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説明員(大久保武雄君) それではマツカーサー書簡に伴う海上保安庁のその後のや
つておりまする準備並びに朝鮮事変後における書簡にもあります密航、密輸等の諸情勢等につきまして御報告を申上げたいと思います。
第一に、朝鮮事変勃発後の密航、密輸の
状況について申上げることにいたしますが、
便宜上これを分けまして、日本と朝鮮間において行われました犯罪、日本と沖繩間において行われました犯罪に分けて御
説明申上げます。
最初の日本と朝鮮間の密航、密貿易につきましては、事変勃発後日本と朝鮮間のこれらの犯罪の情勢は、戰局の変化に伴いまして多少の移動はございましたが、その数は概して少いように見受けるのでございます。海上保安庁で検挙しました数は、不法入国で七件、七十九名、不法出国で六件、九名、
合計八十八名でございます。密貿易はまだ検挙をいたしておりません。尚対馬の厳原の海上保安部からの報告によりますと、対馬地区の
警察におきまして九月二日十四名、三日二十九名、不法入国の朝鮮人を逮捕いたしておりますが、釜山には多数の避難民が集まり、小型船が多数待機しておるとの情報もあり、又対馬におきましては日本人ブローカーや朝鮮人の往来が激しくなりまして、朝鮮向け密貿易が活発化する兆候も見えますので、当庁におきましては各管区海上保安本部に
指令いたしまして、一層厳重な警戒を実施いたしておる次第でございます。
次に日本と沖繩間の犯罪について申上げますと、本年七月十一日附
政令第二百二十七号によりまして、沖繩から来航する者で
連合国軍最高司令官の許可を得ない者は不法入国者として取締ることにな
つたのであります。日本と沖繩間の不法入出国につきましては、單なる密航を目的とする者は稀でありまして、殆んど密貿易を目的とする不法入出国者と
考えられるのであります。その数は、密輸入十五件百三十八名、密輸出二件十二名、
合計十七件の百五十名に及んでおります。密輸出につきましては、その手段がますます巧妙になりましたのと、日本国内におきまして各種の統制が漸次外されたことによりまして、臨検しました際に証拠を抑えることが非常に困難に
なつて来たのでございます。密輸出をする者は、国内の港から港へ海上輸送するふうを装い、巡視船が臨検いたしまして密輸出と思われる節がありましても、証拠がなければ逮捕することができず、そのうちに密輸出船は間隙を縫
つて沖縄に到着するとい
つたような按配でございまして、その取締には一層の努力を要するものと
考えておる次第であります。
以上申上げましたように、日本と朝鮮間の密航、密貿
関係が事変後むしろ幾分減
つたように見受けられておりまする点は、海上保安庁におきましても朝鮮事変勃発以後、朝鮮海峡方面に
相当多数の船艇を配備いたしまして警戒を嚴にいたしておりますのと、連合国軍におきましてもそれぞれ朝鮮海峡の警備を嚴にしておられること、並びに南鮮側におきましても朝鮮側より日本に渡航する者に対しまして
相当嚴重なる警戒をいたしておりますところの
関係からいたしまして、これらの犯罪がむしろ減
つておる
状況にあるものと
考えられる次第であります。併しながら朝鮮事変の今後の推移、その他諸般の情勢からいたしまして、この地区における密航問題は
相当急激に増加する可能性をも孕んでおる次第でございまして、こういう点につきましては、今後海上保安庁といたしましても十分警戒を厳重にいたしまして、適宜の
措置を誤らないようにいたしたいと
考えておる次第でございます。
次にマツカーサー書簡に伴う海上保安庁の強化態勢の準備
状況を申上げることにいたしたいと
考えるのであります。マツカーサー書簡によりますれば、海上保安庁の
職員八千人を増加すべしという指示を得ておるのでございます。併しながら海上保安庁の
職員の増加は、單に人を
増員することによ
つて足りる次第ではなく、どうしてもこれを配乗するところの船艇を必要とする次第でございます。そこで海上保安庁といたしましては、取りあえず昭和二十五年度の
予算において繋船することに
なつておりました二十隻の巡視船を全面的にこれを朝鮮事変以来活動に移しまして、これを使用しておりまする外、旧海軍艦船のうち、三隻をその筋の御了解を得まして海上保安庁の巡視業務にもこれを使用し得ることといたしました外、海上保安庁の巡視船艇の緊急なる新造計画を立案いたしました次第でございます。その
内容を申上げますと、建造隻数百五十五隻、千二百トン級巡視船四隻、四百五十トン級二十隻、二百七十トン級二十七隻、
合計巡視船の鉄船五十一隻、それから警備艇におきましては二十三メーター内火艇二十九隻、十二メーター内火艇五十隻、十二メーター消防艇五隻、十二メーター救命艇二十隻、
合計百四隻、その総
合計百五十五隻に相成る次第でありまして、その総
予算、二十五年度並びに二十犬年度を通じまして約六十一億四午九百万円に
相当いたすのでございます。この
予算につきましては、目下大蔵省と
予算折衝の最高潮の
段階にある次第でありまして、ここ数日中には決定する見込でございます。このうち三十五年度に支出いたしまする
予算分は、他の
予算と併せまして債務償還費から振替使用することにいたす予定でございますと共に、これらの船艇はおおむね昭和二十五年度に発注をいたしまして、昭和二十六年度に継続して工事しなければならない筋合いでもございますので、二ケ年に亘る継続費の創設をお願いしなければならない次第であるのでございまして、この点は今後における海上保安庁の、ポツダム
政令等においてその
予算行為の取り得る
措置を認めて頂かなければならない次第でございます。以上によりまして、海上保安庁の巡視船、警備艇等の整備が行われるに伴いまして、海上保安庁の
人員を増強いたさなければならない次第でございます。先程申上げましたように、海上保安庁は、事変勃発以来、現在繋船しておりました船すらこれを活動に移して行動いたさしております
関係上、勢い
予算のない船も動かしておりますので、乗組員は従来動いてお
つた船からごぼう拔きをいたしまして、新しく動く船に配乗をしなければならない結果に陷
つております
関係上、現在動いております船は非常なる労務過剰になりまして、非常な病人も続続として出るような
状態に
なつておりまする過労な
状態にあるのに鑑みまして、至急これらの巡視船の
要員を互間増加をしなければならないという点の差迫
つた問題がありますのに加えまして、基地における通信
要員その他も殆んど不眠不休で事変以後携
つております
関係上、当直
要員の整備強化等の必要もございまして、取りあえず約一千百五十名、それに基地
要員等を合わせまして約一千五百五十名の
職員を緊急
充員をする必要に迫られたのでございます。そこで八千人の
増員のうち、海上
関係の勤務者約一千百五十名につきまして先般募集広告をいたしまして、
全国に亘
つて目下試験をいたしておりまする最中でございます。そこで海上保安庁の募集する応募
状態は、非常なる沢山の応募者がございまして、保安官におきまして競争率は約五倍でありました。海上の属員即ち、保安官の補助
要員に対しましては、海上
経験者において三十倍、海上の
経験なき者に対しましては二百倍の比率による応募者がございまして、誠にその応募数の多いことに一驚したのでありますが、これは日本の国民の海洋民族としての
性質からいたしましても、海上保安庁に対する非常なる青年の要望が指向しておるものと
考えまして、今後これらの
人員から
相当優秀なる人材を簡拔することができるだろうとかように
考えておる次第でございます。尚これらの
増員に引続きまして、現在海上保安庁は二十五年度
予算におきまじて九隻の船艇を建造いたしております。これらの船艇が逐次来年度に入りまして竣工いたしまするし、又今回
予算要求しておりまする船艇も緊急工事をいたします
関係上、続々として来年になりますると竣工をいたして参ります
関係上、いずれ第二回の募集計画をいたさなければならないと
考えておる次第でございまして、目下の見込から申しますると、昭和二十五年度内に
充員しますものは八千のうちおおむね五千人と見込んでおる次第であります。残りは昭和二十六年度に竣工する船艇等に配備する予定をいたしておる次第でございます。参向この際海上保安庁の
職員制度の点について若干申上げますると、海上保安庁は
警察予備隊と若干構想を異にいたしておりまして、短期の一種の現役制のような
制度は今のところ採らない方針でございます。海上保安庁の
職員は、船舶に乗組んで海上の勤務をいたします
関係上、
相当の熟練度を必要といたしますために、短期の交代制によりましては到底完全なる操練を経た
人員を配備することは困難であります。かような
関係からいたしまして、海上保安庁の
職員は
相当長年勤続して職務について貰う必要があると
考えておる次第であります。併しながら同時に海上勤務は非常なる強度の肉体的消耗を伴う次第でございますので、又
相当肉体的な正確なる視力、或いはその他の健康というものを必要といたします
関係上、無制限にこれを終身制として置くわけにも参らない次第でございます。そこで海上保安庁の保安官の職種等によりまして、おのずから一定の停年制を布かなければならないだろう。例えて申しまするならば、海上保安官は何歳まで、一等海上保安正は何歳、保安士は何歳というふうに、一種の停年制を設けなければならない、だろうと、かように
考えておる次第であります。その次に、海上保安大学並びに海上保安学校、海上保安訓練所というものを来年から創設いたしたいと存じまして、目下
予算折衝中でございますが、海上保安訓練所と申しますのは、海上保安庁に新しく採用いたしました者を訓練する所でございまするし、海上保安学校は、新採用の訓練を経た者が実務についた以後昇進して再訓練を受ける学校、並びに現在海上保安庁に勤務しております者を再訓練をする学校であります。海上保安大学校は、新制高等学校を卒業しました者を四年間の特殊操練をすると同時に普通学問を修めしめる学校でありまして、これらの新しい海上保安庁の新学制をアメリカのコースト・ガードに倣いまして来年の四月から発足をいたしたいと
考えておる次第であります。このうち海上保安大学校の卒業生で、一定の学生の期間中に官から給付を受ける者につきましては、卒業後一定の勤務の義務年限を課さなければならないと、かように
考えておる次第でありまして、これはアメリカのコースト・ガード等におきましてもひとしくとられておる
制度でございます。その次に海上保安官の階級は、現在十一階級ございますが、この階級に相応した給與の級と号とを設けまして、その実額は勤務の
性質にふさわしいものとし、或る
程度予備隊とも権衡をとる必要があろうと
考えられる次第でございます。次に船舶乖組員、或いは燈台
職員等の食糧、被服等につきましては、現在海上保安庁の体制は二つに分かれまして、一部食糧を現物給與するものと、金銭給與によ
つて自己で賄うものとあるのでございますが、将来の船舶の機効力等を増加いたしますためには、食糧等の現物給與、これは絶対に必要な條件でございますので、これらの現物給與制をとることにいたしたいと
考えておる次第でございます。かように海上保安庁が停年制等を布きます
関係上、
一般の
公務員に比較いたしまして、恩給の期限を若干繰上げ、共済年金等の期間を繰上げ、退職手当等において若干の例外を設けますことは、これらの勤務條件からいたしまして止むを得ないかと
考えておる次第であります。その他海上保安庁
職員の分限、懲戒、身分保障等につきましては、海上保安庁
職員が高度の規律を必要とする上からいたしまして、
一般公務員と或る
程度特殊の地位といたしますことは止むを得ない次第であります。
以上申上げました諸般の
事項からいたしまして、海上保安庁の
職員を、何らか
一般公務員法に対しまして例外的な
措置を講ずることにつきまして、目下人事院におきまして御研究を煩しておる次第でございます。その他海上保安庁の準備すべき事案の中に、通信或いは基地の装備等諸般の問題があるのでございます。このうちでも通信
関係は海上機動力を強化します上におきまして最も重要な装備でございますので、この
関係につきましてはレーダー、或いは無線施設、或いはそのオペレーターの増強等につきましてそれぞれ
予算を組みましてこれが実現方を目下交渉中でございます。その他の装備等につきまして若干交渉中のものもございまするが、以上申上げましたような装備の強化は是非実現をいたしたいと
考えておる次第であります。
尚又海上保安庁のアメリカ、イギリスにおけるライフ・セービング・センター、海岸に非常に沢山の一種の人命救助基地というものを設けておりまして、これ等の基地は若干の内火艇によ
つて装備いたされておりまするが、この沿岸各地に設けられました無数のライフ・セービング・センターがいろいろな非常時において
相当人命の救助、その他哨戒任務に非常なる功績を挙げておる次第でございます。海上保安庁におきましても、来年度からこのライフ・セービング・センターを
全国に沢山その網を張りめぐらすということも構想に入れまして、目下
予算折衝等を続けている次第でございます。
以上甚だ大掴みに申上げましたが、海上保安庁の現在の準備
状況の概要を御
説明申上げました次第でございます。