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説明員(土佐林忠夫君) 私は中央気象台の予報部長の土佐林と申します。実は本日、先般のグレイス台風を主にいたしまして御
質問のことと思いまして、資料はこのグレイス台風の資料だけしか持
つて参りません。で今プリントをお
手許までお届けいたしたいと思います。
それから六月のたしか九日から十三日頃に直りまして豪雨があ
つたのでありますが、その豪雨の概況につきまして資料はないのですけれども、記憶いたしておりますところを御
説明申しげたいと思います。梅雨時にはえてして豪雨が伴うということがよくあるのでございます。特に梅雨期の末期におきましてはよくあるのでございます。今年の六月九日から十三日頃に亘ります東海道、それから信州
方面に亘ります豪雨は聊か趣を異にしてお
つたのでございます。やや專門的に亘りますけれども、その時の気象
状況を御
説明いたしますと、高気圧が例年ならばオホーツク海
方面に非常に発達しておる筈なんでございますけれども、本年は太平洋のやや北部の方に蟠踞いたしておりまして、丁度八日頃に潮の岬の南方に発生いたしました低気圧が東の方に進んで参
つたのでございますけれども、今申しました高気圧の進行が阻まれまして、非常にその進行の速度が遅く、じわじわ東海道の沿岸に沿うて東の方に移
つて来たのでありますが、その低気圧が本州を去りましたのは十三日頃だ
つたのでございますが、その期間に本州の中部以東に相当の大雨が降
つたわけでございます。その時の降雨
状況を申上げますと、静岡県
方面沿岸地方が約二百ミリ、それから信州との国境
方面が約五百ミリ以上、それから信州の南部
地区にやはり五百ミリを越す
程度の雨をもたらしたわけでございます。そのために天龍川その他が氾濫いたしたのでございまして、ただ普通の台風のときの降雨と違いまして、四五日間の日数の間にそれだけ降
つたのでございまして、じわじわ降
つたということでございまして、それが一度に降るものなら大変な惨事を引起したと思われるのでございますけれども、四五日間かか
つて五百ミリ
程度降
つたというので、まあ雨量に比較いたしますと比較的被害が少か
つたのじやなかろうかと思うのであります。その時の降雨は幸にして
利根川の
上流地帶には非常に少つかたのでありまして、本流が氾濫するというまでには到らなか
つたのでございますけれども、栃木県の北部日光山脈
方面には相当の雨がありましたために、確か小見川
方面が氾濫いたしまして被害があ
つたように記憶しております。
それから続いて先般の台風でございますが、先般の台風はややその趣は普通のものと違
つておるのでございまして、実はその時の台風は二つあ
つたのでございます。
一つは十六日頃に丁度硫黄島の南方
方面にありましたフロシー台風というのでございます。これは非常に小さな台風でございます。直径にいたしましてまあ百キロとかそんな
程度の非常に小さい台風でございます。これは豆台風と我々は言
つておるのであります。それが西北西の方に進行いたして参りまして、十八日頃に九州南部に近付きまして、それからあすこの屋久島の西の方を
通りまして、九州の西の方に達したのでございますが、その頃にはもう非常に衰えまして、九州南部に暴風雨が少しあ
つたくらいで、長崎
方面を通過して九州北部に出る頃にはもう消減してしま
つたのです。併しながら、この台風に伴いまして非常に濕
つた南風が入
つて参りましたので、十八日頃は四国、九州の太平洋岸地方には相当の雨を降らしておりました。この豆台風が通過しております頃に、これは前から台湾の東南東
方面に台風らしいそう強くはなか
つたわけでございますけれども、台風になりそうな熱帶性の低気圧がやはりあ
つたのでございます。それが除々に今度は北の方に進行して参りまして、やや発達いたしまして、十九日から二十日とだんだん九州の方に近付いて参
つたのでございますが、これも九州の南部
地区に三十メートル内外の暴風があり、又五島列島或いは関門
地区というところに非常な暴風が起きたのでございますが、これも九州の西海岸の沿岸を通
つておりますうちにだんだん衰弱いたしまして、朝鮮から北鮮の方に抜けて衰滅するとい
つたような
状況でございました。この台風に伴う雨は大体九州南部鹿兒島県、
宮崎県、それから四国の高知県
方面に多か
つたのでございます。大体二百ミリ前後であります。ただ吉野川
上流の高知県に入
つた部分に五百ミリ
程度の雨を降らしでおります。又電報ではつきりしないのでありますけれども、
宮崎県の極く一部には千ミリ
程度の雨が降
つたという電報が入
つておりましたので、どうも周囲の
状況から見てそんなに多く降
つた筈もないので現在
調査中であります。今度の台風はグレイス台風もやはり豆台風に、どちらかと申しますと割合にこれは規模の小さいものであります。今年の春の台風の発生
状況を見ますと、例年ならばつもと南から発生するのでございますけれども、今年はずつと北に寄りまして、硫黄島、台湾を結ぶ線あたりに発生しておるのでありまして、
從つてまだ発達しないうちにや
つて来る。從つでその規模が小さくて豆台風の恰好をと
つておるという
ような
状況とな
つております。で九州
方面は特に例年台風の
災害を受け易いのでありまして、非常に我々の方も心配しておるのでございますが、本年は
建設省方面の御盡力がございまして、九州全般に亘ります
河川の氾水予報の組織又特に筑後川の氾水予報組織というものも結成いたされまして、氾水に対する対策も確立いたしましたし、又各種の警報の伝達組織に関しましても、殊に鹿兒島県等におきましては各機関、例えば県庁、測候所、放送局或いは国鉄それから電通
関係、或いは国家警察とい
つたような機関を動員いたしまして、一般民衆に直ぐに台風の
状況を知らせるとい
つたような組織を丁度確立いたしておりましたので、今度の場合におきましても手配は十分にできたと思
つております。特に今度のグレイス台風なんかは、進行は非常に遅か
つたのでございまして、又予想も割合に的確に行
つたようでございまして、私の方といたしましては徹底して予め警戒をする資料というものが一般に周知できたのじやなかろうかと思
つておる次第でございます。大体以上で御報告を終ります。