○菊川孝夫君 私は
日本社会党を代表して、
只今議題となりました
公共企業体労働関係法第十六條第二項の規定に基き、
国会の議決を求めるの件につきまして、條件を附して賛成する
意見を申述べます。と申しますのは、本件の主体をなすものは、今更申上げるまでもなく、
昭和二十五年三月十五日仲裁裁定第三号でありまして、その骨子は二つの項目から成
つております。
一つは、
昭和二十五年四月以降は、基準賃金を平均八千二百円に達せしめることであり、その二は、
昭和二十五年度において、基準外賃金、現物給與、福利施設その他の給與等の切下げられたものを回復して、実質賃金の充実を図ることであります。
この裁定を受けた
日本国有鉄道総裁は、早速、運輸
大臣に対して、第一項実施に要する経費六十七億九千万円、第二項実施に要する経費として四十億八千万円、計百八億七千万円を
昭和二十五年度において支出でき得るよう
予算的処置を申請したことは運輸委員会で明らかにされました。そこで
只今議題とな
つております
通り四十九億五千百八十一万三千円を限度とする支出が承認されましたといたしましても、僅か約四五%を実施し得るのみであります。かくては
政府がたびたび言明した裁定尊重ということは單なる口頭禪に過ぎなか
つたと言わざるを得ません。むしろ裁定を蹂躙するものであると言うほうが適当であると思います。従いまして、私は国の一般的
財政状態及び国鉄の経理内容その他諸般の情勢からして、止むを得ず
昭和二十五年度は四十九億五千百八十一万三千円を限度として承認し、残余についてはこれを承認しないけれ
ども、二十六年度以降については何ら拘束するものではないという理解の下に本案に賛成したいと存じます。
その理由は、この文章を素直に読めば当然そう解釈されるし、より以上に裁定の持つ常識的な意義からしても、
法律的に
考えても、そうなければならないと思うのであります。私はこの際、先ず仲裁裁定の常識的と申しますか、社会通念に基いた意義を
はつきりさせて置く必要を痛感するのであります。そもそも仲裁制度は米英等の民主主義諸国の間に発達したものであります。これらの諸国では、労資間の紛争を平和的に解決し、
産業の平和を維持し、その民主化を促進する手段として、仲裁制度は労資双方によ
つて極めて紳士的且つ常識的に尊重されていることは申上げるまでもありません。これは彼らの民主主義の原理に基く社会生活の理念を形成する要素の
一つであるスポーツマン・シツプから出発したものと
考えられます。彼らは仲裁委員をスポーツにおけるアンパイヤであるとしております。
如何なるスポーツにあ
つても、アンパイヤの判定に対して一部服従して一部不服従とい
つたようなことでは、そのスポーツは成り立たないことは明らかであります。従いまして、米英等では、労働組合も資本家も、一旦仲裁委員の裁定が下
つた場合には、たとえ主観的に不利であろうと、潔く服することによ
つて、
産業平和を維持し、その発展に寄與しているのであります。
我が国の民主主義は米英をモデルとしていることは申すまでもないことであり、労働組合運動についてもこのことが要請されていることは当然であります。国鉄労働組合はこの要請に答えて行動し、仲裁委員会に裁定を申請するに当
つても、その結果は
如何なるものであ
つても服従する決意を持
つてお
つたことは疑う余地のないところであります、然るに
只今国会が裁定の四五%を実施して残余は切捨ててしまうといたしましたとすれば、民主主義を護るべき
国会が民主主義の原理に悖る重大な過失を犯すことになると思うのであり、又、国鉄裁定の一〇〇%実施を回避して、吉田
内閣はスポーツ的に見ますと、恰かも昨年
日本のプロ野球で相手方の選手を殴打して問題を起して出場停止処分を受けた某監督に当ると
言つても過言ではないと思うのであります。六ヶ月ぐらいの出場停止の価値が私は十分あると思うのであります。(
拍手)
次に
法律論からいたしましても、公労法第十六條の規定は、仲裁裁定についての
国会の
審議権は、飽くまでも
予算上の問題に限定しているのは明らかであ
つて、裁定の適否、内容については
審議権がないと思うのであります。(
拍手)若しそれを行わんとするならば当然
法律の改正を先行しなければなりません。よ
つて予算も決
つておらず、営業成績もどうなるか明確でない今日、二十六年度以降も不可能であるとして残余の承認をしないことは、越権であると信じます。第二に、公労法のどの條項を見ましても裁定の効力の消滅の規定がありません。ただ十七條に違反いたしまして同盟罷業だとか怠業その他の行為をや
つた場合には、第十八條によ
つて公労法によ
つて有するところの一切の権利を失うことにな
つておりますが、この十七條違反か否かは
国会において決めるべき性質のものではありません。又一般法の時効を適用することについても疑義がある問題であると思うのであります。
従つて国会は、單なる議決のみによ
つて、裁定の全部は勿論、一部といえ
ども切捨てる権限を持
つていないと思います。(「然り然り」と呼ぶ者あり)第三に、公労法第十六條を読んで見ますると
はつきりいたしまするように、法規裁量で、自由裁量の余地がないことは疑問の余地がありません。又付議する猶予日数まで極めて限定してあるのは、その速かなる実施を要請している立法精神を端的に現わしています。然るに今日まで九ヶ月間も議決し得なか
つたのは、これが実施に伴うところの
予算を附けて付議しなか
つたためであり、
予算編成権を持
つておるところの
政府の責任であります。これは
政府として、年末には一時金を
要求する労働攻勢が起るであろう情勢を察知して、裁定の一部実施で以て対処しようとした狡猾な労働
政策であると思います。かくのごとく
政治が
法律に優先する印象を與える
政策を是正するのが本院の重大なる任務であることを明確にしなければならぬと思うのであります。(
拍手)実施を遷延した上で五五%を切捨てようとするがごときことは、見逃し得ないところであり、條理上許されないところであります。第四点といたしまして、仲裁委員会は、憲法第二十八條によ
つて保障されておりますところの国鉄労働者の団体行動権を公共性の故を以て制限するところの反対給付として、
法律を以て設置された公的な機関であります。
従つて仲裁委員会の裁定を切捨てることは、憲法上の問題にまで発展することを銘記する必要があろうかと存じます。
次に民主的労働慣行を樹立しようと委員一同が努力しつつある現段階におきまして、
総理大臣が委嘱したところの仲裁委員会の裁定を、労働組合が黙
つて服従しているに拘わらず
政府が服従しないという結果になるところの残余の切捨ては、将来に悪例を残すと言わなければなりません。
以上の
観点から、私は本院の使命に鑑みまして、残余以下を削除して議決するのが正しいと信ずるものでありまするが、今や第九
臨時国会も終末に近く、それをいたすことによ
つて両院議決の相違問題に発展して、四十九億五千百八十一万三千円の支出さえ不可能になるようなことがあ
つたといたしましたならば、年末を控えて裁定実施の一日も早からんことを渇望している国鉄職員にこれ以上の犠牲を強要する結果を招来下ることを憂慮いたしまするが故に、極めて不満足でありまするが、敢えて以上申上げました諸点を前提とする
考え方の上に立ちまして、本議案に賛成するものであります。(
拍手)