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帆足計君
我が国における
結核患者の数は百五十万と言われております。従いまして五十人に一人或いは十世帶に一人の割合で
結核に苦しむ不幸なる
患者がいるわけでございます。
結核が
当人並びに
当人の家族並びにその周囲に與える
苦痛、及びその
治療の長期を要すること、並びにその物質的、
精神的苦痛の如何に悲惨なものであるかということにつきましては、
同僚議員各位の十分
承知せられるところでございます。而も
結核の最も恐るべき特質の一つは、それが社会的な疾患であるということでございます。従いまして、
結核が
我が国に與えております
打撃、
我が国の
経済に與えてあります
打撃だけを勘定いたして見ましても、專門家の統計によりますと年間一千億に達する損害を與えておると計算されております。然るが故に、私は
結核対策の
強化、特にその
予防、早期の発見並びに
治療の
強化は、
政府並びに
国家が非常なる努力を傾注せねばならぬところの刻下の急務中の急務であると考えるのでございます。
御
承知のごとく
結核の死亡率は欧米では今非常に少くな
つております。例えばイギリスにおきましては五%、アメリカでは四%、デンマークでは三%という数字になりました。もう
結核はさのみ重要でない問題にな
つておるに拘わらず、
我が国におきましては実に一八%という大きな死亡率を示し、世界第一の
結核国たるの悲惨なる
現状に置かれておるのであります。近年における
結核病理学の進歩は幸いにして非常なる発展を示し、第一にはBCGによる免疫の
確保、第二には赤沈、レントゲン検査その他の検査によるところの早期発見の可能性、第三には気胸整形手術等によるところの医療法の進歩等によりまして、もはや我々が真劍なる努力をしますならば、これをなくし得るところの見通しを立て得る段階に達しておるのでございます。而もここに更に
結核治療につきましての一大福音は、ズルフオンアミド剤、ペニシリンに引続きまして、化学療法の一大進歩といたしまして新たにストレプトマイシンを発見し得たということでございます。御
承知の通りマイシンは
結核に対して必ずしもまだ万能なものではございません。少くとも空洞性の
結核並びに慢性の
結核は未だ手の届かざるところでございます。併しながら初期の
結核患者四十万並びに特殊
結核患者と称せられる最も悲惨なる腸
結核、喉頭
結核又は
結核性脳膜炎等の二十万の特殊
患者、これらの最も苦しい而も従来不治と言われておりました方々に対しまして、マイシンが独得の効能を持
つておりますことは、もはや医界におきまして確認されるの至り、昨年の十一月にアメリカにおきましてはこれを国民医療のリストに掲示するに至
つたのでございます。
現在百五十万の
患者のうち
只今申上げましたように四十万の初期の
患者があり、二十万の特殊の
患者がございまして、合計六十万はこのマイシンの適応症でございます。この六十万の
患者に対しまして本年度の凡その見通しは、その後若干増加したことと存じまするけれども、昨年末における
政府当局の御
答弁では、大凡輸入が一万人分、
生産が一万人分、即ち六十万の適応症に対して僅か二万人の手当しか付かない。二十万の特殊
患者に対して僅か二万人分の手当しか付かないというような数字にな
つております。従いましてマイシンが極度に欠乏いたしておりまするために、
只今一キユールのマル公は凡そ一万四、五千円でございましようけれども、それが闇では十万円、五、六万円出しましても手に入りかねるような
現状でございます。このような次第でありまするので、これが対策は実に急務中の急務でございます。従いまして当面の対策といたしましては、先ず第一に輸入に依存する以外に途はなかろうと存じます。現在ガリオア資金によりまして若干のものが輸入されておりまするけれども、今後ローガン構想によりましてボンド資金又はドル資金を獲得することができますならば、私は至急に輸入を増加して頂きたいと存じます。国民は一年のうちコーヒー茶椀一杯の砂糖を節約しても、各国民が一個のパンを節約しても、その節約した為替資金を以ちまして二十万の
患者を救うことに、私は少しの御異存もなかろうと考えております。第二にはマイシンの
生産確保のために直ちに準備し
生産を開始する必要がございます。由来
我が国は濕度が高く、微生物の化学に適しておる国でございます。皆さん御
承知のように、ペニシリンによ
つて如何に多くの貴重なる人命が救われたかということは、皆さん毎日御体験の通りでございます。ペニシリンのごときも、すでにその品質、価格におきまして、もはや国際水準に近付き得るところまで到達いたしました。併しながらストレプトマイシンの
生産の特色はペニシリンと違いまして、極めて大規模の設備を必要とするということでございます。
只今技術者の方々のお見積りでは、この設備に一社当り概ね一億円乃至一億五千万円の設備資金を必要とするということにな
つております。而も化学
生産の特色として少くも二年くらいはコストが高い。従いまして、このようなストレプトマイシンの
生産を緒に付けまするためには、どういたしましても一定期間の保護育成政策を必要とする
現状でございます。このような意味におきまして、私は
政府当局がストレプトマイシンの
生産確保の重要性をよく御認識なされ、こと人命に関する重要国策の一環として、将来の輸入ということも併せ
考慮しつつ、業界が即ち
生産者が合理的條件の下に安んじて
生産の着手し、即刻準備し、
生産を関始し得るような條件を作ることが国としての責任であると存じます。
このための條件といたしまして私共が
政府に要求いたしたいことは、第一にはマイシンの
生産設備資金の
確保でございます。現在マイシンの
生産開始にとりまして、その準備にとりまして最大の隘路は、この
生産資金が手に入らないということでございます。設備資金
確保の見通しが未だに付いていないということでございます。すでに数社のマイシン製造工場は薬事法の許可を得まして着々と準備を整えておるのでございまするけれども、遺憾ながら本格的
生産にまだ着手し得ないような状況に置かれておるのでございます。勿論均衡予算の今日、資金の工面ということは非常なる苦心を要するところでございますけれども、私はストレプトマイシンのこの重要性ということから考えまするならば、
政府は万難を排して、先ず第一の案としましては見返資金の中からこれを融資すべき性質のものであろうと存じます。第二に次善の策としましては、生命保險会社又は興銀等のごとく、長期資金調達の途を、力を有しておりまするところの金融機関の助力を仰ぐべきものであろうと存じます。尚更に市中銀行の理解を増すことも極めて重要でございます。これらの点につきまして私は
政府がこの際マイシンの重要性に思いをいたし、これらの資金調達の途を開くために万全の努力を盡されることをお願いいたしたいのでございます。
第二には技術の問題でございます。この点に関しましては、ペニシリンの
生産技術に対しましてアメリカからフオスター博士が参られまして、非常なる努力をして下さいました。我々は更にこの例に倣いまして、連合軍から技術顧問を派遣して頂くように努力せねばならないと思いまするが、そのような
措置を
政府にと
つて頂きますると共に、国内における技術の
向上並びに交流について適切なる
措置をと
つて頂きたいと存じます。尚この機会に私共の要望いたしまする点は、
結核その他の疾患撲滅のために完全なる化学薬品の発見発明のために、
政府は一段の助成と協力をして頂きたいということでございます。
第三の問題は、当題の輸入の増大並びに
国家買上げの問題でございます。この点に関しましては、将来の輸入のことも
考慮いたしまして、当面は輸入と
生産との間にプール組織のような形をと
つて頂き、ここ二、三年の間は
政府が確乎たる保護政策をと
つて頂く態度を明らかにして頂きたいと思うのであります。これらの点に関しましては、業界においても、しばしば官民懇談会を開きましたけれども、生命保險協会におきましても、興銀におきましても、
只今のような
政府の政策では大事な預金を貸すことはできないという御
答弁でございました。更に大蔵省、安本その他の当局は、厚生省の意図するところはよく分るけれども、結局吉田総理と大蔵大臣の政治力にかか
つておるというような不幸な御
答弁でございました。先生アメリカでは、たつた一人の幼兒が井戸の中に落ちましたときに、この貴重なる生命を救いますために全アメリカの世論が沸騰したと言われております。然るに
我が国におきましては、命旦夕に迫る二十万の
患者を前にしまして川田原評議に時を重ねておりますような
現状は、どうしても改めて頂きたいと思うのでございます。私共はかかる
事態を行にいたしまして、
国会議員といたしまして我々の怠慢に思いをいたしまするときに、いても立
つてもおられないような気がいたすのであります。本日は遺憾ながら総理並びに大蔵大臣は御欠席でございますけれども、副総理格たる林
厚生大臣が御出席にな
つておられますから、どうか林
厚生大臣の一段の御努力によりまして、ストレプトマイシンの
生産につきましては、その
生産條件の
確保につきまして合理的な必要期間の育成策につきまして、はつきりした態度を明言せられ、設備資金の
確保と将来の
生産條件の
確保、
生産を直ちに開始し得るような適切な
経済政策を即刻とられることを言明
つて頂きたいと思うのでございます。
私は前
国会並びに予算
委員会におきまして、一応厚生省御当局に対しましてこの点御注意を促しました。そのときの
政府の御
答弁がラジオで放送されますや、各方面から数十通の
結核患者の方々の悲痛なる歎願のお手紙を貰いました。科学の恩惠がすでに手の届く所に来ておりながら、むなしく死を待
つておりまするところの数十万の
結核患者のことを考えますると、又そのうちには明日の命をも知れぬ腸
結核、喉頭
結核という、最も苦しい、最も伝染力の強い不幸な人達があることを考えますると、一刻も早く
政府当局として統一した政策を
確保し、実施して頂くことをお願いしたいのであります。私自身、一昨年秋過労のため喀血いたしまして、
只今は毎週一回気胸をしながら登院をしておりまする
患者の一人でございます。従いまして私は今後
結核対策の議員連盟を皆様と共に結成し、更に努力を続け、厚生省当局を助けて、
結核僕滅のため努力する決意でございます。どうか
厚生大臣におきまして問題の重要性を認識れ、総理並びに大蔵大臣の完全なる了解を得まして、内閣打
つて一丸とした政治力を以ちまして、この解決のため御努力あらんことをお願いする次第でございます。尚、本日大蔵大臣並びに吉和総理が御欠席でございますので、私から
質問書の要旨をお届けいたして置きました。従いましてそれらを基といたしまして、
政府における統一した施策をお示し下さることをお願いいたしまして、本日の緊急
質問といたした次第でございます、(
拍手)
〔国務大臣林讓治君
登壇、
拍手〕