○吉川末次郎君 文部大臣は非常にお忙がしいので、伺いたいのですが機会がほかにありませんが、丁度今日お見えにな
つたので、今御論議にな
つておることから少し離れる
ようでありますが、現在日本國内の
一つの大きな問題にな
つておりまして、又我々
地方行政を担当いたすのでありますが、
地方行政は教育行政をも又主要なものとして取扱い、極めて広汎なる
意味においての
地方行政の範囲内のものでありますから、特に
委員長の御
許可を得ましてこの機会に、時間は長くかからないつもりでありますから、お伺いいたしたいと思うのであります。
それは天野文部大臣の御指令によ
つて、日本の各学校その他のところにおいて「君が代」を復活して歌わすということを御指令に
なつたと大体新聞紙上で承わ
つておるのであります。これは私の見るところ、私見を以ていたしまするならば、教育上、政治上、日本の國民思想上における極めて重大な私は問題であるという
ように
考えておるのであります。申すまでもなく新憲法は、その全文並びにその前に書いておりまするところの前文よりいたしまして、民主主義の精神によ
つて立
つておるものであります。即ち國民主権を謳
つておるのであります。もとより天皇は國民の象徴として存在しておられるということは
規定しておりまするけれ
ども、憲法の前文並びに全部の法文というものが、日本國民がこれから世界において歩むべきところの
態度を示しておるものでありまするならば、それこそが又取りも直さず日本國民教育の基準でなければならないことは申すまでもないと思うのであります。然るに國歌、ナシヨナル・ソングが國にあるということは、私は必要なことであると思います。それは当然にその國民が國民の理想として、國民生活の
一つの理想として、ナシヨナル・アイデイアとして
考えているところのものがそこに表明されたものでなければならないと思うのであります。ところが、明治憲法と新憲法と対比いたしまするならば、明治憲法は即ち君主主権を中枢としたところの思想であります。或いは又一部の学者はできるだけそれを民主的にリードし
ようと思いまして、主権は國家にあるという
ようなことも言
つたのでありますが、少くともそれは國民に主権があるということは、全然反立するところの見解にまで立
つて明治憲法が制定され、又その明治憲法の中枢的な思想を根幹として、日本の学校教育及び國属の思想というものが今日までリードされて来たということは、言うを俟たないところであると思うのであります。そうした君主主権或いは國家主権の思想の上に立
つていたところの日本の國民生活の基本であるところの憲法が、主権は人民にあるのであるということをここに高揚いたしましたということは、それは一部の人が言
つておりまする
ように、これは明らかに革命が起
つたものであると言うて実質的には決して間違いはないのであります。然るに今日まで我々が子供のときから教育されて来たところの日本の國民思想、教育思想を現わしたところの「君が代」ば何を認
つておるのでありますか。我々は日本の國民の思想の理想といたしまして、
考え方の理想として「君が代」が、即ち天皇陛下の御代というものが、千代に八千代にさざれ石に、岩に苔が蒸すまで続くことな望むという
ようなことは、これは明らかに新憲法が
規定いたしりておりまするところのデモクラシーの精神に真正面から
反対するところの、何といいますか、君主親権主義、或いは一個の迷信の上に立
つた、一個の神話の上に立
つたところの、最も新憲法の精神より排撃すべきところの私は見解でなければならんと思うのであります。成るほどイギリスの國歌には「ロング・リブ・ザ・キング」という
ような歌が今日なお残
つておりまするけれ
ども、併しながら若しイギリス國民にして、この大戰において日本の國民が喫した
ようなこの惨澹たるところの敗北を喫する
ようなことがありましたならば、私は如何に保守的なるところのイギリス國民といえ
ども、「ロング・リブ・ザ・キング」という
ようなことをぼ國民に歌わす
ようなことはないと
考えるのであります。明らかに
一つのデスポテイズム、明らかに一のつ神話的迷信、明らかに
一つの帝王親権主義に立
つて、民主主義を全面的に否定するという
ような
内容を持
つたところの古い時代の國歌というものをば、一時それがすたれてお
つたにもかかわらず、文部大臣が指令を発して、各学校の生徒や或いは國民に歌わす
ようなことを復活されるという
ようなことは、私は日本の
政府、文部大臣、吉田首相、今日の反動的な
政府が新憲法の精神を蹂躙しておるところの由々しき重大事であると言わざるを得ないと思うのであります。文部大臣はそうした「君が代」の復活という
ようなことについて、私が今申上げた
ようなことについて、どの
ようにお
考えにな
つておるかということを先ず御答弁を願いたい。
それからそうした君主親権主義、民主主義の否定の精神を高揚しているところの時代錯誤的な古い國歌であるところの「君が代」の
ようなものをば、廃棄するところの意思をお持ちにな
つておるかどうかということを第二に御答弁願いたい。
第三番目には、真に新憲法が謳
つている
ようなデモクラシーの精神を基礎にしたところの新しい國歌を制定し、これを日本の國歌とするという
ような意思を持
つていられるかどうか、この三つの点についてこの機会に御答弁が願いたいと思います。