○中田吉雄君 私は日本社会党を代表いたしまして、本
法案に対しまして反対の意見を開陳せんとするものであります。今回提案せられました
法案の審議に当りまして、
シヤウプ博士が日本の税制
改革に対しまして適切なる
勧告書を作成されるために拂われましたところの異常な努力と献身に対しましては、改めて満腔の敬意を表するものであります。更に
勧告書に盛られましたところの高い識見と日本の実情に対しまする深い理解に対しましては、驚歎の念すら抱くものであります。併しながら
シヤウプ博士も申されていますように、この
勧告書を基としまして税の問題があらゆる角度から批判検討されることを歓迎されておることも又事実であります。我々はこの寛容なる態度に甘えまして、本
法案を忌憚なく批判いたしまして、併せて反対の理由を述べなくてはならないのを誠に遺憾とするものであります。(「しつかりやれ、お互いに国民のためだ」と呼ぶ者あり)第一に本
法案の立案に対しまする
政府の基本的な態度についてであります。私はこの
法案の審議を通じまして、吉田総理並びに関係大臣の答弁を通じまして、極めて
自主性の乏しいことを知りまして、誠に遺憾に存じた次第であります。(拍手)本
法案は第七
国会において否決されまして、更にその後、国民の各層から澎湃として
修正の意見が述べられておるにも拘わりませず、これを謙虚に聞きましてその筋に対しまして日本の実情をつぶさに訴えまして、現下の情勢に適する最善の案を作成する努力を試みずに、その筋の権威を以て、更に多数党の力を以て、更に他党に対しまする與党化工作によ
つて、この
法案を一気に押切らんとされたことに対しましては、大自由党のためにも誠に惜しむものであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)勿論私は、我が国が太平洋戰争によ
つて世界の歴史の批判の許さないところの大きな過ちを犯しまして、今尚占領下にあるということを、その嚴粛な事実を忘れるものではありません。併しながら敗戰以来満五ケ年間を経過いたしまするにも拘わらず、今尚一
地方税法案に対しましてすら我々がこの程度の自主権を持たないということは、これは單に日本民族の不幸であるばかりでなく、アメリカにとりましても私は不幸であろうと思うものであります。私は、このような状態が長く継続されまするならば、遂に日本民族の創造的な才能さえ失われるのではないかということを誠に憂えるものであります。(拍手)私は、
地方自治の振興を目的とします本案のごときは、占領目的に違反しない限り、一定の大きな枠だけ設けまして、挙げて日本
政府の
自主性に委ねられるような努力を
政府に拂
つて頂きたかつたのであります。そういうような努力が拂われなかつたために今尚大きな禍根を残しています問題は、学制
改革があり、警察制度があります。私は、この
法案が通過されました曉においては、前二者に優るとも劣らないような大きな問題を今後に残すことを予想するものであります。(拍手)これを歴史に徴しましても、民族の自由は手を拱いて與えられた例はありません。努力の中に我が物とな
つているわけであります。私は吉田内閣におかれまして、この国民の慟哭と悲願というものが、この
法案に強く打ち込まれていない点を誠に遺憾とするものであります。第二に、
政府の原案の
修正に対する責任であります。政党内閣の本質からいたしまして、少くとも今回衆議院に提案されました
政府原案は、
政府のものであると共に、與党自由党の案であると思うわけであります。然るにも拘わらず、
政府の提案に対しまして、六十七名の少数党の国民民主党の
修正案に、二百八十六名の絶対多数を誇る吉田内閣の
基盤であるところの自由党が賛成されたということは、一体どのように理解すべきでありましようか。これは国民民主党をも含めて
国会の三分の二以上を含みますところの絶対多数の人が、吉田内閣に不信任の決議をいたしたと見ることもできるわけであります。(拍手)憲法の第六十九條によれば、衆議院におきまして、不信任の決議案が上程されまして、これが可決されるにおいては、内閣は十日以内に辞職しない限りは解散をしなくてはならないと
規定しています。凡そ議会政治は責任政治であります。第七
国会で廃案となり、今再び第八
国会におきまして、吉田内閣の
政府與党においてすら、このような
修正が加えられたということは、一体どのように理解すべきでありましようか。衆議院におきまして二百八十六名という自由党の内閣は、日本の憲政史におきましても稀に見る絶対多数の内閣であります。この
法案が完全なものでありまするならば、よし参議院におきまして多数党を持たれないにしても、確信を以て原案を押切らるべきであります。参議院はその特質からいたしまして、我々は徒らに野党なるが故に、良案であるにも拘わらず反対するというような態度は絶対とらないものであります。
政府原案に対しまして、與党みずからこれを
修正されまして括として顧みられないというような杜撰であればこそ、日本社会党は断乎として反対せざるを得ないわけであります。(拍手)
第三に、
附加価値税の実施を延期いたしまして
事業税を以てするところの
政府原案は、零細なる個人企業者に対しまして著しく
負担を増大いたします。我が党といたしましては、善後措置を伴わないところの
修正のごときは全く改悪であると存じまして、反対するものであります。更に
昭和二十五年度、未だ実施されないところの
附加価値税を一年延期するというようなことは、全く欺瞞以外の何物でもないわけであります。
附加価値税は誠に多くの欠点を持
つています。併しながらただ一点、
事業税におきまして、個人企業が不当に重く法人が極めて軽かつた従来の欠点を是正する長所があるわけであります。例えば
昭和二十四年度の
事業税におきましては、法人が一二・五%、個人が実に八七・五%を担税しておつたわけであります。然るに
附加価値税が採用されますならば、法人が五二・五%、個人が四七・五%となりまして、その不均衡が非常に是正されるわけであります。我我は従
つて附加価値税を
事業税に改めることには賛成するものでありますが、それによ
つて起るところの欠点を是正しますところの附帶的な
修正が必要であると思うわけであります。シヤウプ勧告におきましても、若しこの重要なる勧告の一部分だけが排除されるというようなことがあつたら、他の部分はその結果、価値を減じ、場合によ
つては有害な
修正となるということを申しております。従
つて我々は
附加価値税を
事業税に改めて、それによ
つて起ります弊害の救済手段を講じまして、初めてシヤウプ勧告の
趣旨が全き意味において活かされるわけでございます。それには二万五千円の
免税点を大幅に
引上げることが必要であります。更に法七百四十八條には、二万五千円の
免税点を
規定しておりますが、財政上必要がある際には
免税点以下でも遠慮なしに徴税できるという、殆んど
免税点の
規定を無視する但書が入れられております。我々はこの但書を除去するごとによ
つて、初めて
事業税が新らしい時代にふさわしい形に生れ変るものと存じます。申すまでもなく、中小企業は我が国におきまする最も大きな産業であります。三十人未満の工場は全工場の九七%を占め、生産総額においても殆んど五〇%を占めております。それにも拘わりませず、中小企業に対しましては何らの対策がとられませず、集中生産の最大の被害者であります。然るにも拘わらず、今又このような重税が中小企業に課せられますならば、これは單に経済問題だけでなしに、重大なる社会問題を惹起するものであろうと存じます。我々は
免税点を
引上げ、更に但書を除去する意味においてのみ、初めてこの
事業税を是認するものであります。
更に第四番目に、
固定資産税の
税率を百分の一・七を一・六に
軽減するということは、全く欺瞞以外の何ものでもありません。それは○・一%を減税しますことによ
つて、大体三十億の減税になります。ところが法三百五十條の第二項の
規定によりまして、予定の徴税額五百二十億円を十五億円下廻る場合は、直ちに財政委員会は
税率を変更いたしまして、
昭和二十六年の一月に予定の徴税額五百二十億円を取るということを
規定しておるからであります。そこで我々といたしましては、このような
税率を変更するという重大なる
権限を委員会に委ねることには反対でありまして、
国会にかけて
税率を変更すべきであろうと存じます。更に取り過ぎたものに対しましては、償却資産に対しましてはこれを返還するようにな
つておりますが、我々といたしましては、その
規定を土地家屋に対しましても適用されるような
修正なしには、この案に賛成いたし難いのであります。
第五に、
住民税における個人と法人、高額
所得者と低額
所得者の税
負担が著しく不均衡になつた点であります。
昭和二十四年におきましては、全体の
住民税の一七%を法人が
負担し、個人が八三%を
負担いたしておりました。
改正されました法律によ
つて法人は全体のたつた一・二%となりまして、個人が九八・八%となるわけであります。個人にありましては平均いたしまして二倍半以上の税になるわけでありますが、法人にありましては
昭和二十四年の実に六分の一以下にも足りない事情になるわけであります。而も個人においても、低額
所得者が非常に重く、高額
所得者が軽くなるようにな
つていまして、この点は旧税に比較いたしまして聊かの改善の跡も見られません。かかる不均衡を生じましたゆえんのものは、個人の高額
所得者と法人に軽くしたからであります。我が党といたしましては、個人の均等割を減じますと共に、法人に対しましては、その資本金に段階を付けまして累進的な平等割を課すべきであると存ずるわけであります。これによ
つて法人と個人との不均衡が是正されると思うわけであります。
第六に、都道府県と市町村との財源の配分について多くの疑義を持つものであります。特に府県税におきましては
事業税と
遊興飲食税と
入場税が三大税源であります。この三つの税源は景気変動に最も影響され易い安定性のない税源であります。特に
事業税におきまして
農業を
課税対象から除きました結果、農民は都
道府県税を一銭も納めないという重大な結果になるわけであります。全国の府県の中には農林県が相当多いわけでありますが、県税におきまして全然一銭も納めぬということは、これは将来の県政運営上重大な問題であろうと存じます。特にそういう県におきましては、農村代表の県会議員が都市代表の県会議員よりかも遥かに多いわけであります。税は都市で取り、農村方面により多く使われるという傾向がとられまするならば、県政運営上重大な支障になると思うわけであります。この観点からいたしまして、私はシヤウプ勧告のこの税源の府県と市町村との配分は多くの問題を残すものであると思うわけであります。その観点からいたしまして、
固定資産税を全面的に市町村に委譲することは今後検討を要する問題であると存じます。従来の地租家屋税を更に減額いたしまして、その分だけ
事業税に切替えることによ
つて農民も府県税を拂うということも、一つの方式といたしまして将来の課題となろうかと存じます。更に償却資産におきまして、把握の困難な
地域的にも極めて偏在しておるこの種の
税種に対しましては、果して
市町村税が適当であるかどうかは俄かに予断し難い問題であろうと存じます。
第七に、私は
シヤウプ博士の
地方自治体の振興に関しまする考えに対しましては大いに敬意を表するものでありますが、
シヤウプ博士の資本蓄積の考えに対しましては俄かに賛同することができないわけであります。シヤウプ勧告によりますところの税制
改革は、ドツジ公使によりますところの経済安定九原則と共に、日本再建におきますところの表裏一体の関係をなしますところの一つの体系であります。言うまでもなくドツジ方式は、超均衡予算によりまして購買力を極度に抑制いたしまして、資本蓄積を強力になそうという方式であります。確かにこの方式によ
つて、大衆の
負担によ
つてではありましたが、或る程度資本が蓄積され、生産が増大したことは、党派を超越いたしまして、これは率直に認めなくてはなりません。併しながら現在は重大なる経済不況に直面しています。そして現在の不況は生産が挙らないということによ
つて起るところの不況ではなしに、むしろ有効需要がこれに伴わないことによ
つて惹起された現象であります。そして有効需要の喚起なしには、資本の蓄積も、もはやでき難いという重大な段階に直面しています。正にドツジ方式は重大な転換の機迫れりと言うべきであります。このような時期におきまして、ドツジ方式を裏打ちいたしますところのシヤウプ理論が果して日本の財政経済の現段階に最適であるかどうかは、大いに疑問であろうと存じます。シャウプ理論は国税におきまして法人を極めて優遇しています。従来我が国は法人と株主に対しまして二重に
課税していたものを、法人と株主は同一の担税主体であるという観点に立ちまして二重
課税を避けています。併しながら二重
課税の制度は、ヨーロッパ諸国はもとより
シヤウプ博士の故国であるアメリカ自身におきましても、一九三六年のニユーデイール政策以来これを採用しておるわけであります。又
シヤウプ博士は国税から
地方税に亘りました全部に通じまして高額
所得者を極めて優遇いたしていますが、これは富裕税の創設を以ていたしましても是正することができません。併しながらこの方式が日本の現段階に適しますかどうかは大いに問題であります。生産を極度に高め、消費を極度に節約いたしまして、貿易第一主義をとりましたところのドツジ方式は躓きました。そして相手国に先ず購買力を與えまして、そして輸出を追
つていたそうというローガン構想も、重大なる転換の機に直面いたしています。ドツジ並びにシヤウプ方式が成功裡に行われますためには、無限に広い海外市場があるということによ
つて初めて可能なわけであります。内は経済不況であり、海外市場は梗塞しておるというような現段階におきまして、果してシヤウプ理論が成功裡に遂行されるでありましようか。この経済不況を国際危機によ
つて打開しようとするような寒心すべき傾向が全くないとは言えないわけであります。このような時におきまして最も必要なことは、賃金べースを適当な水準にまで
改正すること、米価を適当な水準に上げること、並びに地方に有力な財源を與えること等の一連の措置をとることが、最も日本の現在に適した状態であろうと思います。私はこれこそ最良な治安対策であろうと思うわけであります。第八番目に、シヤウプ勧告に基きますところの税制
改革は、全体といたしまして相互連関の関係にあります。それが所期の目的を達しますためには、シヤウプ税制のよ
つて立つたところの前提條件が固く守られることが何よりも必要であります。然るに
政府原案は、シヤウプ勧告よりも、平衡交付金百五十億減を初めといたしまして、三百十三億の国家から地方への援助を怠りまして、完全に勧告案を無視いたしております。かかる重大なる前提條件が破られまして、果してどうして地方財政の確立があり得ましよう。更に又それと相待ちまして、
政府が
シヤウプ博士に提供されました基礎資料が十分であつたとは言えません。地方財政の需要が正しく測定把握されたでありましようか。決してされておりません。例えば国、府県、市町村と行政事務の再配分がなされまして、初めて
地方自治団体の財政需要が
決定するわけであります。然るに予算を
決定いたしまして、今後の調査に待ちまして行政事務の再配分をいたそうということは、全く本末を顛倒したものであると言わなくてはなりません。又シヤウプ勧告が如何に無批判に受入れられているかということは、例えば
電気ガス税であります。
電気ガス税は
税率が百分の十とな
つておりまして、電気料金が
課税対象にな
つております。ところが現在の電気料金の
地域差は、
北海道、中国、四国、九州の産業発展に重大なる影響がありますにも拘わらず、更にこれに対しまして百分の十の
税率を課することによりまして、たださえ産業発展の障害にな
つておりますところの電気料金が、そのような地帶においてのみ非常に高くなるわけであります。
シヤウプ博士の勧告がなされました昨年の八月には全国電気料金は單一でありました。然るに十二月十三日に
政府の裁定によりまして電気料金に
地域差ができたわけであります。そのような事態が殆んど本案には盛り込まれていないわけであります。我々が仔細に本
法案を点検いたしまするならば、随所に誤謬があり、満身創痍ともいうべく、これを原形を止めない程度に改めない限り、
地方自治の発展と振興に寄與し得ないものであると考えるものであります。(拍手)
第九に、本法は、本年度最終の徴税時期が時恰かも明年三四月に行われますところの知事、市町村長、公共団体の議会の議員の改選と重複するということについて十分な配慮がありません。明春の選挙は諸般の情勢からいたしまして極めて激烈であることが予想されるのであります。そのような際におきましては、知事、市町村長が、再選を狙います限り、徴税に手心を加えられることは火を見るよりも明らかであります。それは現在千二百億ありますところの国税の滞納が参議院選挙と極めて深い関係のあることを見れば明らかであります。かくて重大なる歳入減と地方財政の危機が招来されるのではないかということを私は危ぶむものであります。我々はその際最も憂慮いたしますことは、歳入欠陥の際におきまして、
地方自治体の最大の予算費目でありますところの教育費に、挙げてその財政欠陥がしわ寄せされまして、日本再建の
基盤でありますところの教育が重大な危機に直面するのではないかというのであります。(拍手)勿論我が党といたしましては、
地方自治体の現状からいたしまして、今
国会中に是非共、この
法案を可決すべきであるという点においては、何ら異論がないものであります。併しながらそのことは、本
法案が先に持つような欠点をそのままにして可決することを意味するものではありません。我が党といたしましては、
政府と原案並びに
修正案に対しまして持つところの欠点を最小限度に是正いたしまして、
地方自治の振興に期したいと努力を傾注したわけであります。連日に亘りまするところの委員各位の質疑におきましても、更に又昨日委員会におきまして討論がなされました際におきましても、各派とも本
法案に対しまして誠に痛烈完膚なきまで批判をなされたことを明らかに記憶するものであります。而して又この度の提案が第七
国会の
政府原案と何ら差異がないにも拘わりませず、これが是正に努められずいたしまして通過するということは、政治道徳から考えましても又参議院の特質から考えましても、日本社会党は極めて遺憾とするところであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)我々は平和を愛する党といたしまして、日本の再建と
地方自治の振興を荷う党といたしまして、本
法案に反対せざるを得なかつたわけであります。反対理由を述べて一言御
報告に代えるわけであります。(拍手)