○
証人(
末弘嚴太郎君) それでは、いずれ御
質問によりましていろいろ御疑念の点は後程お答えをいたしますことといたしまして、大体この
仲裁裁定を出しますにつきまして、先ず第一には
法律的の見解、これをお述べすることが一番いいのだろうと思
つております。で
あとは
裁定の具体的の内容と、且つそれの理由という点になりますと、必ずしもここで細かくお述べをすることは私一人では不適当で、三人揃
つて説明しなければならない細かいことがいろいろあるだろうと思います。それから又いずれ御必要がありますれば、この
裁定書の中のいろいろの
計算については、もつと非常に細かい
材料を印刷してその後拵えましたから、これを御覧下さると相当
納得の行く点があると思いますが、それだけを申上げて置きます。
それで私共この
事件を扱いまして、それからその後
新聞紙等で
政府がこれを受諾するとかしないとか、
承認するとかしないとかい
つておられるのを聞きまして、実は
公共企業体関係法及び
国有鉄道法の
精神が十分に
一般に御
了解が行
つていないのではないかという疑問も持ちましたので、私共この
仲裁に臨みまするに
当りまして、その点をどう考えたかと言うことを初めに一言申上げます。
私共といたしましては、この
公共企業体関係法というものは、ご
承知のように昨年の七月二十三日の
マッカーサー元帥の書簡の
精神に
従つて、特に
国鉄及び專売局の
労働者については、これは
公務員ではなくして、
公共企業体という、
一つのやはり
公務員、
行政機関ではない、
民間の
企業体、但しこれが
政府の
全額出資であるという、そういう
関係上、又
事柄が公益的であるという
関係上、いろいろな制限がついているが、飽くまでも
一つの
企業体に過ぎないのだ、
従つてこの
企業体の
従業員は
公務員ではなくして、
民間の
労働者である、で
法律につきましても、
原則としては
労働組合法及び
労働基準法の適用を全部受けているわけなんであります。それで
国有鉄道法を見ましても、
予算の問題がありますが、この
予算の
提出方法なども、国の
予算と共に
提出しろというようなことが書いてありまして、実は
公共企業体の
公共性若しくは
政府が
全額出資をしているという
関係から、
国有鉄道の
予算も
国会の
審議を受けるという
建前にな
つておりますけれども、そもそも国の
予算ではないのであります。それで私共そういう
建前から考えておりますので、問題のこの
関係法の十六條及び後の
仲裁の
拘束力に関するあの規定、この両者を通じまして結局
仲裁によ
つて民法上の
司法上の
債務が発生するのである。そうして
予算上及び
資金上可能なる限りにおいては、
公社は直ちに無条件に、
司法上の
債務がある、そうして
予算上
資金上可能なりや否やということは客観的には決ま
つているわけであります。つまりそれが
幾らであるかは、いろいろ
公社の
経理を
調査したりいろいろのことによ
つて分るわけであります。無論そういう
調査については人によつ意見が
違つて、いろいろ
議論もありましようが、客観的には決ま
つておる
事柄であります。つまり何億円は、これは特に
国会の
承認を経なくても、
予算上
資金上
公社限りにおいて出せるべきものだということは決ま
つているわけであります。その限りにおいては
国会の
審議を経ずに
公社としては直ちに
債務があるわけで、私は現在すでに
債務があるのだ、こう考えております。
そこで手続きとしてはどうするかといえば、それは
公社が先ず
責任者としてここまでは、
予算上
資金上
自分限りでできるということを
判断をしまして、そうして
国有鉄道法にありますように、
一つは
運輸大臣に
相談をする、それから進んでは
大蔵大臣に
相談をするという場面があります。それで細かに申しますと、恐らく
あとは
支出権、つまり
公社としての
予算に縛られた
支出権の問題がありますので、
予算を濫りに流用することはできませんから、金があ
つても
支出権がなければ支出できないという面が
拘束として出て参りますが、それを勘定に入れましても、まず第一に全然
公社限りで
支出権がある面というものが或る
程度あるわけであります。その点は
運輸大臣まで
相談をして
支出権のある面があり得ると思います。理論的に……それから
あと大蔵大臣に行くわけです。実際上は恐らく
大蔵大臣のところまで
相談をして、
大蔵大臣も国の
予算がどうだとかこうだとかいうことは全然問題はないので、
公社の
経理上今回
仲裁によ
つてこういう
債務を負わされたについては、どの
程度までは
公社の
予算上質金上拂わせるということが、
法律上及び
公社の現在の
経理上、合理的であるかという事を
判断をして、そうしてその限りは
公社に、つまり
国会に
提出をせずに拂わせる、そうしてその残りの
部分は
国会に出して、そうして
予算を立てて、これだけの
公社が今回
債務を負うたが、これから以上の金は
予算上
資金上できないと思うから改めて
予算を
国会に
提出する。そうして最後の
決定者は
国会であるわけなんです。その前に
大蔵大臣若しくは内閣が国の
財政上どうこうというようなことで、客観的に
予算上
資金上ある金は抑えるべきものであるところのものを、そういう政治的の考慮から濫りに縮めたり何かすることはこれはや
つてはいけないので、仮にそういうことをやりますとどういうことが起りますかというと、
民法上の責務が発生する。そうして
予算上
資金上可能な限りは
国会の
審議を経ずに拂わなければならないのですから、これはそういう、例えば仮に三十億円抑える資力が、誰が見ても、つまり常識がある公平な第三者が
公社の
経理を調べると三十億円はこれは抑える、こういう場合に、
政府がこれは五億円しか
拂わしてはいけないと
言つて、
あとは
承認しないというようなことをやれば、
あとの二十五億円について
労働組合は普通の民事の裁判所に訴えることができるような
債務があるのじやないか、こういうふうに考えられる
法律であるわけなんであります。つまり
公共企業体というものは
民間の
一つの
企業団体で、そうして
労働組合との間の
労働関係は、
公務員の場合のように、いわゆる
公務員の
関係ではないのですから、そこで
仲裁という、ああいう制度もあ
つて、そういう
仲裁で決ま
つた以上はこれで
争議を解決してや
つて行くということであります。
従つて私共
仲裁委員としては非常に
責任を感じまして十分実はできるだけの力を注ぎまして、あれもどのくらいは拂うべきものであるかということ、及びほぼ私共としてはどの
程度は一体拂えるのではないか、それから進みましても、或る
程度以上は今の
予算及び
予算上
資金上抑えない
部分があるということも私共分ります。併し
企業体という
性質上合理的に考えて例えばこういうことも考えられます。今年の場合、十万人ものあの
解雇者を出した、そういたしますとこの結果として、今後、つまり六月に首を切
つたので七月以降は
予算上、
人件費について六分の一からゆとりができて来ておるわけです。そこで
経理学的に考えますと、そのために出すべきところの
解雇手当というものを今
年度の
経上費で全部落すのだというのは非常に不合理なことであります。ですから普通の
民間の場合には、
銀行が特に金を引締めておる今日においてさへ、首切りに対しては
銀行が
民間に金を貸して首を
切つて、
あと合理化させることをや
つておるわけです。然るに
政府は今回の場合は、
国鉄の今
年度の
予算について約十八億
程度の
退職金しか見積
つておらないのであります。そうして結局においては四十何億という金が出たわけです。約三十億のそこに
欠損が出たこれを今までに実際上どうして拂
つたかというと、結局
国鉄の
予算の
方々から削
つて拂つた、恐らくそれは
国会には全然
承認を得ないで
予算の中から、
方々から削
つて出しているのだろう、これには
運輸大臣が
承認を与えるとか、
大蔵大臣が
承認を与えるようなことをしてや
つておられるのだと思います。この三十億というようなものが、今
年度について
予算にはないのです。それを外かから削
つて出したのは、結局ないことだ、これを
経理学的に合理的に言えば、この六分の一の人の首を切
つたということによ
つて経理を合理化するために要した費用というものは、やはり今
年度だけで賄おうとしないで、来
年度、できれば
再来年度ぐらいまで延ばして、毎月々々
幾らかずつ返すような仕組みにやるということは、これは凡そ商売をなす
つた人ならば当然のことなのです。それで私共は結局、仮にここで三十億足りないといたしましても、一月以降については
運賃の値上げが出ますと、そうすると仮に一年で返すとすれば一月から十五ケ月、
予算にすると二億ずつ返す、或いはそこでこれを
一般会計から融通するというようなことを考えないで、尤も私は現在の
政府の
一般会計の
残余額がどのくらいあるだろうかというようなことは、これは実は推算できるので、或る
程度私共
委員会では調べて見ました。それから特に
預金部の金を借りるということは困難だろうかということも、
預金部の金のことも相当調べました。そういうことをしますと、今の
国有鉄道法が、一体
国有鉄道を
公共企業体にしながら一文も金を借りることができないという
法律を作
つたことがそもそも実に無理な話で、金の借りられない
企業体というものぐらい始末の
惡いものは実はないと思うのであります。そこでどうしてもこの貸すということには
法律を作るなり、或いは
予算を建てるなり何とかして貸してやればいいのであります。
一般会計から出さないで今の
預金部からか、何かから三十億、あの大きな
企業体に僅か三十億なんです。これを貸してやりますと、今年の
退職手当のために
欠損ができたところのあの金は、もう
経営として極めて合理的に返
つて行く金に過ぎないのであります。そういうことが大体私共見透しにありますので、
支出面について結局
予算及び
会計法に縛られるから、
支出権というものを得るためにどうしても
国会の議を経なければ、そして新しい
予算を組んで頂かなければ
ならい部分は無論ならないし、そこまで行かないでできる分は
政府の部内限りでやるということで解決を付けて頂けるものと実は信じて、ああいうものを出したのであります。
従つて初めから
政府が
承認するとか、しないとかいうことが、私共には実に無意味千万のことで、
承認するもしないもないので、つまり
公社が
予算上、
資金上できない
部分は
政府が、
自分の方では
反対なら
反対と言われてもよろしいが、
予算だけは
国会に出して、
国会がその
予算を認めるか認めないかということで決まるということが、あの
法律の
建前で、それで仮に
国会がその分を否決すれば、恐らくこの点は
法律解釈上
議論があると思いますが、あの
裁定の結果出た
公社の
債務が、その
部分については履行しないでもいいという
抗弁権でも恐らく
法律上発生するというような
関係になるのではないかとこう考えております。要するに国の
予算若しくは
財政法等の問題からは問題はないので、
あとは
予算……私共のこれはやはり考えたことでありますが、これが果して
政府のいわゆる
賃金政策一般にどういう
影響があるだろうかという問題で、
法律問題ではこれはないわけであります。つまり丁度
政府が今
一般公務員の
給与を
引上げることは
インフレを助長するからいけないということを
言つておられる。その問題とからんだ問題であるので、
法律問題では全然ないので、いわゆる……だから
政府の
財政問題ではないのであります。
そこで
裁定の実体に入りますが、私共は
組合の要求もありますから、当然
賃金の
水準引上げということをなすべきかどうかということを検討いたしまして、これにつきましては
労働関係法の中にありますように、
一般民間の
給与との
比較もしなければならないし、或いは
一般公務員との
比較もしなければならない。この
公務員との
比較をしなければならないという点は、
公務員だからというのではなくして、やはり国が
金額出資をしておる
企業体であり、そうして
予算が
国会にやはり掛かるというようなこと、それからついこの間までは
公務員であ
つたというような
関係上、過渡的には
公務員とやはり
比較を取るということは極く合理的なことで、そういうことが規定されておるものだと思いますが、そこで私共調べましたのは、前の
調停委員会の場合には專ら、
民間の
私鉄の
賃金水準及びいわゆるCPS若しくはCPIを調べられておるのでありますが、私共はそういうことをいたしました外に、実は
国鉄の
労働者の
職種を分けて見まして、そうして
国鉄の
駅長さん、同じぐらいの規模の駅の
駅長さんが
私鉄の
駅長さんではどのくらい
給与を貰
つておるか、或いは
運転手はどうであるか、これが実はあの
労働関係法の要求していることなんで、アメリカにおいては、いわゆる
職階制と称するのは、お上に働こうが
民間に働こうが、同じような
職種のものには同じような
賃金をやるというのが、
司令部の
賃金に関する根本の
原則であるわけであります。ですから、
私鉄がどのくらい
賃金を拂
つているかというようなことと
比較するのは正確でないのであります。何故かと申しますと、
私鉄の如何に大きなものと雖も
国鉄とは殆んど
比較にならないような小さな
企業体で、それで大きい
企業体と小さい
企業体では
経費金の上に、いろいろな違いが出て来ます体から、
私鉄が
幾ら拂つているから
国鉄は
幾ら拂えということも、考えていいことですが、それだけでは決まらないので、むしろ
職種別に相当の検討をいたしました。ただこれは時間がありませんでしたから、完全なことはできませんでしたが、これはよろしく今後
国有鉄道におかれてはそういう
研究を十分にやられる必要があるんだということを、今回痛感いたしました。それであらゆる面から調べてみますと、
組合が要求している
程度に賃上げすべきものかどうかという具体的の数字については、多少の疑問がありますけれども、この
裁定書に書いてありますように、少くともこの
程度の上げ方をする必要があるんじやないかということの一応結論を出しました。併し同時に、
政府があれほど熱心に
インフレを止めるために、いわゆるドツジ氏の
勧告に基いて
賃金をなるたけ上がらないように止めておる
政策を採
つておられ、そうしてやがて
税制改革その他によ
つてこの点は何とかなるということを大いに
言つておられます以上、私共としてこの際その
賃金を上げるということをただすらりとや
つて行くということは、如何にも
一つ国のやはり
機関としてこの
仲裁委員会として採るべき態度ではあるまい。
〔
委員長退席、
理事平野善治郎君
委員長席に着く〕