○蓮見参考人 ただいま御
紹介をいただきました蓮見でございます。本日は貴重なお時間をさいて、つまらない研究の一端をお聞きくださることは、まことに光栄と存じまして、厚く御礼申し上げます。ほんの短時間の説明にとどめまして、
がん細胞の中に、現実に
がんの病源体をごらんに入れたいと思いまして、午後自由党の政務調査会において、位相差顕微鏡を使
つて、子宮
がん患者の
がん細胞の実際をお目にかけたいと思いますので、もし御希望の方がありましたら、そちらヘお出向きくださればありがたいと思います。
がんの病源につきましては、世界中がいろいろ研究を重ねておりますが、杳としてその根源をつくことができませんでした。しかるに一九一〇年、ドイツのラウス博士が鶏の肉腫について、それをすりつぶして、瀬戸物の素焼を通しますと普通のバクテリアは通過しませんが、病毒は通過して、次の鶏に
がんを発生させるという実験をいたしまして、それに刺激されて、英国の帝室
がん研究所の所長をや
つておりますジヤイ博士が、同じくラウスのこの病毒学説を取上げまして、いろいろの実験を推進いたしまして、
がんのイギリス学説を確立いたしましたのが、一九一九年のころでございます。
私は、一九三二年、千葉の瀬尾外科におりましたときに、瀬尾教授が日本で初めて食道
がんの宿題報告を担当されましたときに、私は教室員として参画いたしまして、しかも手術と同時に、全世界の文献の担当を命ぜられました。私一人が世界の五万幾つの文献を渉猟いたしておりますときに、たまたまジヤイ博士のワイラスについて注目をいたしました。それ以後、その病毒の探究に私も及ばずながら努力しておりますが、何らそれを見きわめるところの手だてがありませんでしたが、
終戰直後わが国においても、初めて電子顕微鏡の実用化ができましたので、千葉県の茂原原子科学研究所に出向いて、そこで製作しました電子顕微鏡を使
つて、一昨年の二月、初めて
がんの病源体を突きとめた次第であります。その後いろいろと基礎的研究と臨床的研究を並行いたしまして、昨年十月五日、京都帝大において初めて発表いたしました。その席は電子顕微鏡学会の総会でありまして、理科系統の物理科学から医学、全部門の教授が集ま
つて、その席上で発表することができました。その後「自然」の社の要求によりまして、今年の四月から八月まで、そのアウト・ラインだけを発表することができた次第であります。今まで各学会へ参りますと、お前の発見したのは、ごみではないかとか、あるいは細胞核の破壞物をとらえて、病源体と称しているのではないかとか、いろいろな質問や抗議が出て参りましたが、その後昨年の秋に至りまして、位相差顕微鏡で、染色しないで、なまのままで写しますと、プリズムの
関係で色がついて、効いたままの観察ができるようになりました。それを使いまして、
がん細胞の写真をとることに成功しまして、現実にその病源体が
がん細胞の中に存在することと、周囲のメジウムの中にも、遊離した病源体が分子運動を行
つているのが見られるようになりました。しかもこのものが單純な核の破壞物とか、單純なごみでしたならば、免疫血清とか、患者自身の血清で、凝集反応を起したり、また白血球がこれを貪食したりする現象が毛頭起らぬことは、科学的に明白なことであります。しかも血清学的な研究と、臨床的な診断法、並びに早期の治療法を通覧いたしますと、このものは
がんの病源体と称して、いささかも過言でないということを、うぬぼれながら自信を持
つた次第であります。
昨年二月「電気日本」に私が初めて発表したのに続いて、四月十九日ニューヨーク、コロンビヤ大学のサミエル博士が、同じくねずみの乳
がんについてワイラスを発見いたしました。続いて四月二十五日、ニュース・ウイーク紙上に、ニューヨーク、マンハッタンにある
がん記念研究所のヴイットナー博士が、同じく乳
がんの中から一種のワイラスを分離しまして、
がんの病源体たることを発表いたしました。そのような次第で、世界の情勢は、逐次
がんのワイラス学説に傾きつつあるのが現状ではないかと思います。
ただここに困
つたことは、日本の学界はいつも外国のあとを追うて、十年ないし二十年の遅れをと
つておりますし、あるいはほかの
原因かわかりませんが、まだ私らの学説を正面から受入れようとはいたしておりません。さりながら昨年七月、アメリカの軍情報部から、第一回のリポートの
提出を求められ、今年また第二回の
提出をいたしました。昨年の十月、GHQのある軍医の方から、もし徴用がある場合には、いつでも行けるような態勢をと
つておけという注意までいただきましたが、ただ私考えますのに、日本人であります以上、やはり日本人を救いたいというのが、私の考えであります。
どうか私の最後の研究のゴール・インに対して、皆さんの御同情と御援助をいただきましたならば、欣快にたえないと存じます。本日の御清聽を感謝いたします。(拍手)
—————————————