○太田敏兄君
懲罰制度及びその
慣行等に関する
調査につきまして、その概要を御
報告申上げます。懲罰権の問題につきましては、先に懲罰権
適用範囲に関する
調査を行い、一応その
報告をいたしましたのでありまするが、更にその後、懲罰権の
運用に関しまして種種の疑義を生ずるに至りましたので、昨年十一月十六日、
議長の承認を得まして、
懲罰制度及びその
慣行等に関する
調査を開始いたしたのであります。本
調査に関しましては、
委員会を開くこと三回、外に米、英その他欧洲各国の議会
制度に関する資料をも広く蒐集いたしまして、又今春本院の渡米議員団に依頼いたしまして、アメリカにおける
制度及びその慣行を
調査して貰うなどいたしまして、鋭意
調査を進めたのであります。ただ遺憾でありましたのは、アメリカを除きまする他の欧米諸国に関する資料は最近のものを入手することができないで、
従つていずれも戰前の資料によらざるを得なかつたことであります。今その
調査の大要を御
報告申上げます。
由来、懲罰権は議院の自律権のその基礎を置くものであります。成文的には、
憲法第五十八條第二項の「両議院は……院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。」という
規定に基くものであります。言うまでもなく
国会は国権の最高
機関でありまして、他の如何なる権力にも服従することがないものであります。その当然の
結論といたしまして、いずれの国にありましても、議院は、その役員を選任したり、
会議その他の手続及び内部の紀律に関する規則を定めたり、又は院内の秩序を乱した議員を懲罰したりする権限を有しているのであります。
懲罰の
目的は、第一には議院の紀律を維持して、議事の秩序ある進行を図るためであり、第二には、国権の最高
機関たる品位を保持して、議院の権威を維持することであります。
又懲罰権の対象となりまする懲罰事由は、第一には院内の秩序を乱すごとき
行為であり、第二には議員としての
任務を疎かにするごとき
行為であり、第三には議院の品位を傷けるごとき
行為であり、第四には、議員としての信任に背反するごとき
行為であります。尤も同じような
行為にいたしましても、それが行われたときの状況により、又はその人により、例えばそれが初めての
行為であるか、又は何回も重ねている
行為であるか等によ
つても異なりまするので、一概には申しかねるのであります。
懲罰権の主体は議院であります。我が国におきましては各議院に常任の懲罰
委員会が設けられておりまして、懲罰事犯が生じましたときには、
議長がこれを懲罰
委員会に付託して
審査させ、議院の決議を経て懲罰を宣告する仕組みにな
つており、更にいわゆる懲罰事犯にまで至らない軽度の秩序紊乱
行為等につきましては、
議長の職権を以てこれを警戒したり、或いは制止したり、或いは
発言を取消させたりすることができ、尚、命令に従わないときには、当日の
会議を終るまで
発言を禁止したり、又は議場の外に退去せしめたりすることができるようにな
つていることは御存じの通りであります。
委員会におきましては、
委員長がこれに準じた権限を持
つておりますことも、これ又申上げるまでもありません。
議長や
委員長は
かくのごとき職権を持
つてはおりまするが、これは議院の
機関としての地位に基き、
法律を以て職務上そのような権限を與えられておるからでありまして、
議長なり
委員長が懲罰権そのものを持
つておるわけではありません。懲罰権の所在が議院にありますことは
憲法第五十八條第二項の明記するところであります。
懲罰の対象となりまする者、即ち議院が懲罰することのできます者は、我が国の法制におきましては一応その院の議員だけであります。併しこれは、議員にあらざる者は、たとえ議院の秩序を乱しても、又議院に対してどのような侮辱を加えても、議院から罰せられることは絶対にないというのではないと考えます。若しそのような
行為をなした者がありました際には、各議院はその自律権を以て、その議員であろうとなかろうと、これを処罰することができるものであると存じます。イギリスの
国会のごときは、議員にあらざる者に対しても懲罰権を有し、而してしばしばこれを行使しているのであります。例えば議員の特権侵害
行為又は議会に対する侮辱
行為、議員の議会における行動に対しての悪質の讒謗、賄賂の提供等に対しましては、それが議員にあらざる者によ
つてなされたときと雖も、議院はこれを処罰することができるとせられております。
懲罰の方法といたしましては、議場における訓戒、譴責又は拘禁、罰金等を挙げることができます。訓戒及び譴責は、議員に対しましてはその席においてこれをなすのでありますが、議員以外の者に対しましては、議場の入口に設けられてありまする欄(バー)の所において跪坐脱帽せしめ、
議長から嚴かに訓戒又は譴責せられるのであります。又拘禁は、宣告の後、議員の場合におきましては、議事堂の時計塔に拘禁せられ、議員にあらざる者の場合には司法行政官庁に引渡されるものであります。尤も罰金は一六六六年以来科せられた例はないということであります。これらの
国会の処罰に対しましては、行政官庁も司法裁判所も干渉することができぬことにな
つているのであります。我が国におきましては、
憲法も又
国会法も、議院がその議員を懲罰することができると明記してありますが、議員以外の者を懲罰することができるとは明記してありません。勿論懲罰することができないとも定めてはありませんが、
法律の解釈といたしましては、一応議院はその議員以外の者を懲罰することはできないと解釈せらるべきであると考えます。併しこの点は将来大いに考慮を要する問題であろうと存じます。
次に議院がその懲罰権を行使するには、時間的に如何なる制約があるかという問題があります。その第一は、懲罰事犯たり得る
行為は、
会議中においての
行為だけに限られるか、又はもつと広くして、
会議中ではなくても、議会開会中の
行為であるならば懲罰事犯とすることができるか、又は更に広くして、議会閉会中の
行為でも懲罰事犯として取上げることができるかという問題であります。その第二は、懲罰事犯として取上げられた問題はその会期中に処置しなければならぬものであるか、又は前の会期中に
発生した問題を後の会期において取上げることができるか、若しくは前の会期において未解決とな
つている事犯を後の会期まで持ち越すことができるかという問題であります。
第一の問題につきましては、それは事犯の性質によるものでありまして、
行為によりましては、議会閉会中の
行為でも懲罰事犯たり得るものであると考えます。例えば議員の辞表に無礼の言辞があると認めたときは、
議長はその辞表を懲罰
委員会に付託して
審査せしめることができる。これは参議院規則第百九十二條、
衆議院規則第百八十八條に
規定してあるのでありますが、
かくのごとき
行為は議会開会中でなくてもできることなのであります。
第二に、懲罰事犯は成るべく早くこれを取上ぐべきものであり、且つ取上げたならば成るべく速かにこれを決定すべきものであると考えますが、併しながら、議院に継続
審査の
制度がありまする以上、懲罰事犯が特に継続
審査に付されました場合には、前の会期において未解決とな
つている問題を後の会期まで持ち越すことも差支ないことであると、かように考えられます。ただ如何なる問題でも、
国会期を異にする場合には、これを持ち越すことができないものであると信じます。ただこの
国会期を日本の場合如何に解釈するかは今後において研究さるべき問題であると存じます。
次に場所に関する問題でありますが、議院といたしまして是非ともその紀律を維持せねばならぬところは議場であります。この故に議事の行われます本
会議の議場や
委員会等においてなされました
行為が先ず第一に懲罰の対象となりますことは言うまでもありませんが、それは議場や
委員会以外で行われた
行為は懲罰の対象とはならぬということを意味するものではもとよりありません。殊に議員の不応召や祕密漏洩のごとく、議場の秩序とは殆んど
関係のない
行為でも懲罰の対象とな
つているのであります。この故に、懲罰事犯は議場内において行われた
行為のみに限定せらるべきものではなく、凡そ議員にして
国会法又は議院の議事規則に背いた場合、議場の秩序を乱した場合、議院の品位を傷けた場合には、その
行為がいずこにおいて行われたかを問わず問題となり得るものであると考えられるのであります。
これを要するに、議院の有する懲罰権なるものは、
憲法上、
国会が国家権力の最高
機関たる地位を有することの事実に基く固有の権利でありまして、他の
機関から議院に対して與えられたものではありません。
従つて如何なる権力と雖も議院からこの権限を奪うことはできないものであります。議院からこの権限を奪うことは、即ち議院に対して最高の国家
機関の構成者たる地位を奪うことになるのであります。もとよりこの権限は無制限なものではありません。それは、その
適用せらるべき
範囲についても、又その限度についても、おのずから
一定の限界はあるのであります。その限界は、その国の議院の占むる
憲法上の地位により、若しくはその沿革により、或いは上下
両院の
関係により、又は各院の構成方法等によりまして異なるものでありまするが、懲罰権そのものは議院の有する固有の権限であ
つて、奪われることのないものであると信じます。
以上極めて
簡單にその要領を御
報告申上げました。詳細は別途議院に
提出いたしました
報告書並びに附属資料によ
つて御承知をお願いいたします。以上を以ちまして御
報告を終ります。(
拍手)
—————・
—————