○
説明員(
島津久大君)
講和に
関連しまして、
国際情勢を
説明するようにという
お話でございます。前
国会以後におきまして、
安全保障理事会の討議の
状況その他目前の
朝鮮動乱関係、
朝鮮動乱に
関連いたしました各国の動きの一端と、そういうような
情勢を極く取りまとめまして、
簡單に御
報告申上げたいと存じます。
安全保障理事会の審議の
状況は、御
承知の
通りソヴイエトが今年の一月に
中共を入れる入れぬという問題でボイコットをいたしまして、
動乱勃発以後も
出席をいたしていなか
つたのであります。八月の一日から
議長の席に着く順序にな
つておりましたので、これに復帰して
出席をすることになりました。八月
一ぱい各種の論議が行われたのでありまして、併しながら今日までのところ何ら
結論を得られなか
つたというのが
安全保障理事会の
実情と思われます。この間いろいろな
提案がありまして、例えば
まつ先に
ソヴイエト代表から出ました
国民政府代表を認めないというような
議長の裁定があ
つたのであります。この採決の結果は否決されまして、
賛成が三、
反対が八、その他
賛成は
ソヴイエト、
インド、
ユーゴーというような
内訳とな
つているのであります。その後
議事日程に関する論争が続けられまして、
ソヴイエトの方の
提案は、
中共の
代表を
国連の
中国代表として承認する。
朝鮮問題の
平和的解決というような
提案がなされました。同時に米国の方では、
国連の決議に従わない
北鮮を非難して、
加盟国に
北鮮援助停止を要請するというような
提案が同時にありまして、
表決の結果を見ますと、
ソ連の
提案が否決されまして、実際の
表決の
内訳は
反対七、
賛成二、その
賛成の国は
ソヴイエトと
インドであります。尚
棄権が
ユーゴーとエジプトの二ケ国でありまして、こういう
内訳にな
つております。そうしてアメリカの議案の線によ
つて可決したのでありますが、その際は
賛成八、
反対一、
棄権が
ユーゴー、
インドというような
内訳にな
つておるのであります。その後八月十日、十一日、十四日、十七日、二十二日というようなふうに、連続しまして
北鮮代表を招致するというような問題について議論が紛糾したのでありますが、
結論は得ていないのであります。八月二十五日になりまして、マリク
議長が
中共の外務大臣の周恩來の、アメリカは中国
領土を侵略しておるというリー事務総長宛及びマリク
議長宛の書簡を反駁しましたオースチン米
代表の事務総長宛の書簡を理事会に提出しておるのでありますが、討議されておりません。二十八日に非公式の
会議が行われまして、事務総長の
報告を審議したようであります。
ソヴイエトがボイコットしてお
つた間の理事会の決議を
報告から削除しなければならん、そうしなければ
賛成はしないというような意見を述べたとも伝えられております。二十九日になりまして、
朝鮮問題と同時に台湾の問題を議題に取上げるか否かという議案が取上げられまして、
表決の結果、七対二ということで議題とすることに可決をされております。更に
中共代表を台湾問題討議に招請するか否かについても
表決をいたしました結果否決をしておる。その
内訳を見ますと
賛成が四ケ国、
ソヴイエト、
インド、ノルウエー、
ユーゴー、
反対は四ケ国、米国、中国、キユーバ、エクアドル、
棄権三ケ国、英国、フランス、エジプト、こういうような
情勢でありますが、大体
表決によ
つて各国の
動向が察知できるのではないかと認められます。最後の八月三十一日に至りまして、又マリク
議長から
朝鮮動乱の解決、米国の台湾侵犯問題、アメリカ空軍による満鮮国境爆撃に対する北京
政府の抗議、ギリシャにおける大量の処刑と、引続くテロの脅威というような四つの議題が
提案されまして、そのうち爆撃の問題につきましては、これを
賛成八、
反対三、中国、エジプト、キユーバの
反対がありましたが、可決をいたしております。最後のギリシヤの問題につきましては、
賛成二ケ国、
ソ連邦、
ユーゴー、
反対九ケ国というもので否決をしております。以上が八月中における安保理事会の討議の
概要でございます。尚これに
関連いたしまして、八月十四日の理事会で、
インド代表から非常任理事国六ケ国というもので以て構成する特別
委員会を設置しまして、
朝鮮動乱終熄と終熄後の統一
朝鮮のステータスについてのプランを検討する案を非公式に
提案をして、採決の結果を促進したいというような事実もございます。これにつきましては米英仏は好意的態度を表明したのでありますが、決定的な意思表示はいたしておりません。
ソヴイエトは
インド案の実行前に
北鮮と韓国
代表の理事会招致を主張しておりましたが、
インド案に対する態度は明らかでないのであります。
インドの
代表は二十二日の
会議でこの
提案の正式上程を延期しておるのであります。今後このような
提案がなされる可能性があるかとも思われるのであります。引続きまして、今月の十九日でございますか、
国連の総会が開かれるという段階に達しておるのでございまして、この模様を見ますというと、又
情勢が漸次はつきりして来るのではないかと
考えられるのであります。
次に、台湾の問題でございます。報道に各種の報道がございますが、
朝鮮事変の勃発に伴いまして、今年の一月のトルーマン大統領の声明による政策は重大な転換を遂げたと言えると思うのであります。即ち六月二十七日の大統領の声明によりますと、第七艦隊の台湾に対する攻撃を阻止することを声明して、中国本土に対する作戰中止を要請しており、台湾の地位は
太平洋の安全の回復、対日
講和乃至
国連の考慮に待つという方針を宣明しておるのであります。引続きまして、七月十九日の大統領の国防拡充計画に対する特別教書の中に台湾政策について声明をいたしております。その決定は
国連に通達済であるということと、アメリカは台湾に対する
領土的野心又は特権を
要求するという意向を有しない、軍事力の発動による台湾の中立化は政治問題と
関連がないということを指摘いたしまして、台湾の防衛は専ら
太平洋の治安維持のためであるということを強調いたしております。この教書は
インド政府を通じて
中共政府にも通達されたと言われております。その後マツカーサー元帥の台湾訪問その他のでき事がありまして、各種の論議を生んでおるのでありますが、大統領の以上の方針は堅持されておる様子であります。尚、
中共の台湾攻撃が果して実行されるか、されないかという観測も種々あるのでありますが、先程述べました
通り、台湾の場合も安保理事会の議に上
つたという事実があるのであります。それに
関連して極めて最近英国のオブザーバー紙でございますか、そういうような事実は台湾攻撃の可能性を幾分緩和するものではないかというような観測をしておる新聞もあるのであります。
次に、最近の東南アジアの政情につきまして
簡單に申上げますと、南鮮の援助のために兵力を実際送ろうということを申出た国は、タイ四千名、フイリツピン五千名、そういうような国が派兵を申出ておるのであります。米国が東南アジアの地域に対して、動乱以来軍事援助を強化するという態勢をと
つておる
実情を
簡單に申上げますと、印度支那の仏軍及びパオダイ政権等への兵器類の送達、サイゴンヘの軍事顧問団の一部到着、フイリツピンヘの兵器類の送達及び在ヒ米軍基地の強化、そういうようなことが行われております。尚アメリカの東南アジア軍事
調査団は、
現地に即した軍事援助内容を検討のため、すでにフイリツピン、印度支那、マライを廻りまして、タイに到達いたしております。
インドネシアは自国への来訪をその予定の最後に変更するように要請して、且つこれと正式に接触を行わないというような態度を示しておるようであります。大体
朝鮮問題につきましては、東南アジア諸国における治安の確立を緊急問題としたのであります。
各国
政府は国際問題よりも国内問題に重大な関心を示しておるような傾向もあるのであります。各国の現状につきましては、一々申上げませんが、国境の、例えばビルマ、タイというような地域では、国境の防備に苦慮をいたしておるのであります。ビルマにおいては
中共侵攻に対する
危惧が高ま
つておりまして、
従つて国連による国家の安全を確保するというふうな方針に向いていると伝えられております。
従つて英米の援助を全面的に受入れる態勢を示しているようであります。タイにおきましても、軍備は事実上外国の援助を仰がなければならん。米英民主陣営の線に沿
つた外交政策がとられてお
つて、今回の
調査団の協議には米タイ軍事協定というようなものも含まれておるというような報道もあるのであります。マレーにおきましては、依然として積極的なゲリラ討伐が行われておりますが、叛徒の動きは却
つて活発と
なつた傾きもあるのであります。特に華僑の
動向というようなものも心配があるようであります。併しながら別に取立てて悪化したというような
情勢は報道されておりません。フイリツピンにおきましても、フク団による南鮮派兵に対する抗議というような気勢がありまして、攻撃が展開されたというような事実も
報告されておりますが、これも大したことなく解散せしめられたようであります。印度支那におきましては、仏軍が約十五万、それが正規不正規合わせまして四十万に近いと称せられるホー・チミン軍と戰いを続けている。ホー・チミン政権と
中共の間に軍事協定が締結されたというような噂もあるのであります。確認はされていないのであります。雲南省においては
中共によるホー軍の訓練装備が行われておるという報道もあるのであります。この辺は併し確認をされておりません。尚、
中共そのものの
動向でありますが、これに関しましても各種の
情勢がありまして、
朝鮮事変後
中共軍の北上が伝えられております。八月の初めには北京でモロトフ氏を
中心とする
会議があ
つた。それによ
つて国連軍が若し三十八度線を越えるならば、
中共が十五万の兵を派遣して、
ソ連がその装備を提供する。
中共軍二ケ軍がすでに満鮮国境に
移つておるというような報道、或いは台湾を必ず解放するというような声明乃至は台湾進攻に備えての軍備強化の情況、そういう報道が数数あるのでありますが、併し一面
朝鮮に関しては、北京において
中共と
インド大使との接触、そういうようなこともありますし、又これも先程申上げましたように、
中共及び
ソ連が台湾問題を
国連に持込んだという事実も又積極的な動きと反する
一つの証左ではないかというような見方もあるようであります。
次に、西欧の方に移りまして、これはいろいろ問題がありますので、西独の再武装の問題だけ
一つ簡單に申上げて置きたいと思います。西独の首相が八月二十三日の記者会見におきまして、西独の安全保障はこれを対外的及び対内的の二つに分けて
考える必要がある。対外的には西独の参加する西欧防衛軍の創設が絶対に必要であり、対内的には現在地方分権的な西独警察の再組織が必要であるということを強調されておるのであります。実状を見ますと、東独は人口千八百万に対しまして、警察力は二十七万人、そのうちには重火器による軍事訓練を受けている六万の予備隊がいる。これに対しまして、西独は人口四千七百万に対しまして、警察はまだ十万、而も非軍事化の方針から極めて地方分権的であ
つて、連邦
政府は自分の警察力を持
つていないという
実情にな
つております。アチソン国務長官は八月二十三日の会見で、西欧防衛体制に西独が参加する問題及び駐独米軍の増強に関する問題は絶えず協議の
対象とな
つている。そういうことを述べただけで、まだ態度を明らかにしていないのであります。英仏側の見解も明らかにな
つておりませんが、報道によりますと、英国は、再軍備はフランス軍隊が装備を完了するまで考慮できない。又如何なる場合にも、ドイツ人にはドイツ人が完全に支配する軍隊を委ねない。こういう二点を除いて西独再軍備に無條件
反対の態度を捨てたという報道もあります。フランス
政府は、西独州警察隊の規模拡張と、非常事態に際しまして、州警察を徴発する権限も西独
政府に與えることを原則とする。ドイツ軍隊の創設及び軍需生産のためのドイツの工業力を拡充することには依然として
反対である。このような報道があります。
尚極めて
簡單に動乱の
影響の
一つといたしまして、アメリカの経済体制に触れて置きますと、今日まで取られました主な経済的措置を申しますと、五十億ドルの増税案、それと国防生産法案の提出という事実だろうと思います。国防生産法案によりますると、第一に、国防促進に必要な物資の優先割当制の
実施、不緊要度の物資の使用制限、国防上緊要物資の退蔵の防止、余剰にして不必要な物資の徴発、重要物資の増殖に対する融資の増大、消費者信用及び物資の騰貴のための信用の統制、こういうことを内容としている国防生産法案、これが八月七日に上院の
委員会を通過いたしております。これを
提案いたします際に、大統領に物価統制と配給割当の権限というものを要請していないのであります、ここにまだ彈力性があると
考えられるのであります。これに関しまして、議会の内外では相当議論がありまして、例えば上院議員のタフト氏のごときは、大統領の統制計画は行き過ぎであるというような見解であるようでありますが、又一部には大統領の計画はまだ不十分であるという見方もあるようでございます。この傾向の
代表者としてはバルブ氏、こういう人はもつと思い切
つてやれということを主張している様子であります。尚物価の点につきましても、
事変当時から今日に至ります卸売物価の値上り、そういう数字が一部出ておりますが、極く概略申しまして、一割
程度の値上りというような傾向であります。
次に、
朝鮮動乱勃発後、各国で対共産主義国輸出制限乃至停止の措置をと
つております。これをかいつまんで申上げますと、先ず
北鮮向の輸出禁止を米英両国でと
つているのであります。
濠洲
政府、ペルー
政府、こういうところでも対
北鮮通商
関係を停止しております。次に、
中共地区に対しまして石油の積出の禁止をとりましたところが米国
政府と英国
政府でありまして、ただこれは香港あたりの操作によ
つて尚幾分流れる道があるのではないかというような
実情のようであります。共産主義国に対する戰略物資の輸出制限でありますが、これは各種の措置が主としてアメリカ
政府当局でとられているのであります。併しながらその他の、殊にヨーロッパの西欧圏から東欧圏に入る物資はどの
程度止められるかという問題は、今後の問題であるようであります。この十二日にニユーヨークで開かれる予定の三国外相
会議の議題にも、こういうような経済的な問題も取上げられるというような報道を得ております。
最後に
講和の問題でございますが、これは御
承知のように、七月の末にダレス氏がコンモンウエルズ・クラブで講演をされまして、
日本とドイツが自由な国家の社会において平等な協力者となるための機会を與えられるであろう。イコール・パートナーという言葉を使
つておられたと思うのでありますが、そうして
朝鮮の動乱によ
つて日本問題の解決が延期されてはならないという言明があるのであります。又ワシントンからの報道によりますと、
関係各省で対日
講和に関する意見の調整ができ上
つて、八月末までには草案を完成して、九月に入
つてから英、仏、蘭、比等の連合各国に草案を示し、そうして個別的に協議するだろうと伝えられております。又十六日のニューヨーク・タイムスによりますと、この草案については、昨年来
考えられたような
講和の構想は根本的に修正を受けて、
講和條約締結後も、アメリカか
日本に或る種の軍事的特権を保持する規定が含められるであろう、こういうような報道もあります。又米国が対日
講和に関して、その意見調整に乘出しててお
つて、近い将来に対日
講和に関する交渉が開始される見込みがある、そうしてまもなく国家安全保障審議会が最後の決定を下すだろうという報道が八月二十一日のニユーヨーク・タイムスに掲げられておるのであります。併しながら米国
政府官憲からの公式の言明は未だ何にも洩らされておりません。例えばアチソン国務長官は最近の記者会見で、対日問題については、まだ何ら発展はないという見解を述べております。尚イギリス側の見解につきましては、八月初旬外務省当局の人が、ロンドンで知
つている限りでは、新らしい対日
講和の交渉はないと否定しますと共に、イギリスは
日本に嚴しい
講和條約を押付けることは希望していない。
日本の再軍備、軍事基地化や、再武装は
反対であるとしまして、更に
日本に対して共産軍の攻撃が行われる場合、
日本の防衛は
国連の責任となるであろう。現在西欧が、急いで対日
講和を結ぶよりは、
国連が非武装された
日本の防衛を引き受ける方がより効果的と思われるというような趣旨の言明をしたと伝えられております。又英連邦
関係の向からの報道としまして、アメリカは対日
講和会議を招集する
考えを放棄して、アメリカと意見を同じくする諸国
政府が、それぞれ個別的に
日本と
講和を結べるように拙案ずることを考慮しておるという報道もあるのであります。このようにしまして、対日
講和に関する報道は最近しばしば出ているのでありますが、まだ何らオーソリタテイヴな公式の言明はないようであります。尚この外相
会議において、対日
講和問題が
一つの議題となるというような報道もあるのであります。若しそういうことになれば、
一つ進展があるのではないかと想像をいたされるのであります。誠に
簡單でございますが、以上で一応の御
説明を終りたいと思います。