○一
萬田参考人 簡單に現在までの
金融情勢並びに
金融政策について申し上げます。
御
承知のように、ドツジさんがお
見えにな
つて、二十四年度に
インフレの
收束という大きな
手術をいたしました。この
手術は大体成功したと考えておるのであります。そこで
日本の
経済は、これは
財政も含めて、
財政経済と申してよろしいと思いますが、この
手術後の
状況をどういうふうに持
つて行くか、こういうように二十五年度は考えなければならない。二十四年度は
手術真最中でありますから、
病人の容態が
手術に耐え得るようにと、
栄養注射もやるというふうに、
相当配慮をして参
つたつもりでしたが、むろんある程度の
デフレとな
つた。しかしこれはああいう
予算を実行する上においてやむを得ないと思うが、とにかく
相当成功した。
数字で申し上げましても、
財政資金の
引上げが約九百億、私の方から
追加引上げをいたしたのが、これを若干越えております。そして
物価を見れば、
やみ物価と、当時
生産が増大いたしまして
統制からはずれた
商品の
価格が下
つた。しかし
補給金を
切つた関係から生ずる
公定価格、主として
卸物価、これは若干
上つた。そして全体として
物価が横ばいであ
つた、こういう
政策をや
つて来たわけであります。あのドツジ・プランの
予算を実行して行く上からには、
相当の
栄養補給をしないと、そういう結果が生じないのであります。それから、二十五年度の
状況は、もう
手術が済んだのですから、むしろ
病人をだんだんと動かして、ふとんの上に坐り直さすとか、あるいは日光浴もする、あるいは若干の散歩もして行く、こういうような
行き方で行かなくちやならぬ。
手術の結果、
相当経済の各
方面に
故障を生じた、その
故障を直しつつ、この
経済が建直
つて行くには、どういうふうな
方向で
通貨面ではしようとしておるかとえば、むろん一足飛びに行きませんから、いわゆる
国際市場で
日本の
商品が競争に耐え得るような
生産費というふうな
方向に持
つて行きたい。いわゆる
国際水準へ、
国際水準へと近寄るように
日本経済を持
つて行く。それをほかの言葉で言えば、
合理化を進めて行く、こういうことになるのであります。その
合理化というものは、いい
機械を入れるとか、いい
設備をするとか、要するに総体として
商品の
生産費を
国際水準に近寄らしめ、しかも
製品の品質をよくする、こういう
経済の動きに持
つて行きたい。そういうことをやるのには、
相当の
長期資金がいる、同時に
有効需要を喚起する。たとえば
一つの例をと
つてみますと、
電源の
開発ということは、これは大きな
合理化です。
合理化といえば、ともすればある
会社の
合理化を
合理化だと思
つているが、これは
経済的に見ると非常に範囲が狭い。たとえば今申し上げたように、
電源の
開発ということは、すべての
生産者がみな
自分の
生産費を安くするのに役立つから、そういうふうな
合理化が大事であるが、同時に
会社自体においても大いに
合理化を進めて行く、いい
機械を入れ、
設備もよくして、そして
金融というものをその
方向に流して行く。言いかえれば、
手術中のように、
栄養補給というような形で
資金を出すことはもういけない、二十五年度は、そういうふうな非常な合
目的的な形で
資金を出して行くようにすれば、これは
相当有効需要を喚起すると私は思うのです。いわゆる
経済を
循環過程に持
つて行くのです。今までは
手術中で寝てお
つたのを、だんだんからだを動かして行く、いわゆる
循環過程という形に持
つて行かなくちやならぬ。そしてその
合理化には
相当な金がいる。それでそれは、二十五年度は
見返り資金と
預金部資金を動かして行くというのがねらいであります。この
預金部資金は、これは申すまでもなく
郵便貯金で、
国民所得の中から
貯蓄される
部分であ
つて、ただ
郵便局という
一つの
政府機関を通じたというだけのことで、この
資金は、他の
金融機関の
資金と異なる点は毫もない、むしろこれは
長期に使い得る
性質を持
つた資金であります。
見返り資金にしても、これは
アメリカからの
援助物質等が来たことによる
資金ですが、この
見返り資金も、やはりこれは
国民所得から出ている、みなが働いてもら
つた金から出ているのです。ある
会社がいろいろな
物資の払い下げを受けたら、その
会社から出る、こういう形でありまして、これは
一つの
国民貯蓄で、ただ税という形を通じて集ま
つたということです。つまり一方は
郵便局という
一つの
政府機関の形をとり、一方は任意の
貯蓄でなく、税という形をと
つたので、
貯蓄の
性質を持つことにおいては毫もかわりがない。こういう金が
相当巨額にある。こういう金が
財政資金に集まる結果、
金融機関の
預金というものはふえない。先ほどから非常にたいへんな、八千億とか一兆とかいろいろ言われておりますが、しかしこれは非常に多くの
部分が、クレジツト・エツキスパンシヨンである。
銀行は一方で貸出をして、これを
当座預金にすれば幾らでもふえるが、現金で
窓口から
預金されるものは伸びない、
自分が得た
所得の一部をさいて、
銀行の
窓口に持
つて来る
預金というものは、割合伸びない、それはお互い考えてもわかる、お互いがもら
つたお金の中で、
自分の
生活を支えて、そして税を
拂つて、その上に金を預けるということは今なかなか困難である。むろんないのではないが非常に少い。たとえて申しますれば、昨年度に
——この
数字は正確ではありませんが三千七百億円の
銀行預金が増加しておるといわれておる。しかしそのうちで
ほんとうに現なまを
銀行の
窓口へ持
つて来て預けた金というものは、おそらく二割五分あるいはせいぜい三割だ。三千七百億というが実際は千億くらいのものだ。そこで
銀行の方は、
金融といえばすぐ
日本銀行、こういうふうに世の中の人は考える。普通の場合はそうなんです。
財政を考える場合には、
財政というものはたいてい均衡を得ている以上のものではない。
健全財政にいたしましても、
財政というものはそれ
自体の
性格からいえば、歳出を少くして歳入を確保すればこれは一番いいと思う。
財政に非常に余る金があるというのは特殊な
目的を達成する、たとえば
インフレを牧束する、あるいは
インフレの
再発のおそれがあるから
相当締めなければならぬというような、特殊の
目的に用いらるべきものでありまして、通常の
財政としましては、そういうきびしい
財政の必要はないと私は思う。そういう意味において
政府が数千億
——数千億というと大きいかもしれませんが、せめて二千億以上の
貯蓄銀行を営んでおると、
経済的には私は見得ると思う。それなのに一方の
銀行は今申しましたように
預金が集まらない。
金融といえばすぐ
銀行——日本銀行が締めるからと言う。それは
ちようど空びつへごはんをつげつげと、子供がわんわん言うのとかわりがない。それを依然としてつめて行けばお
ひつはこわれる。そうでなければならぬ
情勢ならばこれもやむを得ない。これは私も金を出してもよろしいが、せつかくごんがちやんと一方のお
ひつの中には一ぱいたいてある。それを
ごはんのあるものを食べずにおいて、新しい米を出して、また飯をたけと、こういう
行き方というものは、とうてい許さるべきことではない。それでなるべく現在のすでにある
ごはんの方を食べて、それをつぐようにつぐようにと私は要求しておる。もし私がそういう要求を強くせずに、
自分が新しい米をたいて、さあさあとや
つたらどうなる。それでは腐
つてしまう。何のためにこの飯があるのかわからない。そして結局新しい米をたいて、次々と出せば、
インフレ的な
傾向をとることはやむを得ない。今
インフレを牧束してこの
政策の基盤をくずさないというのが
根本方針です。それなのに
インフレ的になるようなことをしなさいというようなことは考えられない。それでそういうようなことはいけない。そういうふうに私がやりますことによ
つて、
見返り資金や
預金部資金を、
大蔵大臣がお使いになり易いように、いくらかでもお役に立つだろう。もしも私が新しい米をどんどんたけば、そういう
主婦もありますまいが、少しぼんやりした
主婦になると、こつ
ちの飯は腐らしても、新しい飯の方をつぐというようなことも起るかも知れない。それではいかぬので、こつちを動かしてこつちを動かさぬようにすると
大蔵大臣の助けにもなる。こういう
態度で今や
つておるわけであります。こういうふうにそういう
資金を
使つて、
日本の
経済を
国際水準へと持
つて行くように、
合理化するように、それによ
つて有効需要を喚起して、
日本の
経済が循環して、そこで
金詰まりもずつとよくな
つて来る、そういう
方針で進まんとするときに、あるいは進みつつあるときに、
朝鮮事変というものが起
つた。
この
朝鮮事変の
日本経済における
性質とか
影響は、私はそう大きく何も考えておらない。しかしやはり
朝鮮事変というものが、
国際政局の上において、いかなる意義を持つかということから、分析しなければならぬのであります。しかしそういうふうな
政局の問題については、私がここでかれこれ言う
立場ではない。当面としては、
朝鮮事変というものによ
つて、直接
日本経済に物の
需要が起る。そういうことについての一応の
説明をしなくてはならぬのでありますが、しかしそういうことも、私
どもになかなかわかることでもありません。これはむろん
アメリカの、あるいは
連合国側の事柄である。同時にまたこれはわか
つていても、おそらく軍機に関するところでありましよう。とうていこういうようなことをいろいろとやかく申し上げるわけには行かないのであります。しかしここに
相当需要があることだけは間違いない。現に
皆様方がいろいろ御
承知の
通りであります。言いかえれば
合理化によ
つて有効需要を
国内的に、あるいは何とか
輸出を振興して、そういう面で
有効需要を喚起して行こうというときに
朝鮮事変が起
つて、これが
追加になる。言いかえれば
日本経済というものに大きな刺戟が来たというふうに考えてよろしい。ただあまりこれを過大に考えない方がいいと思う。むろん先ほど申しましたように
朝鮮事変の
性格をどう見るか、これは非常に重大な点でありまして、
日本においてもおそらくいろいろの
方面において研究され、あるいは見通され、あるいは見通すことに努力されておることは疑う
余地がないのであります。見方によ
つていろいろ違うのでありますから、今のところは
相当な
需要がある。こういうふうに御
承知おきを願いたいと思います
そこで
金融面においてどういうことになるかといえば、これがいわゆる
インフレ的傾向をとるという。私はそういう一面はあるが、
日本の
経済が
インフレになるというようなことは考えておりません。また断じて
インフレにしないつもりをしておる。しかしながらこれが
インフレ的傾向をとる。特にこれが今後における
進展いかんによ
つては、
インフレどころではないかもしれない。これは今後の問題でありまして、そう今から心配してもしかたがない。とにかくそこで私は、この刺激を、最も
日本経済の復興に一番いいようにこれを取入れて行く。こういうふうにして
インフレにはしない。しかし同時に
インフレと申しましても、こういうふうな
事変があると、国際的な
物価が上る。
アメリカにおいても
国内物価が
騰貴を示している。各国においても同じである。こういう
事変があると、かりにこれが治ま
つても、国際的に
防衞態勢が強化されることは疑う
余地がない、国際的に
防衞態勢——言いかえれば軍備が拡張されるということになれば、どうしても
国際物価が上昇して行く
傾向になる。
国際物価が上ると、
日本の
物価が若干上る、
上つてもそう心配しなくてもよろしい。こういうふうな形で
日本経済が一応充実を済まして、徐々に立ち直ろうというときとしてはよい
——よいと言うのも語弊がありますが、
やり方いかんによ
つては最も有効になる。こういうふうに申し上げてもさしつかえはないと思います。ただ
朝鮮事変による物の
需要は
為替を通じて起るのであります。さつきもずつと聞いておるうちに、こういう話を
金融面でしております。
特需が起る、そうすると、そつち
方面に
資金が行くから、ほかの
中小企業や農業は、ますます涸渇する。私別に答弁したわけじやないのでありますが、こういう考え方は必要はない、心配はない。若干はそういう
影響はあるかもしれないが。
特需というものは大体
ドルで拂われる。若干の期間的なずれがありますが、
ドルで拂う。
ドルで
日本の
物資を買う場合、
国内では三百六十円の円が支拂はれる。すなわち
ドルが円にかわります。別にほかの
資金を圧迫するわけではない。言いかえればそれだけ
インフレ的になる。
ドルを持
つて来て円にかえる。
国内にある物は持
つて行かれて、円だけ残る。こういう形になりますから、
インフレ的になる。それでそうも言える。そこでいわゆるこの
ドルでさらに
輸入をふやさなければいかぬということになる。
ドルを
ドルのままにして置くと
インフレになる。そういうふうにして
日本の
物資を
ドルで買い付けて
ドルはたまるが
国内に円が出て物は減り、
物価が上る
傾向になるので、その得た
ドルで
物資を
輸入して、
デフレ的な
方向——物がふえる
方向に持
つて行く。まして
日本には
原料資材がありませんから、
輸入がうまく行かぬと、
特需という
関係からも
物価騰貴を生ずるおそれが強いのであります。これは戰時中を考えれば非常によくわかる。非常な
物価統制をしても、
やみ物価が非常に
上つたと同じ
傾向をとるというので、今日は
ドル資金でなるべく
輸入をはかるようにようにと持
つて行く。これは今日大体そういうふうになりつつあることは
皆さん御
承知の
通りと思います。
そういうふうに今後におきましては
財政から、二十五年度は
見返り資金と、
預金部資金を出してもらおうというときに持
つて来て、さらに口が
一つふえた。言いかえれば今申しました
外国為替資金という形から
金融がゆるんで行く。もう
一つ違つた形になりますのは、いわゆる
警察予備隊七万五千と
保安隊八千、これにおそらく数百億の
資金がいるでしよう。これはどういうふうになるのか
予算関係のことはよく
承知しませぬが、大体これは国債の
債務償還をそれだけ減らしてそれに充てる。言いかえればその面からも
資金緩和に若干は役立つ。今後はこういうふうに推移して行く。
要するに私の考えでは、
朝鮮事変というものの
日本経済に対する
影響を、
日本経済の今後に役立つ限度において十分受入れ、かつ取扱
つて行くことが望ましいだろうというふうな見解で、今日進んでおるのであります。後ほど御
質問を受けまして
お答えをしつつ、もう少し今日の事情を明らかにした方がよろしかろうと思います。