○福原
法制局参事 先ほど外務御
当局から
お話がございました点について、昨日
法制局の方にお間合せがありましたので、その点について研究したところを申し上げてみたいと思います。
この請願に関しまして外務
委員会において質疑が行われました際に、外務
当局としては、公金の支出については憲法八十九条の解釈上消極的な御
意見を漏らされたように聞いておるのであります。しかしその際の右の
意見につきましての詳細は、まだ速記録等もございませんので
承知しておりませんが、ただいま
草葉次官からの
お話では、多少その点については、諸般の情勢を
判断して困難でないかという、政治的な含みのある御解釈もあ
つたようでございますから、私たち
法制局といたしましては、単にこの点を
法律的な問題にとどめて御回答いたしたいと
考えております。問題の請願は要点が二つに要約されてあると
考えます。まず第一点は、問題と
なつておりまする海外抑留同胞救出国民運動に対しまして国費の支弁
方法があるかどうかという点、さらにこれに対しまして、国費支弁そのものがあるいは困難とかいう事情がございましたならば、割増金付同胞救出切手というものを発行する
方法があるかどうかという二点と
考えます。国費支弁の点は、この海外抑留同胞の救出国民運動というものの本質がいかなるものであるかという点につなが
つていると思います。事柄は
法律の解釈と申しますか、憲法を適用します前提である国民運動の性質が、憲法八十九条にいいます慈善または博愛の事業に該当するかどうかという点にかか
つていると
考えます。これは公の支配に属しないという
条件がございますが、この点は、おそらく国民運動が公の支配に属するものとは
考えられませんから、問題外としておきます。この国民運動がはたして慈善あるいは博愛の事業かどうかということについては、従前のこの運動の実績というものについて、はなはだ申訳ありませんが、
法制局といたしましてはその実績をつまびらかにいたしておりませんので、さきに配付を受けましたところの、この国民運動の総本部と称されるところから出ております海外抑留同胞救出国民運動のその趣意書並びにスローガン等を通じましてこれを見まするに、まずその重点を置いているところは、ポツダム宣言受諾に伴いまするこの宣言の厳粛なる、しかも完全なる履行を要求するということと、次には海外に抑留されておりまする抑留者の即時解放ということがこの運動の主眼目に
なつているようでございます。もちろんこのような運動の基本となるものには、肉親愛あるいは同胞愛というような人道主義的な観念があることは否定できないと思うのでございますが。この底を流れる同胞愛というものがあるところ、この運動
自体を慈善あるいは博愛事業にすぎないものと見るには、さつき申しました運動の綱領その他から解しましては、その範囲にとどまるものでない、それ以上のものであるということがうかがえるのであります。従いまして、要はこの国民運動が単なる博愛あるいは慈善運動にすぎないか、それ以上のものであるかという認定にかかるのでありますが、
資料といたしましてわれわれの持
つているところでは、この運動は単なる慈善あるいは博愛運動をも
つて目すべきものじやないという
結論が出る余地があると
考えております。スローガンが大体七つあるのでございますが、そのうちの最後に遺家族あるいは留守家族の生活擁護というようなことが掲げられておりますので、多少慈善、博愛的なにおいがいたしますが、要はさつき申しましたようにポツダム宣言の即時完全履行ないしは抑留者の急速なる
引揚げという点に重点があるということを見まして、そのように理解するものであります。
〔
委員長退席、青柳
委員長代理着席〕
次に憲法八十九条の公の支配に属しない慈善または博愛の事業であるという点について多少の疑義があるというようなことでございますならば、そのほかに国で支弁の
方法はあるかどうかという点を考察してみますると、従前の例をここに調べてみたのでございますが、御
承知のように憲法第八十九条の規定というものは、その制定当時から論議がありました通り、きわめて厳格過ぎるという非難のある条文でございます。さようなところから、従前国がこの博愛、慈善ないしは教育の事業における補助金を支出していた例は多多あるのでございますが、その最も顕著なものは社会事業に対する補助金及び私立学校に対する補助金、その三つが大きいものかと思うのでございます。これらのうち社会事業
団体の補助という点については、これは直接に憲法八十九条に抵触するおそれがあるというところから、そこに従前の補助金制度は全面的にやめまして、これに対して
調査委託、あるいはその他の事業の委託をいたしまして、その委託金名義で交付している例を聞くのであります。さらに私立学校につきましては、これは
調査委託というようなととが事実上不可能というようなところから、御
承知のようにさきに私立学校法を設けまして、私立学校法によりまして、公の支配に属する
団体であるということで、補助金を出すという形をと
つているのであります。従いましてこの問題の国民運動に対しまして、
調査委託費という形で何らかの国庫の費用の支出ができる余地があるのではないか、こういうように
考えるのであります。もちろんこれも
予算の認める範囲でございますので、その事項に該当する費目のあることを前提としての議論でございますが、一部にはそのような用途に充ててもいいような費目があるように見受けられますので、その点もつけ加えて申し上げたいのであります。
次に、割増金付同胞救出切手の発行ということは、従来の例といたしましては、本年の正月にございました例のお年玉付の郵便切手がございましたが、あれは共同募金に対する寄付金を同時に郵便料金に加算しまして発行した郵便切手、あるいは郵便はがきによりまして、その切手ないしはがきを購入したものに対しましては、その購入したということによ
つて、切手あるいははがきの額面に出ております差額を寄付したということにしまして、その寄付金を
団体に醵出するという形をと
つた例がございますが、もちろんこれは
法律をも
つてや
つたことでございますので、現在の法制上、ただちに同胞救出切手の発行ができるかといいましたならば、これはできないとお答えするほかないのでございますが、その点について立法的な
措置を講ずるならば、十分実行可能なものがある、こういうことをお答えできるかと思
つております。はなはだ簡単でございますが、要点だけお答えしました。