○高木
公述人 きようの
委員会で、
所得税を中心にして
意見を述べよというお話でございまして、まかり出た次第であります。資料といたしましては、二十五年度
補正予算に伴う
税制改革に関する要綱という資料を頂戴いたしたわけであります。
所得税を中心に、ことに給與
所得の軽減ということが中心にな
つておるのでありますが、御
承知の
通り、国税收入のうちの半分が
所得税でありますし、さらにその半分が
源泉課税の部分であります。そしてこのたびの財政演説にも、
現状に
従つて国民の租税負担の軽減を行うということが、第一の項目にあげられております。またこの
基礎控除の改訂及び
扶養控除の改訂は、勤労
所得のみならず、他の
所得に対しても適用されるこの
改正税法が、明年度から続いて行われるもりと存じまするので、この
税法上の軽減が、実際に
納税者にと
つてどういう軽減になるかということを、概要
考えたいと存じます。
国民租税負担の軽減をはかるということでございますれば、ことに
納税者のうちで最も
所得税の負担の重い人々の租税負担の軽減を、当然
考えなければならぬかと思います。その
税法改正に関する要綱の最後のページにございまする表を見ますると——このたびの給與
所得の
税法の
改正につきましての
所得税負担の軽減額の表でございまするが、標準家族のことを
考えますと、月額一万円の
所得者で、夫婦及び
子供二人、現行の源泉
徴收税額と、このたびの
改正によります
徴收税額というものとの差額が、二百三十円に相な
つております。それから夫婦及び
子供三人の場合は二百八十円の
減税にな
つております、私は
税法の
改正による軽減が、この小
所得者に対しまする
減税の限界
効果を
考えます場合には、
減税額を
考えるべきだと思います。これは
減税差額のすぐその次に軽減のパーセンテージが書いてあります。それは三三・六%と五七・九%と率が書いてありますが、この率は問題ではなくして、減る金額が問題であると
考えなければならないと思います。金額におきましては二百八十円で、一万円の
所得でありますから二・八%であります。これが、大蔵大臣も言われるように、主食に対する影響は一・四%であるとはつきりおつしや
つている。そういたしますと、二・八%の中で一・四%すなわち半分は、当然主食の値上りで消えてしまう。もし生計費の中で主食の占める部分が六〇%といたしますと、他の部分の値上りは、先ほ
どもお話が出ましたけれ
ども、一・四%どころではございませんから、二百八十円という
減税の金額は、これで当然消えてしまいます。その点からいいまして、少くともこの
改正所得税法案によりまして、標準価格として最低の部分を占めます
所得層につきましては、これは
税法上の軽減が実際上には消えてしまうということも
考えられるのであります。
なおここで、これは
皆様がお聞きの上で、学校の教師のへりくつではないかと思われる点があるかとも思いますが、その次のところをごらんいただくと、夫婦及び
子供四人——
日本の標準家族の構成は四・八人でありますが、夫婦及び
子供四人の場合になりますと、
減税差額が二百八十円。
子供が三人の場合には二百八十円で、
子供が四八であれば二号八十三円であります。
税法上の
改正におきましては、
扶養控除は一人につき年額一万二千円から一万五千円まで引上げる、年額にして三千円引上げるという考慮が拂われているにもかかわらず、実際上の軽減は、
子供一人ふえました場合には三円であります。今日の貨幣価値において、扶養家族一人ふえることによ
つて三円の軽減ということは、これは風味がないと思います。これは、
税法上の軽減を
考えておられることはもちろんでありますが、それが実際上には現われて来ないということを申し上げるのでありまして、扶養家族の
増額をするということにおいては、もちろん賛成であることは申し上げるまでもありませんけれ
ども、結果において、ここに三円しか現われて来ないということであります。そう申し上げますと、皆さんのうちには、それでもこれまで二百八十三円
拂つて来たのが二百八十三円拂わなくな
つたのだから、軽減じやないかとおつしやる方があるかもしれません。しかし私が申し上げますのは、扶養家族一人について三千円
増額ざれるという考慮が
税法上拂われておるにもかかわらず、実際上には、結果として扶養家族が一人ふえるごとによ
つて三円しか現われて来ない。年額三十六円しか現われて来ないということを申し上げたいと思うのであります。たいへんくどいようでありますが、念のために申し上げておきます。そういう次第で、この
改正税法によりまして、最低の生計の一番苦しい人々の負担が軽くならないということを申し上げます。
さらに私
どもの年齢——それほどの年ではありませんが、私
どもの年齢といたしまして、現在の貨幣の金額の呼び声によりまして、実質上の判断が知らず知らずのうちにあいまいにな
つて来ることがありますが、月額一万円と申すと、戰前の購買力と比較いたしまして、かりに内輪に二百倍と
考えましても五十円でございます。月額五十円足らずで、夫婦、
子供が四人で生計を立てて、その上でも
つて所得税を舞えというのはむりではないか。どうも今の金頭の呼び声によ
つてとかく判断があいまいにさせられるということとはあり得ることであります。五十円足らずで夫婦、
子供四人を養
つて、その上でも
つて所得税の負担能力が少しでもあるという
考え方は、
考え直していただきたい。しからばどうするのか。お願いできれば今度の
税法の
改正によりまして、
扶養控除を一万二千円から一万五千円に引上げられましたが、これを一万八千円まで引上げていただきたい。これは大してむりをお願いするのではないと思うのであります。税收の必要ということが必ず言われますが、この問題は次に触れます。もしそれが行いにくいような
事情がございまするならば、第二段のお願いとしては、この
税法の
改正によりますと、いろいろな控除を差引きました後の課税
所得五万円以下に対しては、現行の
税率と同じく二〇%に相な
つておりますが、これを一八%にしていただきたいと思います。最低
税率を二%下げていただきたい。これも決して困難な——困難と申しますか、できないことではないと思います。それによ
つて最低課税
所得者層の負担を、現在の生計費の
実情に応じて少しでも軽くする。最低課税
所得暦の課税
所得五万円以下の者に対して二〇%という現行
税率が、
改正税法においてもそのまま二〇%にな
つておりますから、これを一八%にしていただきたいと思います。
〔
小山委員長代理退席、
委員長着席〕
しかしさようなことをいたしますと、税收入に影響を與え、
所得税の收入の減收となるから、それは行いにくいというお話が必ず出るに違いありません。
従つて税收入関係について申し上げます。これから私が長い数字を申し上げるのは、かえ
つて御迷惑でありましようが、若干の数字を申します。この数字は
大蔵省で出されております二十五年度国の予算という、御
承知のりつぱな研究書がございますが、その書物の四百六十二ページに出ておりまする数字を基礎にいたしまして申し上げます。これは私がか
つてに申し上げる数字ではないのであります。
大蔵省の刊行物に明記されておる数字でございます。それによりますると、御
承知の
通り給與
所得額の計算をいたしまして、九百八十三億というのが給與
所得による
所得税の收入として、二十五年度の予算に計上されておるわけであります。それでどういう計算を基礎としておる基礎数字かは、今申し上げました書物のその場所に出ております。この要綱によりますと、
源泉課税による当初予算は九百八十三億でありますが、現行
税法による場合の收入見込額は千二百三十九億余りにな
つております。この差額がこの要綱には出ておりませんが、簡單な計算をや
つてみますと、自然増收による部分が二百五十大徳になります。もちろん差額でありますから、二百五十六億だけが、当初予算よりも現行
税法のままでふえる見込額、すなわち自然増收であります。これを
考えてみますと同時に、先ほど申しました
昭和二十五年度の当初予算における給與
所得に対する
所得税收入は、課税
所得額の九・九%、大体これは一人当りの
所得金額に対する割合でありますが、それを
考えまして、大体二百五十六億の自然増收があると、はつきりこの要綱で認めているのであります。それが一、二、三の三箇月間、これを仮に一年に延ばして
考えると、それによ
つて大体
日本の
国民所得の計算の方の数字を安本の調べによ
つて申しますと、暦年で勤労
所得が一兆三千億と計算されておる。会計1度にいたしまして、一兆三千六百九十億円と計算されておる。現行
税法で
昭和二十五年度の予算を編成しました当時の基礎数字に、このたびの
改正の
基礎控除の二万五千円から三万円に
なつたこと、
扶養控除の一万二千円から一万五千円に
なつたということを加味して計算いたしますと七千五百七億円、大体七千五百億円の給與
所得額の増加になる。二十五年度の予算の基礎数字の勤労給與
所得の総額は一兆六百八十二億円、それは先ほど申しました国の予算のうちの数字であります。その給與額に対しまして、かりにごく内輪に
考えまして、給與
所得が五千億円から六千億円増加する。それは先ほど申しましたように、この
改正要綱によります数字から逆算した話であります。そう
考えてみますと、もし
納税人員にかわりがないといたしますれば、今度の
改正税法による諸控除を差引いた課税
所得額は八千億円増加いたします。しかしもし勤労
所得がふえれば
納税人員がふえますから、そのまま課税
所得がふえるということにはなりませんしそれは
基礎控除や勤労控除を受ける人が多くなりますから、課税
所得の八千億円そのままふえません。ですから内輪に
考えてみまして、六千億円ないし六千五百億円の給與
所得の増加になる。その結果どうなるか。けさほど新聞で拝見したのですが、昨日この席でも
つて平田主税局長が、明年度においては源泉
所得税は三百億
減税するというお見込みの御報告があ
つたわけです。私の
考えますところでは、平田主税局長は内輪に見られたものだと思います。私は給與
所得に対する課税
所得が、ただいま申しましたような数字でも
つて増加いたすと計算いたしますから、
従つて明年度において
源泉課税の
減税し得る分は三百億円を相当越えると思います。私は四百億は
源泉課税は軽減し得ると思います。主税局長の御報告は、私は大事をと
つて内輪に言
つておると拝見いたします。そこでただいま申しましたように、たとえば
扶養控除を今度の
改正税法で一万五千円を一万八千円に引上げた。しかし五万円以下のものに対して現行二〇%というのは
改正税法でも現行
通りである。それでは私の申した軽減ができないという議論が出るかもしれません。そういう議論の出るのも十分理由があります。なぜならば、
昭和二十五年度当初予算の編成の基礎数字を見ますと、課税
所得の金額の総計は四千二百六十五億ありまして、五万円以下の分が千四百十三億でございますから、五万円以下の分が
日本の課税
所得構成の上においては、かなり大きな部分を占めておる。
従つてこの部分を軽減しなければできないとおつしやる。しかし今申し上げたように、明年度においては現在よりも給與
所得総額が増加し、
従つて課税
所得総額が増加する。そういたしますれば、ただいま申した給與
所得について三百億の
減税ができるという御報告は、内輪な堅実なお話だと思います。しかし私の計算では、三百億円以上に軽減ができる一判断いたします。その数字の基礎は私のか
つてな数字でございませんで、
大蔵省の刊行物に明記されておる数字であります。
従つてその三百億円よりも多くなり得る余裕は、これはただいま申し上げましたように、最低の課税
所得者暦の軽油に充て得る財源となすべきものである。
従つて、私が先ほど申しました
所得税の税收入の減退を来しては、全体の租税收入計画が立たないから、五万円以下の
所得の分に対して、二〇%を一八%に
税率を軽減することができないとか、あるいはまた扶養家族の控除額をさらに
増額することはできないという御
意見は、もしそれが税收入に大きく響くからという御
意見ならば、それは私は成立たないと思います。しかも税收入に影響がたいならば、そうして
国民の租税負担の軽減を行いたいという御
趣旨ならば、たとえば大体夫婦、
子供三人、四人、しかも戰前に比べれば五十円にしかならないような
状態で、それだけの妻子を養
つている。それだけの人に対しての租税の軽減額を
もつと大きくして、そうして一番苦しんでいる人の負担を一番先に軽減するという
方法をとるのが、
税法上の軽減の本来の
趣旨に沿うものだと私は思います。しかしまた次にそのようなことをすると、消費インフレを増加するじやないか、こういうお話があります。あるいは資本の蓄積の妨げになるじやないかというお話もおそらく出て参ります。しかしただいま申しましたように、最低の課税
所得者、
もつとその下に
所得税の課税
所得者暦に入らないで、
物価の値上りだけによ
つて非常に苦しむ人が大勢あることはもちろんでありますが、ここで
所得税だけの問題を限
つて申しますれば、課税
所得者層の最低の部分、先ほど申しました
税法上の軽減も実際上の軽減にならないのでありますから、これについての軽減を御考慮いただきたいと思います。しかしこれらの課税
所得者層はもう
生活が一ぱいでありますから、もちろん少しでも楽になれば、
子供にたといあめの
一つでもあるいは牛乳の一ぱいでも飲ましたい。それを飲ませるようにするのが、
税法上の
改正の御
趣旨であります。もしそれによ
つて消費インフレが増加するというならば、他の部分をお押えになればよろしいのだと私は思います。
それから資本の蓄積の関係のことでございます。これは
日本の経済再建のために必要な産業資金は、原則として任意自発的貯蓄にまつというのが、明年度予算編成の閣議決定方針の中に明示されております。自発的貯蓄をどこに求むべきかと申しますれば、これは
一般金融機関における貯蓄の増加であります。それから郵便貯金の増加による——
ちよつと申し落しましたが、今度経済再建のために必要な産業資金は、原則として自発的貯蓄であります。しかしそれでも足らない場合には、見返り資金と預金部資金の効率的作用をはかるということが明記されている。御
承知の
通り預金部資金の三分の二は郵便貯金であります。郵便貯金の大部分は小
所得者層から出ている。そうすると郵便貯金はこれを自発的貯蓄による。しかも申し上げるまでもなく妻子をかかえていて、もちろん生計が一ぱいであるけれ
ども、少しでも生計にくふうがつけば、これは少しでも妻子のことを
考えるごくりちぎの人であるならば、これは当然少しずつでも郵便貯金の増加の方に加わ
つて行くものと思う。すなわち任意貯蓄の増加となり得るものと思う。荘から私は最低課税
所得者層に対する
税法上の軽減が、実質上の軽減になり得る措置をとることになるというのは、これはそれらの課税
所得者層の人々の
生活に、少しでも苦しさを除くと同時に、また自発的貯蓄の増加にも貢献し得るものと思う。さらに当然
日本経済の自立というところへ、少しでも一歩でも進めようとするならば、これは現在の財政資金を通して行われる強制貯蓄によるよりも、少しずつでも自発的貯蓄の方へ道を進めなければならないということは、これは認めざるを得ないと思う。いつまでも現在のように財政資金を通して、たとえば最近できます輸出銀行、これは財政資金から供給される。御
承知の
通り財政資金の八五%は租税及び租税に準ずる收入でありまして、
一般会計の收入の八五%以上八五・六%が、租税及び租税に準ずる收入であります。この租税を通しての財政資金でありますから、これは強制貯蓄であります。また見返り資金におきましては三八%は輸入補給金でありまして、輸入補給金は
一般会計から繰込まれるのでありますから、これは租税を財源とする
一般会計の財政資金から繰込まれる。すなわち強制貯蓄のルートを通しての資金でありますから、これは現在の
状態は産業資金の大部分が財政資金を通して、強制貯蓄の形を通して行われる。しかし
日本経済の再建を少しでも進めようとするならば、これは自発的貯蓄の方へ向けなければならない。自発的貯蓄へ向けるとならば、これは
一般金融機関の蓄積か、あるいは郵便貯金を通しての預金部資金にまたざるを得ないことになる。ことに今後対日援助が少くなるに
従つて、見返り資金が減少するとなれば、
一般金融機関の蓄積と預金部資金、ことに郵便貯金の増加にまたざるを得ない。そうすると小
所得者層の課税、最低の者に対する
減税は、郵便貯金の増加にも貢献することにもなり、
生活の極度のきゆくつさを少しでも緩和することになる。その二つの点からも、小
所得者層の最低の者に対する
減税をお願い上ているわけであります。同時にまた今度の
改正税法によりまして、
税率において最高五十万円を越えるものに対して、五五%という最高
税率が、百万円を越える金額に対して百分の五五と
改正されました。この大
所得者層に対する
税率の軽減の唯一の根拠は、この五十万円を越える
所得者層に対する部分から自発的貯蓄が必ず求められるという保証が與えられなければ納得できないと思う。御
承知の
通りシヤウプ第二次勧告は、五十万円を越える
所得者層に対して国税の
所得税の最高
税率が五五%、住民税が加わ
つて六四・九%になる、しかしこの限界
税率の
効果、ことに投資意欲及び経営者としての地位を改善しようという意欲に対する
効果を
考えておりますが、これは経営者としての地位を高めようとするその機会があるという人々にと
つて、この課税の限界
税率が妨害的な
効果があるということはないと
考えられますが、
従つてあとに残る問題は投資に対する限界
効果である。しかしシヤウプ・ミツシヨンは投資意欲を抑圧するような妨害的な圧力は、現在の
日本においては強いとは思われないと、シヤウプ第二次報告に書いてある。シヤウプ第二次勧告は現在最高
税率五五%、五十万円を越える者に対しての最高
税率と地方住民税が加わ
つて六四・九%にな
つても投資意欲は阻害しない。
従つてその課税
所得者層における投資意欲は阻害しない。
従つて任意自発的の貯蓄は阻害されない。こうシヤウプ第二次勧告は判断している。しかし今度の
改正税法においては、そのシヤウプ第二次勧告の判断とは異な
つて、五十万円を越える
所得に対して五五%という
税率を五〇%に軽減した。そして百万円を越える者に対して五五%、そこでその五五%を五〇%に軽減したその唯一の論拠は。その課税
所得者層から自発的貯蓄を求め、
従つてそれが産業資金とな
つて日本経済の再建に役立ち得るということが唯一の論拠である。もしその論拠がないとすれば、五十万円を越える
所得がある人に対して、何もこの
日本の現在の場合において、よけいぜいたくをしてもらうというそんな
改正税法はありつこないのでありますから、唯一の論拠は自発的貯蓄をここに求めるという論拠になると思うのであります。しかしこの五十万円を越える課税
所得というものが、先ほど申しました資料によりますと幾らあるかと申しますと、課税
所得としては五十万円を越える部分は六十二億円しかないのでありまして、これはずいぶん少い見積りがしてあります。実際には
もつと多くなりましようし、今後の特需以来の
状態においておそらく
もつと多くなりましよう。その大きく
なつた部分から当然産業資金の源泉となり得る自発的貯蓄をまたなければならぬ。もしこの自発的貯蓄が産業資金となるという保証がなければ、五十万円を越える部分に対する課税の軽減を承認する
国民的理由はないと、私は
考えておる次第でございます。
大分数字などを間にはさみましたので、さぞお聞き苦しか
つたかと存じますが、これをも
つて私の
公述を終ります。