○泰平
参考人 ただいま御紹介を受けました
自治労連の泰平であります。私は
地方税を
徴收する任に当ります都道府県
市町村職員の労働組合を代表いたしまして、若干
意見を申し上げたいと思います。
前回の第七通常
国会に
地方税法案が提出されました際に、私
どもといたしましては、この
改正案は大衆から收奪でき得るだけ收奪しようとするきわめて悪い税制である。もしこれが
通りましたならば、第一に地方
自治体がこの税制による苛斂誅求の先頭に立たなければならない。第二番目には、地方
自治体の機能は相当麻痺する。さらに第三におきましては、地方
自治体の民主化あるいは地方財政の自主化ということはとうてい期することができない、こういうような見地に立ちまして、反対運動を展開いたして参
つたのであります。今回さらに
国会に提出になりました
地方税法案を見ますと、前
国会において不成立となりました
政府案に、
部分的には若干の
修正が加えられておるのであります。しかし問題の
附加価値税の例をと
つてみましても、これは結局においては
実施するのでありまして、ただその
実施の時期が明年の一月までに
延期されておるにすぎない、あるいはまた
固定資産税につきましても、
税率は少々引下げにな
つておるのであります。しかしこの
税率も、税收五百二十億を確保するということが前提とな
つておるのでありまして、これも本質的には何らのかわりはない。全体を通じまして、この新しい
法案が
地方税收入の千九百億円というものの確保を前提にいたしておるのでありまして、そのわくの中で若干の税の配置やあるいは
税率の上下はありましても、私
どもといたしましては、この
修正は單なる申訳にすぎないのである。そうして本質におきましては、つまりこの
地方税に盛られたところの税制が非常な重税であり、大衆收奪の税制であるということの本質においては、前回の
法案と何らかわるところはない、かように
考えておるのであります。
これを
個々の点について若干申し述べたいと思います。まず第一番に
附加価値税についてでありますが、この
附加価値税に対する課税は、経営が成立つか成立たないかというようなことを全然
考慮に置かない。
従つて純益のない赤字の工場や商店に対しても、いやしくも企業が存在する限りすべて課税される、こういうことになります。ところで現在のこういう対象にされますところの中小企業の状態は、新しく申し上げるまでもなく、非常な危機に直面しておるのであります。この多数のものが崩壊し、あるいは工場を閉鎖し、その他の多くのものが赤字経営に悩んでおる、こういう
実情にあるわけであります。そういう中で
附加価値税の創設は、経営の困難な企業に対してはいよいよ致命的な打撃を與えることになり、
従つて今日までこういう中小企業あるいは地方
自治体の基礎でありますところの地方産業の復興ということにつきましては、業者はもちろん地方
自治体においても、非常な熱意と希望とを持
つておるわけでありますが、しかしこういうような課税によりまして急速に崩壊過程が始まることになりますと、これらの努力が水泡に帰することになるのであります。特に地方の中小企業におきましては、その経済的な地盤はいわゆる地方の産業であります。これらの産業は、先ほど申し上げましたように非常に経営の困難な状態にありますので、この
附加価値税の課税によりましてさらに一層困難になるならば、これは地方財政の基礎をさらに脆弱なものにする、かように
考えるのであります。また企業によ
つて支拂われますところの労賃も附加価値に見られますので、今後の企業におきましては、労賃の切下げあるいは企業の一方的な合理化ということが相当強力に進められる、その結果労働の強化あるいは首切りがさらに引起
つて来る、こういうふうに
考えるのであります。またさらに、協同組合や労働組合が現在や
つておりまするところの厚生施設についても課税されるという結果になりますので、この
方面の均霑に浴しておりますところの労働者は、今後さらに実質賃金の低下にあ
つて、この
方面からもさらに窮乏化に拍車をかけるのであります。こういうことは結局において大衆の窮乏を促進し、そして大衆の担税力を低下させることになり、今後の徴税はますます困難にな
つて行く、かように
考えられるのであります。また徴税
技術の点から申しても、この
税金はまた世界でも
実施されたことがない、かように言われておるのであります。従いましてかような税を、今日のような経済
情勢の非常に複雑な混乱した時代に、現在の徴税機構のままで
実施されるということはきわめて危險である、こういうふうにわれわれは
考えるのであります。
次に
市町村民税についてでありますが、これまで
住民税に対してさえ
負担が非常に重過ぎる、あるいは課税が不当であるというような
理由によりまして、ほとんど全国を通じましていろいろな形で反対運動が起きているのであります。こういう事情に直面いたしまして、われわれ地方
自治団体の職員は事務量の非常に大きいこと、あるいは人員の不足、あるいは地方行政の中におきますところの非民主性、そういうような中にありながら、非常な困難な労苦を拂
つて来ておるのであります。これが今度の改革案では、従前に比しまして一躍三倍ないし十倍というような大幅の引上げが起るのであります。これによりまして
住民の受けますところの
負担がいかに過重であるかということは、想像に余りあるのであります。特にこの課税におきまして高給
所得者、いわゆる大体において年
所得二十万円以上の人に対しては非常に課税が少く、さらに
所得が上昇するに従いまして逓減いたしておるのであります。最も多くの該当者がありますところの年
所得五万ないし十万程度の人に対しては、課
税率は最も高くて八倍ないし十倍というような重税とな
つて現われておるのであります。ここにもこの
税金の持つところの大衆課税的な性質、あるいは大衆收奪的な
性格がむき出しに現われておる、かように私
どもは
考えております。さらに税について問題になりますのは、課税の対象を非常に広げておる。従来世帶主だけであつたものが、今回の改革案では妻子も一律にかかる。
従つて課税対象は昨年の一千二百万から今年は二千二百万に達する、こういうふうに言われておるのであります。われわれは一方において
国民生活が非常に窮迫化し、これに対する十分なる
措置が講じられていないときにおきまして、他方税の
負担の面においては、非常に広汎な大衆が課税の対象とされるところに、この税の非常に深刻な大衆課税の性質を見るのであります。
第三番目に、
固定資産税について申し上げたいと思います。これは土地、家屋に対し、
政府の
資料によりますと従来の二倍半以上の引上げになる。とにかく大幅の引上げが行われることは間違いないのであります。このことがただちに家計に影響することはもちろん、家賃、地積の値上り、さらに商品の値上り、こういうような形をとりまして、今後究極においては勤労大衆の肩に転嫁されることが明らかであります。ことに今日の住宅が非常に拂底しておるという状況と相ま
つて考えてみますとき、これによ
つて受けるところの大衆の苦痛は非常に大きいものがある、かように
考えるのであります。さらに機械設備その他の償却可能な財産にも課税されることにな
つておりますので、たとえばわれわれの生活と最も
関係のある電気、ガス、交通、そういつた
方面への課税が行われ、従いまして電気、ガス料金の値上げ、あるいは交通費の引上げというようなことも想像にかたくないのであります。そしてこれらのものは、結局においては一般大衆の肩に転嫁されるのであります。これによ
つて労働者の生活はさらに低下し、一般大衆の
税金に対する苦痛は一層深くな
つて来るのであります。
第四番目に入場税について申し上げたいと思います。入場税の
税率を三分の一だけ下げるが、それと同時に課税範囲を広げておるのであります。全員を無料で入場させる場合も、その経費を入場料金とみなして入場税を課し得るもの、こういうふうに規定されておりますので、このために労働組合を初め民主的団体による催しものは、古今に例のないと言われるこの入場税によ
つて、非常に多くの束縛を受け、民主団体の文化活動はこの辺から大きな束縛を受けることになるのであります。
以上四つの点について申し上げたのでありますが、これを要するに、今回の
改正案は、前回の税案と同様に、本質においては何ら異なるものではない。そしてそれはすべて究極において大衆の肩に転嫁される。そのことによ
つて大衆の窮乏が急速に進み、担税力はさらに極限に達するものである。こういう見解におきまして、われわれは今度の
法案に反対するものであります。
次に現在の財政機構の中におきまして、中央財政が非常に厖大な国家予算を持
つておるのであります。この厖大な国家予算を維持するためには、最も強力にして徴税の容易な
所得税や消費税を確保することが中央財政にと
つて必要なのであります。従いましてこの中央財政を守
つて行くためには、地方財政に残された財源というものはきわめて貧弱なものしか残らないのであります。そこで地方財政は当然大衆收奪的な方向に向わざるを得ない、こういう
実情にあるのであります。今回の
地方税改革案はまさしく国家財政の支柱としてのこうした役割を演ずるものである、かように
考えておるのであります。しかしながら大衆課税は、一方においては大衆の窮乏化のために、多くの困難なくしてはこれをやり途げることはできないのであります。地方財政の自主性を確立することはとうていできないのであります。そこで起債の許可、あるいは大蔵省預金部の資金の借入れ、あるいは地方財政平衡交付金の操作、こういう操作を通じまして、地方財政が勢い中央財政に依存せざるを得なくなる。ここに地方財政の自主性は失われる危險が十分あるのであります。かように
考えまして、厖大な国家予算を中心とする現在の財政機構の中にありまして、今回の改革案は地方財政の自主性を著しく妨げるものである。財政の中央依存をもたらすものである。こういう
理由が私
どもがこの
法案に反対する第二の
理由であります。
次にわれわれといたしましては、特に
地方税の
徴收に当る職員の場合といたしまして、二つの点について
考えてみたいと思うのであります。
まず第一番目はこの
法案によるところの
税金が、はたして
徴收がうまく行くのであろうかどうかという点であります。最近におけるいろいろの事情は、徴税成績の非常な低下を伝えております。たとえば長野県におきましては、県税の納入率におきましても、一昨年の九三%から昨年は八六・九%に低下しておるのであります。これは他の県におきましても、さらに市、町村と末端に行くに
従つてこの傾向は非常に強いのであります。それでは
納税者であるところの一般大衆の状態はどうであるか、これは申すまでもないのでありますが、失業者は非常に増加しておるのであります。労働者は賃金の切下げに困
つております。中小企業は経営難で困
つておる。農民も窮乏に苦しんでおる。こういう状態の中で、大衆の担税力はすでに限界点を越えておる。たとえば京都では五月中に配給米のとれない市民が一割五分に達しておる。その大
部分が四月、五月に急にふえた生活困窮者があるためである、こういうふうに言われておるのであります。また毎日の新聞紙上をにぎわしておるように、この大衆の窮乏化は生活苦のための自殺者や心中者を出す、こういうような状態にな
つております。こういう中におきまして、本年は昨年よりさらに四百億という多額の租税の
徴收を増加するのであります。
従つて徴收が前
年度よりはさらに一層の困難を増すことは明らかであります。その上地方財政の危機は非常に深く、
自治体は、税の收入や起債や借入金のほかに苦しい財政をまかなうためには、佐野市に見られるように
税金の前借りというような
方法に訴えておりますし、また
納税債券の発行といつたような
方法もとられております。さらに強制寄付、強制労働というような
方法をとることによ
つて、今日の地方財政の危機を切り拔けておるのであります。こういう
実情からいたしまして、大衆の
負担がさらに苛酷となり、これによ
つて徴税は一層困難になる、かように
考えられるのであります。
従つてたとえば京都市会におきまして一議員の前
年度帶納処分が計上されておるが、これをどうするつもりかという質問に答えまして、理財局長は悪質の者に対してはぴしぴし強制執行をやる、かように回答をしておるのであります。今後この重税の
負担、徴税の困難という事態にあた
つて、強権によるところの徴税が非常にその数を増して来るということは
考えられるのであります。特に最近における朝鮮の問題、あるいは警察隊の増強の問題、こういう問題と
考え合せまして、今後の徴税におきますところのこういう動向は、われわれの非常な関心を持つところであります。さらに今年の租税の
徴收期は八月以降に片寄るということが起きて来るために、今申し上げましたところの徴税の困難は、さらに拍車をかけられるのである、こういうふうに
考えるのであります。たとえば
国税と
地方税との間には、いろいろの競争が行われております。徴税吏員がキヤラメルを持
つて納税者のうちに行く、こういうふうな形において、この
国税、
地方税との競争、あるいは県税と
市町村税との間のはげしい競争が展開されておるのであります。今後におきまして、さらにこの趨勢が強化されて、そのことが徴税の困難を一層増すものではないか、かように
考えておるのであります。
さらにまた、今後台風期を迎えるにつきまして、これまで戰時中、戰後の混乱時代に、治山、治水ということがかなり放棄されて来た。そのために少し雨が降ると、水害が発生する、こういうことが予想されるのであります。すでに今年におきましても、先般二、三日の雨が降つただけで天龍川を初め、大小の河川が氾濫して、田畑の冠水、その他が相当の被害とな
つて現われおります。今われわれは台風期の近づくことにつきまして、こういう災害が起きるということも
考えられるのでありますが、その場合におきますところの徴税の困難は、先ほど申しました事情と重なりまして、さらに強いものがある、かように憂慮されるのであります。
次に第二点といたしましては、徴税機構——現在
地方税を
徴收するところの機構の側における困難についてであります。徴税職員は職制の圧力の強い職場の中におります。そうして非常にたくさんの事務分量を
負担しております。繁忙期におきましては、たとえば地方事務所の職員においては、一人で
事業税の調査に一日二、三十件を受持つというような
事例も起きておるのであります。そういうことになりますと、当然正確な調査は不可能であります。そこでああだろう、こうだろうといういわゆるだろう
税金というものも起きざるを得ないのであります。こうして彼ら税務職員は、担税能力の限界に来ましたところの一般大衆と、徴税を強行しようとしますところの職制の圧力、この両者の板ばさみにな
つて非常に苦慮いたしておるのであります。しかし一方において厖大な失業者の群れがあるという中におきまして、彼らはみずから職場を放棄することもできず、結局
法律にも十分に沿いかねるような税の賦課と徴税とを強行するというようなことにな
つておるのであります。こうした強行がいかに徴税職員にと
つて苦痛であるかということは、先ごろ京都市役所の税務職員が、この両者の板ばさみに耐えかねて、遂に自殺をするというような悲劇が起きているのであります。さらに税務職員に対しては、重税からのがれようとしますところの、一般業者からいろいろな誘惑の手が延びて来るのであります。税務職員はこういう誘惑の手に落ちまして、腐敗と不正の邪道に陷る者も出て来ておるのであります。今
政府は六十億の予算をもちまして、県あるいは市の税務職員三万数千人の増員をしようということをはか
つております。しかしこれは單に人間の増員だけをも
つて解決される問題ではないのでございます。一方におきましては職制の圧力、他方におきましては一般大衆の反対、こういう中におきまして、真に事務の能率を上げて行くためには、税務職員の生命と生活権とを守らなくてはならない。同時に職場の民主化なくしては十分に任務を行うことができないのであります。今日町村の職員の中には六三ベースはおろか、いまだに三千七百円ベースももらわないたくさんの吏員がおるのであります。また各地の
地方団体の職員のうちには、超過勤務手当も十分にもら
つていない者があるという状況にあるのであります。こういう
実情の中におきまして、職場を民主化し、そうして税務職員の生活権を守
つて行くためには、われわれの組合の強化が何よりも必要であります。しかるに今、この組合の強化に逆行しまして組合を骨拔きにし、そうして職場の民主化を阻止しようとする目的をもちまして、地方公務員法あるいは地方公労法の制定が
政府によ
つて企図されておるのであります。しかしかかる地方公務員法あるいは地方公労法によりますところの組合の抑圧は、決して今日におきますところの徴税吏員の能率を増加する
ゆえんにはならないのであります。以上両方の
方面から申し述べまして、私
ども今後のこの
法案によりますところの徴税が、非常に困難であるということを
結論として見出したのであります。
以上の見地に立ちまして、われわれは
結論としまして、第一に今回の改革によ
つては地方財政の自主性は確立されない。第二番目に大衆の收奪と窮乏化に拍車をかけるものである、地方財政の基礎を危うくするものである。第三番目に、地方財政の行政機能は麻痺する。第四番目に、地方
自治体の民主化は妨げられる、こういうふうな見解を持つものであります。従いましてわれわれは
所得税を地方に委讓すると同時に、少くとも民主的な
納税調査機関を地方
自治団体の中に設けるという
意見をつけ加えまして、今回の改正
法案には、われわれは前回と同様に、全面的に反対であるということを申し上げまして、私の
意見を終りといたしたいと思います。