○專門員(野津高次郎君) それでは御命令によりまして
地方税改正案に関する一学究としての私の
意見を述べさして頂きます。
前
国会の大蔵、
地方行政連合
委員会におきましても
意見を徴せられたのでありますが、若干の
修正を加えられました今回の
改正案に対しましても、大体同じようなことを述べざるを得ないので甚だ恐縮に存じます。御審査の期間も切迫しておることでありますから、今回は四つの点について述べさして頂きまして、他は後の機会にさして頂きたいと思います。
先ず
固定資産税についてでありますが、本税は御承知のように
土地、家屋及び償却資産の公正な時価を
課税標準とすることがその
建前とな
つております。この公正な時価は評価人によ
つて評価させることにな
つておるのでありますが、二十五
年度の
土地家屋の評価につきましては、評価人の選任その他の準備が間に合わないために、一時の権道として、便宜の
措置として、
賃貸価格の九百倍という一定
倍率を乗じたものを
課税標準とすることにな
つております。一時の便宜手段によ
つて課税したために不当
課税、不公平な
課税が生ずるようなことがありましたならば、これを訂正し、これを救済することは税制改革において当然採られなければならない
措置であろうと存じます。今この一時的な便法によ
つて課税することによりまして、即ち
賃貸価格を九百倍し、これに一・六%の
税率を乗じて
課税することによりまして、如何なる不公平
課税が生ずるかと申しますと、すでに各方面における
土地、家屋の売買実例の調査によ
つて明白とな
つております。例を挙げて見ますれば、宅地のごときは
賃貸価格の二、三百倍から千数百倍の間を上下し、山林の地目におきましては
賃貸価格の三千七百倍に上るような実例もあるのであります。家屋のごときもその売買実例から
賃貸価格に対する倍数を逆算して見ますと、誠に千差万別であります。かくのごとき
土地、家屋の
賃貸価格と時価との割合は、一地一筆毎に、一家一屋毎に千差万別であるのにも拘らず、十把一からげと申しますか、千把、万把一からげとでも申しますか、九百倍という一定
倍率を乗じて
課税標準とし、これに再度変更せられました一・一八%の
税率を乗じて
課税するということが、果して
提案理由に述べられております国民の
地方税負担の合理化及び均衡化の徹底を図ることということになるでありましようか。私は
固定資産税は
土地、家屋及び償却資産の公正なる時価に対し
課税するものであるという
建前から、止むを得ない一時的の権道によ
つて生じました不当
課税の救済
措置が、二十六
年度以降において採られなければならないと信ずるものであります。一年限りのことだ、取られつ放しで我慢しろというような切り捨て御免の仕打ちは、民主国家の税制改革においては断じて採らるべきでないと信ずるものであります。今回の
改正におきまして、減価償却資産に対する
固定資産税につきましては、移り変りのときにおける不当
課税の救済
措置が構ぜられることになりました。二十五
年度分の償却資産の
課税標準は、仮算定税額とし、二十六年の本算定税額が決定しましてからこれに比較して増減あるものは、その増減額を追徴、還付又は充当することにな
つております。同様の
措置が
土地、家屋についても採られなければならないと思います。二十六年には就任早々の未熟練であるとはいいますが、とにかく評価人とか評価補助人とかが一筆一地、一家一屋について評価する
建前にな
つておりますから、一応正当公平な時価と認めることができると思います。それに基いて前年の
課税額を更正し、その増減額を追徴、還付又は充当することが公平なる
課税であり、深切な
措置であると思うのであります。若し追徴、還付の件数が余りに多くて事務的に不可能であるとするならば、一定額以上とか或いは一定倍数以上のものに限
つて、又還付、充当につきましては更に本人の申請あつた場合に限
つて行うといたしますれば、甚しき不公平なものだけでも救済ができると思うのであります。
二十五年分の
固定資産税は、
賃貸価格課税の拡大延長と考えたならばこのような
措置を採る必要がないというような議論もあるでありましようが、今回の
地方税改正は、二十五
年度から新たな
固定資産税として出発したものでありまして、このことは第四百十三條又第三百四十
二條等の
規定から見ましてもかかる
規定が理由ないものと信ずるのであります。
それから第二に、この
固定資産税についてもう一点述べさして頂きます。これは差迫つた当面の問題としては不適当でありましようが、
一つの学究的な立場から問題を提供さして頂きたいと思います。
固定資産税中減価償却資産に課する部分を
固定資産税から切り離しまして、減価資産税としてこれを
道府県の普通税とし、その代りに府県税たる遊興飮食税を
市町村の普通税とするという案であります。その理由といたしましては、第一に
課税客体が特定の地域に偏在しまして
負担の均衡化に副わない場合が多く、
市町村税としては不適当だと考えられるのであります。又第二に、
課税客体評価には
土地、家屋よりも一層特殊の知識技能を必要とします
関係から、その評価人を選任し活用いたしますのに
市町村よりは
道府県の方が一層の便宜があると信ずるのであります。
第三の理由といたしまして、
道府県税の主要税源である
附加価値税、入場税と遊興飮食税は、いずれも経済界の景気不景気によ
つてその收入が左右せられるのであるから、
道府県の財政の
基礎は
市町村のそれに比較して薄弱であると言われております。税收入において大差なき償却資産税と遊興飮食税を入替りにしましたならば、
道府県と
市町村の間に税收確保上の権衡が取られるのではないか、次の税制改革の機会におきまして御一考を煩わしたいのであります。
それから
附加価値税について申上げますと、いろいろこの
附加価値税については議論があります。私は経済更正期にある我が国の現段階におきましては、
事業の新設拡張に、都合のいい本税の長所を利用したら結構ではないかと考えられるのであります。併し本税を我が
現行税制に採り入れますについては、余程細心の注意が拂われなければならないと思います。何故かと申しますと、この税を一挙に採り入れることによりまして、非常な摩擦、非常な
負担の激変というようなことが起
つて参るのでありますから、これを避けるためにむしろ
附加価値税と
事業税との両建性を採つたならばどうかと考えるのであります。純益
課税から一挙に附加価値
課税に転換するために
負担の激変を来たすのでありますから、その
負担の転嫁その他企業の合理化等の行われますまで、純益
課税と附加価値
課税の二本建制とするのであります。例えてみますれば一
事業につきまして、施行の初
年度においては
附加価値税を二割、純益
課税を八割、第二年目には
附加価値税を四割、純益
課税を六割、第三年目には六割と四割、第四年目に全部附加価値
課税に移
つて行く。こういうふうな、スライデイング・スケルにしたならば
負担の激変ということは避けられるのではないかと考えるのであります。
それからもう一点、本税におきましては施行前から有する償却資産に対しまして、減価償却を認めないことにな
つておりますが、これは私は不当だと思うのであります。即ち
税法施行後に取得せられました償却資産の購入代金はその
金額が購入のとき一回に特定
支出金額として総売上
金額から控除せられますので、その後減価償却する必要はありませんけれども、
税法施行前から存在しております償却資産であ
つて、両耐用年限の期間内にあるものにつきましては、これを売却したときに総売上
金額に算入しないというだけでは、満足すべきではないと思います。多くの償却資産の中には売却されないで陳腐残骸に帰するものもあるのであります。これらは償却されないでそのまま残骸とな
つてそれだけ企業に対して不当
課税となるのであります。
〔
委員長退席、理事竹中七郎君
委員長席に着く〕
シヤウプ勧告はこのように触れてはおりません。ただ減価償却をしなくてもよろしいから
納税者も徴收者も非常に本税額を算出するには
簡單だ、手続が簡易だと述べられておりまして、
現行税法の繋ぎ目の所に一向に注意を拂
つておらないと感ずるのであります。私はシヤウプ勧告は
地方税改革の構想としては誠に立派なものだと思
つております。ただ
現行税制を如何に繋ぎ合すか、
現行税制から如何にして摩擦を起さずにスムーズにこの改革案に滑り込むものかという点に十分の注意を拂
つて万全の準備を整えて、折角の改革案が有終の成果を挙げるように
希望しておるものであります。