○田中
説明員 それでは今御質問の点につきましてお答え申し上げます。
お答え申し上げます前に、まずこの病気の本質と申しますか、そういうふうなものにつきまして、何がしか申し上げておきたいと思います。先ほどから
お話がございますように、昨年の八月上旬に長崎県に発生いたしまして、それから引続きまして熊本、宮崎、鹿児島といつたように九州を一なめにいたしまして、それから山陽道、四国に入りまして、それから近畿——山陰道は多少入りましたけれ
ども、最後が十月の下旬ごろ福井県の一部と岐阜県の一部に発生いたしました。もう少し広がるのじやないかということも考えておりましたが、幸いにいたしましてそれ以上広がりませんで、去年は大体年末に終
つております。私
どもはその発生がありましてから、また明年も明後年もといつたようなことであ
つては困るというので発生の経験を詳細に
調査いたしまして、その結果大体明らかにな
つておりますことは、流行の波が大きな道路、鉄道というようなものに沿いまして逐次ずつと広が
つている、こういうことがまず一つわか
つております。次は、たとえば神奈川県、あるいは静岡県だとか、こういうような一つの県を単位にして考えてみますと、流行の期間は大体一つの県においては一箇月ないし二箇月、前後の散発を合せますと、大体四箇月というような結果かわか
つております。
それから去年は乳牛が比較的かかりにくいけれ
ども、かかつたあとは非常に重い。それから哺乳犢が非常にかかりにくい。それから乳を飲みながら、えさを並べておるようなものはかかりやすい、こういうようなことがわか
つております。そういつた疫学的な
調査が一応でき上
つております。さらにその病気の本質は何だろうかということを、当時家畜衞生試験所を中心にいたしまして、大学あるいは伝染病研究所、予防衞生研究所、あらゆる機関の御援助を得まして調べました結果は、幸いにしまして本体をなす病毒は分離いたしております。同時にこれに引続きまして、いろいろ悪さをいたします細菌も、それぞれ分離いたしております。分離して次から次へ牛を流感にかける毒はとつつかまえております。とつつかまえてはおりますけれ
ども、不幸にしてこの毒は卵に培養しても卵につかない。あるいはねずみに注射いたしましても、ねずみからねずみへかかることはかかりますけれ
ども、入のインフルエンザ菌だとかあるいは豚のインフルエンザ病毒というようなものと違いまして、マウスの肺の中に増殖いたします。
従つてワクチンの製造に今も
つて成功してはおらぬのであります。このワクチンの製造に成功いたしますれば、防疫
対策は大してむずかしい問題ではないと思
つておりましたが、これは今も申し上げますような
事情でなかなか困難である、こういうふうに考えられております。それからインフルエンザ、これは流行性感冒というような科類に属しますが、家畜以外の要するに人の病気、それから家畜の中では豚のインフルエンザ、この二つが現在世界公認の病毒にな
つておりますが、牛のものにつきましては、今も
つて世界の学界に
報告されておらぬのであります。たまたま去年日本に流行をいたしましたがために、今のところはその毒をとつつかまえることに成功した、こういうところまでしか来ておらぬのであります。それで去年流行のありましたものは、たしか四国と淡路だつたと思いますが、牛の流感がはやりました直後に、人のインフルエンザがかなり流行いたしました。そこで今まで牛のインフルエンザというようなものが
はつきりいたしておりません
関係から、人のインフルエンザとの
関係があるのではないかということで、一時大分問題になりました。その移動等について
調査いたしましたけれ
ども、幸いに人のインフルエンザ病毒と牛のインフルエンザ病毒とは違うものであるということが明らかになりました。そういうようないろいろの疫学的な
調査、あるいは研究というようなものを中心にいたしまして、今年も実は
対策を立てたのであります。かいつまんで申しますと、これを防ぐには現在のところ予防
方法がない。予防液だとか、血清だとかいうものはない。
従つて次から次へ移るのであるから、その移動というものを制限しなければいけないということが一つ。それから幸いにこの病気は、あるインフルエンザ病毒というものがずつと通つたばかりの時分は非常に治りやすい、その時期に治療しますと、軽く治ります。その時期を経過しますと、身体の中に持
つておりますいろいろの病菌が悪さをいたしまして、悪くなるので、結局早く見つけ、早く治療するということしかわからない。それで私
どもは今年から
機会あるごとに地方庁、あるいは団体を通じまして、今年出たらこういう
対策をとること、また申し出てもらいたいということを言
つております。しかしただそういうことを申し入れただけではとても出ないだろうということで、
農家にわかりやすいように、今お手元に差上げたようなリーフレツトを七月ごろ配布しております。先ほど
局長も申しましたように、今研の流行は去年以上でありまして、昨年は約十六万頭で、そのうち損耗いたしましたものが七百七十八頭であります。大多数のものは非常にその見かけが重く来るものですから、
農家の連中がびつくりいたしまして、屠場に出したという形にな
つておりまして、ほんとうにこの病気のために自然に死んだというのは百頭足らずであります。こういうことにな
つております。
今年は少し様子が違いまして、現在のところ広島県、岡山県、それから兵庫県、京都府等で、流感が終りました後に、非常に悪性な予後症と申しますか、そういうようなものを残すものがございまして、かなり死ぬものができて参りました。従来の例で申しますと、朝鮮の例、日本の例、いずれにいたしましても、大体〇・五%以下の死亡に止
つておるのでありますが、今年はどうもその
程度で治まりそうもないという
見通しにな
つております。現在のところ埼玉県とか、東京都等で
相当死んでおりますが、その死亡と関西のものとちよつと様子が違うように見受けておりますが、まだその点は
はつきりいたしておりません。関西で出ておりますものはどういうものかと申しますと、流感にかかりまして、治
つて一、二週間ほど後に突然全然物を食べなくなる。せつかく水を飲みましても、飲んだとたんに鼻からぐつと出てしまう、あるいは水を飲み込んだものが、しばらくして頭を下げますと、胃の中の物と一緒にだらだら出てしまう、あるいは眼の玉がぐつと飛び出てしま
つて、化けもののような形にな
つてしまうというようなものがございまして、去年とちよつと様子が違うものがございます。
それで一般に流感にかかりますと、御
承知の
通り熱が出て参ります。熱が出ますと同時に食欲が全然なくなる。それで起立を好まなくなります。それで体に当
つてみますと、ところどころ暖かいところと冷たいところといろいろある。こういうふうな形にな
つております。そして普通の経過でありますれば二日ないし三日ですうつとなお
つております。それで先ほど御指摘になりましたように、乳牛がかかると乳量がはたつととま
つてしまう。はなはだしいのは一斗ぐらい出てお
つたのが二合ぐらいにな
つてしまう。こういうふうなものもあります。それでほかの病気と違いまして、この病気にかかりますというと、そのあとで非常に栄養の回復が遅いようであります。同時に乳の泌乳能力もその回復が非常に遅いようであります。この点は大分警戒を要する問題ではないかと思います。そんなふうな形にな
つておりまして、私
どもは、今申し上げましたようなかわつた形の流感に対しまして、何とも実は申訳ないのですが、手の打ちようがなくて、私
どももそうでありますし、県の方もそうでありますし、また団体の連中も、開業獣医さんもそれぞれ思いのままの治療をしておる、こういうふうな現状でありますので、これではまことに遺憾でありますので、先ほ
ども局長から
お話がありましたように、その方面の学者に御依頼いたしまして、暫定的でもいいから、とにかくや
つてもらおうという形で進んでおります。