○木村禧八郎君 私は
労働者農民党を代表いたしまして、
只今上程されました二十五年度補正
予算に対しまして反対の意思を表明するものであります。
反対の理由の第一は、この二十五年度補正
予算の提出の仕方です。参議院に提出した仕方が極めて不完全であつたという点でございます。池田大蔵大臣も
財政演説で申述べておられるように、この二十五年度補正
予算は二十六年度の
予算と合せて、いわゆる十五ケ月
予算として一体的構想の下に編成したのであると言われておりますが、その十五ヶ月
予算の本体となるべき二十六年度
予算は我々に十分に示されておらないのであります。我々
予算委員会におきまして、先ず二十五年度補正
予算を我々が審議する前提として、象の尻尾だけではなく、象の胴体です、これを示して頂きたい、そうでなければ
予算審議に非常に差支えるということを
要求いたしたのであります。大蔵大臣はこれに対して最初は御答弁なさらなか
つたのでありますが、後において極めて粗雑にそのあらましを我々に示したのでありますが、併しながら我々はその全貌を知ることができなかつた。部分的に象の足の爪先とか、或いは象の耳とか、その程度であ
つて、総合的にこれを十五ケ月
予算として我々は検討することができなか
つたのであります。これは大蔵大臣に私は責任があると思う。ただ形式的にこれが十五ヶ月
予算として編成されているのなら、これは止むを得ないかも知れませんが、この二十五年度
予算を審議して行く過程において、いわゆる野党懇談会におきましては、何とかこの
予算をもつとよく、働く者の、勤労大衆のためによく
改正しようとして、修正しようとして、いろいろ
努力折衝したのでありますが、その過程において、この二十五年度補正
予算が厳しく二十六年度
予算と繋が
つておるということが分
つたのであります。例えばこの補正
予算を修正しようとする場合、我々は財源を見付ける、その財源を持
つて来ると、それが二十六年度
予算に繋が
つているのです。従
つて二十六年度
予算がどういうものかということがわからないで、二十五年度補正
予算、来年の一—三月
予算だけを我々が模索して見たところで、との
予算の影響というものはわからないのであります。而もこの補正
予算を我々が承認いたしますと、十五ヶ月
予算の前提がこの補正
予算に織込まれておるのでありまして、従いまして二十六年度
予算を我々が承認せざるを得なくなります。例えば
予算の編成の基礎にな
つております米価にいたしましても、税制にいたしましても、給與ベースにいたしましても、これは二十六年度
予算に皆繋が
つておるわけであります。特に税制におきましては、先ほど所得税の
改正の反対討論の場合に申述べましたが、一応形式は一—三月とな
つておりますが、これが二十六年度にそのまま延長されて行くことにな
つておるわけであります。従いまして、この際我々がそれに賛成すれば、二十六年度の税制の審議に当
つて我々は実質的に拘束せられ、占領下における
財政の編成及びその実施に当りまして、これが非常に嚴しいことは、身を以て我々が体験いたしているところでありまして、一応これが形は二十五年度の補正
予算という形ですけれども、二十六年度
予算と密着しているのでありますから、又それとの関連においてOKを貰
つておるのでありますから、ここにおいて二十五年度補正
予算が修正できないということになると、二十六年度
予算審議において非常な窮地に追い込まれるわけであります。給與ベース、税制、米価、これが二十六年度においてそのまま延長して変えることができない。こういう我々は拘束を受けるのであります。ドツジさんが参りまして、非常に従来の
日本の
予算編成の仕方から見れば変則でありますが、いわゆる十五ヶ月
予算というものが、やや長期的の
予算が示されたのでありますけれども、これは従来の
予算編成方針とは余ほど違います。違いますぶ、これは実際にや
つておるのでありまして、従
つて我々はこの
予算を審議する場合に、これまでのように
政府が瞞されてはいけないと思うのです。これが二十五年度の補正
予算である。金額は小さいように見えます。併しながらそれが二十六年
予算に厳しく繋が
つておるという意味におきまして、二十六年度
予算が、又二十六年度の税制がどうな
つているかということが明らかにされないで、象の尻尾だけを審議して満足しているのでは、我々
国会議員として、又
予算委員として、これは世界或いは専門家の笑いを招くものと思うのであります。(「心配いらんわ」と呼ぶ者あり)こういう意味におきましてこの
予算提出の仕方が極めて遺憾であつた。非常に不完全であつた。従いまして我々は
国民に対して二十五年度補正
予算を十分に完全な形で審議したと言うことはできないと思います。そう言えない。若しそういうことができると言う人があつたならば、それは私は前提が間違
つているのだと思う。これが私がこの二十五年度補正
予算に反対せざるを得ない、非常に遺憾ながら反対せざるを得ない第一の理由であります。それから第二の理由は、この二十五度補正
予算の内容が著しく非民主的であ
つて非常に非公正的である。大衆の
生活を犠牲にしましてそうしていわゆる資本蓄積が強行される形にな
つておりまして、今そういう形の中から治安対策費が捻出されておる。そういう点であります。これを更に具体的に申しますれば、先ほども申上げましたように、補正
予算の編成の基礎になりました米価、それから税制或いは給與ぺース、この三つの柱の上に二十五年度補正
予算が組まれておるのでありますけれども、この三つの柱の米価を例にと
つて見ますれば、
只今予算委員長が
説明されましたように、消費者米価が十
キロ当り現行の四百四十五円が五百二十円にな
つておる。一升につきまして約十一円の値上りになると言われております。輸入米につきましては、四百五十五円が四百六十円、米についてはこのように消費者価格は上ります。併し小麦粉は現行の四百二十五円がやはり据置の四百二十五円、精麦も四百円で据置にな
つておりまする。麦は据置、お米の消費者価格は相当上る一升について約十一円上る、こういうことにな
つておる。
予算委員会におきまして、なぜこういうふうにお米の値段を相当上げ、麦の方はこれは据置くのであるから、そういう主食の価格体系をとられるのかという質問に対しまして、大蔵大臣は、
日本の最近の食
生活は不自然だ、例えば
予算書に書いてあるところによりますと、米と麦との比価が従来余りに接近し過ぎて
経済の実情に副わぬ点があ
つたので、そのように是正する方針がとられた、こういうことがお米の値段を相当上げて、麦の値段を据置いた、こういう一つの理由にな
つておる。併しこれだけでは我々よく分りませんので、具体的に大蔵大臣に、それは一体具体的にどういうことであるかということを質問したわけであります。これに対して大蔵大臣は、それは古来の食習慣に戻ることであるという御答弁でありました。古来の食習慣に戻るということは一体どういうことであるかと聞きましたならば、所得の多い人は米を食べる、所得の少い人は麦を食べる、こういうような昔の食習慣に還るという(「鶏だ」「徳川時代だ」と呼ぶ者あり)こういうことがあ
つたのであります。これを更に極端に言いますと、殊に農業家などにおきましては、昔の食習慣としては粟とか、稗、こういうものを農家は食べている。戦争以後です。いわゆる食糧統制、主食の統制にな
つてから農民の人たちも米を食べるようになつた。その結果、食糧慣は非常に変
つて参りました。非常に民主的にな
つて、重役さんも、課長も、一般社員も同じようにお米を食べられるようになつた。これは民主的だと思うのです。誰だ
つて白いお米は食べたいに違いない。人情として……。そういうようにするのが民主的であります。それを逆転させて古来の食習慣……所得のある人はお米を食べられるように、所得の少い人はお米を食べられないように米価を引上げて、小麦で我慢するように、麦で我慢する、こういう主食の価格体系をと
つたのであるこういう御答弁なんです。これはですね、私は大蔵大臣の表現の仕方がまずか
つたのかも知れませんが(「
ノーノー」と叫ぶ者あり)その基本の考え方について私は非常に非民主的ですね。後に触れたいと思いますが、給與ベースの上に厚く下に薄い、こういう姿と非常によく似ている。昔の習慣に還る。それは封建的な、太平洋戦争に導いた軍国主義的な、封建的な昔の食費慣に還る、(「その
通り」と呼ぶ者あり)これは私は重大な
所見だと思いましたが、そういうような基礎の下に二十五年度補正
予算等を編成する重要な條件である消費者米価が決められて行くことになりますと、我々は承服することができないと思います。(「賛成」と呼ぶ者あり)
第二に、二十五年度、補正
予算を作るに当りまして、第二の柱です。これは税制改革であります。
政府はこれまで減税を主張して参りました。我々がこれまで聞いたところ、又或いは新聞で
承知したところによりますと、減税は
予算上の減税というように我々は聞いてお
つたのですが、大蔵大臣は、自分けそういうことを言つたことはないと言
つておりますがいつの間にかこれが税法上の減税ということにな
つて参りまして、そうして、それは実質的な減税とすり替えられておる。こういうふうに我々は感じられるのであります。大蔵大臣はしばしば税法上の減税という言葉を
発言されましたが、これは所得を多く見積れば幾らでも税法上の減税はできるわけであります。所得の自然増收というものを人為的にこれを増せば、幾らでも税法上の減税はできるわけであります。これなどはもう数字の魔術に過ぎない。三歳の童子といえども、このようなことはわかるはずであります。こういうような減税の仕方であります。更に又減税のこの内容を見ますと、やはりここにも消費者米価を決めた根本の考え方と同じことが使われてある。例えば高額所得者に対しては、これは五十万円から以上は五五%であつたが、百万円超過五五%にしまして、五十万円以上更に税率を下げた。成るほど低額所得者にも減税を率として均霑さしておりますけれども、それと同時に高額所得者のほうを減税している。更に又法人税の自然増収の見積りにおきまして、
政府は非常に過少に見積
つている。その自然増収の見積りの基礎につきましても非常に機械的であ
つて、前年同期との比較においてや
つている。御
承知のように特需景気で、或いは輸出景気で法人は非常に沢山に儲けておるのでありますが、この前の税制改革によ
つて法人は三割五分しか、幾ら沢山儲けても税金はかからぬ。累進課税にならない。その上、地方税におきまして、いわゆる住民税の所得割がなくなりましたから、非常に法人は又減税されておるわけです。例えば東京都においてこれまで住民税を百万円納めた法人はたつた二千四百円でよい。地方税においても大減税、中央の税制においても大減税する、こういうような税制にな
つておる。これなどは今度の補正
予算におきましても、何とかこの法人の自然増収が相当ありますから、これを財源に見積
つて、そうして年末手当半ヶ月をせめて一ヶ月にする。或いは又調整号俸の切下げ、これを元
通りにする、そういうものの財源によ
つて我々は向けたいといろいろ研究しましたが、それも不可能であ
つたのでありますけれども、この
政府の言う二十五年度補正
予算の減税というものの中身は、やはり上に厚く下に薄いのであります。
もう一つの二十五年度補正
予算を編成した柱にな
つている恰與ベースである。これについては上に厚く下に薄いということが非常に論議の種になりまして、これは又計数的にもはつきりしておる。現行の給與の基準におきましては、この給與の低額者と高額者との開きが七・〇一倍であつたと思いますが、人事院勧告ほこれが七・二三倍、
政府の
改正案によれば八・三三倍になる、低額の一級一号の二千四百円の人と、局長給の十四級六号、この給與との開きが非常に拡大された。その理由として、だんだん
経済も安定したから、能率的な給與の体系に切替えて行く、そういうことが理由にな
つておる。決して我々はその考え方に反対するものではありませんが、
日本の
現状においてまだそういうふうな体系に切替えるには早い。大衆の
生活は決して安定していないと思う。これなども消費者米価の改訂或いは税制の
改正、その基礎になつた上に厚く下に薄いというこの根本的な非民的な考え方、この基礎に立
つて給與ベースが考えられています。
このように二十五年度補正
予算を編成したその三つの柱であります米価、税制、紬與ベース、この三つとも、その中味を段々検討して行きますと、著しく非民主的である、非公正的であると思います。このような基礎の下に二十五年度補正
予算は編成されているのでありまして、我々はこの民主的な時代において、それと全く逆行するような
予算の編成の仕方、これに対しては絶対に承服できないのであります。(
拍手)こういう形において朝鮮動乱の影響が二十五年度
予算に具体的に現われている。
政府は臨時
国会を召集する時期が遅れたりは、朝鮮動乱の影響、その推移を見て補正
予算に反映させる必要があつたから
国会召集が遅れたのだと、こう言われましたが、そうして、その影響はどういうふうに織込まれたかといえば、
只今申述べましたように、補正
予算を編成する三つの柱が上に厚く下に薄いように編成された。そういう形において朝鮮動乱の影響は織込まれた。そういう形で
国民生活に及ぼす影響は極めて深刻であると思うのでありますが、そういう形で
国民生活が深刻になり、治安が乱れれば、これに対してどういう治安対策をとるか。吉田首相に私は朝鮮動乱の影響或いはその対策として何に重点を置いて考えられたか質問いたしましたところ、
吉田総理は、治安の問題については一番真剣に考えている、こういうふうに言われました。その治安対策について法務総裁にお伺いしたのであります。その内容は、警察予備隊その他警察的なものの強化なのであります。こういう形において、一方では大衆の
生活を窮乏に陥れ、そうしてその犠牲において資本の蓄積をやる、その犠牲とな
つて大衆は騒ぐ、不安を感ずる、そういう場合には予備隊その他の権カ、そういうものを以てこれを抑える、これが吉田内閣の治安政策であります。朝鮮動乱の影響をこういうふうに織込んでおる。こんなに非民主的な私は
予算の編成の仕方はないと思うのであります。これが二十五年度補正
予算に反対せざるを得ない第二の論点でございます。第三の反対論は、
政府は、ドツジさんが参られまして折衝した結果、インフレ対策としていわゆる百億のインベントリーを行いまして、そういう形においてインフレを防止する、こういう政策をとりましたが、先程波多野委員長も述べられましたように、朝鮮動乱の結果として起る可能性のある、又起りつつあるインフレは、これは
貿易インフレなんです。従
つて輸入を増加する形においてこれを防止しなきやならないのに、
国民大衆の税金をユーザンスという形において外国為替特別会計にこれを繰り入れる、こういう形でインフレ防止をや
つて、これが大衆の犠牲にな
つておる。見当違いのインフレ防止対策にな
つておるのです。こういうことが背景にあ
つて二十五年度補正
予算が編成された。とれにも我々は反対なんです。更に第四として資本蓄積の問題でありますが、池田大蔵大臣は
財政演説で貸本蓄積を強調されましたが、我々も貸本蓄積に決して反対するものではないのでありますけれども、資本蓄積のやり方です、方法が著しく非民主的である。原始的な資本蓄積のような形で著しく残酷な形において行われておる。戰前の非常なチープ・レーバー、そういうような形において、そうして資本を蓄積しておる、こういう形、これが二十五年度補正
予算にはつきりと現われておる。(「さつきのペルはでたらめだぞ」「頑張れ」「まだ五分以上あるぞ」と呼ぶ者あり)更にこの補正
予算に(「陳謝させろ」と呼ぶ者あり)反対せざるを得ないのは地方
財政です。地方
財政の
要求が、これが無税されておる。これにつきましては非常に論議されまして、今私が又ここで繰返す必要はないと思います。
政府は誠意を以てこれを考えない。無視したんです。こういうことは来たるべき地方選挙に相当私は影響すると思うのでありますが、
政府はこの地方の
要求も無視して、而も
予算の公聴会におきましては、この地方
財政の逼迫の折柄、地方
財政に対して
政府は相当これを、いわゆる平衡交付金の増額をすべきであるという公述人が多かつた。公聴会というものを、そういう制度を設けながら、これまで公聴会の非常にまじめな正しい意見はちつとも反映されていない、或る公述人は、このような飾り物のような公聴会では、我々が来てお話するのは無意味である、民主的ということを偽装するための飾り物に過ぎないような公聴会では、我々真剣に来て陳述する勇気を失うと、こういう公述人があ
つたのです。(
拍手)輿論をちつとも反映させないこういう
予算編成というものは、我我は賛成できないのであります。
以上が二十五年度補正
予算に反対する論拠でありますが、これを要するに、二十五年度補正
予算に現われた根本的な
政府の考え方、一貫して現われている考え方は、ドイツの農民の話によく似ていると思うんです。シユタウデインガーといろ人が
経済の道徳的基礎という本の中で、ドイツの成る農民が自分の持
つている馬を苦痛に堪えない程これを撲
つて、馬が暴れ出した、その馬を、この馬は言うことをきかないから怪しからんとい
つて屠殺場に連れて行
つてしまつた、こういう話があるんです。吉田内閣の政策はそれと同じであります。(「その
通り」と呼ぶ者あり、
拍手)二十五年度補正
予算に現われておるところの、この貫いておる政策はそれであります。朝鮮動乱の影響を反映させたと言いましたけれども、米価にも、税金にも、給與にも、上に厚く下に薄い、大衆の
生活を窮乏に陷れて資本蓄積をするということ、そのために大衆が非常に不安になり、それで治安が乱れて来ると、この馬は暴れる、言うことをきかないからとい
つて屠殺場に連れて行く、これに類するようなことではないかと思います。原因ほどちらにあるのか。騒ぐ原因は、治安が乱れる原因はどこにあるのか。その中で暴動が起つたり、社会が乱れたりする場合、その責任は歴史上多くの場合は支配者側にあるということを一言
つたのは、誰あろうアレキサンダー大王であるということを、(笑声)このシユタウデイソガーという人は述べておる。政治の支配者は、政治の局に当る者は、この点を考えなければならないと思うのでありますが、吉田内閣の政策を一貫するものは、ドイツの農民が、自分の持
つておる馬を苦痛に堪えない程これを撲
つて、叩いて暴れ出した場合、これは言うことをきかない、これは従順でない、役に立たないとい
つて屠殺場に連れて行
つてしまうのと揆を一つにするものではないか(「
ノーノー」「その
通り」と呼ぶ者あり)と思うのであります。そうして、そういう考え方を道徳的に合理化し裏付けするために君が代を復活させたり、日の丸を復活させたり、これは訓育道徳そのものであります。馴らす道徳、犬や猫を飼い馴らす道徳であります。(「何を言
つておるか」「
予算のことだ」と呼ぶ者あり)こういう基礎に基いて二十五年度補正
予算が編成された。而もこれは厳しく二十六年度
予算に連な
つておるのでありまして、この重大な意義を持つ
予算に対して我々は絶対に反対せざるを得ないのであります。(
拍手)