○楠見義男君
只今議題となりました
牧野法案、
家畜改良増殖法案及び
造林臨時措置法案につきまして、農林
委員会における
審議の経過並びに結果につきまして逐次御
報告申上げます。
先ず最初に
牧野法案について御
報告申上げます。畜産の振興と牧野の生産性の維持向上及び牧野経営の合理化とが極めて密接不可分の
関係にありますことは、ここに申上げるまでもないところでございます。
従つて牧野の改良は古くからその必要が強調せられてお
つたのでありまして、
昭和六年に現行牧野法が
施行せられ、
法律的にも牧野の改良が制度化されたのでありますが、この
法律は当時の国情をも反映いたしておりました
関係上、軍馬資源の涵養という目的もあり、又その内容におきましても強制設立、強制加入制度を伴う牧野組合に関する事項が主要なる部分をなしておつたことは、御承知の
通りであります。併しながらこれらの情勢は、終戰後の今日の下におきましては全くその趣を異にするに至りましたし、更に又戰時戰後を通じて行われた過放牧や牧草濫穫等によ
つて、牧野中には漸く荒廃の度を加え、このまま放置することは徒らに土壤の侵蝕を受け易い
状態に放置することとなるものも生じ、国土の保全上も重要な問題とな
つて参りましたので、この新情勢に即応するためここに現行牧野法を
全面的に改廃し、新たなる観点に立つこの新立法をなさんとするのが本
法案制定の理由であります。而して今回の新牧野法は概ね次の三つの事項を主たる内容といたしておるのでありまして、即ちその第一は、
地方公共団体の管理する牧野については牧野管理
規程を作成せしめ、これにより共同利用形態にある牧野の利用を最も効率的ならしめんとするものでありまして、このことは、
地方公共団体の管理する牧野は、団体の性格等に鑑み、自作農創設特別措置法におきましても特に牧野買收の対象から除外しておるのでありますが、一般的にはその利用
状態が悪く買收除外の
趣旨にも副
つていない
現状のものもありますので、その利用価値を高めるため、その管理者に、本法の
規定に基き牧野の維持改良に必要な牧野管理
規程を定むるの義務を、新たに課しておるのであります。第二の点は、保護牧野の制度でありまして、即ち
法律の第九條において「牧野が著しく荒廃し、且つ、保水力の減退、土地の侵しよくその他の事由により国土の保全に重大な障害を與えるおそれのある場合において、その障害を除去するため必要があるときは、都道府県知事は、その必要の限度において、期間及び区域を定め、当該牧野の所有者その他権原に基き管理を行う者に対して、草種又は草生の改良その他牧野の改良及び保全に関しとるべき措置を指示することができる。」ことといたしておるのでありまして、知事がこの指示をなすに当りましては、当該牧野の所有者その他の
関係者に十分
意見を述べる機会を與えますると共に、この指示を実施したため損失を受けた者に対しましては、国がその損失を補償することといたしておるのであります。
第三は、牧野の害虫駆除に関する点であります。即ち牧野に害虫が発生し、これが他に蔓延する虞れのある場合において、都道府県知事は必要があるときは区域、期間及び駆除の
方法を定め、当該牧野の所有者その他権原に基き管理を行う者に対し、その害虫を駆除すべき旨を指示することができることといたしておるのであります。尚、以上の牧野改良及び害虫駆除事業に対しましては、国において必要な資金の融通、牧野草の種子及び牧野樹林の種苗の供給等に関し必要なる奬励措置を講ずる旨を
法律の
規定上明らかにいたしておるのであります。本
法律案制定の
趣旨及びその主なる内容は大体以上の
通りでありますが、
委員会は本案の
審議に当りましては、先ず牧野についての
現状、牛馬の放牧
状況、国有林野解放の実施方針、牧野と農地改革との調整等の問題について質疑を重ね、玉逐條
審議をいたしたのでありますが、それらの経過につきましては、その詳細を
会議録によ
つて御承知願うことといたします。
かくて
委員会は愼重
審議の結果、各
委員共同提案を以て原案に修正を加えることといたしたのであります。即ちその修正点は
施行期日に関する部分でございまして、原案においては本法は公布の日から起算して九十日を超えない範囲において政令を以て定めることといたしておりまするのを、保護牧野に関する本法第三章の
規定の
施行期日を他の
規定の
施行期日と切離し、明二十六年四月一日から
施行することといたしたのであります。その修正理由は、先程も本案の内容の第二点として御
説明申上げましたごとく、都道府県知事が牧野の改良保全に関し必要なる指示をなし、それによ
つて損失を受けたものに対しては国において
予算の範囲内で補償することにより後始末を付けることといたしておるのでありますが、その必要なる
予算が本年度
予算には計上されておりませんので、かくては損失を受けた者に対する
救済の途がなく、
法律の建前から申しても不穏当でありますので、次の
国会において
予算の計上を待
つてから
関係規定を
施行することが妥当であると認めたからでございます。尤も次の通常
国会に至るまでの間において臨時
国会等が開かれ、その際に必要なる
予算が成立いたしますれば、その際は改めて
改正し、
施行期日も繰上げたいと
考えております。
以上の経過を経ました後、
委員会は
討論、採決の結果、
全会一致を以て本案を一部修正
議決することに
決定いたした次第でございます。
次に、
家畜改良増殖法案について御
報告申上げます。
家畜の改良増殖の基本
條件として、優良種畜の確保及びその利用増強が如何に重要であるかはすでに御承知の
通りでありまして、
従つて現行の種畜法により鋭意その
施策が進められておるのでありますが、本
法案は種畜法
施行の経過に鑑み、その一部を
改正して本法にこれを包攝いたしますると共に、最近急激な普及を示しておりますところの家畜人工授精の健全なる発達を図るために、これに必要な規制を加えんとしておるのであります。本
法案の主な内容は、種畜の確保と家畜人工授精の二点でありますが、同時に本法制定に当り、
法律の第二條の
規定において、国又は都道府県は家畜の改良増殖の促進に有効な事項については積極的にこれを行わなければならない旨を明らかにいたしておるのであります。
次に、
法案の内容の第一点たる種畜の確保につきましては、
只今も申上げました
通り、概ね現行種畜法を踏襲し、即ち原則的には種付の用に供する家畜の雄はその判定基準を統一する必要がありますので、農林大臣が毎年定期又は臨時に行うところの検査を受け、種畜証明書の交付を受けておるものに限るのでありますが、不測の事故により種畜を補充する必要が生じたときはこれを機動的に行わせるために、都道府県知事をして臨時に種畜検査を行わしめ、種畜を補充せしむる途を新たに開くことといたしておるのであります。
第二に、家畜人工授精の点につきましては、その健全な発達を図るために業として家畜人工授精の仕事を行うものを都道府県知事の免許制度とし、又家畜人工授精所の開設につきましても、同じく知事の許可制度といたしまする外、家畜人工授精用精液の採取、処理、検査、讓渡等につきましても、所要の規制を加えることといたしておるのであります。このことは元来家畜に対する人工授精術の応用は
我が国におきましても十数年以前から試みられておるのでありますが、特にここ数年来急激に普及し、
政府の普及推進と相俟
つて現在飛躍的発展の段階に達しておる
実情でありまするだけに、一歩その運用を誤れば将来の健全な発達に重大なる
影響がありますので、この際これに適当な規制を加え、その適正なる実施を確保せんとする
趣旨であります。
次に、本案の
審議に当り、
委員会において最も問題となりましたのは、種畜の検査手数料に関する点であります。即ち
法案の第三十六條において、農林大臣又は知事の行う種畜検査に対し、千円以下の手数料を徴することとな
つておるのでありますが、これは毎年徴收することになるばかりでなく、現行種畜法においては手数料を徴しておらず、而も家畜改良増殖法と銘打
つて積極的に大きく乘り出そうとする際、逆に従来の無手数料主義から徴收主義に移行することは、むしろ逆行であり、更に国の検査に要する経費はすでに二十五年度
予算にも計上せられておる事情から申しましても、一層その矛盾が感ぜられまするので、
委員会は各
委員共同提案を以てこの検査手数料は従来
通り徴收せられないよう修正することといたしたのであります。
又質疑終了後、
討論においては、岡村、
羽生、藤野等の各
委員より、真にこの
法律の題名に即応するごとく具体的な法の運用において、或いは畜産の振興と将来の食
生活改善との関連において、
政府の更に一層の積極的
努力の要望がございました。以上の経過を経たる後、本案は
全会一致を以て原案に一部修正を加えたる上、これを
議決することと
決定いたした次第であります。
最後に
造林臨時措置法案につきまして御
報告申上げます。先ず
法律案提出の
趣旨並びにその内容について申上げます。
我が国の森林が戰時及び戰後の過伐、濫伐によ
つて著しく荒廃し、その結果森林資源の甚だしき減耗はもとより、数次の大水害の直接間接の原因となり、
従つて治山治水の緊急性よりして造林の必要が一般に強調せられ、本
会議上においてもしばしば論議せられましたことは御承知の
通りであります。即ちこれを具体的数字について見ましても、過去十年余に亘る植伐不均衡による結果は、
昭和二十三年において国有林で約三十万
町歩、民有林において約百二十万
町歩、合計約百五十万
町歩の伐採跡地の造林未済地が累積しておる実状でありまして、このような森林再生産過程における著しい不均衡が、国土の保全はもとより将来の林産物需給の上にも重大な支障を招くに至ることは、ここに多くを申上げるまでもないところであります。
従つてこの問題解決のためには
政府も
努力いたして参りましたが、
国会といたしましてもその独自の立場から特に重大な関心を拂い、ときには
決議の形を以てその
意思の表明を行な
つたのでありますが、なかんずく再造林を確保し、林業成立の基礎を確立することの緊要性を痛感いたしまして、夙に衆参両院有志議員を以て組織する林業懇話会において、これを
法律的にも制度化すべくかねて
研究が続けられ、前
国会においてその成立を企図いたしましたことは御承知の
通りであります。時たま時たま
政府の側におきましても同様の計画がありましたので、両者の緊密なる連繋の下に、
政府提案の形を以てこれが実現に努めたのでありますが、時間的に手続が遅れましたのと
予算的措置が不十分のため、遂に前
国会においては間に合わず、漸く今
国会において提案の運びと
なつた次第でありまして、本
法案を裏打ちとして他方造林費に対する
補助金の交付、資金の融通等の措置を講じ、
政府の造林五ケ年計画におきましては、今後の伐採跡地も含め、民有林において二百万
町歩の造林を予定いたしておるのであります。
次に本
法案の内容について概略申上げますと、先ず
法案の第一條において本法の目的及び
趣旨が明らかにせられておるのでありますが、即ち第一條において「この
法律は、森林資源を培養して国土の保全を図るため急速に森林を造成することを目的とする。」第二項において「この
法律の
規定に基く行政権の発動は、前項の目的を達成するため必要な程度に限定されるべきであ
つて、これを濫用してはならない。」と
規定せられ、同じく第三項においては「
政府は、造林に関する
補助金の交付、資金の融通、苗木の確保その他の
施策の実行に当
つては、この
法律に基く造林の実施を確保するように努めなければならない。」旨を明らかにいたしておるのであります。次は造林地の指定でございますが、
法律の第五條において、都道府県知事は、この
法律施行のときから五ケ年間現に存する「伐採跡地、無立木地若しくは散生地たる森林又は原野(中略)であ
つて緊急に造林を行うことを必要とするものを造林地として指定することができる。」のでありますが、その指定をなすに当りましては第一に「森林資源を培養して国土の保全を図るため、その造林を必要とすること。」第二に「当該
地方における総合的な土地利用の見地から、その造林を
相当とすること。」第三に「技術的且つ経済的にその造林が可能であること。」の三つの基準に適合することが必要とせられるのであります。又造林地を指定するには、その造林計画を定めてすることとし、造林地の指定があつたときは、その所有者又は使用收益権者が、造林計画に定められた期限までにその計画に
従つて植栽を完了することが期待されておるのであります。次に造林者の指定でありますが、造林地の所有者又は使用收益権者が造林計画に基いて植栽を行う
意思があれば、その旨を予め一定期日までに申し出させることとし、その
申出がないときは別に造林者を指定しその者が代
つて造林を行うのであります。又造林地の所有者或いは使用收益権者が造林をするつもりでその
申出をした場合でも、造林計画に定められた期限までに植栽を完了しなかつたときは同様に造林者を指定することとしております。尚右の植栽期限につきましては
法律の十五條におきまして「苗木を入手することができないため当該造林計画に基く植栽をすることができないとき」或いは「造林に必要な資金の融通又は
補助金の交付を受けるべき者が、その融通又は交付を受けることができなかつたため当該造林計画に基く植栽をすることができないとき。」等の場合には、当然期限の延長を認められておるのであります。次は地上権の設定でありますが、造林者の指定を受けた者は、造林計画に定められた期限までにその植栽を行うために、造林地の所有者に対して造林地の地上権の設定に関する協議を求めることができるものとし、協議が調わないときは都道府県知事が裁定することとしておるのであります。指定造林者の植栽した林木は、地上権設定の際取決めた割合で、指定造林者と造林地の所有者との共有となるのであります。
最後に農地及び林地の調整問題につきましては、自作農創設特別措置法により開拓適地として指定され、又は未懇地若しくは牧野として買收されたものにつきましては、造林地の指定をすることができないこととすると共に、造林地については自作農創設特別措置法による指定又は買收の処分ができないこととし、林地と農地、牧地との土地利用を調整し、且つ造林地の経営の安定を確保するよう措置しておるのであります。
以上の経緯を経て、又内容を以て提案せられました本案の
審議に当りましては、
委員会は造林五ケ年計画の内容、苗木確保の問題、造林資金融通の見通し等について検討いたしますると共に、逐條的にも
審議いたしましたる結果、本案の実施につきましては、これと密接なる
関係にある造林費補助総額の増額、資金融通の確保、優良苗木の養成、山林課税の適正合理化等につき、尚今後
政府の特段の善処或いは
努力を必要とすることを認めまして、これらの点について質疑に際し或いは
討論において各
委員より熱心なる希望が附せられましたる上、採決の結果は
全会一致を以て本案は
衆議院送付原案
通りこれを可決すべきものと
決定いたした次第であります。
以上御
報告申上げます。(
拍手)