○武内
公述人 本日
改正鉱業法案の
公聽会が開催せられるにあたりまして、私ども多年
鉱業に従事し、経営をや
つてお
つた者の
立場からいたしましてこの恒久法の制定の機会において、ぜひ御考慮をお願いしたい点がありますので、次に率直に述べさしていただきまして、御
審議の資料に資していただきたいと信ずるものであります。
第一に本案の第十四條の二項に、
石炭鉱区の最低面積があげられておりますが、これは三十ヘクタール、つまり十万坪近い数字のようでありますが、これは五万坪としていただきたい。理由は長年五万坪で実施されて来ましたが、何らこれに対して不利、不便はなか
つたばかりではありません、鉱利保護並びに立地條件上はかえ
つて五万坪の方が適当と思われますので、従来
通りの五万坪を切望申し
上ぐる次第であります。
第二に第十八條の
試掘権の
存続並びに
延長がそれぞれ二箇年と
なつておりますが、これは四箇年としてほしいことを切望いたします。理由といたしましては、九州におきましての
炭鉱の
開発は古くからすでに露頭に近い残部は
採掘し盡されております。今後の
開発にまつべきものはかなり深部あるいは洪積層をかぶり、あるいは火山岩でおおわれておるなどのために、地表からの探査はよほど困難が多いのでありまして、あるいは多数の試錐を実施しなければ、石灰の賦存状態は確認することはできないのであります。ここに一つの例をあげてみますれば、御承知の方もあると思いますが、杵島
炭鉱の所有にかかる多良
鉱区は、多良岳のふもと一帶に千数百万坪の地域を占めておりまして優良炭の賦存が予想されておりますが、全面が多良岳の熔岩をも
つておおわれておりますために、探査のためすでに十八年以来試錘が継続されておりますが、これが完成にはまだ数年を要するものと予想されています。このような例は他にもたくさんありまして資金、資材、技術陣容などの
関係もありまして、厖大な
鉱区の
開発は二年や四年では不可能と思われます。もちろん
鉱業権の死蔵または投機を防止する意味で、
試掘権の
存続期間を短縮される
趣旨はよくわかりますが、実際問題として探査に長年月を要する善良の
企業家に対しましては、優先的に累次の
延長を認められることとし、少くとも
一般的には
存続、
延長ともにおのおの四年くらいにされる方が最も妥当であり、またかくしてほしいと信ずるものであります。
第三点といたしまして、第十九條
採掘権の
存続期間三十年は、
現行法通り無
期限とされたい。理由としまして、
現行すでに数十年間継続されておる
鉱山も少くないのでありますが、または今後もこれとひとしいものはたくさんあると予想される
鉱山があるのであります。これを三十年として、いたずらにめんどうな
手続をふまねばならないのみならず、
鉱区の資産価値に影響するところも大きいと思われます。また今後は価値のない
鉱区に多額の
鉱区税を負担して保有するようなことはなく、
鉱業権者みずからが放棄することと思われますので、三十年に制限されることは一面無意味と思われるので、
現行法通り無
期限にしていただきたいことを切望いたします。
第四点に、第六十二條第一項の事業着手までの
期間六箇月を、
現行法通りに一年とされたいことを切望します。理由は着手にあたりまして、農地改革以来、
鉱業用地の
使用に移るまでの経過に非常に困難が伏在いたしまして、土地の買收、借入れ等には相当な日時を要します。また交通不便なところに資材を持込み、設備をするまでにも相当な日時を要しますため、着手
期限の六箇月はあまりに短か過ぎます。ぜひ
現行法通りに一箇年間にしていただきたいことを切望するものであります。
第五点といたしまして、六十二條第三項の、事業休止
手続は、
通産局長の認可でなく、
現行法通りに届出にしてほしいのであります。届出を切望いたします。その理由といたしまして、事業の休止は、特にあらゆる経済面、あらゆる関連する
鉱業の経営の面からいたしまして、経済を伴
つておることでありまして、これの緩急は重大なる経済的に收拾でき得ざる
事態を惹起することも予想せられるのであります。
従つて現行法通りに、届出にぜひしていただきたいということを切望申し上げる次第であります。
第六点としまして、第三章の租鉱権の問題でありますが、各方面から伺うところによりますれば、租鉱権を忌避しておる向きもあるように聞きますが、私は本
制度は現在最も適切なる
制度と思
つております。以前の斤先掘り
制度のように、旧制の方法を改めて、租鉱権により
権利も義務も確認されますことは非常な進歩であることと信じます。また大規模な
企業には適しない
地下資源を租鉱権によ
つて回收することは、鉱利保護並びに国家経済上必要なことで、一部論者の言うような、租鉱権が否定されますと、現在の租鉱権に該当している多数の
炭鉱並びにこの
従業員の運命ということにつきましては、重大なる社会問題を惹起すると信じます。私は原案に絶対の賛意を表するものであります。
第七点といたしまして、第五章の土地の
使用、
收用の問題でありますが、従来
鉱山が
鉱業予定地として、あるいはまた
鉱害問題の解決策として、被害者の懇請によ
つて買收していました土地は、さきの農地改革で安く買いとられてしま
つたのであります。その後
鉱業用地の借入れや、買收には不当の対価を要求され、容易に解決されない実情にありますので、真に
鉱業の発展のために必要な土地は、公平な補償金によ
つて迅速に
使用または
收用のでき得るように
規定されたいのであります。また土地の
使用目的と
收用目的とには区分を設けられる必要はないと思いますので、第百
五條の土地の
收用目的を、第百四條の
土地使用目的の
範囲まで拡張されるように要望いたします。なお
鉱業用地の
使用收用は急速に処理する必要がありますので、農地
調整法の適用の排除されることを切望するものであります。また事業の認定を
通産局長の所管といたしますことは当然でありますが、なおこれが裁決も従来
通り同局長の権限とされるように切望するものであります。
第八といたしまして、第六章の
鉱害賠償の問題でありますが、第百十一條第二項で
損害賠償は金銭をも
つてすることが
原則と
なつております。
現行法も同様でありますが、今
関係者の一部から強く
原状回復主義が叫ばれておりますが、
原状回復の全
責任を
鉱業権者に負わされることは、法理的に見ましても、不合理であり、実際問題としても不可能であります。もともと
鉱害は無過失
損害であるから、賠償の
責任はないとされていたものが、
昭和十四年の
鉱業法改正によりまして、初めて
賠償責任を認められたわけで、今民法の不法行為による
損害賠償の
原則を越えてまで
鉱業権者に
責任を負わされることは絶対に承服はできがたいのであります。実際問題といたしましても、陷落不毛と
なつた田地の復旧費、これは所によ
つて違いますが、反当り二十万円または三十万円を要する所もたくさんありまするが、対価を越えたかかる厖大な復旧費を
鉱業権者に負わされる理由もなく、またこれを負担する能力もありません。しいてこれを負担せよということは、立地條件から見まして九州のような
炭鉱は経営不能に陷り、やめなければならないというようなことも一面考えられるのでありまして、もとより国土回復のため、
原状の回復には
業者といたしましても決して反対するわけではありませんが、
鉱業権者の負担限度は対価までとし、それ以上の金は国なり受益者なりに負担さすべきものと信じます。
従つてこの困難な問題を本
鉱業法一本で解決せらるるように期待することはむりではないかと思うものであります。これは至急に本法とは別に、国の助成などによる
鉱害復旧法の制定、かようなものを熱望いたすのであります。
なお本法中
原状回復の字句を
原状の効用回復に改めていただきたい。
鉱害は必ずしも
原状に回復する必要はないと信じます。
原状の効用を回復すれば事足りるものでありまして、現に特別
鉱害復旧法には明らかに
原状の効用回復としてあるのであります。被害者のうちには必要もない山や高地まで復旧させようというような非常識の人もあられるやに伺います。ために解釈に疑義のないように、
原状の効用回復と改められることを切望するものであります。
第九といたしまして、第百十三條にさらに将来
鉱害発生のおそれある土地に重要な建物その他の工作物を建造する場合は、あらかじめ
鉱業権者と協議して将来の紛争を予防する旨の一條を加えていただきたいことを望むものであります。その理由といたしまして、
鉱区内には、はなはだしきは
採掘中、あるいは
採掘直後まだ地表の安定しないところに施設物を建造された例はたくさんあります。これがために
採掘面積を縮減されたり、あるいは不測の賠償金を支出させられるなど、
鉱山にと
つてはなはだ迷惑であるのみならず、建造者にと
つても決して望ましいことではないのでありますから、後日の紛争をできるだけ事前に防止するよう、本
條項が必要だと思います。
十といたしましては、打切補償の問題は、第百十四條第二項で打切補償は登録することになりましたが、まことにけつこうなことであります。ついては
改正法施行前に完全なる打切補償をしたものも、当事者間に
異議のない当然打切補償として解決したものも、施行と同時に登録する
條項を設けていただきたいことを切望いたします。なお打切補償
制度の問題でありますが、これに強力に反対しておる向きもありますが、
鉱業権者の
立場から申しますと絶対に必要なことで、原案よりさらに一層明確にされるよう要望いたします。すなわち金銭賠償を
原則とされる以上は、打切補償
制度が確立されることは理の当然でありまして、絶対に必要であります。従来打切補償
制度がはつきりしなか
つたために、せつかく十分の対価を支拂
つて打切補償したものが、未復旧のまま第三者に転売され、その第三者から再び賠償を要求されている実情にあるものが少くないのであります。かかることは
鉱山側にとりまして耐え得られないところでありますから、相当の対価を支拂
つて打切補償を要求することは当然のことでありまして、被害者から見ましても、その打切補償金から生ずる果実が耕作收入に見合うことになれば、別に経済的には損失はないわけでありますから、不毛の土地や全然復旧不能の物件等に対しましては、
鉱業権者の申入れによ
つて対価を供託してでも打切補償ができるように
規定されるよう切望するものであります。
第十一といたしまして、
法案第六章第二節の担保の供託についてでありますが、
鉱業権者は本
制度の有無にかかわらず、常に意を用いて賠償の
責任を履行していますし、また本供託金は積立の年からでもとりもどしができますので、いたずらに入れたり出したり
手続が煩わしいばかりで、決して
鉱害賠償の恒久対策とはなりませんから、本
制度は必要ないものと思われますが、
現行法の
制度をそのまま移行いたすのであれば、
石炭鉱業の
現状その他諸般の経済
事情に照らし、しばらくでも資金を死蔵させないために、トン当り五円ないし六円以下とされることを要望するものであります。なお現在の特別
鉱害復旧法による負担金は、トン当り二十円と
なつておりますので、さらにこれを供託によ
つて重複することは、資金面からもはなはだ苦痛でありますから、さきに述べました五円か六円かの供託をするといたしましても、特別
鉱害の負担金納付
期間中は停止さるるようお願いしたいのであります。
大綱におきましては、
改正鉱業法案には異論のないものでありますが、ただいま十数点をあげました点につきましては、私の
意見を披瀝申し上げまして、本
法案の御
審議にあたりまして、十分の御考慮をしていただくことをお願いいたしまして、私の供述を終ります。ありがとうございました。