○波多野鼎君 私の御
報告すべき事項はアメリカの
経済並びに
政治の重要問題についてであります。
時間が余り長くございませんので取急いで申上げますが、いろいろの問題に我々は滯在中接したのであります。尤も我々の本来の使命は民主議会の運営方法を研究するということでありましたので、アメリカ
政府側の我々に対して
作つて呉れる
日程が大体そこに集中されておりましたために、我々がアメリカの
経済の
実態を把握するとか或いは
政治の重要問題が一体どういう
意味で取扱われているかということをはつきり掴む時間の余裕がなか
つたのでありますが、そういう暇を盗んで調べたことだけを御
報告申上げることになるわけであります。
先ず第一にアメリカ
経済の展望の問題でありますが、御
承知のように昨年の上半期に相当の不景気に見舞われましたのでありますが、下半期からアメリカの
経済に徐々に回復をしまして、今年の正月になりますと更に一段と回復をして来ているようであります。一つ
数字を挙げますと、一九三五—三九年を基準として、昨年の十二月に工業
生産が一九七であ
つたのが、今年の一月末には一八二に上
つておるというような
状態で、大体一昨一九四八年の好景気時代に近付いておるということが言われておりました。今後はどうなるかというと、今年度の上半期中はこの上昇が続くであろうというのが異口同音の観測であ
つたのであります。下半期はどうか。これはいろいろ問題があるけれども、恐らく景気を後退させるような
政策はとらぬだろう、人為的にでも景気を上昇させるだろうというようなことを多くの人が言
つておりました。多くの人と申しますのは、私は
議員から聞いたことでありますが、言
つておりました。それは今年の十一月には上院の三分の一の改選と下院の総選挙がございますので、共和党も民主党もとにかく選挙に備えていろいろやらなければならぬから、不景気になるようなことは一つもしないということを申しておりました。さて、今年の上半期が上昇する理由、どういう理由で上昇するのだということを調べて見ますと、一番大きな理由として
政府側が発表しておりますところでは、それは国内の市場が回復した、つまり国民の購買力が大きくな
つて来ておるということが一番大きな理由だと言
つております。その国内の購買力の
増進の中心をなしておるものは労働賃金の上昇である。これは非常に我々として注意すべき点であると思うのであります。(「民自党分つたか」と呼ぶ者あり)戰前に比較しまして最近の賃金の上昇は二倍半乃至三倍にな
つておる。各業種について多少違いますが、二倍半乃至三倍にな
つておる。これは物価の騰貴率を遥かに上廻
つておるということから、購買力が
増進しておるというふうに説明されております。尤も他面において失業者が昨年から非常に出たじやないかという問題があります。現在の失業者の数は四百五十万と発表されておりますが、この四百五十万の失業者があるために
労働者階級全体としての購買力にマイナスが起きておるのじやないかと言われておりますけれども、これは
政府側の説明では、トルーマン
内閣は社会保障
制度の拡充を熱心にや
つておる。失業手当なども段々増額しておる。イギリスの労働党ほどのことではないが、とにかくあの
方向を指して
政策をや
つておるので、失業手当も殖やして来ておりますから、失業者が四百五十万あ
つても、そのことによ
つて労働者階級全体の購買力は減らないのだというふうに説明しておりました。この社会保障
制度を中心とするいわゆる福祉国家の考え方、ウエルフエア・ステートの考え方、これは御
承知のように民主党の一枚看板でありますが、これに対しまして共和党側からは、このウエルフエア・ステートの考え方というのはこれは一つの社会主義である。社会主義だから怪しからんというふうに
反対をして、相当猛烈な
反対をしておりました。このあたりが共和党と民主党との
政策の大きな違いの点であろうと思います。勿論共和党は企業の自由、自由主義ということを立前にしておるのであります。かように景気は大体上昇するということを言われておりますが、但し大きな問題があると思う。それこ工業
生産物の
価格と
農業生産物の
価格の開きなんであります。いわゆる鋏状
価格差が段々大きくな
つて来ておるというところにアメリカ
経済の一つの大きな問題があると考えたのであります。農産物は御
承知の
通りに一昨年からの
世界的な
生産過剰の影響を受けまして、アメリカでも過剰
生産にな
つておる。
価格は自然のままに放置しますれば、ぐんぐん下落する傾向が強い。そこで農務省におきましては農産物
価格維持の
政策をとりまして、そうして農産物の買上げを大規模に実行しておるのであります。今農務省が直接間接に支配しておるところのこの農産物買上げの資金は大体四十七億五千万ドルトいう厖大な資金を擁して買上げをや
つておる。特に棉花、
小麦、玉蜀黍、更に「じやが
いも」、その他農産物はあらゆる種類に亙
つて買上げをや
つて来て、市価の維持を図
つて来たのでありますが、これだけでは足りない、もう少し買上資金を殖やさなければならぬというのが、丁度我々が着いた頃の問題であ
つたのであります。我々がワシントンを去る頃にや
つてこれが議会を通過しまして、この買上資金が二十億ドル更に
増加されたのであります。現在では六十七億五千万ドル、これだけの資金を以て五〇年度の農産物の
価格の維持を図ろうということをや
つております。買上げたものをどうしておるのかと言いますと、現在の農務省の手持ち農産物が大体三十六億ドルに上ると発表されております。それ程厖大なものを手持ちしておる。ちよつと我々面白いと言
つては語弊がありますが、
日本の問題と関連さして興味深く見たのは「じやが
いも」の問題であります。「じやが
いも」も相当
多量に買上げられておりますが、これはなかなか
貯蔵ができない、腐
つて来る、そこで何とか処分しなければならぬ。これを
農民に売り戻したのでは市価が崩れて行くというので、これは人間が食べられないような形にして、つまり豚などにしか食べられないような形にして拂下げる。その拂下
価格は殆んど只なのであります。即ち買上げるときには百ポンドについて二ドル四十セント見当で買上げておりますが、これを拂下げるときは百ポンドただの一セントで拂下げております。それでは、そういうことをしてお
つて消費者が高い「じやが
いも」を食べさせられておるということから、消費者から不平があるのじやないかということを聞きますと、それはそうでもない、不平も勿論あるけれども、カナダから「じやが
いも」が入
つておるという話なんであります。カナダの方ではもつと
生産費が安くでできるために、運賃から
輸入税を拂
つても百ポンド大体二ドル見当でアメリカへ入るそうです。これが相当入
つておるから安く食べられるという話なんで、どうも我々は甚だ辻褄が合わぬように思うのですが、とにかくそういつたような相当無理な点を含んだ農産物
価格維持をやらなければならぬ
状態にあるというところに、大きな問題があると私は考えたのであります。
次に予算の問題でありますが、これは御
承知のように、今年度の予算の大まかな
数字は、歳出が四百二十五億ドル、歳入が三百七十五億ドル、赤字が差引五十億ドル見当、こういうようなのが大まかな
数字であります。五十億の赤字を含んだ予算案が出ておるわけなんであります。その歳出の中で百三十五億ドルが軍事費にな
つております。ここに又いろいろ問題が出て来ておる。
世界平和の問題、或いは冷たい戰争の問題と絡んで、この軍事費にいろいろ問題があるわけなんであります。丁度我々がサンフランシスコに着きましたときに、トルーマン大統領が水素爆彈の製造指令を出したということが非常に大きなセンセイシヨナルな記事として掲げられまして、初めて水素爆彈というものを知つたわけでありますが、この水素爆彈を仮に作るとすると、工場設備だけに何十億という資金が要るということが新聞などでは言われております。そういうようなことをや
つて行くと、軍事費の方でもつともつと殖えて来なければならぬが、一体すでに五十億の赤字を持
つておるような予算で更に軍事費を殖やすことができるのかどうか。一方では納税者の方からいうと、第二次欧州大戰中、戰時増税ですね、戰時にやつた増税、それがそのまま残
つておる。戰争が済んでもまだ一度も減税をしておらない。早く戰時税だけは減らせという声が一方にあります。強くあります。そういうようなことから冷たい戰争を早く終結させなければならないという輿論が相当強く各方面から出て来るのは当然だろうと思いますが、そういう
世界平和確立運動、特に原子力の国際管理を早くやれという動きが、特に水素爆彈の問題が出て以来強くな
つているように感ぜられました。その先頭に立
つておるのは言うまでもなく宗教団体でありますが、注目すべきことは、この原子力の問題について調査研究或いは指導的な地位にある自然科学者が大挙して、この原子力を国際管理に移さなければ大変だ、結局人間の智慧は地球さえも破壞することになるかも知れないというようなことを警告してお
つたのが、特に注目すべき問題であつたと思います。
さて冷たい戰争をそれじやどうや
つて終結させるかという問題につきまして、いろいろの意見が新聞雑誌にしばしば出て来ておる。その意見をまとめてみますと、大体アメリカの武力を充実することが冷たい戰争を終結させるための必要な前提
條件だという議論が一方にある。それから他方には、そうじやない、武力に対して信頼を置くような考え方では平和は実現できない。人間の理性に対する信頼心を持たなければ平和の実現ができないからという
反対の考え方、極端に
反対した考え方がある。更に又、それじや冷たい戰争を終結させるためにどいう道筋をとるのか。どういう方法をとるのか。一方では丁度イギリスの総選挙の最中にチヤーチル氏が提案したような、大国の間の
首相会議或いは外相会議を開いて、それで原子力問題の解決の糸口を作れという議論がある。併しこれに対しまして、それはいかん、そうじやなくて、国際連合という一つの国際機関があるじやないか、国際連合において原子力管理の問題は四年間取扱われて来ておる、又現に取扱いつつある、だから国際連合の手を通じてこれをやるべきだという主張が一方に対立する。今日の新聞を見るとアトリー
首相がソ連と話合いするつもりはないということを言
つております。そういう記事が出ておりましたが、この
意味は、いわゆる大国間の話合いで原子力の問題を解決するつもりはないというだけのことで、国際連合を通じてやるということにアトリー
首相が
反対であるとは考えられない。まあこれは一つの私の観測ですが、そういうふうに
理解されると思
つております。ところが国際連合の問題になりまして、これは国際連合の本部に我々一度参りまして、リー事務総長からいろいろ説明を聞きましたが、この国際連合にと
つて今最も大きな問題は御
承知のように中国の代表をどうするかということであろうと思います。まだ今では国民
政府の代表者が中国の代表として国際連合に来ておる。本国では中共の政権が確立されておるという、そのところに問題があるようで、この問題を解決しなければ国際連合は動かない。そのためにリー事務総長あたりは相当苦心しておることが新聞等でよく見られたのであります。とにかくそういうふうないろいろな意見が勿論ございますが、そういう意見を通じて我々が看て取り得ることは、アメリカはいろいろ言いながら
世界平和の確立の
方向に一生懸命進んでおるということは確かだと思うのであります。我々に対しましてよく冷たい戰争をどう思うかということを
質問いたしましたが、我々は冷たい戰争なんて困る、熱い戰争などは尚困る、一番困るのは
日本だ、一番
世界平和を強く念願しておるのは
日本であるということをいつも申しておりましたが、アメリカの全体の動きはやはり同じような
方向に進んでおると考えられるのであります。
それからもう一つ、もう少し時間がありますのでもう一つ申上げますが、ヨーロツパ復興援助の問題であります。これは相当注目すべき動きが出ておることを看取したのであります。マーシヤル・プランによるヨーロツパ復興の第三年度の予算が出ておりますので、丁度その我々が傍聽いたしました上下両院の外交委員会の合同委員会、この合同委員会にアチソン長官とホフマン長官の二人が呼出されて説明させられておりました。呼出されてというのは少しおかしいが、先程高田君が言われましたように、
政府側はこれは国民の公僕である、
議員は国民の代表だ、だから
議員が公僕を呼出して、そうして公僕がどういうふうな仕事をやろうとしておるかを確かめるという形が現われておるわけなんで、(
拍手、「
異議なし
異議なし」と呼ぶ者あり)委員会の構造を見ますと、丁度この議場に比べて見ますと、この今大臣席にな
つておるのがこれは委員の席であります。委員がここに掛けております。この
議員席は丁度傍聽席なんです。ここが傍聽席であり、この間は少し開いておりまして、ここの所にホフマン長官、アチソン長官が出て来て、こちらを向いて証言する。委員の方に向
つて……。傍聽者はそちらにおります。こういう構造なんで、そういう構造を見て参りますと、
日本へ帰
つてみると甚だどうもそぐわないところが(
拍手)沢山出て来るのですが、そこでアチソン長官、ホフマン長官が証言をさせられておる。で、その証言を我々は外交官席に招待せられて、外交官席から、ちよつと高い所、この横でありますが、高い所から見下して聞いてお
つたのでありますが、今年度の予算は大体二十九億五千万ドル、欧洲復興費、これはまあ昨年度に比べて十一億ドルくらい減らしてありますけれども、この三十億ドルの中から六億ドルを天引きして、各国に割当てる前に天引きして、そしてフリー・ダラー、自由ドルという基金を作つた。そうして欧洲の各国間の貿易尻の決済をこの六億ドルによ
つてや
つて行こうという案が出ておつたわけなんです。その案をホフマン長官あたりが説明しておりました。これは一つ大きな
意味がありまして、ヨーロツパ復興について、ヨーロツパのようなあんな狭い所に沢山の国があり、そしてその沢山の国がそれぞれの独立の
経済單位としてや
つておつたんじや駄目なんだ、国が独立してお
つても、
経済單位としては一つにしなきや駄目だという意見が前々からありましたが、その意見の現われが恐らくこれだろうと思
つたのでありまして、先ず通貨面から、為替決済のその通貨面からヨーロツパを一つの
経済單位として仕上げて行こうという考え方がはつきり出ておるように思
つたのであります。アメリカの
経済は先程申しましたような過剩
生産の傾向が現われておるときでありますので、この
世界経済の回復なくしてはアメリカ
経済の回復はない、もうアメリカは
世界経済全体に対して責任を負わなきや駄目だというような意向が非常に強く各方面にありまして、その現われが欧洲復興
計画における自由ドルの考え方としてできておると思
つたのであります。
以上
簡單でございますが御
報告申上げます。(
拍手)
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〔大隈信幸君
発言者指名の許可を求む〕