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瀬戸山委員 昭和二十五年九月十二日、
衆議院規則第五十
五條により、
議長の
承認を得まして、
ジエーン台風による
災害状況並びにこれが
復旧対策調査のため、
藥師神委員長並びに
不肖瀬戸山が
現地に派遣され、九月十六日より七日間にわたり、
大阪、
和歌山、
兵庫、
徳島等の各
府県を調査して参りましたので、ここにその
概要を御
報告申し上げます。
ジエーン台風は九月三日午前
四国の
東部をかすめ、正午には紀淡海峡を
通つて大阪湾にかかり、十三時
神戸附近に上陸いたしました。当時の
気圧は九百六十ミリバール、
中心附近の
最大風速は毎秒四十メートルで、
昭和九年の
室戸台風に比すれば、その強度はやや劣つていますが、
進行速度が遅かつたために、
強風の持続時間が長く、かつ
大阪湾通過のときが満朝時にほぼ一致いたしましたため、
海岸堤防を破壞し
低地に
浸水し、人口稠密なる
阪神地方に甚大なる損害を與えたものであります。
次に
視察の順に従いまして、主要なる
土木災害につき述べ、後に一括して
建築災害について述べることにいたします。
土木被害の額は
大阪府の八十二億円を筆頭に、
徳島県は二十二億円、
兵庫県は十一億五千万円と見積られ、
被害を受けた二十一
府県の合計は百六十億円に達しております。これを
種類別に見ますると、
河川関係百八億円、
海岸堤防が三十一億四千万円、
道路が十五億六千万円、
橋梁が六億四千万円、砂防が五億円と
なつております。
まず
大阪市につきましては、
台風に伴う
高潮のため
海岸堤防並びに入海の
堤防を溢流いたしまして、また船舶の激突によつて破堤し、
西部一帶の六十平方キロメートル、全市の約三分の一に
浸水をみました。
高潮防禦対策等につきましては、
低地区を区分して
高潮堤をめぐらす
方法と、全体の
地盤を地上げする
方法とが行われておりますが、これらを完全に
施行した
区域は今回の
災害を免がれております。しかし何分にも完全なる
施行には多大の経費を要するため、一部は臨時的な
施設をもつて
施行中、これも未
完成のうちに今回の
災害をこう
むつたものであります。
従つて府、
市当局におきましては、
恒久防潮堤の急速な
施行を
要望しており、かつ今回の
災害にかんがみ、堤の高さも従来の
OP、四メートルから四・五メートルに引上げることを希望しております。かかる
重工業地帶を
災害から守り、人心を安定させることは、
国家的見地からも重要なことで
国家財政の許す限りできるだけ完全なる
施行をいたし、援助すべきものと考えます。ただし
防潮堤の
施行と
地盤の地上げとは相互の関連において
十分利害得失を
地区的に勘案し、かつこれに要する
土砂は港湾内の
浚渫土をもつてする等、技術的な
計画を十分に
練つて、
各種土木工事の緊密な連繋のもとに、最小の費用で
最大の効果を発揮するようなくふうをしなければ、この大
事業を早急に
完成することは至難であろうと思われるのであります。このほか
低地区内における
避難道路兼用の
横断堤の
建設、
道路河川の
復旧、
卸売市場防禦のための
防潮堤の
築造等に関しても
要望がありました。
次に堺市におきましては、
南部の
防潮堤が
完成した
区域は、今回の
災害を免れたのでありますが、
西北部の
防潮堤未
完成の
箇所から
浸水いたしました。
従つてこの
防潮堤の早急なる
完成及び
低地区に対する
排水施設及び
樋門の
完成が
要望されております。
次に
和歌山県について申し上げます。
本県においては
台風に伴う
豪雨により
河川が増水し、
橋梁、
道路等に
被害を及ぼしたのがおもでありますが、
海岸地帶には一部
高潮の
被害も見られております。
和歌山市を貫流する
和歌山川及びその
左支川和田川は
高潮により
堤防を溢流いたしまして、本川は
中小河川改修工事として、
堤防の
嵩上げ施行を
要望しております。海南市の
海岸は
昭和二十一年十二月の
南海地震以来
地盤の
沈下を続けておるため、
防潮堤の高さが
満潮面上より五十センチの余裕しかなくなり、今次の
高潮で市街地に溢水を見ております。本
堤防は
高潮防禦対策の一環として、
嵩上げを要するものと認められるのであります。
次に
阪神間諸
都市の
状況について申し上げます。現在
阪神間に続く
防潮堤の高さは、
尼崎において
OP三メートル、一部四メートルもあります。鳴尾村四メートル、これは一部六・五メートルもあります。西宮市五メートル、
蘆屋市五メートル、本庄村は無堤であります。今回の
高潮で
尼崎において四メートルに
なつた
箇所に
溢流破堤上浸水を見ております。特に
尼崎市の
被害は著しく、
潮位は
昭和九年より若干低かつたにもかかわらず、
浸水面積がかえつて増加いたしましたのは、
地盤沈下の結果であると認められるのであります。これが
対策としましては、
完全防潮堤が最も強く
要望されていますが、外海に面する
堤防は高さ
OP五・五メートルとし、上端に
波返しとして一メートルの胸壁をつけたもののみが今回の
高潮を防ぎ得ている点から見まして、
相当に広範囲にわたつて
嵩上げを要すると思われるのであります。この地帶も重要なる工業地帶であり、
完全防潮堤の
完成には国庫からできる限りの支援をすべきであります。また今回の
災害は
海岸堤防よりむしろ入海の
河川堤防の溢流によるものが多い点にかんがみ、その
堤防を強化するとともに、要所に逆水防止の
樋門を設け、また停電時も使用できるデイーゼル・エンジンのポンプを増設する等、実際的な措置が必要と認められます。
次に淡路島について申し上げます。本島は
海岸から山岳が屹立して、
海岸沿いに部落があり、それをつなぐ
道路が唯一の交通路と
なつております。これが今回の
高潮及び波浪によりまして甚大な
被害をこうむ
つたのであります。
対策としましては地形上
道路のつけかえが困難であるので、上部舗裝並びに漂砂防止等の措置を講ずべきであります。なお明石海峡の浸蝕作用に対しましては、十分なる調査を行つて根本的な
対策を立てる必要があるものと認められます。
次に
徳島県について申し上げます。
本県の
被害区域は吉野川流域と
海岸一帶であります。特に川内村、鳴戸村、多家良村寺の
海岸堤防は、背後に数千
町歩の
田畑を有しておりますが、今次の
台風に基く
高潮によりまして破堤し、また破堤寸前の
状況にある
箇所も少くありません。原因としましては、
地盤沈下も考えられますが、土取りの
関係上砂質土で築堤されているため、波浪の洗掘によるものが多いと認められます。この
地方は波浪が高いので
堤防天端を七メートル五十とするとともに、波浪の洗掘を防止するため上部並びに背部に水たたきとしてコンクリートをおおう必要があります。また基礎が砂質でありますので、漂砂を防止するため、砂どめ突堤を増設することも有効であると認められます。
次に香川県について申し上げます。
本県は
地盤沈下対策工事が約五〇%進捗し、特に危險
箇所の
堤防かさ上げ
工事がほぼ完了していましたので、
キジア、
ジエーン両
台風に対しましても比較的損害が少かつたことに対し、
地方民は深く感謝しておりました。
従つて災害復旧と並行して引続き第四次の
地盤沈下対策工事を
促進するよう、強い
要望があ
つたのであります。
次に建築物の
被害に関し一括して申し上げます。
被害の大きかつた理由としては、
強風の継続時間が比較的長かつたこと、戰争以来家屋の補修が怠られて、耐用年限に達した建物が少くなかつたこと、及び終戰前後に建てられた建物は極度に質を落していたことなどが数えられております。工場その他の工作物の
被害も少くありませんが、最も緊急な
対策を要する住宅に関して数字的に説明いたしますと、全壞または
流失したものが一万八千余戸、半壞したもの八万一千戸、中破十三万戸、小破二十六万戸、
被害総額は百八十二億九千五百万円に達しております。但しこのうち公営住宅の
被害は全壞または
流失が六百三十四戸、半壞が八千二百五十七戸、その他中破、小破を合せて、損害額は七億五千四百万円と見積られております。
被害の最もはなはだしか
つたのは、
大阪、
和歌山、
兵庫の
府県で、特に
大阪市や
尼崎市の
海岸地帶では
高潮による
浸水、または
流失により甚大なる損害を受けております。これに対しては、とりあえず
災害救助法に基く応旧收容
施設が
建設されておりますが、これは将来公営住宅等に切りかえられねばならないものであります。一般民衆の再建または大規模の補修に対しては、低利資金の貸付が
要望されておりますが、これは一部住宅金融公庫よりの融資を充てるとともに、この條件に適合しないものに対しましては、
昭和二十三年の福井震災のときと同様に、預金部資金融通の措置を講ずることが有効ではないかと考えられます。罹災した公営住宅の
復旧は当然早急に行われなければなりませんが、なお民間貸家の
復旧は著しく困難な
状況にありますので、
被害のはなはだしかつた
地区には、さらに若干の公営住宅を増設して、罹災者を收容する必要があると認められます。
大阪、
尼崎等低濕地において
高潮の
被害をこう
むつたところでは、地上八尺にも達する
浸水のため、木造平屋の住宅では天井へはい上つて妻壁を破つて脱出したような状態でありました。かかる低濕地帶に対しては、前に述べました通り、
防潮堤の完備がぜひ必要でありますが、さらに万一の場合に備えて
復旧住宅の一部は鉄筋コンクリート四階建のアパートとすることが適当と考えられます。但し罹災者の中には現在の鉄筋アパートの家賃千円余りを負担し得ない階層も若干含まれており、これに対しましては別途家賃補助を行うか、あるいは
建設費に対してさらに高率な国庫補助を行うなど、特別な配慮が必要であると考えられます。
以上
現地の
災害状況について
概要を御
報告いたしましたが、次に
調査団としてのこれら
災害に対する所見を申し上げます。
第一に、
高潮防禦対策は徹底して行わねばならぬという点であります。今次の
災害にかんがみまして、
海岸堤防などは單なる
原形復旧では間に合わない
部分が多々あるのであります。しかし国家的に重要な工業地帶を守り、再びかかる
災害を繰返さないためには、地元の
要望するごとき完全なる
恒久防潮堤の築造に対し、国費の許す限り強力に援助すべきものと考えます。
第二は、前項と関連いたしまして、非常時における電源
施設確保の問題であります。これに対しましてはディーゼル機関を増設するとか、あるいは電源よりの変圧器、送電線の強化等の特別の措置を講ずる必要があるものと考えられます。これに対しては
相当の経費を要すると思いますが、この点まで徹底しないと、非常時に対応すべき
排水機などが非常時に使用不能と
なつた例は枚挙にいとまありません。
次に
大阪市を
中心とする罹災地の住宅
対策に関して二、三の所見を申し上げます。その一は
災害救助法に基く応急收容
施設は可及的少数にとどめ、むしろ公営住宅の
建設を
促進すべきではないかという点であります。応急收容
施設は一戸当り五坪
程度の長屋建で、これを
大阪市においては三千戸もつくる
計画だそうでありますが、かかる
施設は長期の居住には不適当で、将来スラムとなるおそれが十分にあります。
従つてかかる
施設は必要最小限の数にとどめ、むしろ一定の基準に従つた恒久性ある公営住宅を早急に
建設することの方が国家経済の上からも有利であると考えられます。
その二は
低地区に
建設する公営住宅は、なるべく鉄筋コンクリート四階建
程度のアパートにして不時の
災害に備えるべきではないかという点であります。もちろんかかる
地区に対しては
防潮堤や避難
道路の
施設も行わなければなりませんが、非常
災害の場合に備えて少くとも一街区に一、二棟の恒久
建設物を有することは、
附近住民の避難にも役立ち、その安全感を強める効果は大であると考えられます。
その三は生活困窮者に対する住宅
対策に関する問題であります。罹災者のうち若干の者は生活困窮者であり
従つて上述のごとき公営住宅が供給された場合も家賃を支拂い得ない者若干を生ずることが考えられます。これに対しましては家賃補助の
方法によるか、あるいは
建設費に対してさらに高率の国庫補助を行つて家賃を引下げるか、何らか特別の措置を講じなければならぬものと考えます。その四は
対策の急速実施に関する問題であります。寒冷の冬を間近かに控えておる現在、いたずらに審議に手間取つて、実際の住宅
建設が一向に進捗しないというようなことがあつてはまことに遺憾であります。県や市の住宅
対策が進まないのは、国の補助が確定しないことに大きな原因があると聞いております。
災害予備費などから
支出すべき分は急速にこれを決定し、
対策の
促進に万全を期すべきであります。
以上をもつて今回の
災害視察報告を終りますが、さきに述べました諸点については、
政府当局より責任ある答弁を求めたいと存じます。