きな
影響を與えております。それが年々累増いたしておりますことは改めて申上げるまでもないのでございますが、特にこの予定申告をや
つておりますところの事業所得者の約八割二分
程度は小さな中小企業者でありまして、従いまして全体において
國民所得とその税負担の比率が低くなりますことは、最も望ましいのでございますが、これも
財源等の
関係によりまして止むを得ないものがあるかと思いますが、大体私
どもの手許にございます資料に基いて
考えて参りますと、
昭和五年から九年の平均の
國民所得と税負担の
関係を見ますと大体一四・四%
というふうに見えておるのでございますが、終戰後それが急激に殖えまして、特に昨年度におきましては二六・四%
というふうな高率を示しております。それと共にもう
一つ、この税負担は所得の構成から見まして、戰前は大体に資産中心的な傾向を有するところの事業所得が
相当高か
つたのでございますが、終戰後それは勤労所得を中心とするようになりまして、或いは又小さな中小業者の少額の所得の者に
相当大きな比重が移りつつあると、こういうふうな現象からいたしまして、戰後における中小企業の税問題
というものがかなり深刻な様相を呈して参
つておる次第でございます。
統計ばかり申上げて甚だ失礼でございますけれ
ども、大体これも
日本におきまする中小企業の統計は非常に取りまとめが困難でございまして、大体國勢調査等によりまする古い統計を借用いたしまして申上げるのでございますが、事業所の総数が
昭和二十二年の國勢調査におきまして見ますると、工業におきまして約九十六万七千、これは大体従業員総数が六百十八万、要するに事業者のうち工業の
関係が大雑把に言いまして約百万、それに従事いたしまするところの従業員が六百万
ということでございます。そのうち従業員が三十人未満、私
どもで申しますところの中小企業の面でございますが、それは事業所におきまして九七%を占めておるのでございます。又従業員の数にいたしまして約半分に当
つております。もう
一つこれを商業の面について見ますると、大体商業者の店舗を持
つております数は約百万でございます。そのうち従業員が一人から四人まで、四人未満の中小業者でございますがその比率が九四%、百万の中に九十四万がその小さな商業者である
ということでございます。従業員も従いまして商業者の商業店舗の従業員総数が二百三十七万、そのうち一人から四人までの小さな店舗に
関係いたしております者が百五十八万、こういうふうにな
つているのでございます。大体この商工業を合わせまして業者の数並びにこれに附随しまするところの従業員等の数を総合いたしますと、農業人口を除きますところの
日本の有業人口の約半分に当
つているのではないか
というふうに私
ども考えているのであります。
そのような沢山の、而も
日本の
経済の構造上から見まして非常に重要な部内を占めております、又
経済的にも極めて重要な役割を担
つております中小企業に対しまする
政府の施策
というものが、私
ども従来からいろいろ業者の
立場に立ちまして陳情或いは要望をいたして参
つたのでございますけれ
ども、その中小企業の問題の複雑性から、なかなかそれが取上げられて有効に行政の上に反映しない
というような嫌いがございました。今度の臨時
國会で
総理大臣が施政
方針演説の中で、中小企業の問題に触れて、新聞記事にしますと一行か二行のことでございますが、中小企業の軍票性を認めて、これに対する
金融上の
措置を講じた
というふうな演説を、私
ども新聞紙上を通じて拝見いたしまして非常に心強いのでございますが、これを
アメリカ等に比べますと、今年の、五月五日トルーマン大統領が議会に教書を送りまして、中小企業の対策に必要な法案の立案を要請した
というようなニュースを見まして、資本主義の
アメリカにおいてさえ中小企業
というものがかなり重要に
考えられておる。それにかかわらず
日本におきましてはいろいろ
政府御
当局の御苦心もお察しするのでございますが、大体その制度的に或いは又いろいろな仕組の上におきまして、中小企業が非常に不当な取扱いを受けておる
というのが
実情でございます。ので、非常に遺憾に思
つておる点でございます。
そこで税制の
改正に関しまして、私
どもかねて内閣、衆参両院、その他
関係方面に建議、陳情
といつたような形で要望いたしたのでございますが、
所得税におきましては、今回基礎控除が三万円、扶養控除が一万五千円まで
引上げられたのでございますけれ
ども、私
どもの気持
といたしましてはこれはかなり虫のいいお願いかと存じますが、
物価の状態、或いは生活保護法に基く最低生活費等を睨み合せまして、基礎控除におきましては六万円くらいまで認めて頂きたい。又扶養控除におきましても更に二万円、或いは二万五千円
程度に
引上げて頂きたい。こういうふうな気持を持
つておるのでございます。
更に
税率の基礎でございますが、今回
相当減額せられたのでございますけれ
ども、大体中小企業の
関係におきまして、最も数的に多数を占めますのは、大体年收二十一万円前後の者が一番多いのでございます。これを割合で示しますならば、大体五割五分が年收二十万円前後に当るのでございます。それからその二十万円に満たない、もう少し下の零細な業者
というものは約三割ございます。二十万以上の高額所得者は全体の比率から見まして約一割五分
というような数字が出ておるのでございます。さような点からいたしますならば、大体私
どもは今回の
改正を更に、まずこの二十万円から三十万円の範囲の者につきましては約三〇%三割、それから十五万円から二十万円の者につきましては二割五分、又十万円から十五万円の間の者につきましては二割、五万円から十万円までは一割五分、五万円以下は一割と、その
程度に更に引下げをお願いしたいと、このように
考えておるものでございます。
それからもう
一つ、私
どもとしまして特に遺憾に堪えないと思
つておりますと同時に、
関係御
当局にお願いいたしたいと思いますのは、この第二次のシャゥプ
勧告におきまして、農漁民に対しましては特別控除として一割、最高一万五千円を限りまして一割の控除が認められる
というふうに
勧告文にあ
つたのでございますが、今回の税制
改正には
関係ございませんが、將来来年度におきまして農漁民の特別控除一割を実施せられる場合におきましては、零細商工業者も同様の
意味におきまして同じような取扱をして頂きたい、こういうふうに私
どもは感じておるわけでございます。
それから物品税
関係でございますが、これは今度の
補正予算におきまして大体八億一千万円を減ずる
という案にな
つておるようでございますが、これも私
どもほかで伺いました資料によりますと、
政府の原案は十四億七千万円とな
つていたようでございます。そうしますとそこで六億六千万円ばかりが何かの都合で削減せられておる
というふうに
承知するのでございます。大体この物品税は、創設せられました趣旨が戰時中の消費規正、贅沢品は勿論いけないのでございましようが、戰時中の戰時
統制経済の必要上、物資その他についての消費規正
ということから
考えられて設定せられたように伺
つておるのでございます。従いまして終戰後私
ども文化國家として大いに立直
つて参る
というふうな際におきまして、そういう由来の物品税でございますから、これは贅沢品は除きまして、でき得るならば全廃して頂きたい。それが理想でございますが、若しできない
といたしましても大体最高
税率三割
程度でとめて頂くと共に、品目につきましても
相当程度圧縮して頂きたい。このように
考えるものでございます。なお今日売掛代金の回收が非常に困難にな
つております。又
金融情勢等から見ましても、この物品税の業者が負担しますところの額も少からん額に上
つております。現在物品税につきましては庫出し後二カ月を認められておるのでございますが、それを更にもう一カ月延長して頂きまして三カ月
程度の猶予を見て頂きたい。このような業界の要望でございます。
それから法人と個人との税の不均衡でございますが、これにつきましては特に個人企業の多い中小業界におきまして非常に強い要望がございまして、現在法人におきましては従業員などは必要経費として認められておるのでございますが、個人の業者なぞにおきましては家族労務も必要経費として認められない、これは利益とみなされる
というふうな工合でありまして、いろいろと不均衡を生じておるのでございます。又地方税の均等割におきましても例えて見ますと東京なぞにおきましては、法人が二千四百円、個人が八百円に所得割を加えたもの
ということにな
つておりますが、三越や
日本銀行のような大きな建物、大きな資本を擁しておるところの法人に対しましても二千四百円でございます。又小さな協同組合や企業組合或いは小さな法人も同じような率で二千四百円
ということにな
つておるのでございますが、このような平等は極めて惡平等でございまして、これは速かにその資本金であるとか、或いはその建物の大きさとか、設備とかいろいろなことを考慮いたしまして適当に差等を付けて頂きたい、こういうように感ずるものでございます。
それからもう
一つは、これは今日申上げてもどうかと思うのでございますけれ
ども、附加価値税が二カ年実施の延長になりましてその代りとして事業税が復活いたしたのでございます。大体その事業税の大
部分は個人の業者の負担とな
つておるのでございますが、大体事業税が復活いたしまする際に、これは附加価値税の四百十九億
という
予算に見合いまして、事業税をその
程度にとどめたものと理解するのでございますが、この附加価値税の個人と法人の比率
というものは、大体法人が二百二十億、個人が百九十九億、法人より個人のほうが少い
というふうな見込にな
つてお
つたのでございます。ところがこれを事業税に置替えられますとその比率は逆転いたしまして、法人におきましては八十四億八千万円、個人においては三百十七億
というふうに附加価値税を実施せられますならば、個人におきましてはかなりの、その他の新らしい税目もございますけれ
ども、法人と個人の比率がそんなに不合理にならずに済んだのでございますが。これを事業税
ということになりまして、法人の附加価値税における見込額が百三十五、六億も減りまして、それが直ちに個へ業者にしわ寄せされる
というふうなことにな
つておるわけでございますが、これらの点を
考えましても、非常に資本力の弱い又経営の力の低い中小業者に対しまして、制度としての税の重圧がかなり強く響いておる
ということが私
ども感ぜられるのでございます。
それからもう
一つ、私
どもといたしまして特にこの機会におきましてお願いいたしたいと思いますことは、滯納税の問題でございます。御
承知のように第二次シヤウプ
勧告におきまして、滯納税の年度内整理
ということが強く
要求せられております。現在これは大体の数字でございますが、滯納税のうち最もその大
部分を占めておりますのは申告
所得税でございます。現在まで約千億の滯納があると言われておるのでございますが、そのうち本年度におきまして七百億、過年度分が三百億
ということにな
つております。この数字は大体のところでございまして必ずしも確実なものでございませんので、ただ大体の目安でございます。この滯納分につきましては、もとよりこれは業界
といたしましても当然納税の努力をいたすべきであると思うのでございますが、ただ過年度分の約三百億
程度と見られますところの滯納分につきましては、これはいろいろな事情がございまして、まあその事情の
一つといたしましては、一昨年から昨年にかけまして例の
ドツジ・ラインというふうな
財政経済の進めかたから、非常に
物価の値下りが起りまして、手持商品の値下り、或いは原材料の値下りなどで、これは全部が全部ではございませんけれ
ども、この中の
相当な
部分につきましてはかなり損失をいたしておるのでございます。
政府は
価格差益金は
相当取立てた模様でございますが、相場の下落によります差損につきましては全く顧みない
というようなことでございまして、この過年度の滯納分もかなりあると思うのでございますが、これらにつきましてはできますならば一応棚上げにいたしまして、併し棚上げにすると申しましても切捨てる
という
意味ではございませんで、業界の力、中小業者のこの現在の
金融難その他のいろいろな事情を勘案頂きまして、分割拂い
というふうな便法が講ぜられますならば、非常に業界としては、この税から来ますところの圧力が助かるのでございます。税法におきまして
減税になりましたところが、必ずしもそれは現実の
減税にはならない
というふうなことをよく言われるのでございますが、特に中小企業の
立場におきましてはそういうことが非常に多いのでございますが、勿論税法におきまして担当
程度の
減税をして頂く
ということは、もとよりこれは願うことでございますけれ
ども、それと共に税務の行政の面におきまして改善と申しますか中小企業に対する理解を深めて頂く
ということができますならば、一層中小企業の税問題の解決がやすくなるのではないか
というふうに思うのでございます。
大体中小企業の予定申告納税者が非常に多い
ということは先ほ
ども申上げたのでございますが、税務署の見込課税
というものと一番
関係の深い業者の層でございますが、
昭和二十三年度におきましては更正決定をせられました者の数が五百二十万件もございまして、そのうち審査の
要求をいたしましたものが百八十万件
というふうな多数に上
つておるのでございます。二十四年度に入りましてはやや改善せられたのでございますが、それでもなお三百五十万件
というふうな多数に上
つておるのでございます。國税庁の数字に基きますと、大体二十五年度の予定申告の納税者が六百九十万人ある
ということでございますから、大体二十四年度におきまして更正決定を受けました業者はその半分三百五十万人でございますから、その約半分が更正決定を受けた
というふうなことにな
つておるかと思います。又七月の申告におきまして國税庁の発表によりますと、その六百九十万人に概算せられますところの予定申告をすべき業者が、七月の申告で僅かに三百三十万人よりしておらない。従いまして千五百八十億
という税額の見込額に対しまして、申告分は八百八十億よりほかなか
つたということでございます。これは非常に私
どもといたしましても遺憾に存ずるのでございますが、何しろ中小企業と申しますものは帳簿の整理の能力を持
つておりません。大体におきまして生業
という
性格が非常に強いものでございますから、非常に帳簿の整理の能力に欠ける点があるのでございます。いろいろシャゥプ
勧告におきまして青色申告等、非常に合理的な税の仕組ができたのでございますが、これに対しましても法人は約半分くらい申告しておるのでございますけれ
ども、個人の業者で申告いたしました者は、今年の五月末日まで延期になりましたあの申告期間におきまして僅かに七%であ
つた。百人に対しまして七人
程度よりしておらない。而も税務署で承認せられたものが四%であ
つたというふうなことを見ましても、如何に中小業者
というものが、この帳簿整理を中心としますところの経営
というものに縁が薄いか
ということがわかると思うのでございます。これにつきましては中小企業の簿記運動その他いろいろや
つておるのでございますが、なかなか十分にその効果を挙げることができないのでございます。そこで私
どもはこれは多少思いつきの嫌いはあるかと思うのでございますが、青色申告の制度が徹底しませんために、これに対して特に個人の業者に対しましては何らかの特典を與えてやる、できますならば天引控除
というようなものを與えられるならば、
相当に関心を持つんじやないか
というふうに思うのでございます。
それからもう
一つ、税務行政の問題に関連しまして、中小企業界で問題にな
つておりますのは、税務
会計と企業の
会計とのやりかたの違いでございます。例えば売掛金につきましては現在は発生主義
というふうなことにな
つておりますが、最近の売掛金の回收状況、或いは金詰りなどを見まして、これはどうしても現金主義にしてもらいたい
というふうな要望が非常に強いのでございます。貸倒れ準備金につきましては、青色申告をした者については特典がございますが、これも非常に低額のものでございますので、どうしても売掛金の回收につきましては、現金主義
ということにしてもらいたい。こういうふうな強い要望を持
つておるのでございます。
又納税預金の制度も近来銀行その他
相当宣伝いたしておるのでございますが、これは全く何らの法的な根拠もなければ何もない。ただ自由にしてあるのでございまして、ただ多少普通預金よりも利息が高い
という極度でございますが、ただ中小業者などの
立場におきましては、この納税預金の制度を法制化して、納税預金の納税組合法
といつたようなものを設けられまして、そうしてその率もできるだけ高い利率で優遇いたしますならば、
相当の効果が挙がるのではなかろうか
というふうに
考えているのでございます。
大体以上でございますが、最後に私
どもお願いいたしたいと思いますことは、中小企業の問題は非常に複雑でございまして、單に中小企業の
立場よりしての対策だけでは十分に効果を期待し得ないのでございます。従いまして
政府におきましては中小企業庁
といつたような役所もございますが、
國会におかれましても中小企業のための常設の委員会
といつたようなものを設けて頂きたい。これは
アメリカには上院に中小企業対策の委員会があるそうでございますが、私
どもといたしましても、是非ともそこまで
國会におかれましても御配慮を願い、そうしていろいろと総合的に中小企業の対策なり或いはこの税問題その他につきまして御研究を願い、いろいろ御支援を頂きたい。かように思
つておる次第でございます。
簡單でございまするが、以上で終ります。