○北川委員 ただいま
議題と相なりました限時法の
取扱いに関する小
委員会の
審議の経過並びに結果を御報告いたします。
今
国会の初めに法務委員の中で、統制のわくが次々と廃止せられておるが、統制廃止後、すなわち取引が自由と
なつた後においてもなお統制中の行為を処罰することは穏当でないから、これを立法手段によ
つて解決したいという議論が持ち上つたのであります。一方弁護士会の一部から、限時法の規定はずさんをきわめているから、限時法の
取扱いに関する立法を望むという
陳情がありました。ここで初めて法務
委員会において限時法に関する小
委員会を設けて、限時法を正式の問題として取上げるに至りました。七月十八日限時法の
取扱いに関する小
委員会が設けられ、以後四回にわた
つて審議いたしました。
まず村
専門員に試案をつくらせ、これに対し物価庁、法務府、
検察庁、
最高裁判所、弁護士連合会の意向を徴したのであります。物価庁、法務府、
検察庁の各事務局はいずれもこの法案の制定に反対でありました。
最高裁判所はこの立法にタツチせず、弁護士連合会は全面的に賛成したのであります。第三回目の小
委員会でつくられた成案は次の通りであります。
限時法の取扱に関する法律要綱案
第一条 効力期間が予め予定さるベき経済
関係の法令がその効力を失つた後においても、その期間中の違反行為に対し、なお罰則を適用する法律を制定せんとする場合においては、その旨をその法令中に規定しなければならない。
第二条 左に掲げる勅令の規定が最終的に効力を失つた場合においては、その効力期間中の違反行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による旨の規定にかかわらず、
刑事訴訟法第三百三十七条第二号に定める刑の廃止があつたものとみなす。
一 物価統制令(
昭和二十一年勅令第百十八号)
二 地代家賃統制令(
昭和二十一
年勅令第四百四十二号)
前項の勅令に基く省令又は告示の規定が特定の物資土地又は建物について最終的に効力を失つた場合においては、その効力期間中の当該物資、土地又は建物に関する違反行為に対する罰則の適用については前項と同様とする。
第三条 検察官は、第二条の規定により
刑事訴訟法三百三十七条第二号に該当するものとみなされる勅令の
事件のみについての刑の執行が終らない場合においては、その刑の執行を免除する指揮をしなければならない。
第四条 前各条による外、既に有罪の言渡が確定したことによ
つて生じた既成の効果は、この法律の施行によ
つて変更を受けることがない。
附 則
この法律は、
昭和二十五年九月一日からこれを施行する。
右の案に対し衆議院法制局長の批評がありました。批評の一は、物価統制令と家賃地代統制の二つの勅令のみを問題とし、他の統制違反に及ばないのは、法の前に平等であるとの原則に反することはないか。批評の二は、確定した刑の効力を失わしめるものは恩赦であるが、
憲法によれば恩赦は内閣の権限であ
つて、恩赦を内容とした法律を
国会がつくり得るかどうかは
憲法上一応の疑いがあるというのでありました。
次に小
委員会における賛否の
意見は次の通りであります。まず賛成論の
要旨を申しますと、一、罪刑法定主義の原則は徹底されなければならない。二、犯罪後の法令により刑の廃止ありと認めらるる以上、いかなる罪種であろうと、
従つて凶悪犯でも統制違反でも免訴の判決をしなければならぬ。勅令と告示とが合して罪刑の明確な条文となるとき、その特例が残
つているが、その告示の廃止がある場合は、当該物資につき刑の廃止ありと認むべきである。三、限時法の観念は欧州大陸法のもので、米英法にはその規定がなく、しかしてわが国の限時法に関する規定は乱雑をきわめている。すなわちその法律が限時法であることを書いてないものがあり、書いてあるものもあり、書いてあ
つても用語が一定していない。このような法規のもとにおいて刑罰を受けては国民が困る。四、立法的手段により大幅に自由経済に復帰することができるというのであります。
次に反対論の
要旨は次の通りであります。一、この法案によ
つて訴訟を延ばした大口悪質のやみ会社が得をし、刑の執行を終つた正直者がばかを見るとの
意見がある。これは国民の遵法精神に悪い影響を與える。二、繋属中の
最高裁判所の判決が近いと思うから、これに一任すればよいではないか。これが国民の常識に合致すると思う。法律解釈の問題を立法的に解決することは穏当でない。三、行政的措置によりこの問題を処理した方がよくはないか。たとえば明年四月ころ物価統制令の廃止が予想されるから、それを待つた方がよくはないか。また告示の廃止があつた後は恩赦によ
つて違反者を救済してはどうか。四、日本経済界の今後は、ひたすら自由経済に復帰するとだけは言われない。朝鮮動乱によ
つて物価統制の徴候があるではないかという
意見でありました。
結局七月二十七日の小
委員会で次の通りに
決定いたしたのであります。この法案は閉会中の継続
審議とし、次の
国会で
審議する。その
理由は次の通りであります。一、第八
国会は
地方税
関係に限
つている。二、朝鮮動乱により自由経済か統制経済か見通しがつかない。三、限時法の観念、告示の効力等について学界の通説はなく、また
裁判権と立法権との
関係をも
考慮する必要がある。四、この法案については広く材料を整え、公聴会に学識経験者を呼んでその
意見を集めるべきである、慎重に構想を練らなくてはならないというのであります。かくしまして最後に限時法の
取扱いに関する法案は、第八
国会にはとうてい間に合わないので、これを閉会中の継続
審議といたしまして、次の
国会に提出することにいたしたのであります。
以上限時法に関する小
委員長の報告を申し上げます。