○
川崎秀二君 私は、
国民民主党を代表いたしまして、
吉田内閣総理大臣の
施政方針演説に対し総理並びに
関係閣僚に
総括的質問を行わんとするものであります。
参議院議員選挙後、
わが国内外の情勢は著しく変貌を来し、講和問題の進展、
共産党幹部追放問題を経て、最近
隣邦韓国は
北鮮軍の侵入を受けるに至りまして、
わが国を囲繞する四辺の情勢は、まさに
終戰以来最初の重大なる異変に包まれているのであります。このことは、世界のいずれの国にも劣らぬ
平和国家たることを最高の理想とする日本にとりまして。試練の日が眼前に迫りつつあることを意味するのであつて、このときこそ、一国を率いて立つ
総理大臣は、世界平和に対する燃ゆるがごとき熱情と、遠大雄渾なる抱負と、その根底をなす
経済自立について具体的な解決策を吐露すべきであつたにかかわらず、昨日の
施政方針演説は国民の心底をゆすぶる共鳴を感じさせなかつたことは、はなはだ遺憾にたえません。(拍手)
私は、
朝鮮問題突発の寸前まで、国民の
最大関心事が、
講和條約の締結と、その内容に対する検討に隻中されていたこと、また現在も
朝鮮事変の進捗につれ、当時とは異なつた角度から
早期講和、あるいはこれにかわる措置についての関心が依然として強いことを指摘するものであります。特に
ダレス氏の来訪以来、講和問題の論議は、
全面講和か
單独講和かという講和の形式論ではなく、講和の内容、すなわち日本の
安全保障問題を中心とする検討に
移つた感じがあります。今日
わが国におきまして、依然として講和の形式問題について
單独講和と
全面講和の両論が大きく分裂をいたしておりますることは、その端緒を開いたものは何であつたにせよ、すこぶる遺憾なことであります。
もとより
わが国は、新憲法において戰争を放棄したる非
武装国家でありまして、しかして永久の
平和国家をもつて理想とするものでありますから、
国民大多数の理想が
全面講和の達成にあることは原則として当然であるべきで、極東十三箇国あるいは多数の
関係各国が、
講和條約締結の必要を認めて相互に会談と討議を行い、これによつて最終的な段階を迎えるまで、
わが国としては新憲法の精神に即し
連合国に
全面講和への努力を要請することは、断じて
間違つてはおらないのであります。(拍手)もとより情勢は著しく変化を遂げております。講和の遷延を不可とする多数の国家との
早期講和は考えられることであり、これを拒否すべき理由はありません。しかし、先般来朝した
ダレス外交顧問と、わが
党苫米地委員長との会見の際も、
ダレス顧問もまた
全面講和への
アメリカの努力を言明して、善意にして忍耐強き
アメリカの
世界政策を示しておるのであります。われわれ
日本国民の大多数は、明らかに
共産主義者の挑発による
世界的規模の騒乱と行動を目のあたりにして、これこそ世界平和を阻害するものと感じております。しかして、明白に
議会政治の真髄こそ、
暴力革命の排撃に立つ
西欧デモクラシーの思想を擁護せんとするものであります。にもかかわらず、われわれは
講和條約を前にして特定の一国を対敵国として考える立場にはないことは、はつきりと銘記しなければならぬのであります。(拍手)
施政方針演説において、
吉田総理大臣は、国民の関心が日本の
安全保障にあることを説いておられます。この点はまさにその通りでありまして、
講和会議の基本的な條件は、條約後に来るべき日本の
安全保障である。これこそ国民の最も聞かんとする切実な問題であります。
施政方針の演説並びに首相の談話などが、最近あたかも
国際連合の手によ
つて日本の安全を守られることが望ましいというニユアンスを受け、またそのごとく伝え聞いているのであります。これは向
米一辺倒、
アメリカ一国の軍隊の駐兵を希望した、かつての首相の言辞から、やや転換した感じであり、確かに
国際連合への加入による
集団保障の形式は考慮さるべき一つの対象でありましようが、政府はこの場合、
前途幾多の起伏があることを予想しつつも、これをもつて最良の道として考えておられるのでありましようか。いずれにしても、これらに関し政府は明快なる方式を示唆すべきものと考えるのであります。
また
朝鮮事変突発以来、
講和條約そのものは遠のいたという観測も、国際間にかなり有力に行われております。朝鮮問題の未解決のまま
連合国が対
日講和條約を促進して、いかなる処理をするであろうかということは、これまた
日本国民の最近のきわめて緊迫した情勢に処しての表情であります。最近の情勢に即して、
講和條約にかわる何らかの措置、たとえば
戰争終了宣言や、その他のいわゆる中間的な措置も有力に伝えられている折柄、首相は
早期講和條約の確信を披瀝されているが、その根拠とするものを具体的に明示願いたいと思うのであります。
次に
総理大臣は、
早期講和の実現について政党の
一致協力を説き、小異を捨てて大道につくことを要望されております。これは
参議院議員選挙後にわかに
政府側から叫ばれた
超党派外交を示すものと思います。
超党派外交は、過ぐる第七国会の終末にあたりまして、
吉田内閣不信任案の
提案理由説明に立つたわが党の
苫米最高委員長が、
吉田内閣の内政を糾襌しつつも、外交のことは政争の具に供すべからずとして、その
超党派的取扱いを提唱したことに始まるのであります。
不信任という政党間における
最悪的対立のさ中におきましても、わが党は、外交問題の処理に対しては内政問題と明確に一線を引き、国家、民族将来の運命を第一義的に考慮して、かかる提唱を行つて来ているのであります。(拍手)しかるに、最近これに対し、
吉田総理大臣はしばしば、
超党派外交はしろうとの議論であり、何のことやらさつぱりわからぬ、勉強が足りないから、かかることを言うのだと揶揄したり、笑殺しておつたものでございます。しかるに、いかなる御心境の変化でありましようか、
参議院議員選挙後、
政府側より
超党派外交が叫ばれ、
吉田首相、芦田前
民主党総裁との会談が行われ、幣原議長の老躯を押しての熱意ある行動となつて現われるに
至つたのであります。われらは
超党派外交の必要を感ずるがゆえに、既往をとがめず、率直にこれを受入れるものでありまするが、一体
超党派外交の主軸となるべき
総理大臣は、本心からこれを叫び、熱意を傾けて行動されておるのか。最近の言動のごとき、はなはだ疑問に思わざるを得ないのであります。(拍手)
もちろん
超党派外交は、ひとり日本に始まるものではありません。ことに
アメリカにおける民主、共和の両党は、一九四四年のダンバートン・オークスの会議以来、幾多の
国際條約の締結や、
国際会議において密接な協力を收めております。イギリスでも、戰時中の
連合内閣はもとより、戰後国内の経済社会問題ではげしい対立を示しておる保守党と労働党が、対
米外交、
対ソ外交に対する
外交政策の
一貫性を
国家的見地から認識し
合つて、
外交政策の手法についてはそれぞれ異なつた色彩を持ちながらも、外交の基本、大筋において、多くの場合
超党派の支持を與えつつあることを、われわれは見のがしてはならないのであります。
元来
超党派的協力なるものは、
反対党すなわち野党としては
政治的誤謬であり、得策ではないという説も、
アメリカの共和党の中に有力であります。しかしながら、ヴアンデンハーグ氏や
ダレス氏が、これはノーマルな時代のことであつて、現在並びに今後数年間は、
アメリカの
外交政策はその主要な面で統一を確保する必要があるという見地からこれに協力している点は、占領下にある
わが国としては最も耳を傾けなければならぬ方式であつて、特に国民の待望久しい講和を控え、
外交政策が政府の更迭することに著しく変化することは断じて避けなければならないのであります。
外交政策の
一貫性と、国論の動向の
大同的帰趨を目ざして発足すべき
超党派外交に対しては、政府は虚心坦懐、謙虚な態度をもつて当り、最初から政府の結論を押しつけるがごとき高飛車な態度では断じて成功するものでないにかかわらず、過ぐる十一日の
記者団会見における
吉田首相の談話と昨日の演説は、他党に挑戰し、みずからぶちこわしの態度に出たものとしか受取れないのであります。(拍手)すなわち
総理大臣は、
全面講和、
永世中立はから念仏である、社会党の内部には
共産党の分子がいる、
共産党の謀略に陷らんとするところの危險なる思想である、これが首相の協力を求めておられる相手方に対して放つた言葉であります。
超党派外交の法衣の袖から、独善われに続けというよろいが見えるのでは、だれがまじめに耳を傾ける者があるでありましようか。(拍手)
一体総理大臣は真劍にこれを考えておるのか。みずからイニシアチーブをとつて当る熱意なくして、何でこれができるか。私は、これらの点に関し、首相の率直にして偽らざる本心と、もしこれをやられる場合においては、どんな構想を持つておられるか、これをお伺いいたしたいのでございます。
さらにこれと関連をいたしまして最も不可解なことは、
超党派外交をさきの内閣改進問題に関連して政府の一味がしきりに利用したことであります。ことに
参議院に多数を
占むるための緑風会工作や、はなはだしきは、さきに
不信任案を提出したわが党の
與党化工作と関連を持つがごとき、不純なる印象を国民に與えたことは、政治の公明をとうとぶ
吉田首相としては、はたしていかがなものでありましようか。ましてや閣僚のいすを空席にして、これがあたかもわが党との
連立工作の前提を意味するがごときは、明らかに公党に対する侮辱であります。迷惑これに過ぐるものはない。高潔なる
吉田首相は、よもやこれらの問題とは御関係がありますまいが、この際政治の
明朗化のため、明快なる回答をほしいのであります。
次に私は、不幸なる隣邦の紛争に対する政府の所信と総理の談話に対し、一言その真意を伺わんとするものであります。去る六月二十五日、
北鮮人民共和国の軍隊は、国境を越えて韓国に侵入するに至り、韓国と
北鮮人民共和国とは、ここに民族の血を一にしながら干戈をもつて交わるという悲劇を展開するに至りましたことは、これにより起る国土の荒廃、無辜の良民の死傷等に思いをいたすとき、隣邦としてまことに痛惜の念にたえません。一日も早くその紛争の解決を祈らずにはおられないのであります。そうして今回のことは、いずれも相手国が侵略の火ぶたを
切つた、こう宣伝しております。しかし、自由にして広汎なる世界の情報網の伝うるところによれば、大規模の侵入が
北鮮軍によつて計画されたことは明らかであり、
北鮮軍は平和を愛する
国際連合の
停止命令をも開かずして
越境侵入を続け、遂に
国際連合安全保障理事会の決議により
軍事制裁を受くるの立場に
至つたのであります。
日本は、新憲法により明らかに戰争を放棄している国であります。戰争に超越すべき立場にある。戰争に介入すべき国ではありません。ただしかしながら、われわれは平和を愛するがゆえに、正義と人道と條約を蹂躪する不法の行為に対しては、これを排撃することに断固たる信念を吐露すべきでございます。この点、昨日の
吉田総理大臣の演説に対し私は賛意を表するものでございます。
平和を愛する
国際連合は、
安全保障理事会において八対零の
警察行動発動の決議をなし、特にいかなる
世界戰争にも今後は絶対に不介入であるという立場をとるところのインドの
ネール首相がこれに参加していることは、
国際連合の行動がすみやかに
北鮮軍の三十八度線への後退を目標とし、その達成後は
和平措置に出でんとする
前提行動であることが圧倒的に世界の共鳴を呼んでいることと私は信ずるのでございます。しかし、私がここでお尋ねしたい点は、積極的には参加はしないが、あとう限り協力するとは、一体何を意味するのか。進んで戰争の渦中に入るようなおそれがある行動は絶対に避くべきであります。さらにまた、いやしくも朝鮮問題は
わが国にとり好影響であるなどという先般の
首相談は、隣邦の不幸を対岸の火災視するなと言いながら、実に不謹愼きわまる言辞ではないかと思うのであります。(拍手)
朝鮮問題突発以来、国内の人心は異常に緊張をいたしております。この内外の
重大時局に際して、
吉田首相の
日常行動は、必ずしも国民によい心証を投げてはおりません。
マツカーサー元帥は
日夜軍政務に精励し、身をもつて戰地との往来もされている。この問にあつて、老躯ではありましようが、首相には多少御反省を願うべき筋があるのではなかろうか。衆議院の
外務委員会は第七国会において十七回も開かれておるにもかかわらず、
外務大臣の出席はわずか一回である。かくては、講和を控えて
日本国民の願望であり関心の的である
外交政策に対する国会の論議はきわめて低調となるを免れず、政府の責任ある所信も聞かれないではないか。この際首相は
専任外相設置の方針をとつてはいかん、明快なる答弁を望むものであります。
次に、私は国内問題につき質問をいたしたいと思います。内政問題の最重要問題である
金融政策の転換について、昨日の
施政方針演説は何ら触れるところがございませんでした。單に財政と金融の調和をはかるとのみ
うたつたのは、国民の目を外政にそらして、目下の
国内経済問題最大の苦悩をおおわんとするのではないかとさえ疑われるのであります。
金詰まりの声を聞くことすでに一箇年半に及んでおりますが、その声は解消するばかりか、ますます深刻となり、過去一箇年間相当の
企業整備が行われましたが、近い将来再び企業の倒壞が続出する危險は十分に予想され、深刻なる情勢を引起しているのであります。ことに、去る五月の日銀の対民間融資引締めの
政策採用以来、これまで日銀貸出しでともかく息をついて来た
民間金融機関は、その糧道を大きく抑えられる結果とな
つたのであります。このままで行けば、
民間金融機関による
企業融資は今後一段と逼迫化し、
金詰まりが急速に新たな
金融梗塞の段階に突入することは明らかであります。これは昨年
ドツジ・ラインに基いた二十四年度予算の超
均衡予算の実施によつて、
財政面における
政府資金の
引上げ超過は、二十四年度六百二十五億に及び、その財界に與えるところの影響の大きさを考慮した
日本銀行が、貸出しの増大をもつてこれを緩和する政策を実行しておつた。その実行してお
つた政策を五月に至り違に変更するに至つたところに大きな原因があります。言葉をかえて言えば、
日本銀行は、政府のしりぬぐいは、もはやごめんをこうむるという態度をとるに
至つたのでございます。
昨年は、ともかくも日銀の信用放出によつてささえられていた梗塞が、過去一箇年の貸出し政策の結果、
民間金融機関、特に
市中銀行の
資本構成に著しい変調を及ぼしました。
全国銀行勘定に見る預金の増加は、本年四月に終る一箇年において三千十三億に対し、貸出しの増加は三千五百億、すなわち貸出しの増加は
預金増加を一割七分も超過する不健全さであり、かかる貸出しの内容が悪化しておる状態では、
日本銀行が勢い引締めを断行しなければならなか
つたのも必然の帰趨であります。
しかし、この深い原因こそは、超
均衡予算の実施並びに
ドツジ・ラインのいささかの修正をも懇請しなかつた金融と財政の分離という政策にその根がきざし、
池田財政の致命的な苦悩と申さなければなりません。通貨は現に三千億すれすれであり、また八月以降
地方税の
徴收開始、肥料、鉄鋼の
補給金が廃止され、さらに
過年度分の税金の滞納は一千二百億を越えておると思いますが、この徴收が強行されるならば、
政府資金のおびただしい吸上げとなり、ここに
デフレ恐慌は必至と見なければならぬのであります。この現象に対し、
大蔵大臣はいかなる手を打とうとしておるのか。これをしも
池田大蔵大臣はデイスインフレと呼ぶのでありましようか。また
日本銀行と見解を異にして、
財政金融の調整がはたしてうまく行くであろうか。私は
池田蔵相の従来の楽観説に対しこれを肯定するわけには参らぬが、
金融政策全般にわたる蔵相の所信を述べられたいと思うのであります。
元来、現内閣の
財政政策はマネタリー・スタビリゼーシヨンに堕しておる。すなわち、通貨の安定のみを重大視し、
産業助成による
経済復興の構想を捨てて顧みない。
経済政策の基本をなす
金融政策が弱肉強食の
自由資本主義に立脚していることと、経済安定の犠牲を農民や
労働者、
中小企業者に対ししわ寄せをしておることは、われわれがしばしば指摘した通りでございます。單に
自由経済に復帰することをもつて
金科五條とするならば、戰前においてもそうであつたように、それは自然に農村の不況を呼び、
中小企業の不振を招き、
失業者の激増を見ることは必至であつて、これこそ
自由経済固有の疾患と申すべきでありましよう。
従つてわれわれは、
資本主義に
計画性を與え、
公共性、
社会福祉性を中軸とし、その大わくのもとに自由なる
経済活動を促進することが
資本主義経済の新たなる進路であり目標であると主張しているのであります。
しかるに、昨年以来の
財経政策はまつたく
計画性を喪失している。安本五箇年計画の破棄といい、
有効需要減退に対処する措置といい、はなはだしく成行きまかせであります。暗礁にぶつかつて初めて訂正するというやり方である。一貫した
計画性を持たないところに真の
国民生活の安定がはかり得るでありましようか。特に
有効需要の振起に対し、政府はいかなる方途を持つか、この際明示されたいと思うのであります。具体的問題として次にお伺いいたします。本年度の
債務償還千二百七十六億は、二十五年度予算の審議においてその繰延べを要求する声は、
ひとり野党の各派だけではなくして、遂に輿論とまで化した問題であります。政府は、来年度予算では
債務償還は行わない、こういうふうに内定しておると発表されました。しかし、この際私は本年の
債務償還の残額も打切るべきであると考えておるのであります。すでに、不測の事態とは言いながら、
警察予備隊の経費は
債務償還費の組みかえをもつて充当するものとマ書簡によつて指令されております。すでに
債務償還費は絶対的に延期してはならぬという性質のものではなくなつた以上は、
債務償還の
一般会計よりする分の残額はこれをとりやめ、
警察力増強はもとより、
中小企業の
倒壞防止を初め、
地方税減税、
農村復興費の充実に振り向けるべきであると考えるのであります。(拍手)蔵相は、この際面目にとらわれるときではありません。すでに二千億に近い
預金部資金の活用は、この際その
資金運用の範囲を拡大して、
建設公債はもちろん、
金融債、社債を初め、
公共企業債券への投資にも拡充すべきものであります。また
余裕金を生じたときの
金融機関への預託をも考えるべきであります。
預金部資金の活用に
円滑性を欠いたところにも今日の禍因があるのではないかと見ておるものでございます。さらに
見返り資金の
残額使用についても一層迅速な措置が要望されるのであつて、
輸出産業の基幹たる船舶の金融に対する
見返り資金の活用がこの際最も望まれるところであります。蔵相並びに
運輸大臣の見解はいかがであるか。これらを通じて、私は
金融政策の転換、特に
債務償還費の繰延べ、
政府資金の迅速なる放出なくしては、十月デフレの観測は事実となつて現われるのではないかと憂慮しておるのであります。それは
大正年代における爆発的なパニツクではなくしても、靜かなる恐慌の拡大によ
つて日本経済の機能を麻痺するに至るのではないかと憂えられるのであります。この際
金融界の危機を乗り切るため、わが党は、
日本銀行の
政策委員会、
大蔵当局を中心として各界の有識者を集めて
経済会議を創設し、財政と金融を調整することこそ必要であると考えるのでありますが、この
建設的対策に対して、蔵相は明快なる所信を述べていただきたいと思います。今回の
施政方針演説が、
参議院の選挙の際に発表されたいわゆる
五大公約なるものに触れるところが少か
つたのは、きつねにつままれた感がないでもありません。選挙の公約、特にあの際の具体的な約束でありまするから、常識として
臨時国会に何らかの形で現わるることを国民は期待しておつたものであります。しかるに、
輸出金融金庫の創設といい、
中小企業の
資金対策といい、これは一体どうな
つたのでありましようか。また昨日の
総理大臣の演説によると、官公吏の
給與ベースの改訂を約束されました。けつこうなことであります。しかし、これも一体いつから実施するのか、
予算措置はどうするのか、少しも明示していない。この際最もはつきりしてもらいたい問題であります。過
ぐる国会におきまして、
池田大蔵大臣は、野党の質問に対し、この問題に関する限りは、まことに見るも涙ぐましい勇壮な論議を展開しまして、公務員の給與は
引上ぐべきではない、
実質賃金は向上しておる、
消費者実効価格は下つているから、本年中は断じて上げる理由はないのだと言われたのであります。今回
給與ベース改訂を認めたことは、
公務員法制定の精神を尊重し、従来の説を訂正されたものと解釈いたしますが、それではたしてよいものでございましようか。今後人事院の再勧告がありました場合においても、またこれを尊重するものと考えますが、これらの問題の処理のため、当然ここに
補正予算の提出は必至と感ぜらるるのであります。(拍手)新情勢にかんがみて、二十五年度総予算もまた
補正予算の提出を伴うものと見られまするが、
大蔵大臣ば近い将来
補正予算を国会に提出する意思はありませんか。
五大公約に関連して最も重大なる点でございます。次に、厚生、労働の行政は今日最も密接な関連を持つておりますので、両大臣にお伺いをいたします。
失業状態は次第に重大化しつつある傾向であります。これを見のがすことはできません。さきに労働省から発表されました失業の実相から見まして、
完全失業者は今年四月五十万、全国の
職業安定所に求職する人数は四月に百二十一万、そのうち未
就職者は七十一万人で、その半数四十一万人が
失業保險金でかろうじて生活しておる状態と言われます。そのほかに
潜在失業者は八百万人に及ぶと言われておる。
金融情勢の逼迫したこととともに、企業に対する重圧が加われば、新たな
失業者の発生を見ることは避けがたい状況であります。
保利労働大臣が、
就任早々、これに
応急手当として
緊急対策費の繰上げ支給三十億を支出したことは一応の成果であります。しかし、問題はそれで片づいたのではありません。繰上げ支給後当然予見される不足と、本格的な
失業対策を講ぜねば、社会不安の大きな種はここに爆発の危險を包蔵しておるものといわねばなりません。(拍手)
生産的施策としての
公共事業の
活発化、あるいは
緊急失業対策費の増額、あるいは
見返り資金、
預金部資金の運用などということも考えられまするが、私はこの際
臨時措置としての
失業保險の
給付期間の
條件付延長をも考慮される必要がないかと思うのでございます。特に
日雇い労務者の
待遇改善と
保險制度改善は目下の急務でありまして、輪番制となりました今日の
日雇い労務者の
就職状況では、各地の
日雇い労務者は
最低生活の線を割つております。危險なる思想を持たない者でも、生活苦のために矯激なモツブに出ないとも限らぬ情勢であります。またいま一点、
最低賃金制の問題で伺いたいのでありまするが、
最長労働時間、
最低年齢制、しかして
最低賃金制こそは、
労働基準法を制定いたしましたときの三
基本構想でございます。このトリオがそろつてこそ
労働條件の規定が整備されるものでありまして、今日の状況は、まさに画龍点睛を欠いておるといわねばなりません。いわんや
最低賃金制は、世界の五十三箇国までが今日これを採用いたしておるのでございます。エーミス勧告をまつまでもなく、インフレが終熄した今日では、これを断行すべき好機と信ずるのでありまするが、労働大臣のこれに対する抱負と構想はいかがなものでありましようか。單に審議会をつくるというようなことでなしに、政府の持つ構想をお聞かせ願いたいと思うのであります。次に、社会保障制度に関する国民有識層の関心が日に高まりつつある折柄、私は新しい厚生大臣に、その確立に対する信心と基本的な考え方を伺つておきたいのであります。もとより社会保障は憲法第二十五條による国民の権利でありますが、いまだにこの制度をもつて恩恵的な慈善施策の感覚をもつてする考え方も、相当有力な人々の間に沈澱をいたしておるのであります。
アメリカの保障制度調査会の勧告によつて、
マツカーサー元帥は、日本における最高の理想は社会保障制度の実現であるとされております。しかして、いわゆる揺籃から墓場までの安全感を確保するためには、国民をして困窮者の扶助、医療の公共化、公衆衛生の確立を初め、社会福祉の向上に努めることを将来の大理想として培養することが望ましいのであります。この意味で、日本の将来は、漠然たる文化国家ではなくして、むしろその実態は福祉国家を目標とすべきものではなかろうかと考えるのであります。(拍手)これは国民が社会連帯の観念に徹しなければ断じてこれを達成することはできない。またこれを通じて富の再分配をも断行する
資本主義制度の修正された能率的な発展こそ、広汎な社会保障を実現するかぎであり、同時にいわゆる社会保障制度の行き過ぎをも是正し得るところの唯一の力と私は思うのでありますが、厚生大臣はいかなる見解をお持ちでございましようか。また現在審議会での試案なるものは、現実と理想を調和したものでありまして、この秋には、政府にこれの勧告があるものと私は考えております。そういたしますると、政府はこれを立法化する義務がありまするが、通常国会に上程する用意があるかどうか。この点をお伺いいたしておきたいと思います。またこの案による
予算措置は、大略初年度経費国庫負担五百億、民間負担八百億と推定いたしておりますが、政府は、この点どの程度まで実現いたす気構えを持つか。またこれらの問題に関連し、七十年来の紛争を続けておりました医薬分業の問題も、当事者間に歩み寄りができたと言われまするが、漸進的解決の方途について政府はいかなる施策を用意されているか、あわせてお伺いいたしたいと思います。次に農業政策については、後刻同僚井出君より詳細な論議があると思いますので、私はこの農村不況の際における農林大臣の施政の骨子と心構えをお伺いいたしておきたい。昨年来、農業政策は明かに
一貫性を欠いております。農業経営の方向においてまた食糧政策においてしかりであります。しかして税金の課税は迫り、農村建設復興の補助費はすずめの涙しか投下されておらない。この状態が続くならば、明らかに日本農村は経済安定のための最大犠牲者と申さなければなりません。昨年度の国民所得の面よりするも、農林業の所得は個人国民所得の二五%である。所得が二五%でありながら、これによつて扶養する人間は全人口の約五〇%に当るというありさまであつて、このことは勢い農民の生活水準が低下して行くことを免れないのであります。耕作面積に惠まれず、経営規模の縮小に苦悩する農民の姿は、日に深刻なる様相を呈しております。生産條件を改善するための土地改良、水利の開発、技術の高度化、機械化に対する投資はきわめて僅少であります。われわれは、ここに生産費を償うに足るところの米価のすみやかなる決定を要望するものであります。すでに賃金ベースの改訂は公約され、新たなる勧告も出ようとしておるというときに、何ゆえに米価だけがすみやかに改訂されないのか、非常なる疑問を持つところでございます。また、朝鮮問題以来一層その必要を痛感される食糧自給態勢の確立をどうするか。これらの問題について新農林大臣の抱負を聞きたい。給與べースの改訂であるとか、所管違いの仕事に飛びまわつたり、
與党化工作に血道を上げるひまがあつたら、今やデフレと税金にあえいでいる日本農村復興政策に真劍に取組んでいただきたいと思うのであります。まず広川農政の輪廓なるものをここに御提示を願いたいと思うのでございます。私は最後に、今国会の唯一の重要法案でありまする
地方税法改正案の内容と、これに関連して国会における審議権の自主性についてお尋ねをいたしたいと思うものでございます。わが党はさきに、附加価値税は、経済の安定を見ない今日、赤字企業への課税をも断行し、この税金制度は、さらに沒落、崩壞にあえぐ
中小企業の倒産を招くものであるとしてこれに反対し、少くとも実施期間の一箇年延長、これにかわる事業税の改善、存続を主張し、前国会における
地方税法案の否決後の情勢によつて、政府修正案は、今偶然にもわが党の主張と接近し来
つたのでありますが、政府は、世界で初めてのこの附加価値税のごときはさらに精密に調査をし、その実施時期に検討を加える所存はございませんか。一体政府は、何ゆえ来年一月一日を期してこれを実施しなければならないか。また固定資産税の倍率や税率は、税総額の捕促見込みによつてかわるものと考えまするが、建設的な修正には進んで耳を傾けるべきであると考えます。さて
地方税法案の前国会の審議は、その終末期において、国会の審議権に重大なる拘束を受けたものであります。すなわち、国会法に明記されている、議員二十名以上の発議による修正案提出の自由までが不可能なる状態に追い込められたことは、国政運用の点において、ぬぐうべからざるところの汚点を残したものと言わなければなりません。昨年から
経済政策においてしばしば修正案提出の自由が制限されつつあることは、第三次
吉田内閣になつてからの不可解なる現象でありまして、二十四年度予算も、二十五年度予算も、あまつさえ
地方税法案も修正が許されなか
つたのであります。これはすべて政府の自主性なき
経済政策の結果、累が遂に国権の最高機関たる国会にまで及んだものと確信してやみません。もとよりわれわれは、今日占領治下にあることを忘れるものではない。嚴として守らるべきポツダム宣言の履行はもとより、経済安定の九原則に対しても、われわれが連合軍特に
アメリカの好意ある経済援助によつて今日あるを得ておるのであります。またそれが寛容にして善良なる占領政策の一部であるがゆえに、これに全面的に協力を惜しんで来たものではないのであります。しかしながら、九原則に立脚してその遂行を果すための
ドツジ・ラインあるいはシヤウプ勧告などは、これらの基本方針に賛意を表するわれわれも、これが法案となつて現われた場合、いかにすれば
国民生活に適合し、日本経済の実態に即応するかいなかという最後の判断こそは、われわれ国会議員の崇高なる役割であり、国民の負託に対する義務であり、日本国会に與えられた当然の自由でなければならぬと思います。(拍手)ましてや、国民の血に通う税金問題である以上、政府原案がいささかの修正をも許されないというならば、国家の存立意義は重大なる支障を来すものと言わなければならぬのであります。これらは、ことごとく、原案の作成に当つた政府が、シヤウプ勧告の線に沿いつつ、国民経済の実態と国民負担の軽減に思いをいたした自主性ある成案の確立に努めなかつたところに端を発しておると言わなければなりません。
ごらんなさい。
参議院が、国民の中にほうはいたる法案反対の声を反映して、勇気をもつて
地方税法案を否決した結果、情勢はここに変化を来し、現に
地方税法案は修正されて国会に提出されておるではないか。
参議院の良識と野党側の真摯な叫びが今日の
地方税法案審議に変化を與えたものと断言してはばからぬ。それゆえに、あの悪税法の原案を前国会にそのまま通過させようとした政府は、この問題に関する限り、何の面目あつて今日議場にまみゆることができるか。国民に対し何のかんばせがあるでありましよう。
地方財政の確立を目途とするこの法案のねらいは、われらも、その本義に反対するものではありません。ことに、わが党の反対は無責任なる反対ではなくして、第七国会以来最も建設的な修正案を堅持しておるのであります。もしわが党の主張が通るならば、地方財政空白の折柄、一日も早く本法案の成立を望むものであります。断じて破壞的行動でないことは、五月二日、野党連合は、
地方税法案否決の直後、現行法の提出をはからんとしたこと、地方財政空白に対する
臨時措置として
預金部資金と平衡交付金の繰上げ支給を政府に先んじて提唱いたしておるのであります。私は、第七国会から今回の修正案提出まで、しばしば言明をかえられたところの
池田大蔵大臣は、今後一体
経済政策の自主性ある確立をはかる決意があるか、その自信があるか、はつきりとお伺いをいたしておきたいのであります。
また最後に、このことが日本の自主独立への道について真の民主化をはかる基礎條件でもあると考え、あえて多数党の首領たる
吉田総理大臣は、国会審議権の高揚についていかなる感懐と抱負を持つか、この際特に最後にお伺いをいたして、私の質問を終るものでございます。(拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕