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説明員(
徳永久次君) 鉱害賠償の
原則につきまして、金銭賠償主義をこの新法はと
つておるわけでございますが、これを原状回復を主にしたらいいではないかというような議論は、被害者側からもしばしば出ることもありまするし、又この
審議会でも、先ほど大臣が御
説明申上げましたが、
関係学者、
関係各省、
関係業界、すべてを網羅しました
審議会でも随分と熱心に議論された問題であるわけであります。併しながら結局新法のごとく原状回復の
原則を採ることは不適当であろうということに相成りましたわけでございます。その
趣旨を
簡單に申しますると、
一つは原状回復ということの義務を
鉱業権者に負わせますというと、鉱業にとりまして余りに大きな責任を課することに相成るのではないかということが根本の原因であります。これはまあ
簡單な例で申上げますると、或る土地におきまして一石の米がとれる農地があるといたしまして、それが土地の陷落等によりまして八斗しかとれなくな
つたというような場合に、耕作者といたしましては
簡單に申しますれば一斗分の
損害を受けたというようなことに相成るわけでございます。その二斗分の
損害の
程度というもの、これを金に換算いたしまして幾らに相成りまするか、そう大きな額でないわけでございまするから、その限度におきましては明らかに農民が経済的な
損害を受けましたので、その
損害を與えました
鉱業権者にその限度において賠償の責任を負わしめるということは、法の公正という点から申しまして当然のことであると思われるのであります。併しながらその陷落いたしました土地の生産力を再び前の
通り一石とれるような土地にするということにいたしました場合に、通常の場合その二斗分に要しまする経費の数十倍のものも要るというようなことが例でございまして、そういう重い負担を
鉱業権者に負わしめるということに相成りましては、事実問題として鉱業がその負担に耐えかねて、鉱業自体が行えないというように相成る虞れも非常に大きいわけでございます。
鉱物地下資源を掘り出します鉱業の国民経済上に大事なことは申上げるまでもないことでございまして、法の建前としては、被害者が受けました
損害の限度を補償させるというのが考え方の筋道になるべきものであ
つて、それよりも数倍の費用を要する原状回復というものは、與えました
損害を償う途として、
一つの
方法ではございまするか、片方に非常な負担をかけるということに相成るので、適当じやないんじやないかということに相成
つたわけでございます。それが一番基本的な問題でございますが、細かく申しますれば、実情によりまして鉱害の実態から原状回復の必要のない場合、或いは行いがたいような場合もございまするし、新法におきましては
原則としては金銭賠償ということにいたしたのであります。ただ例外といたしまして金銭賠償を
原則とはするが、原状回復をすることが金銭賠償によりますよりもそう大きな費用を要しないでできるというような場合には、原状回復の請求権というものを被害者側にも認めておるわけでございます。まあこの新法に織り込んでありまする
原則、両者間の調節の仕方というものが公平に見まして被害者及び加害者の責任及び請求権の範囲というものを定めたものとしては、妥当なところではないかというふうに考えておるわけでございます。
それから
只今お尋ねがございました第二点の、打切り補償という制度を認めたことが被害者側にとりまして、むしろ弱い被害者にと
つて不利益なことをされたのではないかというようなお尋ねの点でございますが、この点は実はむしろ我々といたしましてはどちらにも偏して作
つたつもりでもないわけであります。現実に
只今の例で申しますれば、一石とれる地が八斗にしかならないというような場合でしたら大したこともございませんが、全然田が陷没いたしまして、殆んど利用価値がなくな
つたというような場合に、年々それによ
つて收益を上げてお
つた農民が耕作の利益を失
つた。過去において得てお
つた額というものを年々賠償するというような仕組を、いたずらに毎年継続して行くということが、まあいわば農民の立場といたしますれば、仕事もなくてぶらぶらと賠償金だけ貰
つて年々暮しておるということは、必ずしも本意とするところではありませんので、場合によ
つてその賠償金をまとめて貰
つて、それを元手といたしまして適当なやり甲斐のある仕事を他に見つけるというようなことも、農民の側からも要求されることが当然に予想されるわけでございまして、又そういう要求というものも十分
理由のあることだと考えるわけでございますが、そういう際にそのことが被害者側におきまして合理的に捌きのつくということを考えたほうがいいのじやないか。現実にはそういうことも或る
程度行われておりますが、現実問題といたしましてこの打切り補償のいわば対抗要件と申しますか、そういう点が不明確でありますために、両当事者がそれを
希望しながら、
法律的な裏付が不十分なために円滑に行われないというような憾みが過去においてあ
つたわけでありまして、その点を何とか合理的に解決するごとくしようではないかということで、新法におきまして或る
程度の対抗力という竜のを置くことにしたわけでございます。対抗力と申しますのは、或る土地につきまして打切り補償といたしました場合に、簡易な登記制度を定めまして、それにおきましてこの土地はこういうことにな
つているのだということをはつきりすることによりまして、その土地を譲り受けた人が不測の
損害を受けたりしないようにというような途を考えることにいたしたわけであります。そういう途を開くことによりまして、両当事者間に合理的に打切り補償が行われるということにいたしたわけであります。従いましてこの制度は被害者側の、弱い人の立場に不利になるということは、
審議会におきましても、御
承知のように農林省その他の
関係官も出てお
つたのでありますが、局長、次官も出ておられたわけでありますが、全然そういう不安を持
つておられたわけではございません。ただ、今
お話のごとく、打切り補償という制度を定めましても、経済界の変動によりまして、その打切り補償とか、年々の賠償額というものは適当でないというようなことで変化を生ずることもございますので、その際には
状況の変化によりまして一旦定めました額というものが不適当と相成りました場合には、修正できるというふうに定めてあるわけでございます。