○松原一彦君 私は第一クラブに所属しており
ますが、クラブの
性質上代表ではございません。同意を得まして私の所信を私の
責任において申述べようと思い
ます。
私は総理大臣に
お尋ねを申したいのであり
ますが、この民主主義の政治のあり方は、初めから
結論を決めたものが喧嘩をし合うのではなくて、熟議懇談によ
つて相手方に納得して貰うものであり、総智を集めて妥当な
結論を出すのが正しいと思
つており
ます。
従つてもう最初から
結論付けてしま
つて置いて、そうして相手の言うことは一切耳に入れないで突ばねてしまうというようなことでは困ると思うのであり
ます。(「その
通り」と呼ぶ者あり)どうか
吉田首相におきましても、私は決して御無礼なことは申上げないつもりでおり
ます。懇ろに
お尋ねを申し
ますから、どうか蹴飛ばさないで(笑声)御親切に
一つお答えを願いたいのであり
ます。
私が
お尋ね申そうと思い
ますることは、実はどうもこの演壇の拵え方が熟議懇談に適しておりません。もつとやさしく差向いてお話を申した方がいいと思うのであり
ますが、どうもこれは民主的にできておらないで、
お尋ね申す人に尻を向けてお話をしなければならないようなこの構造は、将来お互いにこれは
考え直したいと思う。
政府は高い所から君臨し、又下のほうから議員が申上げるといつたようなことでも悪いし、この演壇の上に立ちはだか
つて大きな声を出すことも私は面白くないと思う。まあ将来これはこういうふうな形でなくして、本当に懇談のできる
形式、できるならば
吉田首相にも自由党の真中に降りて来て坐
つて頂いてお話がしいいのであり
ますが、これは将来
一つお互いに
考えたいと思う。
今日私が
お尋ね申上げたいと思うことは、第一は
外交、特に
講和に対するところのお心構え、又その御信念についてであり
ます。私の
考えるところにより
ますと、これはかような
敗戰国が
講和に臨むのであり
ますから、勿論
講和会議の席上で対等にものの申されないことは分
つており
ます。又予め総理大臣といつたような
責任の
地位にあらるる方が、いろいろなことをば御
自身の即断で言われることもこれはよろしくない。常に
首相が
講和は機微を要するものである、自分の多年の経験によ
つてこういうことには習熟している、よく知
つているが故に言うのであるが、どうか
外交に関する限りは愼重にあ
つて欲しいと、こう常に言われていることに対しましては私は賛成であり
ます。併し今回の
講和会議はその対象とするところは我が八千万の
国民であり
ます。
政府に対象の
講和会議ではないと思い
ます。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
従つて講和会議に際して全八千方の
国民はぎりぎりの所でどういうことを期待し熱望しているかということを、何かの
機会においてはつきりと連合国側のほうに知
つて置いて貰うことは、
一つは今日まで史上前例のない程の寛容と又厚意とを以て
我が国を導いて来られたところの連合国に対して尊敬を拂い、且つ信頼を捧げるところのものであ
つて、その
国民の総意ぎりぎり
国民は如何なるものを
希望し如何なるものは
希望しないかということを知
つて置いて貰うことによ
つて、私は相互に非常な利益があると
確信するのであり
ます。と申し
ますのは、例えば
日本の再軍備の問題のごとき、ちらほらとすでに起
つており
ます。これは間違いのないどこかから起
つているに相違ありませんが、恐らく連合国側のほうにおきましてもこういう重大な問題に対しましては意見が分れると思い
ます。意見が分れた場合、凡そそれが正反対と
仮定し
まするというと、その最終の決定は、それは
日本民族が本当に望んでいるのか望んでいないのかということが、大きな決定の動機となると思う。これは私は間違いのないことであろうと思う。由来、昔のような懲罰主義ではない、今日は
敗戰国に対しましての
民族の自決を許す場合も多いのであり
ます。こういう場合の決定が、
日本国民の本当の期待することをば知
つておらるることによ
つて先方にも好都合であり、我々
民族にとりましても大きな望みが嘱せらるることになり
まするならば、私は何かの方法において、あらゆる
機会においてこの
日本国民の総意の結集を連合国側の方々に知
つて置いて頂きたいと思う。こういう
意味におきまして、私は
首相が今日午前中、
国民の
意思を決して曲げはしない、
国民の
希望するところは述べてよろしい、抑えた覚えはない、
外交は愼重にしなければならないけれどもが、
国民の
希望は決して抑制しないからあらゆる
機会に述べろ、こう言われたことに対しては、私は誠にその
通りだと思い
ます。我が意を得たるものであり
ますが、併し
国民の
希望と申しましても、かような占領治下にありましては我がまま勝手なことは申されません。これは
一つの限度があり
ます。又
国内におきましても我々は憲法を持
つており
ます。この憲法に背くようなことは、これは
希望としても申出されない筈であり
ます。この制約
條件の下においての
希望でなければ、これは正しい
国民の
希望とは申されないと思い
ます。遠慮なく言えと言わるるならば申し
ますが、併し私の今日まで折々耳に入れ
ますところにより
まするというと、
首相は大変慎重に御用心なさ
つていらつしやるようであり
ますけれどもが、
首相の身辺若しくは與党の方々の間から、私のこれはどうかと思うようなことが沢山耳に入
つて参
つておるのであり
ます。例えばほうぼうの
演説などを聞きましても、
警察予備隊、あれは国際連合軍の国際警察軍になるものであるとか、或いはやがては
朝鮮に進出して、その防備に当るものであるとかいつたようなことが、不謹愼にも言い散らされておる。これは憲法においても実は疑義があるのであり
ます。勿論疑義があり
ます。国際連合に我々が協力するということは、これは差支えあり
ますまい。併しながら平和保障を受けることにおいて、国際連合に、若し大きな我々に対する義務が生ずるということになり
まするというと、これは今日の憲法ではそのままには受け容れ難いという疑義がすでに学者の間にも起
つており
ます。今日の憲法のある間にさような一方的な不謹愼なことが指導せられるとか或いは言い触らされるとかいうことに対しては、慎重を御
希望なさる
首相においても、このままでよいでありましよか、どうでありましようか。又
日本の憲法の本質から申せば、私は一方的に対立的な
立場には立たれないようにできておるものであると思うのであり
ます。併したびたび問題にな
つており
まするいわゆる
外交白書について見ましても、
首相の身辺から
相当踏み込んだ御指導があ
つておる。又巷間、私はよく知らないのでござい
ますけれどもが、新聞などに散見するところにより
まするというと、私共の信頼する佐藤議長も折々さようなことをお漏らしにな
つておるのではないかという私は疑いを持つのであり
ます。これは余程御用心して頂かないというと困つたことになると思い
ます。私は
首相がかような点につきまして、本当に
日本の
民族が何を求め、何を嫌
つておるかといつたようなこと、いわゆる
講和会議に対するところの大きな期待につきまして、念を入れて、何かの資料によ
つて、あらゆる
機会にお調べにな
つていらつしやるであろうかどうかということを懸念するのであり
ます。ダレス顧問は先般
日本に来られましたが、あの忙しい間に各層の要人に面会して、
日本民族の真に求めるものを打診して帰
つておる。いろいろな方面からその材料を集めて帰られたと私は聞いており
ます。尚、進んでソ連側までもその打診を進めて慎重に準備をしておられるように聞いており
ますが、今
吉田内閣におきましては、何かそういう点で、本当に虚心坦懐に
日本民族の期待を聞いておられるかどうかということについては私は若干不安がある。或いは
首相の独断で以て、もうこれで分
つておるといつたようなことがあるのではあり
ますまいか。(
拍手)私はこの点に大きな不安を持つのであり
ます。
外交のことは俺に任せて置けとおつしやるお気持がどこかにあるのではないかと思う。私はそれであ
つてはならないと思い
ます。そこで今朝来の
首相のお気持も多少私に分りましたから、
国民の意見は幾らでも言え、聞こうと言われるのに対しまして、この壇上から私は真の
国民の総意、通念と思うものをここに申述べて、
首相の
所見をお聞かせ頂きたいと思うのであり
ます。
その第一は、今回
日本国民が求めておるものは單なる独立ではない。完全な自主権を持つた独立であ
つて、いろいろな紐の付いた
條件附の独立ではない。これが第一の
国民の要求だと私は信ずるのであり
ます。(
拍手)どうこうしなければ独立は許さぬとか、或いはどうこういう
條件の下に
日本の独立を許すとかいうようなことは勿論あるでありましよう。併しながらその独立の最終の決定線は、独立した後には
條件がない、そうして
国内のこと、
日本国として別国の間に伍する上に、その行動はすべて
国民の自主権によ
つてこれが決定せられるところの真の独立であ
つて欲しい。これが私は全
国民の要求であると思うのでござい
まするが、同僚の諸君は何とお
考えでございましようか。(
拍手、「その
通り」と呼ぶ者あり)いわゆる独立の名はあるけれどもが、
條件附の独立であ
つて、半属国であるとか、いわゆる植民地的な独立国であ
つてはならないのであり
ます。かような
意味におきまして
考えますときに、いろいろ聞えて参り
ますことにはどうも面白くないものがある。先刻、
首相は何ら未だ曾て密約したことはないと抑せられるので、私は安心はいたし
まするものの、どうも
首相の身辺の方々から巷間にそれとなく伝えられるところでは、いずれ再軍備は必至であるとか、或いはどうこういう
條件は必ず天降
つて来るとかいうような臆測が撒き散らされておる。ここに不安の種があのであり
ます。私は
日本国民は一日も早く独立の
講和に達したいとは思い
まするけれどもが、併しそんなに急いでまで、どんな
條件でもいいから独立したいというのではございません。多少の時間がかかろうとも本当の独立が得たいのであり
ます。真の完全なる独立の日を私共は期待しておるのであり
ます。これに対しまして
首相の御
所見を伺いたい。
又第二に
国民の総意と信じ
ますることに、憲法を本当にこのまま尊重してくれるかどうかということであり
ます。勿論憲法も我々
国民が作つたものであり
ますから、
国民によ
つて変えないとは私は申されません。枝葉末節の変更は将来においてもあると思い
ますが、あの憲法の前文と第二章とは、何と申しましても、
日本国憲法の
世界に誇る史上未だ曾てなかつたところの独特のものであるのであり
ます。ここに
日本国憲法の特徴がある。このことにつましても、又この憲法の成立に当りましても、これは並々ならぬ
日本国民の苦心の末にできましたものであることは、すでに
首相も御承知の
通り。併し私は念のために同僚諸君の前で、この憲法の成立について今一度顧みられたいと思うのであり
ます。
昭和二十一年六月二十日、時の天皇の御名の下に、内閣総理大臣吉田茂氏が憲法の草案を最後の帝国議会に提案に
なつた。その提案を見るというと、誠に異色のある憲法であり、いろいろな非難がここに起
つて参つたのであり
ます。かような夢のような空想のことが果してできるのかどうか。史上未だ曾て自衛権をも捨てたような、さような憲法が行われるものではないという非難、その他いろいろな点につきまして
相当に議論があつた。議論は沸騰いたした。或いはこれは向うから強制せられたのじやないといつたようなこともあつたのであり
ますが、併し
首相はたびたびここでお答えに
なつた、それにより
ますと、この憲法は人類普遍の原理に基いて、
世界恒久の平和のために我が
日本国民が挺身しようとするものであ
つて、専制と隷属、偏狭と制圧とをば一切この地上から除き去ろうとするところのこれは最高の憲法である。かように
首相はたびたびお話にな
つて提案せられたものであり
ます。爾来、私共も当時衆議院におりましてこの議に参加したのであり
ますが、委員会を開くこと九十一回、本
会議を開くこと九回、稿を改めて審議すること四回に及び、そうして前後一百十日間を費して惨澹たる苦心の末にでき上つた憲法であることは、その提案者である
吉田首相、第一次
吉田内閣当時の総理、とくに御承知のことであり
ます。私は今思い起すのであり
ますが、
昭和二十一年十月七日にこの憲法は最後の決定をいたしましたが、その前日、六日にこの演壇で、ここで私共の同郷の大先輩木下謙次郎氏は最後の討論に立ちました。これは当時與党の長老であつたのであり
ますが、この木下氏がかようなことを申された。この憲法はいろいろな非難もあるけれども、これは人類のために、いや、
国民として、国家としての最高の規範を示すものであ
つて、ただ一片の法律ではない。これは国の聖典であり、バイブルである。この聖典であり、バイブルとも言うべき憲法ができたことによ
つて、若し
世界に新しい光明を投ずることができるならば、それは我々誠に光栄の至りであると思う。三千年来求めて止まなかつたところの恒久の平和がここに糸口を切ることができるとするならば、これに越した仕合せはない。若し
世界の各国が本当に真底から平和を求めるならば、おのおの持つところの古い憲法を破棄し去
つて、我が
日本国憲法を採用せよ。然らば
世界の平和は立ちどころに実現するであろう。我々
日本民族は戰争に敗れたけれどもが、その敗れた機縁によ
つて、ここに史上未だ曾て試みたことのない、身を以て
世界平和を指導する先頭に立つ光栄を担うことができるに至つた。何という喜びであろう。我々は今や
世界平和の指導者となることができた。私はこの憲法のできたことを心から喜ぶと、原稿で卓を叩いて降壇したことを、はつきりと、この傍聴席から見て、今尚ありありとその印象を残しているのであり
ます。木下謙次郎氏は七十八歳でありましたが、間もなく病んで死にました。私はその後に会うてその当時のことを語
つて非常に喜び合つたのであり
ますが、それ程の誇りを持
つて亡くなられたところの木下氏のことを
考えましても、私は
日本の憲法は独得のものであり、この独得のものであるが故にこそ、
日本は私は今後安心して独立を任して貰えるところの
條件を完備していると思うのであり
ます。
然るにも拘わらず、ややもするというと一部から
日本に再軍備を許すとか許さないとかいうような声がある。許されて軍備をするというような
性質のものではない筈であり
ます。又
世界の連合国その他の国々が若し
日本をして再び軍備を持つような国に引戻すようなことがあるとしたならば、その人々ば私は断じて平和の誠意を持つ人ではないと思う。(
拍手)それは折角ここまで進んだ
日本をもう一度軍備の悪魔に戻すというような、そういう肚の中には、体には鎧を纏いながら、上に平和の衣を着た、これは偽装の悪魔であると思うのであり
ます。(
拍手)
日本の中立的な
立場というものは、消極的に押付けられたものじやない。詫び証文ではないのであり
ます。この中立は、積極的に
世界の国々をこの同じものに推し進めるところの積極性を持つたものであり、本当に丸界に平和を求めようとするならば、
日本と同じような国が
二つでき、三つでき、五つできなくちやならんのであり
ます。(
拍手)国際連合の方々が心から平和を求めておいでになることに対しましては敬意を表し
まするが、我々の仲間に入るならば国際憲章に
従つて共同の秩序を保つために軍備を持てとは私は恐らく言われまいと思うのであり
ますが、どうでありましようか。むしろ
世界の平和を打ち立てるために
日本りような国をこれ以上に作るための、ここに
一つの標本としても、これを推し進めなくちやならないと私は
考え得られるであろうことを信ずるのであり
ます。マツカーサー元帥は御承知の
通りの大きな人格の方であり、非常な寛容と指導力とを以て今日まで
日本を指導しておいでに
なつたのは、この憲法を満足とせられてでありました。私はさように信ずる。あの憲法のできた当時にマツカーサー元帥は、これをば非常に激賞せられた。更に極東
関係十三ケ国はこの憲法を承認しておるのであり
ます。今更
日本をもう一遍軍国主義の仲間入りにしようとは恐らくせられまいと思う。勿論連合国の仲間に入
つて平和の保障をして貰うことができるならば、それはこの上もないことであり
ますけれどもが、果してこのままの憲法で連合国の憲章と一致するかどうかには疑いがあり
ます。若し両立しない場合においては、私は須らく連合国のほうの側でその憲章を改められて、かような国が仲間入りのできるようにすべきことであると思う。(
拍手)そうでなけらねば偽装であり
ます。本当のものではございません。世間には軍備がなければ独立はできないと申す方が沢山あり
ます。蓋しこれは俗論であり
ます。一体インドが如何なる軍備を持
つて独立したか。
朝鮮がどうして独立したか。フイリピンがどうして独立したか。一番いい例がインドである。インドの指導者ガンジーは極めて貧乏人であり、極めてお人好しであつた。幾たびか英国の官憲から欺かれた。欺かれ通したけれどもが、彼はどこまでも正しいことを信じ、そうして無抵抗の抵抗を続け拔いた。インドの独立は軍備があ
つての独立ではない。その
民族の総意が独立を要求したからであると私は
確信するのであり
ます。(
拍手)今、
日本が
講和態勢に臨むには、その臨む準備行動は、一に
日本民族が真に結束して、この姿を以てどこまでも
世界の平和に貢献するために独立さして欲しいということのその熱意にかか
つておると私は信ずるのであり
まするが、
首相はどうお
考えでございましようか。
時間がありませんから、まだ申したいことがあり
ますが、私はこれに関連しまして内政問題を申上げたいのであり
ます。このままの姿で、この占領治下にあ
つて、鉄の枠をはめられてお
つても尚且つこの
状態である。
国内の
状態御覧の
通り、てんやわんやのこの
国内状態、これで以て平和に一体臨めるか。又
首相は多数党をお持ちにな
つて、この
講和にお臨みになり、独立の條約は自分の手でとおつしやるが、若し独立した後に今の
日本のこの政党の
状態で果して我々はどうなるかということに対しまして、一体御
確信がおありになるであろうかと思う。これは独立した後に難儀をするのであり
ます。これは大変な難儀であると思う。非常な苦しみが
日本にはや
つて来る。そこには不動の信念を持
つて、俗論に迷わされないで、インド以上の難儀をしながら、ここに
世界平和のための主張を貫くとところの固き決意がなけらねば、むしろこの独立は急がなくてもよろしいと思う。非常な決意がなけらねば、非常な難儀を覚悟しなければ、うつかり私は独立して、
日本国民は塗炭の苦しみを見るであろうことをば心配するものであり
ます。尚、内政に関しましては申上げたいことが沢山あり
ますが、これはもう時間がありませんから、いずれ官邸にでも伺いまして、ゆつくりと懇談をさして頂きたい。どうぞお許しを願いとうござい
ます。伺うことは伺い
ます。
私は以上を
首相にお伺いしまして、どうか短かい
言葉でもよろしうござい
ますから、蹴り飛ばさないで(
拍手)ねんごろなお答えを願いたいのであり
ます。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇、
拍手〕