○鈴木茂三郎君 昭和二十年九月二日、東京湾上において
連合国の降伏文書に署名いたしまして以来、われわれは近く第六年目の降伏記念の目を迎えようといたしております。今日われわれの置かれておる
国際的並びに国内的な
情勢は、きわめて重大なるものがございます。われわれが、もしも、か
つて金融資本のもとに資本家と軍閥と官僚により支配された東條
内閣とその議会の犯した過失と同じように、今日ここで一歩
方針を誤まるようなことがあ
つた場合は、われわれや、われわれの子供、孫の安危にかかわるものがあると信じますので、私は
日本社会党を代表して
吉田総理大臣の
施政方針に対し、主として
日本の民族の自主と自立、
国家の独立と平和、すなわち、われわれとわれわれの子孫の自主と自立と、
わが国土の独立と平和をいかにして確保するかというこの一点を基点といたしまして、ここに
質問を展開せんとするものであります。
質問の第一は、自立経済、独立経済の確立に関する問題について
総理に二点お尋ねいたしたい。第一点は、いかにして自主、自立、独立経済を確立することができるかという問題であります。民族の自主と自立
国家の独立と平和を基礎づける根本は、自立経済、独立経済の建設、すなわち
日本がひとり歩きのできるようになることでございましてこれについては、今日まで吉田
総理もしばしば、
国家の独立は自立経済を建設することが第一だと主張されたように記憶しております。特に昭和二十三年十二月十九日、マツカーサ上元帥は、諸君の御承知のように、
日本の経済の自立と独立のために経済九原則を行うように指示され、その際元帥から
政府に與えられた書簡のうちで、こう言われておる。この
措置の根本目標は、それのみが
政治的自由を正当化し保障し得るような程度の経済的自立を早急に達成することである、元帥はこう言
つてというのは、民衆の生活が他人の贈りもの、恵みに依存している限り
政治的自由はあり得ないからである、こう言われております。私は、元帥のこの言葉を、この際諸君とともに思い起したいのであります。
われわれは、他方においてこうした外国の贈りもの、恵みを受けてはおりまするが、一方において
日本を
国際的に独立をさせるための
講和が、外国の事情にな
つて延びております。そのためばかりではないにいたしましても、進駐軍の費用として、昭和二十一年度から二十五年度までの約五箇年にわた
つて四千四百四十億円の終戰
処理費を、われわれは神の前に贖罪する誠実な心持をも
つてその負担に耐えて参
つたのであります。この終戰
処理費は、私が便宜上ドルに概算的に換算してみますと、五箇年を通計して約十九億七千万ドルに達するのであります。他方、
マツカーサー元帥が信愛をこめて注意を喚起された
アメリカからの援助費は、これも同じ期間を通算すると、終戰
処理費よりはやや少く、十五億八千六百万ドル、円に概算的に換算してみると四千八百億円、すなわち、一方終戰
処理費を負担しているとはいえ、われわれはこれだけの
アメリカからの贈りもの、慈悲に依存をしていることになるのであります。私は、ここで繰返し、元帥がわれわれに注意を呼び起された、生活の援助を受けておる国に
政治的の自由はないという、この書簡の一節を思い起さねばならないのであります。この援助は、
政府も承知されているように、一九五二年あるいは五三年をも
つて打切られることにな
つておる。
私が
総理にお尋ねしたいことは、こうした
情勢に対して、
政府はいかにして、いつごろ、元帥の言われるように
日本の自立経済を確立して独立
国家としての経済的な基礎を再建できるお見込みがあるかどうかという点でございます。私の見るところによりますと、
政府の政、策は、盲が暗やみに手探りで歩いているように、足元もお先もまつ暗である。
従つて国民は現在と将来への光明と希望を失
つておる。明るさがどこにありますか。希望はどこにありますか。
こういうことにな
つた一つの事情は、
政府の唯一の
政策である
ドツジ・ラインという名前によ
つて強行されて来た
デフレ政策の結果であることは明白でございますが、(
拍手)幸いにして、ただいまの
政府の御答弁により、今日までかたくなに
ドツジ・ラインを堅持され。固執して来られた
政府は、
ドツジ・ラインの強行は不可能とな
つた今日、事実の前に屈伏して、われわれの主張をいれて、
ドツジ・ラインは幅のあるものであ
つて固定的なものでない、屈伸性を持
つたものであるという御趣意の御答弁があ
つて、ようやく
ドツジ・ラインの誤りを是正されようとしておることを喜ぶものであります。
ドツジ・ラインのもとに、今日まで
労働者や農民あるいは
中小企業等を犠牲とし、
国民の一般に出血を強請し、自立経済を目ざす産業復興五箇年計画を
政府はやめてしまいました。計画経済の実行を捨てて、ひたすら銀行資本保護のための通貨の安定に
政策の重点を置いて来られた結果、外電によ
つても論ぜられておりますように、総司令部経済科学局企画統計部の経済統計第四十号の経済概観によ
つて明らかにされておりますように、今日は十六の大銀行が
金融資本の四分の三を聖断しておる。
中小企業や農民への
金融はほとんど無視されてこの十六の大銀行が重要な産業と都市の支配を行
つておるという
金融資本支配の実情が明白にされておるのであります。
今日の規模は、第二次
世界大戰当時の
日本の
金融資本の時代に比べて小規模ではございますが、私は、かように
ドツジ・ラインの強行を通じて
金融資本の支配が確立されて参りました
状態を見て現在国内国外の
情勢上、重大なる示唆をここに思い起さなければならぬものであります。
大規模な
金融資本が、軍閥や官僚、資本家をかり立てて
日本を第二次
世界大戰にぶち込んだように、小規模ではございますが、
デフレ政策を通じてここに確立された現在の
金融資本が、再び
日本を第三次
戰争へかり立てるおそれがないかということでございます。あるいは
政府の誤
つた政策のために明るさと希望を失い、独立心や愛国心を
政府の
政策のもとに失
つた資本家の一部の中には、一時のがれの苦しさから
戰争にあこがれる
危險思想が起るようなことはないかということをおそれるものでございます。
ジヨセフ・ドツジ氏が本年三月初めに
アメリカの
国会の下院歳出委員会に提出いたしました対日
政策に関する証言の文書にま
つて見ると、ドツジ氏は、現在の
日本においては、一人当り食糧は、配給とやみ食糧と合計した購入量は六五%に相当する二千百十カロリーに達するが、しかしドイツ、ヨーロツパ諸国に比較するとはるかに及ばないと、こう指摘しておるのであります。
日本経済の再建は、ヨーロツパ諸国はもとより、敗戰したドイツに比べてさえ今日はるかに低い
状態にあるのでありましてこういう
状態で、どうして自立経済、独立経済が確立できましようか。
私はかたく信じます。自立経済、独立経済を確立するための根本的な問題としては、現在のような十九世紀的な大資本、大産業の私利私欲本位の自由主義経済による現在の
日本経済再建の方式をやりかえなければならないと信じます。
国民の一人々々がすべて生産面に喜んで働き、現在と将来への明るい、はつきりとした見通しを持
つた社会主義的な計画経済に置きかえなければならないと信じます。(
拍手)そうでなければ、ほんとうの自立経済、独立経済の再建は不可能だと信ずるのでありますが、こうした根本的な建設は、わが社会党の政権による以外に実現はできないと信じますが、さしあた
つての問題といたしまして、外国の援助たる贈與と慈悲を打切
つて、自立経済を確立して独立
国家の基礎をどうにかつくりますについては、何とい
つても輸出貿易を再建する以外にその道はないのでありますが、しかるに自立経済を基礎づける輸出は、大体一年に十五億ドルが必要だと信ぜられております。
最近
政府は経済白書を発表されましたが、それによると、輸出貿易は自立経済を
條件づける十五億ドルにはるかに遠く、わずかに五億一千万ドルでございまして、戰前の二割八分九厘にすぎない。輸出貿易の市場は何とい
つても中国——たとい中国の支配者はいかようであろうとも、中国を含むインドその他アジア諸国との間に貿易関係が円滑に回復しない限り、
日本の独立を
條件づける自立経済の確立は不可能であります。しかるに、アジア貿易は戰前のわずか一割にすぎない。
総理大臣は
施政方針演説において
経済自立への規模に到達するには貿易はほど遠いものがあると率直にお認めのようでございまするが、
政府は、いつ、いかにしてこの現状を打破して、
マツカーサー元帥の言われる他人からの贈與と慈悲を受けないで真の
政治的自由の確保を
條件づける自立経済、独立経済を再建する
方針であるか、明瞭に具体的にお示しを願いたいのであります。
第二点は、
大蔵大臣に三つお尋ねをいたしたいのでありますが、さしあた
つての問題はいわゆる
ドツジ・ラインでございまするが、
政府は
野党の意見に聞かれてこれを是正されたようであることは、
日本の経済再建の当面の問題のために喜ぶべきことであります。
ドツジ・ラインの修正の方向を示す
参議院選挙最終戰に
政府が
国民に公約をされた五つ、六つの問題、これはすでに川崎君によ
つて政府との間にいろいろな
質疑応答がございましたから、私はそれに簡單に触れておきたいる
ドツジ・ラインの修正というようなことで、現在の
資本主義的な方式による経済再建途上の根本的な矛盾と欠陷をいかんともすることはできないと存じまするが、ともかくこの公約を実施されることによ
つてドツジ・ラインを修正され推進されることは明白でございます。ただ問題は、先ほどから
論議されておりまするように、
ドツジ・ラインの修正をいつ行うかということでございます。
大蔵大臣は、いつものように、きわめて楽観的な御意見を述べておられたのでありまするが、今日
国民のたれ一人として
大蔵大臣の楽観論を信用する者はなかろうと存じます。(
拍手)この
ドツジ・ラインは、すでに
金融操作、信用インフレによ
つて弾力的に調整するという問題の限界を失
つて、すでに
大蔵大臣の足元である
金融資本家や産業資本家からさえ、
ドツジ・ラインの修正が強く要望されておるのでありまして、こうしたもとに、絶望的な資本家の中には、一もうけしようなどと、やがて爆弾が自分を吹き飛ばすことを忘れて
戰争を待ちかまえておる憂うべき
状態も見られるのでありますが、特に下半期は、
ドツジ・ラインによるどん底に落込む
危險がある
状態に対しまして、
政府は、この
ドツジ・ライン修正公約の実施は、いわゆる来年でなく——こういう
政府が来年まで続かれたのでは、
政府より先に
日本の経済がつぶれるでございましよう。来年でなく下平期を前にして、この公約を即時ぜひとも実行しなければならない。
ただいま承りますれば、特に公約のうちの国債の償還の問題に関しましては、つとにこの問題に関しましては、本年はわずかに八億円しか償還の期限が来ていないのに、ただいま川崎君も述べられたように千二百八十五億円も償還しようというのであります。しかもこの償還は、できるだけ低利公債を償還する
方針をと
つておられますから、われわれが年来主張しおる元利を支拂う必要のないという軍事公債が、多分にこれによ
つて償還されておる。われわれの拂
つた重い税金から、外国から恵みを受けて来た
見返り資金から、こういうものを重要な財源として拂う必要のない、あるいは期限の来ない軍事公債その他の償還に充てられておることは、最近
アメリカにおいてもようやく注意を呼び起して参りまして、
政府がいかにがんば
つて来年までこの
政策を保持しようとしても、私は、こういうばかげたやり方は、とうてい秋以後は保持することができないと確信をいたします。(
拍手)
同時に、
官公吏の
給與の改訂、」この
官公吏の
給與の改訂に関しましては、われわれは、多数の人たちの不当に低過ぎる賃金の
給與を改訂して、生活を幾らかでも安定させる、それと同時に、民間産業における不当な賃金の切下げ、これに対する食いとめも行い、あわせてこれらの多数の人たちの消費面における
有効需要を高めて、ここを
ドツジ・ラインに対する大幅修正の突破口とせんと決意したのであります。私は、この
給與の問題は、財源があるのにこの臨時議会に提案しないということは、いわゆる
政治の不誠実を表白する以外の何ものでもないと思うのであります。(
拍手)これらに対する
大蔵大臣の御答弁を求めたいと存じます。
第二は
講和問題でありまするが、
講和問題に関しましては、私の
質問の第一点は、
憲法と
講和に
関連いたしまして
総理の
所信をただしたいと思うのでございます。私は、対日
講和の問題を中心として最近
国民の間に報道され
論議される
状態を見てその中には、新
憲法の精神、民主主義
国家の
基本がいつの間にか忘れられているのではないか、軍閥と官僚と資本家のための
金融資本の支配いたしました、か
つての帝国主義時代の旧
憲法とはき違え、錯覚を起しておるのではなかろうか、周辺のきびしい
国際情勢に戸惑いをして自分の立
つておる平和の足場を踏みはずそうとしておるのではなかろうかということをおそれるものでございます。新
憲法の精神、特に
憲法の前文に「
政府の行為によ
つて再び
戰争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、ここに主権が
国民に存することを宣言し、この
憲法を確定する。」、こう
憲法の精神が明白にされておる。第九條においていわゆる武装を放棄し、交戰権を認めないという厳粛な規定が行われておることが、私はだんだんと忘れられているのではないかということをおそれるものであります。この
憲法は、連合軍
最高司令官の
占領下において起草し、かつ決定されたものであ
つて、言葉をかえて言えば、米、英、ソ及び中国等の連合諸国の意思を反映してつくられた
憲法であり、さればこそ、われわれは平和を愛する
世界の
国民の公正と信義を信頼して、
日本国民が
国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な
憲法の
理想と目的を達成することを誓うことができたのであります。
憲法において
戰争と武力を放棄し、交戰権を否認したということは、われわれの知る
政治史の上から見て、これは平和を目ざす特有の新しい
国家の形でありまして、こうした
日本の特殊の
立場から申し上げますれば、
講和後独立国とな
つてから、たとえば一方の特定の国に軍事基地を提供するとか、軍隊の通過を許すとか、あるいは武器の製造その他
戰争はもとより
国際的紛争に介入するようなことは、一切は明らかに
憲法に違反することが明白であります。(
拍手)われわれは、どこまでも中立と平和の
立場を堅持して、特定の一国でない、
国際連合による集団の
安全保障のもとに、
日本の領土と民族を
世界の紛争と内乱と
戰争の痛ましい惨害から防衛しなければならない
立場に置かれている。
こうした
憲法の
基本と、最近の
国民の感情である、二度と
戰争に省き込まれたくない、平和を心から念願したい、
戰争はもういやだという
国民感情は、あたかも
憲法の精神と符節を合致するように相通ずるものがあるのであります。この
国民の感情によ
つて、冷たい、きびしい
国会の議事堂は、熱くなるほどゆさぶり続けられ、全国の
国民の声はこれであるということを、われわれははつきりと知らなければならないのである。(
拍手)
政府も
国会も
国民も、新
憲法の嚴粛な精神の前に粛然とえりを正し、現下の複雑な
国際情勢を正しく見きわめて
日本の進む道を誤
つてはならない。私は、かような意味において、
憲法と時局との関係に関し
総理の御所見を承りたいのであります。
第二点は、かような
基本的な観点の上に立
つて、
政府の
講和問題に対する
態度であります。どんな
講和であ
つても、
講和でさえあればよい、一日でも早くさえあればよいというわけのものではございません。あるいは長いものに巻かれろ、泣く子と地頭にはかなわないなどという卑屈なる
講和に対する
態度であ
つてはならないのであります。(
拍手)
吉田
総理は、張る五月八日に正式に意見を発表されて、
講和問題について
全面講和は最も望ましいことである、この方向に進めて行くために、お互いは努力すべきである、こう言われております。軍事基地の問題については、
マツカーサー元帥は、
日本の
憲法に反するようなことをわれわれにしいるような人でないことだけは申し上げ得る、こう断言されております。これは去る五月八日であります。吉田
総理が
全面講和のためにその後いかように努力されたかは知りませんが、ともかく最近まで
総理が
全面講和論者であ
つたことは、これによ
つて疑いないところでありますし、また
総理は、この施政
演説において、
全面講和論が
危險思想であるようなことを言われておりますが、そういたしますると、
総理は
総理みずからその
危險思想を宣伝されて来たということになるのであります。(
拍手)
全面講和が最も望ましいことであることは、吉田
総理もすでに認められているところであ
つて、
全面講和が望ましいということは、その反面におきまして、
全面講和の裏から見て、
單独講和は望ましくないということになるのであります。なぜ望ましくないのか。
單独講和ということになると、
講和後において軍事同盟による軍事基地の提供は必至となり、
日本を
国際紛争や内乱や
戰争にたたき込み、そうして
憲法の中立、平和、独立が蹂躪されて、
連合国による国連の
安全保障がむずかしくなるからであります。ことに、われわれの自立経済の確立は不可能になる。と申しますのは、
單独講和を結ぶことになると、当然
日本及び
日本と結ぶ
国家を敵対
国家とするところのソビエトと中国の中又友好相互援助條約にぶつかることはもとより、せつかく英国、インド等の連邦八箇国の
国際連合を通ずる
世界平和への努力に背反することになり、ひいては私が第一問に
質問をいたしましたように、アジアの経済の復興とアジアの貿易市場を基礎としての
日本の独立と平和を
條件づける自立経済の確立ができるのに、それができないことになるのでありまして、それができないことになると、
日本の
政治的自由は保障されないことになるのであり手から、われわれは、ここに重要な問題としてこの問題を取上げざるを得ないのであります。
しかるに吉田
総理は、
全面講和を広めて行くためにお互いは努力すべきである、こう
全面講和を強調してから二十四日過ぎ、
韓国問題が起
つた日から二十五日の前、すなわち六月一日に、外務省から「戰後
日本の移り変り」という
外交白書なるものを発表させられて、その結びによりますると、
わが国を独立対等の国として認めてくれる国との間に一日も早く
講和條約を結び、順次
相手国をふやして行くことがわれわれの進むべき道である、こう言
つておられる。これはいわゆる
單独講和論でございまして同じ
單独講和論であ
つても、多数
講和に比べてもつと極端な
單独講和論と見なければなりませんが、
総理は、平和的な
全面講和から
危險な
單独講和へ——馬から牛へ乗りかえるという言葉はございまするが、
総理大臣は、馬と牛から、
戰争のにおいのする戰車に乗りかえようとせられておる。(
拍手)しかも、その
方針を
国民に強制する
態度をとられたことは、私はまことに怪訝にたえないものであります。(
拍手)
元来、軍事基地の問題に関しましては、われわれの承知いたすところによれば、
アメリカの公式の
方針としては、本年一月十日の
アメリカの上院
外交委員会並びに一月十二日の全米新聞クラブにおけるアチソン国務長官のアジアに対する具体的な
方針と、国務省極東アジア部長アリソン氏が、できるだけ対日
講和を早期に行いたいと述べられた、それだけであります。アリソン長官の具体的な
方針は、ここに詳しく申し上げることを避けますが、問題の軍事基地に関しましては、琉球諸島を信託統治に置いて、ここに防衛点を置く、こう言われておるのであります。なるほど、その当時から最近朝鮮問題の起るまでの期間、
アメリカ防衛という軍事的な見地から
日本全土を軍事基地化するような問題、あるいはこれと対蹄的に
日本を放棄するような問題など、いろいろな意見や情報が報道されたことに対して、また
情勢の展開に対してわれわれはこれを決して軽く見のがすものではございません。しかしながら、
アメリカの公式に表明された見解としては、アチソン長官の具体的な
方針以外にはないのである。対日
講和の責任を帯びて来朝せられたといわれる
ダレス顧問でさえ、出発に先だ
つて、来朝の目的を—対日平和條約を現在
締結することは時を得ているかどうか、もし時を得ているとすれば、どのような平和條約を
締結すべきかという、ただこれだけの二つの問題を検討するために視察するという趣意を明らかにされ、続いて来朝された当時、私は対日戰に直接参加した国が全部出席する
会議をも
つて審議すべきであるという考えを持
つている、これはつまり
全面講和の形をとろうということを明らかにされたのであります。ことに、われわれが見のがしてはならないのは、イギリスを中心とするインドその他英国連邦八箇国の
情勢についてであります。すなわち、英国連邦の対日
講和運営委員会の決定に現われたところによ
つてみても、英連邦においては、いまだか
つて單独講和を可なりとする意見なり主張は絶対になか
つたのであります。(
拍手)そればかりでなく、対日
講和に入る前提として、
国際連合におけるソビエトとの紛争を
解決するために中共の国連加入の承認を強く主張しておるのでありましてこうした英国連邦の
国際連合を通ずる
世界平和への努力は、
韓国問題が起
つて以来はさらに熱心に執拗に続けられており、われわれのひそかに意を強くするところでございます。
従つて、ここに時を得て対
日講和條約を
締結することとな
つたといたしましても、この
講和会議の形式が必ずしも
單独講和を必至ならしめ、
講和後わが領土内に特定の一国の軍事基地を設けるための軍事同盟を不可避とする
状態にはなか
つたと見るべきでございます。
エデンの花園は、
平和国家たらんとする
日本の花園である。その花園に、禁断の実を食べて
戰争を引入れんとしておるものは、ほかならぬ吉田
総理それ自身ではなかろうか。(
拍手、発言する者多し)もし
單独講和を必至とする何らかの具体的な事実があり、
政府の
方針を豹変しなければならない事実があるとすれば、
総理は、なぜ
国会を召集して、十分に
国会において審議した後に決定をしないのであるか。(
拍手)これが私の
質問の第二点であります。かりにそうした必至の
情勢があ
つたとしても、特定の一国に軍事基地を提供し、
憲法と中立を蹂躙した上必然的に
戰争に省き込まれるおそれの多い
單独講和をわれから進んで主張するがごときは、われわれの断じてとらざるところでございます。(
拍手)
第三点は、
ダレス国務省顧問も、
日本の各方面の意見が聞きたい、
日本の意見は考慮に入れられる、こうも言われておるのであります。西ドイツにおきましては、
国民の東西ドイツの統一の強い要望があ
つて、この統一ができない場合に
講和を取上げられたくないという
国民の意思が取上げられて、今日いまだ現実の問題とはな
つておらぬようでありまするが、
日本の
国民といたしましても、
戰争はいやだから
憲法と中立と平和を守りたいという率直な
国民の念願を、はつきりと
国際的に言うべきである。私は言わすべきであると信じます。(
拍手)
政府はなぜ
国民にそれを言わせようとしないで——
国民に言わせようとしないばかりでなく、
政府が卒然として、か
つてに
全面講和論から
單独講和にみずから国論を分裂さぜて、
單独講和のわくの中に、
国民の真実の声を代表する唯一の
野党をも引込もうとするいわゆる
超党派外交の提唱に関しまして、われわれはこれを言語道断なりと考えるものであります。(
拍手)
超党派外交の問題に関しましては、吉田
総理は軽く逃げておられるようでございますが、五月十日の外務省における記者団との会見で、
総理はこう言
つておる。民主党の苫米地君が
超党派外交などということを述べておるが、それは
アメリカのまねであ
つて、
外交がないのに
超党派外交とはおかしい、こう言
つて苫米地氏の
超党派外交論を笑殺して、同じように国論を積極的に統一するようなことはしない、そういうことはフアツシヨ的なことだと一蹴されておる。その吉田
総理が、
ダレス顧問が来朝されたとなると、
政府の
單独講和に対するわくをはめ、いわゆる
総理みずからフアツシヨ的な統一を行おうとされ、
ダレス氏に対する
政府の地位をよくしようとでも考えられたのか、あるいは
国会対策の必要上、重ねて民主党の切りくずしをねらわれたものか、いずれにせよ、ついこの間までは
超党派外交を笑殺し一蹴されて来た吉田
総理が、
超党派外交を企てて民主党の芦田氏と会見をしたり、それはともかく、社会党の抱き込みを策し、それができないとわかると、今度は、たなごころを返すように社会党に悪態をついておる。そういう不遇なことであるから、世間は吉田
総理を指して入道平清盛だとい
つておるのであります。(
拍手)
日本の安危の運命を決する
講和問題を、民主党の切りくずし策や、
内閣の壽命の延命策、あるいはできないとなると毒づくなど、きわめて不謹愼であるというほかはありません。(
拍手)
平和国家千年の大計の礎石を築いて脈脈として、とこしえに連なるわが民族の運命を背負
つて立たんとする
内閣の
総理大臣として身を挺してこの国難におもむこうとする気魄と信念と努力が吉田
総理のどこにあるのか。
政府は
参議院議員の
選挙にあた
つて敗北を喫したために、
総理の
政策は、すでにその信念において、気魄において、努力において、この国難に耐えるものがないとすれば、
政府は適当の機会において
国会の解散を断行して
国民の民意を問うべきであると思うがいかん。
第三に、最後に、
国際上の問題である、現実の問題である国内行政並びに
国際上の自主性回復に関する問題と
韓国の問題について簡單にお尋ねをいたします。
第一点の対日
講和の問題は、隣国に起
つた韓国の南と北の民族の不幸な問題でありまして、こういうことがあ
つて、対日
講和が、引続き外国の事情によ
つていかようになるにいたしましても、われわれと同じ敗戰の運命の星のもとに置かれておる西ドイツの今日の
状態をわれわれは考え合せなければならないのであります。
ドイツの管理方式は軍政でなく、高等弁務官制度の民政であ
つて、一九四九年四月の占領條例によ
つて、国内の行政に関しては限定的な列挙主義によ
つて、そのほかの広汎な行政はドイツ
政府と
国会の自由にまかせられておる。列挙された、限定された権限を行使するために、
連合国側は高等弁務官
会議という民政の建前がとられております。こうした民政のもとで列挙主義的に限定されたもののうちには、外国貿易、外国為替管理とか
外交問題等は、ドイツ
政府あるいは
国会にと
つて重要な問題であるが、自由は許されておりませんでした。しかし、本年一月三十日のペテルスブルグ協定以後にな
つてからも、ドイツ、西ドイツは通商及び
金融協定の
締結権と領事の派遣、欧州
協力機構への参加、欧州議会への参加等が許され、去る六月には、
国際協定の
締結に関する、一定
條件のもとではあるが広汎な
国際的な自由、すなわち自主
外交が許容されたのであります。
わが
日本におきましては、
マツカーサー元帥の好意によ
つて、終戰後今日に至るまで、わが民主主義の発展につれて次第に自由は許されて参
つておりますが、しかしながら外国の事情によ
つて講話が延期されおる今日、こうした
條件のもとにおいて自立経済が要求されておる今日、
日本民族の自主と自立、
国家の独立と平和のためには、国内の行政並びに
国際上の
外交、貿易、船舶、航行、移民、漁業、通商等の自由が許されなければわれわれは自立できないと思うのであります。今日第八
臨時国会が召集された現在においてさえ、この
国会において
国会の自主権、
国会の審議権が
論議されるような
状態にあることは、はなはだ遺憾でございます。われわれの領土の上空を飛ぶ旅客機、こういう平和的な、経済的な重要なものが今日まだ
日本の商社に許されないということで、自主経済のために営々として努力をしておる
国民の勇気をくだくおそれはないか。私は、国内の行政上、
国際上の自主性の回復に関していかように考えられるかということについて
総理大臣に所見を承りたいのであります。(
拍手)
第二点は
韓国問題でありますが、
韓国の問題に関しましては、
日本の帝国主義の隷属からせつかく解放された
韓国の民族が、なぜ南と北に運命の三十八度線を画して分割されなければならぬか、ドイツにおいても、西と束に、一つ血につながる民族が何ゆえに分割されなければならないのか、こうしたことを考えるについても、われわれは
日本の民族が一つとな
つて独立と平和、自主と自立のために建設に努力することのできることを、その幸福をわれわれの子孫のために感謝するとともに、不当な北鮮の武力的統一に対する事態は一日も早く
解決して、進んで平和的な民族統一が行われて、これが第三次
世界大戰への口火とな
つて日本の領土と民族が重ねてさらに悲惨な戰火に襲われることのないように、われわれは心から念願してやまないのであります。
この不幸な
韓国の問題を契機として満州事変より太平洋
戰争に至る時代の再生、それを再び呼び起すかのような、新
憲法を忘れた、血を好む好戰的な言辞や、むきだしな軍国主翼的な動向や、あるいはフアツシヨ的な言動は、近来いよいよますます目にあまるものができて参りましたことに対し、われわれは、ちようど東條軍閥のもとに起
つた情勢を現在ほうふつさせるような仕相の一部を見まして慨嘆にたえないものがございます。それと同時に、他方におきましては、良識ある
国民の一般から憂慮されておりますように、
日本共産党は、
韓国の問題を利用して、
労働階級を反米と反占領軍の闘争にかり立て、ひいては
連合国間の対立抗争を激化させ、国内に騒擾を巻き起そうとする意図のもとに非合法的な運動を行わんとするようなことがあるにおいては、これらをあわせて中立と平和と
憲法を守るために断固抑圧しなければならないことは言うまでもないところであります。(
拍手)
しかしながら、こうした問題に対する
政府の対策としては、こういうことの起らないようにすることが根本であるのであります。起
つたといたしましても、できるだけ
国民の良識による正しい批判と合理的な手段を通じて効果を上げることが望ましいのであります。しかしながら、それにはわれわれはまず
政府みずからあやまちを正さなければならぬものが多々あると信ずるのであります。聞くところによれば、岡崎官房長官は、六月三十日の記者会見において、次のように語
つたということである。
〔
議長退席、副
議長着席〕
国連の警察権行使という意味で武力を行使する場合には、
日本人義勇兵はこれに
協力してもいいし、また当然
協力すべきである、軍事基地も同じ意味から、
日本の基地を提供することは少しもさしつかえないと思う——これは外電を通じて
世界にも伝えられておるのでありますが、私は、こういうことを官房長官が発言するということま、さたの限りであ
つて、東條
内閣の書記官長であるならばそれでよかろう。しかし、
戰争を放棄することによ
つて中立と平和を全
世界に約束した新
憲法の上に立つ民主主義
国家の
政府の官房長官としては、まことに不適格でございます。(
拍手)
もつとも、これはひとり岡崎官房長官だけの問題ではないのである。
韓国問題の起
つた当初、
韓国問題に対する
政府の軽々しい
態度を、わが党が声明によ
つて注意を促しました結果、吉田
総理は、この壇上において、国連に対しては精神的な支持である、こう考え方を訂正されたのでございます。
総理は、今回の
国会開会を前にいたしまして、一方では、中立はから念仏だと、とんでもない間違
つたことを言い、他方では、ふと思いついたように、平和運動などと、しかつめらしく、この際
わが国の
態度としては、極東平和のため進んで力をいたすべきであると、こう言われておる。私は
総理のこの言葉を聞き、
総理の
單独講和に対する見解と思い合せ、第二次
世界大戰の当時、東條軍閥が
国民に歌わせた、東洋平和のためならば何で命が惜しかろう、こういう歌詞の進軍の歌が思い起されるのであります。かように、取締る者は
国民から取締られなければならない。弾圧するものがまず
国民から弾圧ざれなければならぬのである。今回の
警察予備隊の問題にしても、その法制化、
予算化とともに軍隊化すること、特高化することを憂慮し、特に
内閣の直属のもとに置くという機構われわれが特に問題として検討いたしておりまするのは、そもそも
政府のかような時局に対する
態度と
方針に信頼しがたいものがあるからでございます。
韓国問題については、われわれは
国際連合の旗のもとに、武力による侵略を不拡大の
方針をも
つて制圧されんとしつつある国連の
方針を精神的に支持するものである。しかしながら、
日本は現在連合軍の
占領下にあ
つて、
国家の意思を発表する地位にない。
政府及び
国民は、降伏文書に基く占領軍の命令に服する以外に他の
態度及び
措置はあり得ないのであります。かかる服従の義務以上に、
総理みずから東洋平和のためならばと進軍ラツパを吹奏して、好んで
国際紛争に介入せんとする
態度は、わが
憲法の精神と、
日本の置かれた
情勢から見て不謹愼と断ぜざるを得ないのであります。
総理は、われわれの中立平和、
全面講和論に対して、から念仏だなどと言
つておるが、馬や牛から戰車に乗りかえて、極東平和のためと進軍ラツパを吹く、さような平和論こそ、私は鬼の念仏だと見なければならぬと存じます、
政府のなすべきことは、連合軍の命令に服して、黙々として各種の事業に従事し、
日本のため苦難と
危險な仕事に従事している
労働者諸君の、
労働者としての正当な利益と権利とを鼓舞し擁護する、ここが
政府の正
協力をなすべき点と思いますが、これに関する
総理の所見をただし、以上私の
日本の民族、
日本の独立に関する
質疑を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君登壇〕