○羽仁五郎君 言論の自由について緊急の必要を感じて質問を許可せられましたことを感謝いたします。
問題は、私共が
国会において
民主主義を建設しているこの我々の日常の活動と、同じく日常我々の活動が深夜に及ぶ時は、同じく深夜まで共に力を合せて活動をされておられるために、特にこの
議場とあの傍聴席との間に席を與えられて活動しておられる新聞記者
諸君に関することであります。特に総理大臣に向
つてお尋ねしたいことが三つ、大きな点だけを捉えて三つございます。
その第一は、この言論の自由に対する圧迫或いは国論統一、殊にそれがこの戦争に関係する、或いは戦争の
準備のために言論を
指導するということは、先頃の東京及びニユールンベルグの国際法廷において平和に対する罪として確定せられておることを、総理大臣は承認しておられますかどうか。それを伺いたいのであります。これは言論の自由だけではない。一般に政治的自由或いは結社の自由、団結の自由、基本的人権に対する罪というものは、国際裁判において、今後これが国際法廷において追及され、決して許されるものではないということが確定しておると我々は考えるのでありますが、首相はこの点を承認しておられるかどうか。で、この問題については御承知のように、共産主義と闘うために、或る程度まで言論の自由を制限し、或いは基本的人権を制限するということは止むを得ないということが言われる場合がありますが、これは御承知のように曾て東條首相が同様のことを主張せられ、多分この
議場においても主張せられたのだろうと思います。それから東京法廷において清瀬弁護人が、やはり同様の
趣旨において、基本的人権の制限を
行なつたことは事実であるけれども、併しそれは共産主義と闘うために止むを得なかつたのだという主張をされましたが、これらの主張がいずれも、東京においても、ニユールンベルグにおいても、国際法廷において承認されないで、棄却されたということも、首相は御承認になるのであろうと思います。そういう意味で、如何なる理由にせよ、言論の自由及びこれを含む基本的人権に対する制限というものは、国際的にこれは犯罪とせられているということを承認しておられると確信をいたしますが、この点について伺いたいのであります。
で、この問題に関して、最近この憲法に、我が
日本の憲法に優先するというような関係或いはその他のさまざまの理由によ
つて、この憲法に保障せられている基本的人権一般及び特にこの言論の自由、これらが事実上において制限せられておる事実がないか。これは争議権、団体交渉権などにも及んでおりますが、これらの制限が事実上において行われておる。そういう事実をお認めになるかどうか。
これに関係してその次に伺いたいのは、これらは、これらと申上げて少し曖昧であれば、特に現在、昨日の毎日新聞、それから本日の朝日及び読売新聞に報道せられておるような新聞記者或いは放送記者に対する解雇の申し渡しというようなことに現われておる。又それ以前にも、憲法に優先する関係から基本的人権が制限されておる事実がありますが、これらは現在の
日本の
政府の自発的な意思によるものであるか、そうでないかということを、はつきり伺
つて置きたいのであります。これは将来において必ずこの点がはつきりせられる必要があると思うので、この
議場において
只今総理から、これらのさまざまの関係、如何なる理由によるにせよ、言論の自由その他基本的人権の制限が最近行われておる事実は、
日本政府の自発的意思によるものであるか、そうでないかということを、ここではつきりお答えを願いたいのであります。
それからこれに関連して次にお答えを願いたいのは、若しこれが自発的意思でない場合、即ち
日本だけの関係でない、国内だけの関係でない場合に、
政府としては当然この自発的意思によるものでありませんから、これらの基本的人権の制限に対してできるだけ基本的人権を守る努力をなさつたものと考えますが、そういう事実が、どういう事実によ
つてそれを立証なさることができるか、その事実をお示しを願いたいのであります。で、占領政策、従
つて或いは又最近のいわゆる反米行動禁止というようなことに便乗して、基本的人権を制限されることは、私は許されないと考えますが、総理大臣はどうお考えになるか。占領政策或いは反米行動禁止という方針に便乗して、命令された以上に、或いは必要以上に基本的人権を踏みにじ
つておる、踏みにじるということは許されないとは考えるけれども、総理大臣はどうお考えになるか。そういう事実が最近にあつたと考えられる。例えば集会の自由の禁止について、これは普通一般に世間にも伝えられておりますように、或いは早稲田大学において落語の研究会が禁止されたとか、或いはその外、県人会、音楽会、映画会、講演会などの、当然自由に行わるべきものが制限されたという事実があると思いますが、そうして又最近ではこの機関紙印刷所というところの印刷機その他に封印されて、これには、これに関係しておる他の自由に刊行せらるべき刊行物が迷惑を蒙む
つておるというふうな事実がある。このように、いわゆる占領政策或いは反米行動の禁止ということに便乗して行き過ぎた行為が行われた場合、これは先にも申上げたように、国際的に平和に対する罪として重大な問題にな
つておる。そうした基本的人権或いは言論出版の自由というものが蹂躪された場合、これらに対して総理大臣は、そういうことがないように、若しそういうことがあつた場合にはその
責任者の
責任を明らかにし、厳粛なる処置をおとりになりつつあるか、又おとりになる御意思があるかどうか、これを伺いたいのであります。そうして又最近問題にな
つておる警察予備隊のごときものも、警察が基本的人権と緊密な関係があるということは言うまでもないことであ
つて、従
つてこれを
国会が現在開かれておるのに
国会にお諮りにもなさらない、或いはこの厖大なる予算についても
国民の代表である
国会の
審議というものを必要とお認めにならないというようなことも、この第一の問題に関係がありはしないか。
以上が、この基本的人権を制限することが犯罪である、従
つてその
責任についてどういうお考えにな
つているかという点であります。
それから第二は、やはり現在起
つております言論の自由に関係してでありますが、総理大臣は共産党を非合法化することに伴うところの危険というものを果して認識しておいでになるかどうか。これは普通一般に承認せられておるように、第一に、我々は勿論
民主主義を守らなければならないのでありまするが、併し
民主主義を守るためには、やはり飽くまでも民主的な方法を以てしなければならない。若し
民主主義を守ると
言つて、民主的な方法を捨ててしまうならば、
民主主義を守ることができないのであります。で、共産党の主張が
国会を通じて、その外、民主的な方法において討議されることに伴う危険は、左程大であり得る筈がないのであります。これを沈黙させることによ
つて却
つて民主主義そのものが危険にさらされる。この問題はすでに国際的にも論議し盡された問題であります。要するに共産党に対する非合法化ということは、結局あらゆる
社会的な批評というものは沈黙させてしまう。そうして、このあらゆる
社会的批評を沈黙させるところの危険というものは、
民主主義に関するところの危険である。これは、こういうことと関係していわゆる警察
国家の問題というものも起
つて来るのであります。
政府の判断によ
つて言論が
指導されるということになることが即ち警察
国家の政治的な問題なのである。この危険を十分認識しておるか。
それから、それに関係して、共産党に対して合法的活動の機会を奪うその結果、共産党が合法的な活動ができないので、非合法活動を主とするに至るということが起つた場合に、その主たる
責任は、共産党に対して合法活動の機会を奪い或いはこれを制限するところの
政府の側にあるという危険をお認めになるか。尚それに続いて、共産党が非合法化される場合に伴う
一般社会の不安というものを認識せられておるかどうか。第一に、
国民は一体共産党のどういう行動が非合法であるのかということがはつきり分らない。従
つてどの程度までのことが共産党の行動であるとか、或いはそれに利用されたとか、或いはそれに協調したとか、或いは何であるか、そういう点で
国民が不安を抱く。これは有名な
アメリカの大審院判事のホルムスの、共産党問題の場合でも、明瞭にして眼前にある危険というものでなければ、これに対して法的
措置をとることが許されないのだと
言つておられたのも、この
趣旨だと思います。こういう批判がある。次には、今後の非合法共産党がどういう活動をしておるかどいうことが
国民の不安の種となる。最後には、これは一極の政治的不安となる。これはすでに、古いことを申上げて恐縮でありますが、明治八年に谷干城が
意見書を出して、その
意見書の中に、新聞、集会を許して政治をとるのは、敵兵の虚実を明らかにして兵を用いるに同じ、これを厳禁して政略に当るは暗夜に敵兵と衝突するに同じだと、こういう不安を警告しておりますが、こういう点を総理大臣は十分認識しておられるかどうか。
第二に、共産党の非合法化に伴
つて、必ず共産党にあらざる人々に対しても非合法化という危険があるということを十分認識しておられるかどうか。共産党に対する圧迫というものは共産党以外の者に及ばないという保障を首相はお示し下さることができるかどうか。いわゆる代行するとか、同調するとか、或いは利用されておるとかいうことをこの頃
言つておられますが、こういうことを言うことが許されるとお考えにな
つておられるかどうか。これに確実のの基準というものを置き得るというようにお考えにな
つておるかどうか。これは法務総裁の御
意見を伺いたいと思うのでありますが、これについては、本年の早い頃でありましたが、
アメリカの大統領の人権
委員会はチヤールズ・イー・ウイルソンという人が
議長をしておられる。この
委員会の
報告の中に、「共産党に近いということの関係でいろいろ法的制限を加えるということは非常に危険である。と言うのは、それがどういうことであるのかということを明瞭に
規定することができないからである。」こういうことを
言つておられます。今日の新聞記者及び放送記者の場合にも、共産党員であ
つても、プレス・コード違反ということも一回もなく、或いは部長賞を貰つたり或いは主幹賞を貰
つて、優秀な記者として活動しておられ、
諸君もよく知
つておられる、この
国会で堪えず忠実に活動しておられる優秀な新聞記者がある。こういう人が何故辞めさせられなければならないか。それから共産党員でなく、組合活動に非常に熱心であつた、これは名前を言うては恐縮でありますが、例えば牧野英一博士の息子の牧野君が共同通信社にあ
つて殊に忠実穏健にこの仕事の方に活動されておられた、組合活動に熱心であつたがために辞めさせられておる。或いは全くその根拠を示されないで雇主ほしいままな判断によ
つて辞めさせられざるを得なかつたような場合が起
つて来る。こういう危険が発生しないということを保障し得ないということを認識されるかどうか。それに関しては、
只今申上げた大統領
委員会の
報告にもありますように、こういうような
措置は、
民主主義の伝統にと
つて欠くことのできないところの、不当の処置を受けたと考える人が十分これを
救済するために適当な法的な
救済の手段というものを持ち得ないという危険がある。これは最近起つた新聞及び報道関係の方々の解雇の場合にも、理由が明示されない、或いは団体交渉に応じない、或いは労働
委員会又は裁判所もこれを受理しないのであるというふうに言われる。このように基準が極めて曖昧な関係で
処理がとられるのでありますから、不当な処分を受ける人がないということは保障ができない。而もただ一人の人であ
つても、その人が不当な処分を受け、それが何らの
救済の法的手段というものを與えられていないということは、
民主主義を覆すものであり、いわゆる切捨御免と変らない。こういうことをお許しになるつもりであるかどうかということを伺いたい。
第三に、最近新聞に報道せられた新聞記者及び報道記者
諸君の解雇の問題について、勿論現在の
日本政府は遺憾ながらデ・フアクトの主権というものを持
つていないのみならず、デ・ユーレの主権というものも持
つていない。そこで、ただ占領軍に対してのみ
責任を負うようにお考えにな
つておるけれども、そういうことをしばしばおつしやるが、併しデ・フアクト、デ・ユーレの主権がないとしても、現在の
日本の
政府は国際的に又国内の
国民に向
つて責任を感じておられるのかどうか。国際的には、例えば占領軍を誹謗するということは私の
賛成するところではないのでありますが、併しこの占領軍の中には、勿論言うまでもなく
アメリカ軍だけではなく、ソ連も中国も占領国の一つである。これらに対する誹謗が平気で行われておるということが許されるものであるかどうか。又国内に向
つては、
国民に向
つて、今度のような問題にせよ、或いは重要な基本的人権の制限に関する問題は、常に
国会を通じて詳細に説明せらるべきであると思います。十分説明をせられないで、
国民が納得しない、人心が背いて行くというような危険を防ぐためには、先ずこの
国会を通じて十分に説明せられる
責任があると思うが、これをどうお考えになるか。今度の新聞社のは、具体的の場合にはこれは新聞社の
責任であるということを法務総裁がおつしや
つているようである。又その際に多少言葉を附加えて、マツカーサー書簡の
趣旨に伴
つて新聞社が自発的にとられた
措置だというふうに
言つておられるが、それについてはつきり総理及び法務総裁の説明を伺
つて置きたいのは、今度の
措置は新聞社の
責任であるか、そうでないかということであります。新聞社の
責任であるならば、新聞社に対して、これらの解雇者
諸君が団体交渉なり或いは労働
委員会なり裁判所において争うところの十分なる理由があると考えるが、その点どうであるか。新聞記者は我々人民の目となり耳となり働く人々である。新聞記者に対する弾圧ということは許すべからざることであるということは、我々の先輩である末広鉄腸がその著書の中に書いている。明治八年に末広鉄腸が捕えられた。そのときに警察で以て一人の小使が、新聞記者をひどい目に合せるとは実に怪しからんと言つたということを書いているのであります。新聞記者に対する制限が加えられますと、新聞記者も人間でありますし、又俸給によ
つて生活する人であるから必ず怯えて来る。少しでも赤と見られまい。又何らの
意見も言うまい。又今回労働組合を担当している記者が多数首を切られている。或いは労農方面を担当している記者が首切られている。又共産党を担当している記者が首を切られている。こうなると、労農記者会にも入られない。共産党を担当することもできない。これでは働き得る記者がなくな
つてしまうのです。即ち
国民は
社会の重要な部分に関する詳細な報道を読む機会を奪われてしまうのであります。現に我々友人の間でも、折角今度の敗戦によ
つて我々は新聞に一方的な報道がなされないように
なつたということを信ずることができるのを喜びとしているのに、再び一方的な報道がなされるのか。新聞を信ずることができない。即ち新聞がないと同じであります。ジエフアーソンも言つたように、新聞のない
社会に住むくらいなら
法律のない
社会に住むことを自分は選ぶということをジエフアーソンは
言つているのであります。(「そんな心配はない」と呼ぶ者あり)こういう点を十分に考えておられるのかどうか。
政府は今回の言論の自由の制限に対して、これは新聞社がやつたことである、或いは
日本政府の関係しないところからなされたことであると言われるけれども、併し
日本の国内において
民主主義を守り言論の自由を守る
責任は
政府にあるとは、法務総裁はお考えにならないのか。若しその
責任を感ずるならば、今回の新聞社及び放送協会の
措置が言論を守るものであるか。或いは言論の自由を脅かすものであるか。その判断によ
つて如何なる
措置をとられているか。又これらの問題に関係して、特に最近使用者が雇われている人に対して十分の説明をするということを避ける風がある。又団体交渉を避ける風がある。又労働
委員会、裁判所が、受理すべき問題を受理しないという風がある。こういう問題に対して総理大臣又労働大臣は、雇主、或いは裁判所、労働
委員会というものが、できるだけこういう問題を受理し、十分説明することを希望されるのか。それとも希望されないのか。希望されるならば絶えずそういう努力を拂
つておられるかどうか。なかんずく労働大臣に伺いたいのは、いわゆる国内法、或いは憲法或いは労働法というものに優先する関係というようなことに便乗して、労働法を蹂躙しておる向きがあるように考えますが、こういう事実があつた場合に、労働大臣はそれに対して如何なる
措置をおとりになるつもりであるか。労働大臣は労働三法というものを守ることを御自分が労働大臣としての最高の
責任としてお考えにな
つているかどうか。これを伺いたいのであります。
最後に一言いたしたいのでありますが、今回の
措置は、この
日本の
政府を通じないでこの
措置がとられている。我々は言うまでもなく
日本の
政府が主権を持つものでないということは承知いたしておりますが、併し占領政策が直ちに
日本の
政府を通じて行われるというように承知しておつたものであります。ところが、今回の
措置は
日本の
政府を通じないで行われておる。我々は、占領政策がこの
日本の
政府を無視して行われるようなことに対して、現、在総理大臣は
責任をお感じにな
つていらつしやらないかどうか。
日本国民は、
日本に
政府がありながら占領軍が占領政策を
日本政府を通じないで行うことがあるというような、そういう
日本の
政府が一日も存続することに希望を感じません。そういうことが今後も行われるならば現内閣は総辞職をせられるお考えはないかどうか。それを伺いたいのであります。(
拍手)
〔国務大臣吉田茂君
登壇、
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