○武藤運十郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題となりました
国会の
審議権尊重に関する
決議案に対しまして
賛成の意を表明するものであります。(
拍手)
憲法は、その第四十一條におきまして、
国会は国権の最高
機関であ
つて、国の唯一の立法
機関である旨を高く宣言いたしております。その意味するところは、まず第一に、
国会は直接に人民の意思を反映する最高の
会議体でありまして、三権分立の制度にもかかわらず、なお
国会は行政権及び司法権に優越するということであります。第二には、
国会のみが立法権を持ち、
国会以外に立法行為をなし得るものは存在しないということであります。これを換言いたしますならば、
法律をも
つて定むべき事項は、すべて
国会の專権に属し、
政府の
命令その他によ
つてはこれを定めることができないという意味であります。(
拍手)
国会の
審議権は、実に
憲法のこの重要なる條項に根拠するものでありまして、
国会の
審議権を擁護することはすなわち
憲法を擁護することであり、
国会の
審議権を
蹂躙するものはすなわち
憲法を
蹂躙するものといわなければならぬのであります。(
拍手)
申すまでもなく、
日本国
憲法のもとにおきましては、
政府の首班は
国会によ
つて指名され、
政府は
国会の
議決を執行し、
国会に対して
責任を負うのであります。すなわち
政府は
国会に従属するものでありまして、たとえて申しますならば、
国会は主人であり、
政府は番頭であります。
政府が
国会の
審議権を
尊重しなければならない
憲法上の根拠は、ここにも嚴として存在するものであります。(
拍手)この点は、
アメリカ憲法におけるがごとく、人民の直接選挙による大統領が
国会の
議決に対して拒否権を有する制度とは、根本的に異なるものと申さなければなりません。従いまして、もし
政府が、か
つてに
法律にかわるべき
命令を濫発いたしまして、これに対して
国会が無條件、無
反省に
拍手を送
つて恥じないならば、
日本は再び東條軍閥
独裁内閣と、これに
拍手を送
つて翼賛
議会の出現を許すものであります。(
拍手)すなわちそれはナチス・ドイツのいわゆる授権法を再現するものでありまして、フアツシヨ以外の何ものでもありません。(
拍手)
日本は、すでに過去におけるフアツシヨ
政治を敗戦によ
つて清算し、新たなる
憲法によりまして、ようやく
政治を人民の手にとりもどしたのではありませんか。しかるに、もしわれわれがみずから立法権を放棄し、これを唯々として
政府の手にゆだねますならば、人民の代表たるわれわれの
国会は、遂にま
つたく無用の長物と化し、われわれはみずから墓穴を掘ることになるのであります。(
拍手)
吉田内閣の施政を見まするに、
食確法の改正、警察予備隊の設置、人事院勧告及び国鉄裁定の
蹂躙、
国会開会要求の無視並びにこのたびの
電力再
編成の問題など、まことに恐るべき
国会無視の連続でありまして、
吉田内閣こそは実に
憲法無視の常習犯と申しましても決して過言ではないのであります。(
拍手)もちろんわれわれは、今もなお
日本が
占領下にあることを忘れるものではありません。従いまして、またわれわれは、連合軍最高司令官の指令または覚書が、おおむね至上
命令的
性質を持ち、これを拒否し得ないものであることもまた否定するものではありません。しかしながら問題は、かかる指令または覚書そのものの効力にあるのではなくして、これに示された事項を
日本政府が国内に実施する手続のいかんにあるのであります。これを換言しますならば、最高司令官の指令はおおむねこれを拒否し得ないといたしましても、これを
日本国内に実施する場合、その手続は、必ず
政府の
責任において、
憲法の定めるところによらなければならないのであります。(
拍手)申すまでもなく、
日本国
憲法は連合軍総司令部の
助言と承認によ
つてつくられたものであり、
占領下におきましてもなお
憲法は
日本政府のよるべき根本的基準として嚴として存在し、
政府は、それが連合軍総司令官の指示する事項なるのゆえをも
つて憲法を無視し、
憲法に違反する手続によることは絶対に許されないのであります。(
拍手)
吉田
首相は、外交上の往復文書はこれを公表しない慣例だから、マ
書簡は公表しないと言われたそうであります。なるほど、外交官同士の個人的な往復文書や、対等な独立国間における往復文書などにつきましては、あるいはそういうこともありましよう。しかしながら、このたびのマ
書簡は、決してさような
性質のものでは、ございません。申すまでもなく、
占領下における
日本の法秩序は、
マツカーサー
元帥の権力を頂点として構成され、
日本政府は、ただこれに従属する執行
機関として存在するにすぎない、と解すべきものであります。従いまして、両者の間に対等な外交
関係のないことは理の当然であり、
政府もまた、しばしばこれを言明するところであります。しからばすなわち、外交
関係のないところに外交文書はあり得ないではありませんか。占領政策に関し
マツカーサー
元帥より吉田
首相に対して公に與えられにるものは、その名称のいかんにかかわらず、すべて外交文書ではなくして指令書であります。このたびのマ
書簡もまた指令であり、
政府が
電力再
編成に関する
ポ政令の公布をこれによ
つたと主張するならば、
政府はすべからく、ただちにこれを公表して、その法的根拠を示すと同時に、
国会に対する
法律上並びに
政治上の
責任を明らかにすべきものであります。(
拍手)しかるに
政府は、何ゆえか、
野党各派のマ
書簡を公表すべしというまことにもつともな要求に対しまして、これをひた隠に隠して公表をいたしません。これこそは、まことに恐るべき秘密
政治であり暗黒
政治であるといわなければならないのであります。(
拍手)
しかしながら私は、マ
書簡が吉田
首相に対しまして、
電力再
編成を
法律案として
国会に
提出することを禁じ、もつぱらただちに
ポツダム政令によ
つてのみ実施すべき旨を指示しているとは考えません。何となれば、
日本の占領後すでに五年有余を経過し、軍備の廃止、財閥の解体、戦犯の追放など、ポツダム宣言の要求するところを完了し、平和
国家、
文化国家として再出発をしたのであります。
マツカーサー
元帥もまた、すでに数年前よりこの事実を承認し、
日本は
講和條約によ
つてりつぱに独立
国家となる資格のあることをしばしば声明しておられるのであります。
マツカーサー
元帥のこの見解は、今や連合国人に対する裁判権の拡張、議案
提出に対するオーケーの緩和、在外事務所の設置など、除々にではありますが、
日本に対する
自主権の承認として現われつつあるのであります。従いまして私は、
マッカーサー元帥が、この際特に
電力再
編成問題について、
法律によるな、
国会の
審議を経る必要はない、必ずただちにボ
政令として出せないというような、
自主権の承認、独立国の建前とま
つたく相矛盾するような指令を出されるはずはないと思うのであります。(
拍手)
政府の言明するところによりますれば、マ
書簡に付属する再
編成案につきましては、十二月十五日までにその効力を発生せしむる
処置をとるべきことを指示しておる由であります。はたしてしかりとしますれば、幸いに現在
国会は開会中であり、
臨時国会の全
会期をこの
法案審議に費しましても、なお余りがあるのであります。しかるに
吉田内閣は、何ゆえごの
法案を
国会に、
提出してその
審議を求めないのか。
審議を求めてなお成立しなか
つたときに初めて
ポツダム政令によ
つても、まだ遅くはないではないか。マ
書簡が特に十二月十五日の期限を切
つておりますのは、
政府が
憲法に
従つて国会の
審議権を
尊重し、この手続を行うための猶予期限と解すべきものであります。(
拍手)従いまして、もしマ
書簡が
ポツダム政令によることを許しているとしますならば、それは万一、十五日までに
電力再
編成法案が
国会を通過しなか
つた場合において初めてこれをなし得る意味であります。これを要するに、
電力再
編成問題につきましては、第一に、
国会は開会中であり、第二に、十二月十五日という十分なる猶予期限があり、第三に、
衆議院に絶対多数を誇る
吉田内閣が当初より
ポツダム政令によ
つたことは、
党利党略のためにマ
書簡を濫用または曲解し、
憲法を
蹂躙し、ま
つたく
国会の
審議権を無視したものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
私はこの際、
ポツダム政令に関連いたしまして、
自主権の回復について一言いたしたいと存ずるのであります。
占領下におきましては、
日本に完全なる
自主権の存しないことは申すまでもありません。しかしながら
自主権の制限は、占領当時と
講和に直面する五年後の今日では、おのずからその範囲が異ならなければならないと思うのであります。これをドイツの例に見ましても、西ドイツの占領は、
日本の場合と異なりまして、最初は完全な軍政に始ま
つたのでありますけれ
ども、すでに一年半以前におきまして、いわゆるボン
憲法を獲得し、占領條例に従いまして、立法、司法、行政全分野にわたり大幅な
自主権を回復し、軍政は遂に民政に切りかえられたのであります。しからば、何ゆえに西ドイツではこのように大幅な
自主権を得たかと申しまするのに、それは決して座して投げ與えられたものではありません。これこそは、占領以来、西ドイツの
政府が、
自主権回復の強い
国民的
要望を実現すべく不断に積極的な努力を怠らなか
つたからであります。以上はドイツにおける一例でありまするが、私は、
講和を前にして最も重要なる外務
委員会にさえも、ほとんど出席したことのない吉田
首相に、このドイツ人の勇気と努力とを求めたいのであります。
私は、
政府が
電力再
編成を
ポ政令によ
つたことに対してもちろん
反対ではありますが、しかし、いたずらに
反対せんがために
反対しているのではありません。すでに二年有余にわたる重大懸案であるこの問題について、はたして
吉田内閣は、これを解決すべく、いかなる積極的努力を拂
つたでありましようか。何事もなさずして、今日遂にマ
書簡を受取るや、易々として、
自主権の回復と逆行する
ポ政令によ
つたのであります。私は、
日本人の一人として心から
民族の独立を思うがゆえに、
吉田内閣のこの安易にして卑屈なる
態度を非難したいのであります。
先ほど
自由党の
代表者は、
アメリカから
経済的
援助を受けているから、
ポツダム政令による
自主権の制限もしかたがないと言われるが、それは奴隷根性であります。
経済的な
援助と
政治的な独立とは別個の問題であります。われわれは、
経済的
援助のために
日本の
憲法を、
国会の
自主権を、
民族の独立を売り渡したくはないのであります。(
拍手)
今や、
自主権の回復と
民族の独立とは全
国民に熱望するところであります。この
国民的
要望に対して鋭い
政治的感知を欠き、何らの積極的努力を拂うことなくして、そのゆえにマ
書簡を受取
つた吉田
首相の
政治的怠慢と、無能と、不手ぎわとは、この一点だけによりまして
国政担当の能力がないものといわざるを得ないのであります。(
拍手)先ほど
自由党の
代表者は、不信任案を出してもらいたいというようなことことを言われましたが、われわれは、皆さんから要求がなくても、近く不信任案をこの点において
提出する用意があります。
吉田内閣の相次ぐ
ポ政令の濫用と
国会無視の
行動とは、遂に
憲法を侵してもいいのだという恐るべき観念を人民に植えつけ、人民の
議会政治に対する信頼と希望とを失わしめ、ひいては
吉田内閣と
自由党の最も恐れる
議会政治否認の、いわゆる危険思想を釀成するのではないでしようか。同時にまた、
民族の独立心を知らず知らずのうちに麻痺せしめ、
日本民族を植民地化するものと申さなければなりません。(
拍手)
ドイツの歴史を見まするに、一九三〇年には
法律が九十五、大統領の緊急
命令が五であ
つた。それが二年後の一九三二年には、
反対に
法律が五、緊急
命令が五十九と
なつた。翌一九三三年にはヒツトラー
政府が樹立され、当時最も進歩的、民主的といわれたワイマール
憲法は、遂にその効力を停止されたのであります。私は、
吉田内閣の施政のうちに、ナチス
政府樹立の前夜を見るのであります。すなわち、今や
わが国におきましても、われわれが
国会に
審議権の
尊重という、
議会政治のもとにおいて当然過ぎるほど当然な
事柄について、あらためて
決議案を
提出しなければならないほど、
政府に
独裁があり、
国会に数の暴力があるのであります。(
拍手)これこそ
議会政治の危機であり、フアシズムの台頭でなくして何でありましようか。
国家審議権の擁護の必要なる、
憲法擁護の必要なる、今日ほど重要な歴史の瞬間はございません。
私は、以上の諸理由によりまして、本
決議案に
賛成の意を表するものであります。(
拍手)