○
公述人(武正総一郎君) 只今御紹介にあずかりました全指連の武正でございます。先ほどお話がございましたように、実際的には昨夜私のところに連絡がありまして、まあ今日
公述人として出ろ、こういうお話でありました。従
つて具体的な
数字とかいろいろな
資料をお
手許に御配付いたしまして、十分農業者の
立場からいろいろ御注文をお受けして頂く、そういう機会を得なか
つたことを非常に残念に存じております。問題が抽象的になるかも知れませんが、その点は御了承願いたいと思います。
何と申しましても、我々農業者ほど各県において或いは中央に対しましてしばしば陳情なり請願している職業者はいないと思うのであります。そのくらい農業の経営が如何に困難であるか、こうい
つた点について、この
補正予算と農業者の
立場から、その
関係につきまして若干述べさせて頂きたいと思うのであります。私は
補正予算の検討に入ります前に、基本問題を一応提示いたしまして、そうしてその次に災害
関係の
予算に関する件、或いは公共事業費に
関係する件、農業金融
関係に関する件、更に農業協同組合再建整備の問題に関しまして述べさせて頂きたいと思うのであります。私がお話するまでもなく、
補正予算の根抵を流れておりますものは、何と申しましても
均衡予算は堅持しなければならん。而も國外なり國内の
物価高の傾向に鑑みまして資本の蓄積を実現するというのがこの
予算の究極の目的でなければいけないのではないかと思うのであります。そういたしまして、
日本の再建なり更に農業の
日本における再建というものがしつかり講ぜられて頂くことは必要でないか。そういう点から申しますと、本日ここにこの二十五
年度の
予算補正を見ますというと、農業の資本の蓄積という点については、少しも考えられておらないように見受けられるのであります。これはもう申上げるまでもなく、実際農業を取巻くところの環境が、これは非常に不利な條件に満ちているのであります。私個人の問題を取上げますと、おかしいのでありますが、私も父祖伝来二町ぐらいの田畑を耕して来ておりますが、
日本全國のいわゆる農家を仮に六百万と押さえます。一戸当り八反、
平均まあ一町としましてこの收入がどのくらいあるか。現在米価が一応
予算の上においては、五千数百円が計上されておりますが、これを闇だとかいろいろなものを勘案いたしまして、一石六千円で売れたといたしましても、一町の経営では、一年に十五万円ぐらいのいわゆる收入しか上らないわけであります。この十五万円で一家五人が食
つて行く、而もこの十五万円のうちは、半分は流通
経済に乗らないのであります。半分が供出という、非常に価値と価格から乘離したような、我々から申しますと、極めて遺憾な価格によ
つて、強制的に商品化せられる農産物である。そういう点から申しますならば、一月に大体六千円、或いは七千円前後でそうして暮して行かなければならん。更にそれは一切
家族の労働が結集して常に労働しておるわけであります。その中から肥料の問題を申上げますならば、昨年よりも肥料代金は、七割も高くな
つております。その他租税はお陰様でだんだん減
つて来ておるようでありますが、併しながら全体を比べると、
地方税とか、いろいろな寄附金等についてもそう軽減しておらないのでありまして、そういたしますと、一体農家の
本当に
手許に残る金はどのくらいであるかという点を大体予想されるならば、こういうプリミテイブな計算で出しましても、農業の経営が如何に困難であるかがおわかりになると思うのであります。只今いわゆる官公
職員の
給與の問題が出ておりますが、我々百姓から申しますと、最近農村におきましては、私も村において、村長なり、或いは組合長なり、P・T・Aの会長とか、いろいろなことをや
つて参りましたが、最近の農村におきましては、次男坊、三男坊の問題が、非常に大きな問題とな
つて来ておる。私のところに夜参りましては、
一つ官吏なり、公吏になる口はないかということが、非常に多いのであります。我々農業者から見ますならば、現在の官公
職員の
待遇は、これは確かに今お話がありましたように、低位のものでありましようけれども、
我我農業者から見ると、それが
一つの羨望に値するところの職業であると見られておるのであります。このように現在の農業の置かれておる地位が、極めて低いということは、私は何としても遺憾なことであります。そういう点から見ますならば、この補正の中には、
我我が
要求するところの一割も、恐らく何分にも当らない微々たるものしか計上されておらない、数学的には、各省に常に我々の
要求といたしまして
数字を計上いたしまして運動しておるのでありますが、なかなかそれが取上げられて頂けないのであります。
農林省におきましても、年々農家
経済調査をや
つておられますが、最近の調査によりますと、中流以上の農業経営においてさえ赤字を示しておるのであります。従
つて我々が如何に思想が堅固であろうとも、その切実な農業経営を調査する場合には、農家が赤字があるばかりでなく、調査員が赤くなるということも、これ又必然性を持
つておると思うのであります。そういうふうな根本的な問題を十分御勘案を頂きまして、今後この
予算につきましては、できるだけ農業に対して優位にお取計らいを願いたいと思うのであります。更に今春におきまして、いわゆる救農
國会を召集して貰いたいと、我々の農業者なり、農協
関係で常に
要望してお
つたのでありますが、幸いに廣川農相が興農
國会を開いてそうして千分その問題を討議しようという朗報を頂いたわけであります。然るにこの問題にいたしましても、その救農
國会、或いは興農
國会としてのその性格が少しも
予算面の上におきましても、あらゆる点におきましても、その片鱗さえ窺えないということは、極めて遺憾に考えるわけであります。要は私申しますのは、農業がいわゆる統制
経済体制から自由
経済体制にすべての社会
経済界が移行しておりますときに、農業界だけがその市場が非常に狭められており、而も農業を営むところの資本の蓄積が不可能なような、そういう環境を十分に是正するように
予算を組んで頂きたいというのがこの
予算全体を通じてのお願いであります。
次に基本問題はそのくらいにいたしまして、個別的に問題を展開して行きたいと思うのでありますが、次に災害対策についてこの
補正予算の内容を検討いたしたいと思うのであります。
第一に災害対策について申上げます。今夏のキジアとか、ジエーン台風が相踵いで近畿、中國地帯を襲
つてその被害は非常に甚大なものがあるのでありますが、特にそのほか、五月、六月には関東なり、東海に局部的な台風も参
つたのでありますが、その関東等に襲
つたそういう被害においても甚大なものがあるのでありまして、ましてキジアとか、ジエーン台風は、総額におきまして五百九十四億円に上り、キジア台風だけでも百八十四億、ジエーン台風で百五十億というようにな
つておりますが、こういうふうな甚大な被害を受けておるにもかかわらず、この災害に対する対策、それに対する
予算というものは、極めて軽微であるということはお話にならないと考えるのであります。僅かに災害防除の薬剤費だけが一応認められておるようでありますが、そのほか農村におきましても、肥料の資金でありますとか、種籾の対策費であるとか、いろいろあるのでありますが、そうい
つたことも十分御勘案できておらない。更に農業倉庫の被害は極めてこれ又重大な問題であるのであります。農業協同組合は農業倉庫を経営しておりますが、実質的にはこれは
政府の管理の米麥が貯蔵されておるのでありまして、従
つて農業倉庫は、経営は農業協同組合でありますが、実質は
政府の管理倉庫であるというふうに我々は考えておるのであります。そういう性格を持
つた農業倉庫が被害を受けた場合には、一体その被害に対する補償と申しますか、その修理はどこでや
つて頂くか、これを單に協同組合が経営しておるからと
言つて、協同組合自身とか、農業者自身にその責任を全部とらせることが至当であろうかという問題であります。私はこれは絶対に
政府が十分責任をと
つて、これに対する対策を講じて頂かなければならないと考えるわけであります。而もその倉庫に納められますときに保管料の問題であるとか、細かいことでありますが、そういうふうな点については企業
経済に載せるような、そういう保管料で、ないために、農業の資本の蓄積というものが十分この点においても可能な形にな
つておらないのであります。こういう点につきましては、十分
一つお考を願いたい。農業倉庫などの災害につきましては、約一億五千万とな
つておるのであります。このぐらいは私共はやろうと思えばや
つて頂けるのではないかと思うのであります。皆様十分御承知だと思いますが、
昭和の十年前後でございましたでしようか、例えばいわゆる農業部落団体の活動助成費という、そういう
一つの小さな助成費だけでも、年間二百万、それからそれが三年間ぐらい続きましてその後には三千万円も助成金を出しておられるのであります。当時部落団体は二十万くらいあ
つたと思うのでありますが、一部落団体百五十円の助成になるかもわからないのでありますが、当時の金で百五十円で現在のいわゆる価格に評価替えいたしますならばどのくらい大きなものか、いわゆる農業のそういう部落団体だけにおいても與えてお
つたということがよくおわかりになると思うのであります。ところが現在農業倉庫は
政府の管理倉庫のような形にな
つておる。それがいわゆる我々としては非常に大きな金額でありますが、額といたしましては約一億五千万円、これすら
政府が何らかの形で助成ができないということは我々いわゆる農業者の
立場から見ると非常に遺憾な極みであります。更にそれならば自主的に解決しようというお話があるならば我々の自主的な力で行うためには、どうしてもその場合には融資をお願いしなければならない。更にそれに対する利子補給というような点についても十分お考え下さらなければならない問題があるのでありますが、この点についても十分考慮が拂われていないのであります。この点につきましては十分御出席の各先輩議員に十分御努力をお願い申上げたいと思うのであります。なお災害地の農業者につきましては農業手形の返済
期間等についても延期して欲しいということを
要望しておるのでありますが、これさえも認めておられない。僅かに災害地の
税金の減額申請手続が簡單に少しな
つたというに過ぎないのであります。更に
地方財政平衡交付金制度の中でもいろいろ問題があると思いますが、本日
資料をあいにく持
つておりませんので、又次の機会に述べさして頂きたいと思うのであります。
次に公共事業費の問題について述べさして頂きたいと思います。公共事業費は我々の農業者の
立場から申しますと、土地改良なり災害復旧というものが十分考慮されておるかどうかという点でありまするが、
補正予算にも四十一億内外の増額が計上されておりますが、農業につきますと年々絶対値は多くな
つておりますが、公共事業費の中に占める割合がだんだん減少しておるということはこれ又我々としては遺憾なことであります。特に農業生産性が現在まだ米にいたしまして反二石、よく行
つて二石五斗であります。御承知のように徳川、いわゆる鎌倉幕府時代におきましても、ああいう封建性がこれから展開しようというときにおきましても中田においては一反当り一石とれておる。現在近代的な社会において僅かに二石数斗でおるという、こういうふうに生産性が極めて低いということは如何なる理窟を並べて見ましても、現在の農業というものが
本当に
國家の手厚い助成によ
つて一日も早く近代的な社会のレベルまで持ち上げるようにして頂かなければならない、さように考えておるのであります。土地改良のごときは、農業協同組合などの行う団体経営事業に十分やらせるように、そのためには
相当の補助も出して頂かなければならん。これは
昭和二十四年まで行われてお
つたのが、
昭和二十四年以来打切られておるのでありまして、これはむしろ我々といたしましては逆行しているのではないかと思うのであります。そういうものは全部打切られておるのでありまして、私はこういう問題こそこの
予算に十分計上して頂かなければならないのではないかと思います。勿論國営事業という形で出ておりますが、國営事業は私から申上げますならば非能率的であり、而も小規模の土地改良事業にはどうしても自主的な団体、農業協同組合であるとか或いはいろいろな土地改良区の問題、そういうふうな団体に十分やらせるようにして頂くことが一番いいのではないかと考えておるのであります。現在我々協同組合
関係におきましても盛んに土地改良事業を促進するように勧誘いたしておるのでありますが、何と申しましても
相当の固定資本が要りましてどうしても最初は助成を十分行な
つて頂かなければならないのであります。例えば田と畑の問題がありますが、私は田と畑というものが区分されて考えられておる間は、いわゆる近代的農法というものは採用されないと思うのであります。田と畑というような区別が取除かれて、従
つて畑が人工灌漑によ
つて水田にもなり、或いは水田が畑にもなる、こういう條件を満たしてこそ初めて機械化農業も有蓄農業もできるのであります。そういう
一つの現われといたしまして、関東の埼玉でありますとか、或いはその近くでや
つておりますいわゆる陸田農法という畑に人工的に水を灌漑することによ
つて水稲を植える。こういうかつこうでや
つた場合に、水田も畑も何と申しますか差がなくなり、灌漑用水のような水に関する技術が十分に伸びて行き、従
つてそういう点では機械力も畜力も推進して行き、水の灌漑が自由に調節できるから、その場合には普通の水田よりも二割ぐらい増收ができる。そういうものが起
つておりますが、供出制度がある限り、それが、表面化して動いておらないというだけであります。こういう問題も一切がやはり土地改良事業に発しておるのでありまして、十分御勘案願いまして今後とも、そういう問題につきましては、この
予算の中に十分計上しで頂きたいと思うのであります。
更にいろいろございますが、時間もだんだんと過ぎて参りましたので次に移りたいと思います。
政府の農業
関係に対する財政投資は公共事業費で見ましたように若干増額をしておりますが、その割合は減少しておる。公共事業費以外の農業
関係は二十五
年度の補助金の内容を見ますというと、單作地帯、それから温床苗代、こうい
つた関係に二億円ほどの補助金が計上されておりますが、このくらいでは我々といたしましては何といたしても承服できないのであります。例えば農業所得税だけを見ましても二百二十億円も取上げておるのであります。そういう点から農業に還元されるものは如何にも少いのでありまして、これはマイナスだけしか残
つておらない。見返資金や預金部資金の融通の措置がとられおるかと申しますと、これ又さような措置は全く受けておりません。農業金融に対する根本措置を
政府は何ら講じておらないと私共には考えられるのであります。併し見返資金の融資が今春十億農業に許可されましたが、これとても七分五厘の優先配当をしなければならない。こういう点についても全く困
つたものだと考えておるのであります。今度農林漁業金融公庫を作るというふうな話が出ておりまして、我々は一切それに期待をかけておりました。土地改良事業にいたしましても、或いはいろいろな問題にいたしましても、そういう金庫によりまして融資が十分行われると
思つてお
つたのでありますが、又最近それがふいにな
つたように聞いておるのであります。かくのごときは
我我といたしまして遺憾至極に存じておる次第であります。併しその代りに特別会計を設けまして、
最低六十億の資金、並びに預金部資金から七十億の繰入れ、合計百三十億の融資をする。こういう話か進んでおるようでありますが、これにつきましても今までの経過からいたしまして果してこれが実現するかどうかについて危惧の念を抱くのであります。十分この点は農業金融のあり万からお考え下さいまして、この問題が十分の結果を生むように御努力をお願いしたいと思うのであります。そのほか現在のこの特別会計による金融措置では、問題はやはり利率にあるかと思うのでありますが、伝えられますところによりますと一割前後の利息で、その上にいろいろの制限或いは枠がはめられるのではないかと言われておるわけであります。我々といたしましてはそういう高い利率ではなかなかそういう特別な金融措置が講ぜられても、今度は利用がしにくいかと思うのであります。私
たちが考えておりますのは農漁業金融法案というふうなものを
作つてそうして利率は少くしも五分以下で貸出ができるように
是非あ
つて欲しいと考えておるのであります。例えば輸出銀行のほうだけはすらすらと進んで決定しておりますが、農業金融のほうはいつでもデツト・ロツクにぶつかりましてそれが解決しておらないということは誠に遺憾であります。
いろいろございますが、次には農協再建整備の問題について述べさして頂きたいと思うのであります。
農業協同組合再建整備の必要性についてはその都度我々陳情なり請願いたしましてお願い申し上げておるのであります。先ほども申上げましたように
日本の農協というものの根抵がまだまだ近代社会の他の
経済部面と十分対等に競争することができない
立場にあるのでありまして、少くとも或る
期間はそれを
政府が手厚い助成の下に、一人前に近代社会で他の部面と肩を並べて
経済的にも競争ができるような形にして貫いたい、それまでは手厚い
一つ保護政策をお願いしなければならないのではないか。農業協同組合も終
戰後皆様の御盡力によりまして急激にこれが全國的に普及いたしました現在、三万数千の協同組合を擁しておりますが、その協同組合もいわゆる自由
経済体制に転換するに当りまして、この春購買事業部面から端を発しまして、いわゆる農協の第一次危機という危險な状況にさらされたわけであります。そこでこの問題に対処いたしますのに、官民一体となりましてこれを再建するためにいろいろな方途を講じたい。そのときに例えばその問題といたしましてどうしても農協を十分指導育成しなければならん、その
費用といたしまして農協の検査費、或いは検査をした事後の処理をどうするかというそのための
費用といたしまして四千万円の格別の御盡力を頂こうと運動したのでありますが、まだこの点については十分成果が挙
つておらないのであります。経過的に申上げますと、これは皆様十分御了承のことと思うのでありますが、本年の四月二十日、皆様方の御盡力によりまして、農業金融疏通並びに農業協同組合育成強化に関する決議を出して頂いたわけであります。これに対しまして五月に吉田総理六百より佐藤参議院議長への回答がありました。これにつきましては、十分
予算的な措置を講ずるということを
はつきりそこに書いておられるのであります。我々は初めてこれによ
つて政府も或いは
國会も一丸とな
つて我々の唯一の
経済団体である農業協同組合の育成のために御盡力を頂けるものと
思つて非常に喜びを以て期待してお
つたのでありますが、これとても現在ふいにな
つておるのであります。我々農業者といたしましては、一國の総理大臣なりこの一國の
國会の議長は最も権威ある方、最も信頼する
立場にある方と存じてお
つたのでありますが、御両者の間で取交されたところのそういういわゆる回答が少しも実現されておらないということは、私は
國会並びに
政府の不信、これに過ぎたものはないと考えるのであります。従いましてこの点につきましては皆様方の御努力によりまして御解決をお願い申上げたいと思うのであります。甚だ不遜なことを申上げましたが、一応取りとめもないことを申上げまして、
公述人としての責を果したいと考えております。